2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
How Do We Keep Airplanes From Hitting Rockets?(全1記事)
リンクをコピー
記事をブックマーク
ステファン・チン氏:フロリダ行きの飛行機に乗っている時、あなたの頭はビーチで読む本のことでいっぱいで、ケープ・カナべラルから打ち上げられるロケットと衝突する心配などは一切していないにちがいありません。みなさんは、航空機の航路はロケットの打ち上げを念頭において計画されているものと思っているかもしれませんが、実はそうではないのです。
今や、私たちは民間宇宙飛行の時代を迎えています。2022年だけでも世界各地で180基のロケットの打ち上げが成功し、記録が更新されました。航空機とロケットの間に事故が発生する危機は、かつてないほど高まっています。世界がロケットだらけとなった今、エンジニアや管制官は、ロケットの軌道を監視する新たな手段を取る必要に迫られています。
ロケットが管制の死角となっているのには、宇宙開発の歴史に原因があります。有人宇宙船開発の黎明期、ロケットの打ち上げはNASAなどの国家機関によって運営される大規模事業でした。民間航空機とロケットの衝突を避ける手段として、航空管制は空軍が飛行訓練のために安全な空域を確保するのと同じ手法を取りました。
つまり、「特別活動空域(Special Activity Airspace)」として一時的な飛行禁止区域を設け、民間航空機は数時間、発射台を囲む90〜4400平方キロメートルの空域を迂回したのです。
回避空域が広大であったため、アメリカ連邦航空局(FAA)はロケットの具体的な位置まで把握する必要がありませんでした。さらには、広い空域を確保する必要こそありましたが、NASAが年に1回か2回ロケット打ち上げを行う程度の時代には、それほど大きな問題とはなりませんでした。
ところが、民間企業も含め世界中で年間200件近くの打ち上げがある今、この手法はかなり非効率的な上、無駄も多くなりました。航空機はロケット発射台の周りの長大なルートを迂回し燃料を浪費します。
2018年には、ロケットを1基発射するだけで563ものフライトに遅延が生じ、迂回ルートは累計で64,500キロメートルにも及びました。このようなシステムは、安全を確保するためにも改革が必要です。
とはいえ、仮に航空機とロケットを離す飛行禁止区域がなかったとしても、ロケットと飛行機とが直に衝突する可能性は実はあまり高くありません。ロケットは急速に宇宙空間に到達するため、民間航空機の巡航高度に滞空する時間はごくわずかだからです。
一番の懸念は、ロケットが落とす破片による事故です。ロケットの破片には2種類があり、一つは意図的に放出されるもの、もう一つは事故などで地表に落ちるものがあります。設計上で計画的に分離される部品類の溶融温度は低く、放出されると民間航空機の巡航高度よりもはるかに上空で燃え尽きます。
一方、事故による破片(デブリ)は民間航空機が航行する空域へ落下することがあり、恐ろしいことにかなりの広範囲に散らばることが多々あります。一例として、スペースシャトルコロンビア号の事故では、総重量38,000キログラムの破片が長さ1000キロメートル、幅40キロメートルという広大な地域に飛散しました。
当時NASAが緊急着陸エリアとして閉鎖していたのは48キロメートル周の空域のみで、民間航空機が巻き込まれなかったのはまったくの幸運にすぎませんでした。破片が落下しているさなかの40分間に、9機の飛行機がデブリゾーンを飛行しており、警告システム類は一切存在しませんでした。
では、実際に航空機とデブリとの接触事故はこれまでにあったのでしょうか。答えはイエスです。
1996年、破片が中国の航空機に衝突し、コックピットの窓にひびが入ったため着陸を余儀なくされました。破片が何であったかはわかっていませんが、緊急着陸ができたのはこのような事故では最良のシナリオです。
航空管制は衝突を避けつつ、飛行禁止区域を最小に抑える努力をしています。現在では、問題が発生した場合には、NASAやロケット打ち上げサービスを提供する企業が、Eメールまたは電話でアメリカ連邦航空局(FAA)に連絡することになっています。人為的ミスの発生を回避するためのダブルチェックが必要とされており、かなり時間がかかるプロセスで、飛行機が事故現場から離れるのにトータルで約13分かかります。
