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好かれる会社、嫌われる会社―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―(全5記事)

リクルートが築いている、退職者との「別れた後の関係性」 “最強の人材”が集まる「カルチャーがいい会社」の特徴

Unipos株式会社が主催する「Unipos Summit 2023~日本企業・組織の空気を変えろ~」より、「好かれる会社、嫌われる会社 ―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―」のセッションをお届けします。経営学者であり企業の組織問題にも見識を持つ早稲田大学入山章栄氏、戦略的な人事制度と採用方針を確立するLINE人事の青田努氏、ビジネスパーソンのデータを最も知る一人であるワンキャリア北野唯我氏が登壇し、「これからの人事戦略のあり方」を徹底議論しました。

新規事業がたくさん生まれる、サイバーエージェントの文化

北野唯我氏(以下、北野):次のテーマに行きたいと思います。「採用・人材獲得に強い組織文化を戦略的に作るために、経営と人事は何をしたらいいのか」という話です。

(さっきのお話で)出た部分もあるのかなという気がするんですが、あらためて入山さん最新の経営理論とか、あるいは組織文化を作る・変える際に経営陣の果たすべき役割とかをお話ししてもらってもいいですか。

入山章栄氏(以下、入山):繰り返しですが、大事なのはとにかく「腹落ち」なんです。組織文化はものすごく重要なので、まずはとにかく死ぬ気でみんなで考えて、経営陣を巻き込んで、「うちの会社がこれからやっていく上では、これは本当に大事だよね」と決める。そうしたら、とにかくそれをやり抜くことですね。

カルチャーがすごく好きな会社が2つあって、比較的新しい会社でいうとサイバーエージェントさんです。サイバーエージェントさんは本当にすばらしい会社だと思っていて。

実は今、このイベントに出る石川善樹くんと一緒にセプテーニの取締役をやっているんですが、ある意味(セプテーニはサイバーエージェントの)ライバルなんです。ただ、僕個人はサイバーさんは本当にすばらしい会社だと思っています。人事のトップの曽山哲人さんもよく存じ上げているんですが、すばらしいんですよ。

サイバーの何がすごいかというと、曽山さんは昔から「入山先生、我々は変化を常態化する」と、おっしゃっているんですよね。だから、変化を当たり前にする組織を作って、それを徹底的にやり抜いている。だからサイバーは、新規事業をいっぱいやっているんです。

新規事業なので、当然ほとんどは失敗します。ほとんど失敗するんだけど、そこで人事の曽山さんが一番最初にすることは、「今回は残念だったな。で、次は何をやりたいの?」って聞くんですよ。これは痺れるんですよね。

失敗した人って、評価とかよりも「恥ずかしい」なんですよ。悔しいじゃないですか。曽山さんはそこが上手で、「うちの会社の文化に合ったチャレンジをしたんだから、次があるんだよ」と、即言うんです。サイバーはあのカルチャーが作れるから『ウマ娘』が出てくるわけですよ。

北野:確かに(笑)。

入山:『ウマ娘』、すごいじゃないですか。たぶんあれは、海外投資家に説明できないと思うんですよ。

北野:あれは普通の感覚では生まれないですもんね。

入山:あんなの、普通の感覚じゃ絶対に無理ですよ。僕が想像するに、海外の人と話す時に「『ウマ娘』って何だと思う? アニメのかわいい女の子が馬になって走るゲームです」と言ったら、「なんだそれ!」みたいな(反応になると思う)。

北野:(笑)。

入山:でも、ああいうのを出せるカルチャーを作っているのがサイバーさんなんですよね。

「安全」を大事にするデュポンの、徹底した行動のルール化

入山:比較的大手のレガシー企業でそれを上手にやっているのはリクルートさんくらいだと思っているんですが、グローバル企業だとデュポンです。

デュポンはすばらしい会社です。僕はそんなに詳しくないんですが、デュポンに詳しい仲のいいコンサルタントの方から聞いたのは、「うちはカルトだ」と言っているそうです。これはいい意味で言っているんだけど、そのくらい“デュポン教”なんですね。デュポンが好きで、デュポンのカルチャーが好きでやっている。

デュポンが大事にしているカルチャーの1つは、ズバリ「安全」なんです。化学の会社なので、イノベーションを起こさなきゃいけない。だけど一方で、既存事業で1個でも小っちゃいミスをしたら、世の中に大きな被害をもたらす可能性があるわけじゃないですか。

