2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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若林稔弥氏(以下、若林):『徒然チルドレン』が『週マガ』での連載やアニメ化とかも経て、一通りやって終わったあとに、次の仕事をどうしようかなと思いまして。
その時には十分に貯金もあって、やろうと思えばなんでもできる状態だったんですが、「ずっと個人連載や個人活動のままでもいいかもな」って、最初はちょっと思ったんですよね。『幸せカナコ』も、最初はお付き合いしてた編集さんから「なにか描いてください」と言われて、「じゃあこれかな」と思って描いたんですよね。
最初のネームを編集さんに見せたら、「若林さん。これはバズるかもしれないけど、バズっただけで売れなさそうな気がする」と言われたんです。なるほどな、と。それは確かにあるかもしれないし、僕もどうなるかわからないと思って。
今までのノウハウを活かして、同人誌で売って何部売れるかを確かめる、ネットに出してどのくらいバズるかを確かめる、ナンバーナインさんで電子書籍で出してどのくらい売れるか確かめる……という数字を一通り出して、もう1回「どうですかね?」ってプレゼンしたんですよ。
1回は企画を蹴られてるし、このまま個人でやっちゃおうかなとも考えたんですが。じゃあ、それを向こう10年やっていけるのかなと考えた時に、きっと僕がこの漫画を1人でやっていたら、出版の人たちからは「たぶん、あの人は個人活動しかしない人だろうな」と思われるかもなって。
そうすると、今はいいけど10年後に今ほど僕の力がブイブイ言わせられなくなった時、他人の力を借りなくちゃまずいタイミングで助けてくれる人がいない状況のほうが怖いなと思って。だから、常に助けてくれる人をそばに置いといて、人脈をキープしておこうという戦略を立てて、今はこうやって商業でやらせていただいています。
遠藤寛之氏(以下、遠藤):ありがとうございます。いきなり、非常に濃密な話を。
若林:この話、大丈夫?(笑)。
遠藤:いやいや、ぜんぜん大丈夫です。今、Twitterやチャットのコメントも追っていて、先ほど触れられなかったんですが、Perico先生のアテレコに感動してる方も(笑)。
Perico:えっ、うそ(笑)。ありがとうございます。
遠藤:あと、チャットでも「レジェンド若林」「若林先生、すごいです」というコメントが。
若林:ありがとうございます。
Perico氏(以下、Perico):レジェンドですよ。でも、今のお話をちょっとフォローしたいなと思って。確かに、個人活動は不安はありますよね。自分の力で全部動いているから、自分の力が陰った時にどうなっちゃうのかなっていう不安はあると思うんですよ。
再現できないことは実力じゃないと思ってるんですが、商業で売ってもらえるのって、人が関わっちゃうと再現性がなくなるんですよ。商業は「売ってくれる人」がいるわけじゃないですか。その人がノウハウを持っちゃうから、将来その人がいなくなっちゃうとノウハウがなくなっちゃうんですよ。
でも、私の場合は描くのも売るのも全部やってるから、ずっと数字とノウハウが残っていくんですよ。だからさっきもお見せしたと思うんですが、「こういう売り方があるよ」「こういう売り方もあるよ」というのを全部自分に蓄積してるから、再現ができるんですよね。
人に任せちゃうとその人が技術を持っちゃうから、それはそれで危険だなと思ってるんですよね。私も『ジャンプ+』の連載が終わったあと、同じ集英社系列の方と打ち合わせしてた時に、編集さんにこう言われたんですよ。「漫画家っていうのは20代、30代でヒット作を出せるかどうかで、40代、50代に仕事があるかどうか決まるから」って。
遠藤:ほぉー……。
若林:えっ、なんていう編集さんですか?