これでは到底間に合いません。大きな破片がわずか4分で民間航空機の航行域に落下する可能性があるためです。
そこでFAAは、事故発生から最初の1分半以内に飛行機がルートを調整できる新システムを開発しています。これは「宇宙データ統合システム(the Space Data Integration system)」、略してSDIと呼ばれています。このシステムが実用化されれば、FAAはようやくロケットの打ち上げをリアルタイムで追跡できるようになります。
ロケットは現在地を把握され、航空管制で航空機に準ずるものとして扱われます。現在、FAAが民間航空機に割り当てている円周は約16.7キロメートルです。SDIは、きちんと承認を受けているロケットであれば、同様に円周を割り当てます。正確な大きさは場合により異なりますが、現在の飛行禁止区域の仕組みと比較してもはるかに小さく済むでしょう。
しかし、ロケットを円周単位で確認するこの新システムSDIが実際に役に立つためには、ロケットの現在位置の把握以外にもやるべきことがあります。FAAは、航空機がデブリ域を航行しないよう保護する必要があります。事故発生直後に高リスクのデブリ域を予測し、速やかに迂回路を提示しなくてはなりません。
コンピュータ科学者は、そのような複雑なアルゴリズムの開発に取り組んでいます。ある研究グループは、『マルコフ決定過程』という有名な統計的方法を利用しています。このコンピュータモデルは、ある時点での決定の結果を推定します。
たとえば、飛行機を現在地から左に旋回するとします。左旋回の場合、安全である確率が90%、衝突する確率が10%と算出されます。
次に、アルゴリズムは右旋回すると決定した場合の確立を算出します。 このように、ある時点で最も安全な選択肢を解析し、一瞬で安全なルートを算出してくれるのです。
別の研究者グループが、『モンテカルロ法』という統計手法を使ってこのアルゴリズムをアップデートしました。このシミュレーションでは、デブリと航空機双方の可能な動きをランダムにサンプリングします。そして安全に飛ぶための最良かつ最も効率的なルートを算出するのです。
ランダムサンプリングは、破片がどこにあるかわからない不確実性に対処する場合に適しています。しかし、モンテカルロ法は算出に時間を要し、コンピュータに負荷がかかります。これらのアルゴリズムを微調整し、計算に必要なすべてのデータに接続させるプロセスは膨大であるため、FAAはSDIをまだ実用化していません。
もしSDIが実用化されたら、私たちはフロリダ行きの飛行機の座席からロケット打ち上げを見ることができるでしょう。もちろん、次に読む本についての思索にふけってもよいでしょうね。
2024.11.13
週3日働いて年収2,000万稼ぐ元印刷屋のおじさん 好きなことだけして楽に稼ぐ3つのパターン
2024.11.21
40代〜50代の管理職が「部下を承認する」のに苦戦するわけ 職場での「傷つき」をこじらせた世代に必要なこと
2024.11.20
成果が目立つ「攻めのタイプ」ばかり採用しがちな職場 「優秀な人材」を求める人がスルーしているもの
2024.11.20
「元エースの管理職」が若手営業を育てる時に陥りがちな罠 順調なチーム・苦戦するチームの違いから見る、育成のポイント
2023.03.21
民間宇宙開発で高まる「飛行機とロケットの衝突」の危機...どうやって回避する?
2024.11.19
がんばっているのに伸び悩む営業・成果を出す営業の違い 『無敗営業』著者が教える、つい陥りがちな「思い込み」の罠
2024.11.18
20名の会社でGoogleの採用を真似するのはもったいない 人手不足の時代における「脱能力主義」のヒント
2024.11.11
自分の「本質的な才能」が見つかる一番簡単な質問 他者から「すごい」と思われても意外と気づかないのが才能
2024.11.13
“退職者が出た時の会社の対応”を従業員は見ている 離職防止策の前に見つめ直したい、部下との向き合い方
2024.11.11
「退職代行」を使われた管理職の本音と葛藤 メディアで話題、利用者が右肩上がり…企業が置かれている現状とは