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Can Seaweed Save the World?(全1記事)

温室効果ガスを減らすため、食料生産の舞台を陸から海へ 「海草・海藻」がサステナブルな農作物として注目されるワケ

植物が二酸化炭素を吸収することは知られていますが、どんなに田畑で食用の植物を増やしても気候変動は改善されません。農作業では、農地の保全や農業機械の燃料消費などで大量の温室効果ガスを排出するためです。そのため、陸ではなく海での食料生産に着目した研究が進められています。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、サステナブルな農作物として注目される「海草・海藻」の可能性に迫ります。

田畑で食用の植物を増やしても、気候変動は改善されない

ハンク・グリーン氏:気候変動は、二酸化炭素がひとりでに起こしたものではありません。

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを、自然界のサイクルをはるかに上回る速さで人間が大気圏に放出したことが原因です。自然界のサイクルでは、大気圏から二酸化炭素を吸収する役割の多くを植物が担っています。

植物が二酸化炭素吸収の優れた担い手なのは確かですが、食料として栽培する場合は大量のカーボンフットプリント(食料の場合は「原材料調達」「生産」「流通」「使用・維持管理」「廃棄・リサイクル」などのライフサイクルを通した二酸化炭素の排出量)を生み出します。

そこで、海に目を向ける研究者がいます。海草・海藻を主要な産物として農業に取り入れることで、気候変動を改善できるのではないかというのです。現時点では気候変動を必ず解決できる確固たる策は存在しないことから、この小さな海の生命に大きな期待の目が向けられています。

みなさんが「農業」から想像するのは、美しく広がった緑の農地で、作物が二酸化酸素を吸収する光景でしょうか。

ところが実際は、農業は気候変動の大きな原因となっています。アメリカ合衆国環境保護庁の2019年の試算によれば、米国で排出される温室効果ガスのうち10パーセントを農業が占めます。

肥料の生産や農地の保全管理にはエネルギーが消費され、家畜のげっぷには二酸化炭素を上回る温室効果を持つメタンガスが含まれます。農業機械に燃料が必要なのは言うまでもありません。

サステナブルな農作物「海草・海藻」を使った食料生産システム

ところで、僕は食べることが大好きです。みなさんもきっとそうですよね。ですから、農業そのものを縮小することはまず考えられません。そこで、気候変動を解決するべく、さまざまなクリエイティブなアイデアが出されています。そのうちの1つが、現在進行形で海の中で栽培されています。

海草・海藻ベースの食料生産システムは、今日私たちが依存している陸上での食料生産システムよりもはるかに少ないカーボンフットプリントに置き換えられる可能性を秘めています。

ここで言う「海草・海藻」には、水草や藻などから成る膨大な生物種が含まれます。これらはみな海棲で、二酸化炭素を使って光合成を行い養分を生成します。取り込まれる炭素は陸生の植物より多く、1マイル四方につき貯蔵できる炭素は、熱帯雨林の2倍です。

さらに、海棲ならではのメリットもあります。二酸化炭素は海水に溶けると炭酸になり、海洋pHを低下させます。サンゴや貝殻を持つ生き物をはじめとする海棲生物にとって、海水の酸化は大きな脅威です。海草・海藻は、光合成を行うことで大気中のみならず海中の二酸化炭素を消費してくれるのです。

海草・海藻が生育すると、光合成が行われる日中のpHが周囲の海水で上昇することが、複数の研究で示されています。海草・海藻は、海洋の酸化の影響を受けやすい生物を守り、海の生物種の多様性を守っているのです。つまり、海草・海藻はたいへんサステナブルな農作物なのです。

海草・海藻は、炭素を豊富に含む土壌添加剤やバイオ燃料の原料にもなる

では、人間は海草・海藻と今後どう向き合っていくべきでしょうか? 海苔巻きはとてもおいしいですよね。将来、海草・海藻をムギやトウモロコシに並ぶ主食として扱うことを提唱する研究者がいます。

実現すれば、海草・海藻農園は地球上でもっとも迅速に食料を生産できる農地となるでしょう。

栽培されるのは人間の食料とは限りません。穀物は、多くが家畜のエサとして作られています。2015年の研究では、乳牛に海草・海藻ベースのサプリを与えたところ、なんとげっぷに含有されるメタンの99%が削減されたそうです。

つまり、海草・海藻をちょっと飼料に混ぜるだけで、家畜が出す温室効果ガスを大幅に削減することができるのです。

海草・海藻農業は、栽培して食料にする以外にも利用価値があり、合成肥料の代替手段としても活用可能です。加熱加工すれば、炭素を豊富に含有した土壌用の添加剤になります。この海草・海藻「バイオ炭」は養分に富み収穫量の増加も期待できます。

バイオ炭は、生産過程で出るガスを回収・加工して燃料にしたり、バイオ炭を生産するための燃料にもなります。つまり、海草・海藻を利用すれば、その成分は小規模ではありますがバイオ燃料の原料となり、海草・海藻自体を栽培する肥料にもなります。

気候変動の解決策として期待される、海草・海藻栽培の課題

海草・海藻で現行燃料のすべてを代替できるわけではありません。2017年の分析レポートによりますと、得られる電力は、現行の風力発電の10%に過ぎません。これは、海草・海藻農場を作る規模も場所も限られるためです。栽培には適切な温度と栄養が必要で、適した海域は限られています。

そんな場所がたとえ見つかったとしても、海草・海藻は冬季にはあまり育たないため、効率的な二酸化炭素の吸収は困難です。確実に育つことが見込まれる限られた場所で海草・海藻農園を運営するのが合理的でしょう。

つまり、海草・海藻だけでは世界は救えません。とはいえ、気候変動のすべてを確実に解決できる策が見つかることはまずないでしょう。海草・海藻は、人間が協力し合って取り組むことのできる、自らが作った危機に対する解決策となるかもしれません。

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