そういうことができないから、とにかく安全には絶対に気を遣う。今となってはタクシーの後部座席のシートベルトがルール化されましたが、デュポンの社員はルール化される目から絶対にシートベルトを締めていた。

青田努氏(以下、青田):おお。

北野:なるほど。

入山:それから、大きな駅の階段があるでしょう? 階段に行ったら、絶対に端っこに行って手すりを持って歩く。

北野:へぇ~。

入山:デュポンの社員は、これが徹底されているんですよ。だからみなさん、新宿駅とかでおじさんたちが階段で手すりを持ってズラズラ歩いていたら、絶対にデュポンの社員です。

(一同笑)

入山:「あ、デュポンの社員だ!」みたいなね。

北野:おもしろい。

入山:そのくらい(カルチャーが)行動に染み込んでいるんですよ。「すごいなぁ」と思っていたんですけど、僕は半分冗談だと思っていたんですよね。

ある時、早稲田大学ビジネススクールにいた学生がデュポンさんに転職したんですが、「入山先生の言ったとおりで、中途研修の初日からいきなりシートベルトの締め方を習っています」と、連絡をくれたんですよ。すげーなデュポン、という。

北野:すごいですね。おもしろい(笑)。

入山:やっぱり、人事の方々はこのくらい徹底的にやってほしいなと思います。その上でいろいろチェックして、Uniposさんも使ってうまくやってほしいなとと思うんですが、いかがでございましょうか?

文化を実感できる場を作る

青田:入山先生がおっしゃったことに加えて言うと、人事をやること、経営をやることでいうと、1つは「宣言する」ですね。自分たちは何を大切にしているのかをちゃんと宣言して、言葉にして「わかられやすくなること」です。

ただ言っているだけじゃなくて、できればそれを入社前とかにちゃんと体験できる機会があるといいですね。

入山:あ~、なるほどね。

青田:例えば新卒採用だと、LINEはけっこうインターンをやっているんですね。グループワーク型であったとしても、社員が一つひとつのグループにちゃんとメンターとして入る。事業企画するインターンであれば、ガチ目線でちゃんとマジレスして、フィードバックする。

入山:最近は始まっているけど、日本だとインターンってすっげーぞんざいに扱われているじゃないですか。採るは採ったけど、放置されていたりする。LINEでは、そういうことはぜんぜんやらないわけですね。

青田:そうですね。言ってみたら相互選別として、社員が場として機能するようにする。フィードバックを受けて「自分はLINEじゃないかも」と思う人がいたら、それはそれでいいことだと思っています。

でもそういったことで、「そうか。LINEの人たちは、こういうことを大切にしていて、これは良しとしないんだ」ということを、ちゃんと実感してもらう。そういった場作りや機会作りは、すごく大事かなと思います。

北野:LINEの社員の方が「こうしたほうがいいよ」と、フィードバックするじゃないですか。それは、ある程度人事側からディレクションするんですか? それとも「ふだんどおりやっていいよ」という感じで、そこは自由にさせるんですか?

青田:「普通にガチフィードバック、マジレスしてください」とお願いすることが多いですね。

入山:逆に言うと、LINEの場合は文化が染み渡っちゃっているから、そのとおりやってくれればいいんでしょうね。

青田:そうです。

社内のカルチャーを、外に向かって発信する意味

北野:もう1個、聞いてみたいと思うのが、カルチャーを外に出していくか? ということで。要は、オープンに発信していくのか、あるいはクローズのままでいいのか。

それこそ宗教のアナロジーで考えてもそうだと思いますし、企業カルチャーにおいても、発信するにしても「染み出す」くらいでいいのか。メルカリさんがわかりやすいと思うんですが、それとも積極的に自分たちから出していくべきなのか。そこらへん、お二人はどう思われていらっしゃいますか?

入山:おもしろい問いですね。

青田:やっぱり、今後は出していったほうがいいんじゃないかなと思います。出さないメリットがあまりないかな、という感じはしています。

もちろん、これから考えたり整理していくから「まだ出さない」というのはあるかもしれません。でも(カルチャーがちゃんと)あるなら、出していったほうが少なくとも採用のミスマッチも少なくなります。

たぶんそれは社内の人も見るので、自分たちらしさをちゃんとリマインドし続ける。これが「耕す」ことになるんじゃないかなぁと思います。

入山:僕も青田さんに賛成です。いわゆる「なんとかR」ってあるじゃないですか。PR、IR、最近だとGR(ガバメント・リレーションズ)、ER(エンプロイー・リレーションズ)もありますよね。そう考えると、組織文化を作るというのは、まさにエンプロイー・リレーションズです。

