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がんばりすぎない漫画家のあり方(全4記事)

「流行らない」と一蹴された作品が、『ジャンプ+』で連載を獲得 漫画家が考える、編集者からのアドバイスの受け止め方

デジタルコミックエージェンシーのナンバーナイン主催で開催された「漫画家ミライ会議2021」より、『マジで付き合う15分前』作者・Perico氏と、『幸せカナコの殺し屋生活』作者・若林稔弥氏によるセッションの模様を公開します。「がんばりすぎない漫画家のあり方」をテーマに、漫画家は編集者のアドバイスをどう受け止めて、どのように作品に反映させているのか、それぞれの実体験を元に語り合いました。

編集者のアドバイスが「正解」ではない

遠藤寛之氏(以下、遠藤):ここで、Twitterで質問が来ています。「商業の良さは『作品完成の前にアドバイスがもらえる』ことだとも思っているのですが、その点についてはお二人はどのようにお考えでしょうか」と。

若林稔弥氏(以下、若林):なるほど。もちろん、自分の作品を誰のチェックも通さず人目に晒すのって、やっぱりちょっと怖いですよね。その前に、直して良くなる部分があるんだったら知りたいじゃないですか。もちろんチェックは入れてます。でもそれは編集さんとは限らなくて、うちは妻なんですが。

うちの妻氏に見せて「わかんない」と言われて、「どこがわかんないですかね?」「ここからここまではわかります? あ、じゃあここからですね」みたいにやって、わかるようにして出すことはやってますよ。それはもう、ずっとそうです。

遠藤:なるほど。つまり客観的な目線が入るんだったら、必ずしも出版社の編集さんじゃなくてもいい場合もあるだろうということですね。

若林:「編集さんに見てもらったら安心」って、思ってるでしょう?(笑)。

Perico氏(以下、Perico):思ってるでしょう!(笑)。

遠藤:(笑)。

Perico:ダメです、その考え方(笑)。

若林:最終的に自分の原稿に責任を持つのは自分なんです。編集さんが「これでいいんじゃないですか」と言ったからゴールじゃないんです。あんまりこういうことを言うと、うるさいと思われちゃうのかな。

遠藤:いやいや、とりあえず。

若林:「編集さんが言ったから、その通りに直したのに良くならない」「コンペに通らないじゃないか」という意見はよく聞くやつですが、それは違うんですよ。

確かに、編集さんは原稿を良くしようと思っていろんなアドバイスをくれます。でも、それは正解ではないんです。僕ら作家の仕事は、その意見を聞きつつ、最終的に原稿を良くするのは自分の責任においてやる。それが必ずしも、編集さんの言うことを鵜呑みにすれば解決するかというと、そうではないということでございます。

編集部に原稿を持ち込んだら、三者三様の反応が

若林:もちろん、まったく聞かないのもおかしいですし、完全に鵜呑みもおかしい。ちゃんと意見として取り入れて、自分が咀嚼してそれを反映させるという、自分の頭で考えて形にするプロセスが大事……なんですよね、Pericoさん。

Perico:とても大事なんじゃないでしょうか(笑)。

若林:(笑)。そうなんです。だから別に、必ずしも編集さんに意見をもらわなくてもよくて。うちの妻なんて、別にプロではありませんから。でも、素人から見てわかりにくい部分とかを言ってくれるので、そこを直すんです。

でもうちの妻は「こうしろ」「ああしろ」は言わないんですよ。「ここがわかんない」としか言ってくれなくて、それをどうやったらわかるようにするかは僕の仕事なので。ということをずっとやっていたら、今のようなかたちになりました。

遠藤:なるほど。

若林:Pericoさん、いかがですか。

Perico:若林先生がおっしゃるのはもっともで、まずは自分で責任を持つ。私は逆に、編集さんに言われたとおりに直して、それがダメだった時に編集さんのせいにするっていう悪癖があるんですよ。それから脱却できないので(笑)、もう(編集者のチェックを)入れなくていいじゃないかって。

全部私の責任で、ダメだったら私がダメなんだし、良ければ私の思ったとおりだったんだなって思うので、それをTwitterでやってる感じではあるんですよ。

商業で言うと、一昨年ぐらいまで『ジャンプ+』で『次回のデスゲームにご期待ください!!』という漫画を描いてたんです。これが連載化したきっかけは、最初は同人誌で出したものをコミティアの出張編集部で3社に持ち込んだんですね。

1社目で「ぜんぜんおもしろくないですね」「こういうのは流行らないんですよね」とか散々言われて、もうこれはダメなのかなって思ったら、2社目の『ジャンプ+』でニヤッとされて、「おもしろいですね。このまま会議に出しますか?」って言われたんですよ。

若林:ほぉー……。「担当者、聞いてるか!」つってな(笑)。

(一同笑)

Perico:でも一応「まだもう1社あるので」と言ってもう1社に行ったら、「うーん……これで連載は無理だけど、新作を考えましょうか」って名刺をもらったんですよ。それでもう、こんなに違うんだって思って。

