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How Did We Eradicate Yellow Fever in Cuba in Six Months(全1記事)

19世紀にキューバで起きた「黄熱病」の流行 原因不明の病気を根絶させた、今では“問題あり”な実験

今では感染症の原因が小さな「病原体」であることはよく知られていますが、昔はそうではありませんでした。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、19世紀のキューバで起きた黄熱病の根絶に尽力し、感染症の解明に大きな進歩をもたらした、ある疫学者について語られました。

キューバの「黄熱病」流行がもたらした、病原体研究の進歩

ステファン・チン氏:現代では、感染症にはウィルスや細菌、カビなど、さまざまな病原体があることがわかっています。「微生物病原説(germ theory of disease)」が唱えられたのは19世紀ですが、そこに至る道は決して平たんではありませんでした。

まず壁となったのは、病原体がどのように人から人へ移るかの解明でした。

当時、病気の原因は「悪い空気」のせいだとされることが多かったのです。確かに当時の大気汚染は劣悪でした。「悪い空気」には後ほど触れるとして、まずは19世紀末のキューバで病原体についてある重要な研究が行われていたことについてお話ししていきましょう。

1880年代、キューバでは黄熱病が流行し何千人もの死者が出ていました。黄熱病は危険な感染症で、重症患者に見られる黄疸症状からその名がつけられました。

患者の肝臓の機能は低下し、血中のビリルビンという成分が増加します。すると、皮膚や白目の部分が黄変します。

大量出血が起こり、そうなるとそのステージでの死亡率は50パーセントです。ここまで重症化するのはまれですが、恐ろしい病気であるのは間違いありません。

黄熱病を引き起こすのは「悪い空気」だと考えられていた

カルロス・フアン・フィンライという疫学者は当初、黄熱病を引き起こすのは「瘴気(しょうき)」であると考えました。

当時の一般的な考えでは、悪臭のある悪い空気、つまり「瘴気」が感染症を拡大するとしていたのです。

やがてフィンライは、それではつじつまがあわないことに気がつきました。黄熱病患者に見られる出血は、血管内皮細胞の損傷により起こっているようなのです。これは、当時信じられていた「有毒な臭気」による害とは考えられません。

そこで、フィンライはある仮説を立てました。黄熱病にかかると、血管内皮細胞が損傷します。そこでフィンライは、黄熱病を引き起こすなんらかの要素が患者の血中にあると考えました。

つまり感染患者の血液が、健康な人の血液に混ざることにより感染が広がることになります。しかし、キューバでは何千もの人にランダムに輸血を行うような事態は起きていません。

とはいえ、なんらかの方法で血液が運ばれていることは確かです。その運び手とは、不快な羽音を立てて飛び回る小さな虫、蚊です。

発症の原因が「蚊」であることを証明した、今では“問題あり”な実験

フィンライは、黄熱病患者の自宅には蚊が多く発生していることに気がつきました。さらに、蚊の発生する時期と黄熱病の流行期が重なることにも目を向けました。そこで現代では倫理的にかなり問題ありとされるような実験を行いました。

古い時代のことでありますし、フィンライ本人も後日、患者の人権を守る努力をしましたが、当時はそのような配慮はまれでした。現代の私たちからすると、なんともぞっとするようなことが行われたのです。

1881年、フィンライはまず、蚊に黄熱病患者の血を吸わせました。さらにその蚊に、5人の健康なボランティアの血を吸わせました。9日後、ボランティアの1人が黄熱病を発症したのです。幸いこの患者は回復し、フィンライは2か月後、ハバナの科学アカデミーで彼の発見を発表しました。

しかし、当時の人々には病原体という考え方がなかったので、彼の発表は受け入れられませんでした。そもそも蚊がどうやって病原体を運ぶというのでしょうか。この考えはなかなか理解されませんでした。

フィンライはあきらめませんでした。その後9年の間、蚊に健康なボランティアの血を吸わせる実験を続けたのです。しかし今回の実験の目的は、蚊による感染症の媒介の立証ではありませんでした。「蚊に一回刺されただけでは感染はせず、免疫を得られること」を示そうと考えたのです。現代ではこれは誤りだとわかっていますが、ある有益なものの仕組みによく似ています。

現代の黄熱病のワクチンは、実際に黄熱病ウィルスを少量注入することで体内に抗体を作らせます。病原性を低下させたウィルスを使っているため、重篤な副作用が起こることはめったにありません。

一方、フィンライは実際のウィルスを媒介する蚊を使っていました。102人のボランティアのうち7人は、蚊に吸血されてまもなく黄熱病を発症しました。その後、6年間で48人が黄熱病を発症しました。フォローアップの6年間で、発症しなかったボランティアは41人でした。

このような危険な実験ではありましたが、その功績として、「蚊はワクチン代わりにはならないが、黄熱病を媒介する」と現地の軍事医療研究機関に認められました。

実験結果を受け、米軍占拠下のキューバでは、ハバナ市当局が戒厳令を敷きました。水質管理を徹底し、害虫駆除を奨励して蚊を駆除し、黄熱病の抑え込みを試みたのです。

その結果、大きな成果が得られました。なんと1年も経たないうちに、黄熱病はハバナから姿を消したのです。とはいえ、これは軍隊による占領下であればこそ成功した例なので、模範例とは言えません。

フィンライという人物は、当初は古色蒼然とした科学を信奉していましたが、科学的検証により事実を見出した興味深い一例です。また彼の業績は、感染症の解明を大きく進めました。さらに、蚊が危険な生物であることも明らかにしました。

キューバで黄熱病の根絶が達成できたのは、人々が科学の力を信じて、事態を変えるべく力を合わせて尽力した結果です。そしてそれこそが、まさに科学が目指す境地なのです。

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