この「なんとかR」って、結局は全部を融合させないと意味がないと思っているんですよ

北野:そうですよね。

入山:だって、同じメッセージを出さなきゃしょうがないわけです。従業員に対して「うちはこういう文化でやっていこうぜ」と言って行動しているのだったら、当然それと同じことをお客さんや投資家さんにも理解してもらうのは、とても重要です。

そうすると、この会社のことをわかってくれる人が投資するし、その会社のカルチャーがお客さんが好きな人が買ってくれるんですよ。そういう意味では、まずはある程度(カルチャーが)染み出すのも大事だし、外に言っていくのはすごくいいと思います。

投資家にもカルチャーを説明する

入山:今回も(別セッションに)登壇されるみたいですが、僕が取締役をやっているロート製薬という会社があって、とてもいいカルチャーを持っている会社なんですよ。何がいいかというと、失敗がバンバンできるんです。ロートでは、失敗してもぜんぜん許されて、笑い飛ばすようなカルチャーを持っているんですよ。

なので僕はロートが大好きです。実際にイノベーションが起きているので、おかげさまで今も増収増益で、今回もまた最高収益です。PERもめちゃくちゃ高い。それはありがたいんですが、一方で失敗が多いんです。リアルな話ですけど、突如減損が発生することがある。

北野:(笑)。

入山:これは言っちゃってもいいと思うんですが、昔ロート製薬のIRの方から「入山先生、ちょっと悩んでいます」と、ご相談いただいたんです。「え、何、何?」と聞いたら、「うちの会社、ご存じのように突如減損するんです」と言われて(笑)。

僕もわかるんですけど、小っちゃい失敗をいっぱいしているんですよ。なので、取締役会の議案には「融資繰延案件」という小っちゃい失敗事例がいっぱい出てきたりと、そんなのばっかりやっているんです。

当然ながら、この会社は一個一個チャレンジしているから僕はぜんぜんOKなんですけど、外から見ていると「なんじゃこの会社は」「わけのわからない投資をいっぱいしていて、たまに減損するよね」みたいになると、投資家さんに説明がつかないと言っているんですよ。

だからその時、僕はズバリ「大変申し訳ないけど、それはあなたの根性が足りません」と申し上げました。そんな失礼な言い方はしていないですが、つまりは「うちの会社ってこういう会社なんだよ」というのをわかってもらうことが大事なんです。

ロートの戦略というカルチャーでいったら、絶対に減損が起きるんですよ。今のファイナンスのやり方だったら、小っちゃい投資でチャレンジをいっぱいしますから、(減損が)起きないほうがおかしいんです。起きなかったら、イノベーションを起こせないということです。

北野:確かに。

入山:なので「『うちの会社はこういうカルチャーなんだ』と、ちゃんと説明しましょう」と、その時に申し上げたのを思い出しました。

「この会社のカルチャーが好きだから買う」という人も

北野:なるほど。だから、HR、PR、IRとかを全部統一化するということですね。

入山:全部一体化して同じことをやっていたら、会社のことを好きになってくれるじゃないですか。だから、「この会社のカルチャーが好きだから買う」というお客さんがいっぱいいるわけですよ。

例えば良品計画さんもそうだし、サイボウズさんもそうです。サイボウズさんなんて、株主総会がすごいらしいですよ。6~7時間やるらしいです。

北野:すごいな(笑)。

入山:「イヤなら買うな」って言うらしいですからね(笑)。

青田:(笑)。

北野:それはすごいな(笑)。

入山:「うちの会社が好きなヤツだけ使ってください」みたいな。でもそれがあるから、本当にサイボウズが好きな人たちがサイボウズファンになって、kintoneを使うわけですよね。

北野:もう1個聞いてみたいと思うのが、青田さんは前職でいろんな大きな会社にいらっしゃったと思うんですが、それこそリクルートの方って辞めたあとでもリクルートがめっちゃ大好きだったりするじゃないですか。

青田:大好きですね。

北野:ある種、辞めた人が(その会社の)PRパーソンになるみたいなところがあると思うんです。

青田:あります。

北野:そこらへんで、何か意識されていることや感じることはあったりしますか?

リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」の考え方

青田:ありがとうございます。(話を)振っていただいたので、せっかくなので......。

入山:これ何ですか? 今回、小道具をいっぱい持ってきたの?