ある程度作品が読めるレベルになったら、あとは読む人の好み

Perico:ある程度読めるレベルになったら、もうあとは好みなんじゃないか? 好みの要素ってすっごく大きいんじゃないか? と思って。そうなってくると「チェックって何なんやろ」と思っちゃって(笑)。

好みによって「直せ」と言われて、ダメだった時にその人のせいにするぐらいだったら、「別にそんなんいらん、自分の責任でよくない?」とは思いますけどね。

遠藤:なるほど。

Perico:でも『ジャンプ+』という箱でやらせてもらうからには、結局連載化したあとは直しましたし、直せなくて「うーっ」てなったこともあります。編集さんの思ったとおりに上げられなかったこともあるので、難しいなとは思いますね。人に意見をもらってそれを反映させるのは、本当に正解がないので。

だから、今おっしゃってる「(作品完成前のチェックが)ないと不安」という方も、もしかしたら直すことで良くなるタイプの方かもしれないので、明言はできないけど……。別に(チェックが)なくてもいい人もいれば、あったほうがいい人もいるっていう答えになっちゃいますかね。

遠藤:ありがとうございます。僕らは自社でも漫画を制作してまして、そうすると編集的なポジションで漫画家さんとお話しさせていただくこともあるので、こういう話になるとけっこう胃が……(笑)。

若林:おっ。

Perico:おっ(笑)。

遠藤:「おっ……」みたいな感じになってくるんですが(笑)。質問もいっぱいきてるんですが、最後に質疑応答の時間を設けていますので、盛り上がったところでこのセッションの最後のテーマですね。

Perico氏「『死ぬまで描いてたい』とはあんまり思っていない」

遠藤:「10年後どのようになっていたいか?」というところです。お二人が個人活動を始めたきっかけや、「個人と商業、実は別にそんなに大きな違いがあるわけじゃないよ」というところで、今までにいろいろな選択肢を取ってきたと思うんですが。今回は「漫画家ミライ会議」ということなので、未来についてもお話しできればなと思います。

「10年」とは書いたんですが、別に2~3年先でも。先ほども言ってたように、3~4年前と状況がぜんぜん変わってきてることもあると思うので、ご自身がイメージできる範囲で未来の話を聞かせていただければなと思います。じゃあ、Perico先生。

Perico:もちろん、自分の作品を描いていきたいのはあるんですが、正直なところ「死ぬまで描いてたい」とはあんまり思っていないタイプなんですね。キリのいいところまでで、もう漫画は趣味でいいなって。同人誌とかWebで発信するぐらいでいいなと思ってるので、ゆくゆく十数年か後には引退して。

売り方を考えるのが好きだったり、人にデザイナー紹介したりと、仲介するのがけっこう好きなんですよね。なので、そういう個人の活動を支援するような活動を将来できたらいいなと。漫画家さん向けのファイナンシャルプランナーとかね。

漫画家として、どういうふうに人生設計を立てていくのかをアドバイスできるような人になってたいなっていう、ぼんやりとした目標があって。

今は個人でPericomicというレーベルをやってるんですが、そちらでいろんなツテでデザイナーさんにお願いしたりとか。あとは原作を買って作画を人にお願いしたり、自分で用意して人に仕事を振る活動も始めていて。

もちろん描きたい漫画はいろいろあるんですが、それもやりながらつながりを広げていって、最後は漫画は趣味にする。あとは、後続の方たちの支援をするような活動ができたらいいなという夢があります。

若林:なるほど。じゃあ、10年後にPericoさんがファイナンシャルプランナーとして独立された際は、ぜひよろしくお願いします!

Perico:はい、ぜひぜひ(笑)。一生面倒見ますよ(笑)。

(一同笑)

Perico:なんだこれ(笑)。

遠藤:独立されるんだったら、むしろうちの顧問になっていただいて。

Perico:本当ですか、もうぜひ。そのために今、ナンバーナインさんとも癒着を進めてるので(笑)。

若林:そうだそうだ。

遠藤:いや、癒着って言い方が(笑)。

個人活動を通じて芽生えた、社会貢献への思い

Perico:最近、社会貢献したいなっていう意識が強くて。1人だけの幸せのためにがんばることってできないんだなということを、個人で活動して思ったんですよね。「全世界制覇してやるぜ」というモチベーションを、1人だけではあんまり保てなくて。

コロナ禍でアシスタントさんや業者さんが仕事がなくて困ってる時に、漫画業界はめちゃくちゃ潤ってたんですよね。コロナ禍で巣篭もり需要があって、私は仕事がいっぱいあったので、在庫管理や彩色とかをいろんな人にすごく渡してたんですよ。

いろんな人に仕事を渡して「苦しかったけど、仕事ありがとう」って言われたんですよね。それがすごくうれしくて、こういうことを今後もいっぱいやっていきたいって思ったんですよ。

