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Is Glass a Liquid?(全1記事)

「ガラスは液体である」という、まことしやかな俗説の真偽

昔から繰り返しささやかれる“まことしやかな俗説”のひとつとして「ガラスは液体である」という話があります。その論拠として挙げられるのが「古い教会のガラス窓は下の方が膨らんでいる。これはガラスが長い歳月をかけて下方向に流動しているためだ」という意見。しかしこれは本当なのでしょうか? 今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、そんなガラスの謎と不思議に迫ります。

「ガラスは液体である」という、まことしやかな俗説

ハンク・グリーン氏:「ガラスは液体である」という、昔から繰り返しささやかれる、まことしやかな俗説があります。論拠として「古い教会のガラス窓は下の方が膨らんでいる。これはガラスが長い歳月をかけて下方向に流動しているためだ」というものがあります。

しかし、結論は一般常識のとおりです。ガラスは液体ではありません。

ガラスは通常は固体だとされています。しかし、分子レベルでの構造では液体に似ているところがあります。これは厳密に解説するには少々複雑であり、なぜこんなに不思議なことになるかは、実はいまだに謎のままなのです。

では、基礎から解説を始めましょう。まずは、液体と固体の違いからです。どちらも、原子や分子から構成されています。相違点としては、液体はこれらの分子や原子がごちゃまぜで絶えず動きまわっており、一方で通常でいうところの固体は、分子や原子は動かず、規則的・周期的に配置されている点です。

この分子や原子の規則性は、観測や予測が可能です。氷やダイヤモンドといった固体の規則的・周期的な配置は結晶構造というもので、このような物質は通常は「結晶」と呼ばれています。たとえば、石英の結晶を拡大すると、周期的な構造を見ることができます。

結晶はさまざまな物質で見られ、身近な多くの固体でも見られます。たとえば水は、大気圧下の摂氏0℃で結晶性固体になります。これが「氷」です。氷を溶かしてまた凍らせても再結晶します。

並び方は不規則であり、まるで液体のようだが、実質は固体

しかし、ガラスは異なります。ガラスの一般的な作り方は、別名シリカと呼ばれる二酸化ケイ素の砂を使います。砂に含有されているシリカは、結晶構造を形成しています。ガラスの製造過程でこの砂を高温加熱すると溶解し、赤色を帯びて滴るようになり、水のような液体状態になります。

ところが、これを冷却しても元の結晶構造には戻りません。原子や分子が規則正しい構造をつくらない固体「アモルファス(非晶質)固体」となります。

窓ガラスなどに使われるガラスは、シリコンや酸素、その他の不純含有物は動かず、通常でいうところの固体に似ており、広くつながった構造網として固化します。しかし、その網目構造には周期性・規則性はありません。並び方は不規則であり、まるで液体のようです。でも実質は固体です。

なぜこのような振る舞いを見せるのか、冷却してもガラスが結晶しないのはなぜか、理由はまだ未解明です。実際のところ、これは物理科学上の大いなる謎です。

ガラス構造の究明には、実用的な目的があります。たとえば、科学者やエンジニアは、ガラスにさまざまな金属を取り入れ剛性と耐久性の高い金属ガラスを形成しています。医療機器や電子機器筐体、なんと宇宙船の素材に至るまで、多様な用途があるからです。しかし、ガラスの性質が十分に解明されていないため、特性をうまく生かし切れていません。

わかっていることは、ガラスの形成における鍵となるのが急速な冷却だということです。シリコンと酸素がきわめてゆっくりと冷却された場合は、ガラスよりも規則性の高い、石英のような構造になってしまいます。ガラスの分子が急速に冷却されると不規則に並ぶ理由は、よくわかっていません。

解明されていない謎は、他にもいくつかあります。たとえば、ガラスを構成する原子が液体のように動いていると考えることは、理論上は可能です。しかしその速度は極端に遅く、目に見えるほどの変化をきたすには何百万年もかかります。ガラス窓が完全に溶けて水たまり状態になるまでにかかる時間は、宇宙の年齢と同等とする試算もあります。逆にこうした長い歳月を経た結果、ガラスがアモルファス固体から結晶性固体へと変化する可能性もあるのです。

つまりガラスの性質については、現在も熱い議論が交わされる真っ最中です。ガラスの定義についても諸説あり、ガラスを液体の一種だとする説もあります。ガラスの振る舞いを説明できるシンプルで明快な答えなどはないのです。

「古いガラスの下部が分厚いのはなぜ?」へのシンプルな答え

良いニュースは、科学者たちが現在この謎を解明中だということです。たとえば、イギリスと日本の共同研究グループが、冷却過程のガラス分子の動きのコンピュータシミュレーションを作成し、2015年に論文で発表しました。すると、分子のあるグループはゆっくりと定着し格子構造を形成したのに対し、別のグループは急速に定着し不安定な構造を形成しました。つまり、冷却される過程のガラス分子は多様な振る舞いを見せることがわかりました。しかし、これで全容が解明されたとは言えません。

2021年1月、別の研究グループが、シミュレーションや実験データを元に、液体からアモルファス固体に推移する冷却中のガラスのようすを分析しました。ガラス分子のけん濁液を高性能の顕微鏡で観察し、けん濁液に手を加えた際の分子の向きや位置の変化を調べたのです。この実験では、さまざまな分子のグループの異なる振る舞いが観測されましたが、未解明の謎は多く残ったままです。

というわけで、材料工学者のみなさんには申し訳ありませんが、われわれ一般人には「ガラスは固体」でよいようです。ガラスは「固体の中の変わり者」というわけですね。

さて、古いガラスの下部が分厚い件については、答えはシンプルです。ガラスを流し入れて作る時代には完全な平面のガラスができなかったため、ガラス板をはめ込む際に職人が単に、厚くて重量のある側を下にして固定したためですよ。

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