北野:(笑)。

青田:一応、小道具は2つだけ持ってきていて。これで打ち止めです。

入山:仕込んでいるわけね。

青田:これは公式のバリューではないんですが、リクルートの大切な考え方で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものがあります。

入山:これはリクルートの行動規範みたいなもので、青田さんがリクルートから持ち逃げしたということですか?

青田:昔、社是として配られていたので、従業員の机の上には(この言葉が書かれたものが)置いてあったんですが、あるタイミングから配られなくなったんです。そのあとリクルートに入ってきた人たちは「自分も欲しい」ってずっと思っていたんですね。

入山:へぇ~。

青田:2~3年前にリクルートのOB・OG組織が「あの時の(社是を)レプリカで作ろう」となったので、これはレプリカなんですよ。

北野:すごいですね~(笑)。

入山:マジか(笑)。

青田:みんな買えるようにオンラインストアで出して。そうしたら、1人で12個とか買う人もいるんですよ。

(一同笑)

青田:なんで12個買ったかというと、その人は独立していて、自社の従業員に配るために買ったんです。だから言ってみたら、OB・OGがエバンジェリスト化している。

カルチャーがいい会社は「アムルナイ」ができる

青田:あと、今思い出したんですけど、プラスアルファで「なんでそんなにリクルートに対して意識を保っているんだろう?」というところでいうと、リクルートは辞めた人に対しても希望者には社内報を送ってくるんです。

北野:なるほど。

入山:いいですね。

青田:ちゃんと登録すれば、2ヶ月に1回「かもめ」というリクルートグループ内報が届くんです。だから、そういうかたちでリクルートとずっとつながっていて、「別れても好きな人」みたいな状態になっている。

入山:実際のリクルートの場合、比較的若いけどそれで戻ってくる人もいるじゃないですか。

青田:いますね。

入山:僕はそれもすごく大事だと思っています。やっぱり、アルムナイを作っていくことは本当に大事ですよね。カルチャーがいい会社はアルムナイができて、アルムナイができるとやがて(辞めた人が会社に)戻ってくるんですね。

僕が取締役をやっているセプテーニも、実はかなり戻ってくるんですよ。実は戻ってくるのってすばらしいことなので、この前「これからは統合報告書にこれを載せようじゃないか」ということを言ったんです。

出戻り人材って、本当に最強だと思っているんです。なぜかというと、僕がよく申し上げる「知の探索」と言って、人間は認知が狭いから、同じ組織だけにとどまっていると遠くのものが絶対に見れないんです。

そういう意味では青田さんも北野さんもそうですが、いろんなところに動いていくことって重要なんですよね。それがまさに、自分を成長させるわけです。

「別れた後の関係性」が重要に

入山:そう考えると、出戻り人材は辞めて会社の外に出るから、そこでいろんな見聞を積んで経験をしてくる。いろんな経験をした結果、「やっぱりこの会社が一番いいな」「この会社のカルチャーが好きだから、やっぱりここで働きたい」と思って戻ってくるわけじゃないですか。だから、エンゲージメントが死ぬほど高いんですよ。

北野:確かに。

入山:だから最強なんです。成長した上でエンゲージメントが高いんだから、なんでもっとそれを採らないんだ? という話があって。そう考えると、アルムナイはすごく大事ですよね。

青田:そうです。「別れ方」と「別れたあとの関係性」というか、中には「辞めるんだったら裏切り者だ」的な会社もあるじゃないですか

北野:ありましたね。

入山:ぜんぜん関係ない話ですが、僕は付き合った彼女とかなりダーティに別れるほうなんですよ。

北野:ぜんぜん関係ない話じゃないですか(笑)。

入山:今、過去を振り返ると、あまりいい思い出がないなと思って。

青田:(笑)。

北野:なるほど。ダメじゃないですか。

入山:でも、僕の周りにいる女性でも男性でも、前カレとかと仲のいい子がけっこういる。「俺、こういうので困っているんだ」と言ったら、「先生、私の前カレがこういうことをやっていたから、聞いてみようか?」とか言うんですよ。

北野:(笑)。

入山:「お前、すごいな!」みたいな。僕も結婚してもう十何年になるから相当前ですが、俺は前カノに絶対に聞けないわとか思うんだけど......その子はぜんぜん聞けるんですよ。

北野:(笑)。

入山:「なんなら会わせましょうか?」みたいな感じになる。

北野:なるほど~(笑)。

入山:強いですよね。

北野:たぶん、当時の入山先生のEXは悪かったようですね(笑)。

青田:リレーションとか、そのあとのつながり方がね。

入山:悪かったですね。昔ながらのやり方をしていました。

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