人に「ありがとう」と言われて感謝されて、それでつながりができて、漫画をストレスフリーで描いて、広がっていって後続のためにもなる。これ、けっこうすばらしい事業じゃないかなと思って。そういうのを拡張していきたい。上を目指したいとかじゃなくて、横に広げていきたいって思いましたね。

遠藤:すごいですね。今日、Perico先生を呼んで本当によかったなと思います。

Perico:本当ですか(笑)。

若林:よかったねぇ(笑)。

Perico:本当によかった(笑)。

遠藤:弊社が掲げているのが「漫画の総合商社」。漫画を作ったりもするし、配信もやるし、サポート事業もやっていくんですが、そのサポート事業の中の1つにファイナンシャルプランナーのサービスがあってもぜんぜんいいなと思っていて。

Perico:いいと思います。じゃあ、その時はぜひ雇っていただけると(笑)。

遠藤:社外取なのか顧問なのか、ぜひご協力いただきたいなと。

Perico:がんばらせていただきます。

がんばりすぎずに、10年後も描きたいものを形にしたい

Perico:若林先生はどうですか?

若林:さっきも話しましたが、「今、自分の頭の中にある描きたいものを、ちゃんと形にして終わらせる」ということが優先順位としては高い。ちゃんと10年後も描きたいものが描けるように、数字はちゃんと出しておく。

「売る」ことについて他人に任せる・任せないとか、漫画は読者の手に届くまでにやることがいろいろあるじゃないですか。そういうのをいろんな人に任せていかなきゃいけないなということも感じていて。自分の手の中では限界もありますし。

あと、描いていく頻度やペースですよね。週刊連載でたった週6ページの4コマを描くだけで、ヒーヒー言ってた人間なんですが。

遠藤:いや、「たった」ってことはないですけども。

若林:本当にお恥ずかしいことで(笑)。締め切りに間に合わなくて人を待たせるっていうのが、すごく心苦しくて。いつも平気な気持ちで、なにも知らないようなつもりで締め切りを破っているわけではないんです……。ペコペコ頭を下げながら「すいません、すいません」ってやってるんですけども(笑)。

だから、それもきついなと思って、最近は締め切りを破ってもあんまり人に迷惑がかからないような体制をちゃんと自分で選んでいて。相手さまにもそのへんはご承諾……してるのかな? みんな諦めてるだけだと思うんですが(笑)。

(一同笑)

若林:そんな感じで、無理のない、変にがんばりすぎないかたちを今後10年続けていけたらいいなと思っております。

遠藤:ありがとうございます。その話もめちゃくちゃわかりやすいですね。

Perico:(セッションテーマの)「がんばりすぎない」に着地した……(笑)。

漫画家のキャリアにも、年齢と共に「ステージ」がある

遠藤:これも会社に例えられると思うんですが、新卒や若手の時は現場バリバリ、寝ないで働いて……みたいな感じになると思うんです。会社員も歳を取ると部下ができて、仕事を下に任せて自分は管理する側に回ったり。場合によっては家庭を持って、夜遅く帰るのはやめようということもあると思うんです。

漫画家さん、特に商業連載されてる方って、「若手の時」と「連載を20年続けてる時」でずっとステージが一緒だったりするじゃないですか。

Perico:そうそう。そうなんですよね。

遠藤:それを踏まえると、お二人はステージがちょっとずつ変わっていくというか。それが、会社員のステージが変わることにも通じる部分があるのかなと思って。もちろん、ずっと現場にいたい会社員の方もいらっしゃいますし、管理職になって自分は手を動かさなくなる方もいますし。このお話を漫画家さん以外の方にもすごく聞いてもらいたい。

Perico:じゃあ、アーカイブを。

若林:ぜひぜひ。

遠藤:アーカイブ、ゴリ押ししてるので。しかもなんと(視聴者数が)400人を突破しましたね。

Perico:あら!

若林:ありがとうございます。見てるー?(笑)。

Perico:スパチャお願いしまーす(笑)。

若林:お願いします、チャンネル登録もよろしくお願いしまーす(笑)。

Perico:チャンネル登録、「いいね」評価お願いしまーす(笑)。

(一同笑)

若林:やってみたかったよね(笑)。

Perico:やってみたかった(笑)。

遠藤:でも400人も来ていると、看過できないクレームがきてまして。これ、たぶん漫画家さんだと思うんですけれども……。

若林:あらあら、何です?

遠藤:「おもしろすぎて仕事が止まっちゃってます」と。

若林:申し訳ございませーん(笑)。

Perico:申し訳ないですー。若林先生の、レジェンドのせいなのでー!(笑)。

若林:申し訳ない!(笑)。

遠藤:そういうクレームがきちゃってるので、お二人とも頭下げていただいて。

若林:あの、この茶番で時間潰すのやめましょうよ(笑)。

(一同笑)

遠藤:そういう感じで、Twitterでコメントをしていただけたら拾ったりもします(笑)。10年後どのようになっていたいのか、非常に参考になりました。ありがとうございました。

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