Perico:それ、言っちゃダメです。ちょっとNGなんで(笑)。
(一同笑)
遠藤:一意見として、そういう意見もあると。
Perico:そういう意見があるんですね、と思って。もちろんその方は悪い意味で言ったんじゃなくて、「今がラストチャンスですよ」って、私を奮起させようと思って言ったんです。技術もあって、ちょうどいいタイミングで代表作を残しましょうよ、という勢いで言ったんですが、私はそれを聞いて震えてしまって。
「えっ、30代までに(作品を)残せなかったら、この人たちは40代、50代になったら仕事を振らない気だ」と思っちゃって(笑)。
遠藤:なるほど。捉え方によっては。
Perico:もう、怖くなっちゃったんですよね。そう思うと、必死で「あと何年かな」と計算して売ってもらうよりも、どんどん自分に数字と技術を蓄積したほうが長生きできるんじゃないか……みたいなマインドなんです。
これはもちろん(個人の)考え方なので、どっちがいいとかじゃないとは思うんですよ。ただ私も、何も考えずに個人連載になったというよりは、いろいろ熟考して「私はこっちかな」という感じで来ています。
若林:わかります。
Perico:でも若林先生は、『マガジン』や星海社でも(連載が)あって、アニメ化もされてるから、それは“1作出してる側”に入ると思うんですよね。ただ私は、それを言われた時には打ち切りに2回遭っていて「もう後がないぞ」という状態だったので、本当に震えるしかなかったんですよ(笑)。なのでちょっと空気を変えたいという感じで、今の活動に。
若林:なるほどねぇ。でも実はね、僕も今のことについて考えたことがあるんですよ。要は、1人でいろいろやってたほうがあらゆるノウハウが自分に蓄積される安心感があるんですよね。それで、他人に任せたぶんだけそのノウハウが他人にいってしまうって考えたんです。
Perico:考えた(笑)。
若林:もちろん考えますよ!(笑)。
Perico:レジェンドだもんね! 考えてるよね、それぐらいね(笑)。
若林:漫画を売るノウハウってあるじゃないですか。僕の場合は、漫画を売るノウハウを2つに分けていて。1つは、できている漫画を売り出していく、プロモーションしていく能力。どこの販路に振り分けるかという能力ですよね。
もう1個は、売れるものを作る能力だと思うんです。おもしろい漫画を作るのと売れるように作るのは、また別だと思っていて。「この漫画はとてもおもしろい。おもしろいんだけど、なぜ売れないんだろうか?」と思うこと、あるじゃないですか。
僕なりに考えた1つの仮説としては、「おもしろいんだけど、この漫画をプロモーションする時にどうプロモーションしていいか言葉が見つからない」とか、友だちに「この漫画おもしろいよ」と説明して「へー、どんなふうに?」と言われた時に、すぐ言葉が出てこないとか。
たぶん、総じて「この漫画がいかに売りやすいか」という要素が少ないんだろうなと思って。それで、売りやすいものを作るのは編集者には無理な要素です。これは作家のほうで考えて、仕掛けを作っていかなきゃいけない部分だなって考えたんですよね。
なので、「売れるものを作る」と「売る」技術を分けて考えて、「売れるものを作る」技術に関しては僕の仕事だなと思って。でも「売る」に関しては、僕も確かに考えるのは好きですし、実際に自分でやってはきたけど……やっぱり「うまいヤツってほかにもいるな」というのと、あまりにも環境の流れが早すぎて、勉強してついていくのが大変なんですよ。
Perico:確かに、あるある。わかる。
若林:なのでこれは、もう思い切って他人に任せたほうがいいなと思って舵を切ったんですね。出版社で広い視野でものを見ている人たち……もちろん出版社にも良し悪しがあって、フットワークが重たいとかいろいろあるんですが、この人たちにはこの人たちの得意な分野がある。
そしてナンバーナインさんみたいに、常に最新の情報を取り入れて新しい分野に挑戦していく人たちともお付き合いさせていただく。これによって僕は、「売る」ところに関しては他人に任せることができるし、じゃあ僕は売れるものを作ろう、という考え方でございます。いつもありがとうございます!
(一同笑)
遠藤:いつもありがとうございます。お二人とも、すげぇ弊社のことを上げてくださっていて(笑)、申し訳ない気持ちになってきますが。でも、いいキーワードが出たところで次の話題に……あっ、次の話題にいく前に、視聴者数がなんと350名を突破したみたいです。
Perico:あら! (配信開始から)100人ぐらい増えちゃいましたね(笑)。
(会場拍手)
若林:こんにちは~(笑)。
Perico:ありがとー、スパチャお願いしまーす(笑)。
遠藤:もう「アリーナ!」と言ってもいいぐらい、画面の向こうに歓声が聞こえてくるかのような感じですけれども。このイベントを見てくださっている方は、「#漫画家ミライ会議」をつけてつぶやいていただきますと、若林さんもPericoさんも目の前でスマホを見ていて、質問を拾ってもらえる可能性がありますので。
若林:見てますよ。
遠藤:最後に質疑応答の時間も設けてますし、合間合間に質問に答えられる時間もあるかなと思いますので、ぜひ投稿をお願いします。僕たち、Twitterトレンド入りを目指しております。
では次の話題なんですが、「売る」のは専門家やノウハウが蓄積してるところに任せるのもいいんじゃないかな、というところで。お二人も個人連載の話をしてくださってたと思うんですが、たぶん「個人連載バンザイ!」で「商業はダメでしょ」ということではないと思っていて。それぞれにいいところがあったり、考え方の違いがあると。
トークテーマ1では個人連載の話をしていただいたので、トークテーマ2では「商業活動に対する考え方」を掘り下げていきたいなと思っております。
事前に若林先生からは、「商業も個人も区別がないと思っていて、やりたいことがたくさんあって……」というお話は聞いていたんですが、そのあたりをあらためておうかがいできればなと思います。
若林:やりたいことはいろいろあるんですが、頭の中に思いついているおもしろい物語をちゃんと形にして残すことが、僕の中では最優先かなと思っていて。売れたらもちろんうれしいです。でも、僕がいつも思いつく企画はだいたい会議で跳ねられるので。だから、僕は基本的に企画力がないと思ってるんですね(笑)。
遠藤:えぇ? 尖った漫画をいっぱい描いてるのに。
若林:ありがとうございます、尖ってます(笑)。
Perico:(笑)。
若林:売れ線に乗ることがとにかく苦手なので、そういう自分の作家性も加味しつつ、まずは自分が描きたいものをちゃんと描ききるためにはどうしたらいいかな? ということを考えたんですよね。
「自分のやりたいことを優先する」とか「描きたいものを描く」っていう話をすると、「それは甘えではありませんか?」と言う人がたまにいらっしゃいます。いや、それは違うんですよ。なぜなら僕は、やりたいことを第一優先にしておりますが、決して「売れなくてもいい」とは思っておりません。
自分の描きたいものとかやりたいことは、要はわがままだと思われてるわけです。わがままを通すためには、ちゃんと結果や数字を出さなければなりませんよね。なので、自分のやりたいことやわがままを最低限通せるように、ちゃんと数字を出すような工夫も同時にしているということでございます。
遠藤:なるほど。
Perico:なるほど。……あっ、これはレジェンドから私にくる流れですか?(笑)。
若林:(笑)。
遠藤:レジェンドからのバトンタッチが。
Perico:商業活動に関する考え方……というか、商業連載に対する考え方ですが。これは私がふだん思っていることなんですけど、例えば飲食は店の規模によってステージが変わってくと思うんですよ。
ラーメン屋とか、最初は個人店で始めたとするじゃないですか。売れてきたら店舗を増やしていって、有名なビルに入ったりするじゃないですか。漫画にはそれがないよな、と思っていて。もちろん同人をやってる方とかはいますが、みんないきなり「商業ビル」に入ろうとするんですよ。
商業連載は、いきなり“百貨店のビル”の中にみんな入っちゃって、そこに入れない人がまったく食えなかったり貧乏になっちゃう構造ができていると思うんですよね。
事業って、拡大していくものなんじゃないかなと思ってるんですよ。なので私が『マジで付き合う15分前』を始めた時は、個人のラーメン店だと思ってやろうと思っていて。本当に手に負えなくなったら拡大して、商業に持っていけばいいんじゃない? と思ってたんですよ。
実際にこれは、最初は同人誌で3巻まで出していて。単巻あたり、だいたい3,000部から4,000部ぐらい同人誌で出して、電子もずっと好調だったんですよ。Amazonで1位も取れて好調だったので、「これは商業でもいけるやつだな」とは思っていて。KADOKAWAさんとかいろんなところから声をかけていただいて、一応商業版も出したんです。
ただ、そもそも私が個人活動が好きで、数字やノウハウが欲しかったりもしたので、結局は個人でやってますが。商業活動はそうやって拡張していくものだと思ってるので、いきなり(商業連載に)持っていくんじゃなくて、まずは個人でやってみる。
「おいしいラーメンを作ったんだけど、どう?」みたいな感じでラーメン屋を出して、異常な熱の盛り上がり方した場合……例えば、「めちゃくちゃラーメンおいしいやん」みたいなDMがめっちゃ飛んできて、「全国で売ってくださいよ」というのが毎日くるとか、異常事態じゃないですか。
私的に商業連載というのは、そういう異常事態が起きて手に負えなくなった時に足を踏み入れる「商業ビル」的存在ですね。
Perico:なので私は、あまり最初から「商業ビルにこれを持っていこう」という感じで企画を作ってはいなくて、まずは出してみてお客さんの反応を見る。これは個人では規模が違うなと思ったら、「こういうのを出したんですが、どうですか?」という提案ができる編集さんは、KADOKAWAなり集英社に何人かはいるので(作品を持っていく)。
なので、「編集者いらない」「出版社いらない」と思っているわけではぜんぜんなくて。いくつかある選択肢の中の1つで、(出版社は)いっぱい売ってくれる人たち、メディアミックスしてくれる人たち、という立ち位置ぐらいのイメージでやってます。(企画)会議に出すとかはあんまり考えてないんですよね。
この考え方、もうちょっと広がってもいいんじゃないかなとは思っていて。「もう2年会議に通ってないんだよ」「にっちもさっちもいかなくて、何をやったらいいかわかんない」と言ってる人は、もうネットに描いて上げなよって。
あとはお客さんが判断することだから、「別にいきなり会議に出さなくてもいい」という考えが、もうちょっとメジャーになっていかないかな……とは、ちょっと思ってる。
若林:いや、わかります。要はPericoさんの考え方って、すごく個人経営者的な考え方じゃないですか。自分が主体で、自分が事業主で、自分の作品を管理して売っていく。出版社はあくまで取引先であるという考え方じゃないですか。本当にそれは大事だよねって思ってます。
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