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甘糟りり子さん×長倉顕太さんトーク バブル・カルチャーがのこしたもの(全5記事)

「24時間戦う」ことが、バブル時代の当たり前の働き方だった バブル世代が抱く、価値観のギャップに対する本音とは

甘糟りり子氏の最新刊エッセイ集『バブル、盆に返らず』の刊行を記念して、開催されたイベント「バブル・カルチャーがのこしたもの」。作家/編集者である長倉顕太氏と対談し、バブル世代との世代間ギャップや、特殊な時代が生んだカルチャーについて語り合いました。本記事では、バブル世代の女性の働きづらさや、現在との働き方のギャップについて語りました。

バブル時代がまるで別の国のことのように思える

長倉顕太氏(以下、長倉):どうでしょうか。質問があれば甘糟さんにしていただきたいなと思うんですが、これを見ている方は(『バブル、盆に返らず』を)買って読まれていると思うんですけれども。

甘糟りり子氏(以下、甘糟):資料として読んでいただければ。

長倉:こういう時代があったというのを、まったくわからない人も多いと思うので。

甘糟:(バブル時代を)経験した私ですら、「別の国かな?」というぐらいに空気が違うので、まだ書き切れていないところもあると思うんですが。10歳ぐらい下の方と対談した時、何気なく「私が若い頃は、明日のほうが絶対楽しいし新しいことも待っていた」と言ったら、「そう思えるってすごいですね」と。

バブルの人たちが「なんとかなる」と、能天気でいろんなことを決めちゃって。その弊害もあるかもしれないけれども、本当にいろんなことがなんとかなっていたんですよ。なんでだろう?

長倉:僕、ちょうど就職氷河期時代の大学生だったんですよ。でも、バブルの時は本当に誰でも就職が決まって、他のところに行かせないために合宿とかに行って、接待されるぐらいの感じですよね。

甘糟:男子学生は温泉とかに幽閉されて、「他の会社に行きます」と言うとお茶をかけられたりとかして。

女性でも活躍できる仕事は「客室乗務員」くらいだった

甘糟:ただ、男性はそうですが、逆に言うと女性は当時のスチュワーデスと女子アナという……。「女子アナ」という言葉も今は良くないですが、アナウンサーも(求人が)そんなになかったから、女の人がちゃんと稼ごうと思って会社に入ろうと思ったら、本当に客室乗務員ぐらいしかなくて。

長倉:一般職の「お茶汲み」じゃないですが。

甘糟:男性と同じ職務に就けるのはけっこう学歴とか、コネだけじゃたぶんだめだったと思います。

長倉:(女性が)総合職で入社というのは、考えづらい感じだったんですか?

甘糟:考えづらいと思うんですよね。女性のエリートは本当にごく少数だったので、女の人はコピーを取ってお茶を汲んで、私もアパレルに入ってから、「この人はコーヒーにミルク」「この人はコーヒーにミルク・お砂糖あり」、「この人は日本茶」というのを覚えるのが最初の仕事だったので、今聞くと「えっ!?」と思うじゃないですか。

長倉:その時には反感とかはないんですか? それが当たり前、みたいな。

甘糟:「面倒くさいな」と思いましたけど、女の人はそういう扱いだったので。だから、その観点では時代が良いように変わったなとは思っていますね。

長倉:今でも日本はジェンダーギャップがすごいと言われていますが、その時から考えたら、一応進んではいるんですよね。

甘糟:前進はしているけど、もっと進まなきゃいけないなとは思う。「コーヒーにミルクとお砂糖……」とか、覚え込まされたことをこうやってネチネチ覚えているということは、その時も「え?」と思ったんでしょうね。

日本茶の人とかも顔を覚えていますもんね。みんなコーヒーを淹れるのに、日本茶を淹れるのは面倒くさいんですよ。

バブル時代、女性のキャリア形成の難しさ

長倉:「寿退社」という言葉って外国人から笑われますけど、当時の価値観では、普通に入社して結婚して主婦になって、というのがほぼ多くの人の人生だと決めつけられていたということですよね。

甘糟:そうです。だから短大がすごく沢山あって、女の人は短大に2年行ってから、なんとなく結婚相手がいそうな会社に入って……。

長倉:社内結婚が普通なわけですよね?

甘糟:そうだったと思います。そこから考えると、バブル時代の女性のキャリア形成は難しそうですね。「甘糟さんはご自身のキャリアについて当時どのように考えていましたか?」と言われると、私は本当に恥ずかしいですが、馬鹿丸出しの遊んでばっかりだったので。

「キャリアをどうこうしよう」なんてことに考えが至らない、チャラい女子だったので。本当にあの時に、もうちょっと自分でどうしたいかを考えて、そのために何が必要かをやっておけばよかったなと未だに思っていますよ。

長倉:でも、同世代の女性でキャリアがどうのこうのと言っている人はいたんですか? 東大とかの人はいたかもしれないですが?

甘糟:遊んでいる友だちにはいなかったんですよ。さっき言ったように客室乗務員とか、あとは編集者も一部ですからね。

長倉:どちらかというと、編集は比較的女性もいるイメージがあるんですが、そうでもないんですか?

甘糟:その頃、数少ない女性が自分で稼ぐ職種だったと思いますが、当時、女性の編集長はほぼ皆無だったと思います。

長倉:女性誌でもですか?

甘糟:マガジンハウスにはいらっしゃいましたけど、編集長・副編集長と呼ばれるような肩書きの方は、9割以上が男性だったと思います。だからそこもずいぶん変わりましたよね。

そういうことも、もうちょっとちゃんと(本に)書いておけばよかったなと、すごく思っちゃうんですよね。私ももうちょっと考えて生きれば良かった、ということをみなさんにお伝えしたくて。

ハラスメントもジェンダー問題も「ひどい時代だった」

長倉:50代でバブルを経験されている方で、これを見ていただいている方がいらっしゃいますが、「当時のほうが良かったな」って思うものなんですかね?

甘糟:街の空気は楽しかったんですけど、真面目な話、ハラスメントだったりジェンダーを考えると、ひどい時代だったなと思いますよ。

長倉:今の感覚で言うと、モラル的にやばいことをテレビとかも平気でやっていたわけじゃないですか。

甘糟:そうですよね。だから「戻ったほうが良い」とは思えないですが、でも楽しかったんだよな、とか言って(笑)。

長倉:(笑)。日本がずっとだめとはいえ、そこそこ楽しくよろしく生きていけるわけじゃないですか。

甘糟:今後もそれは続きますかね?

長倉:何10年という単位でいくと、続かないとは思うんですよね。ただ、僕もアメリカに住んでいたりとかしていましたが、日本のほうが楽しいので。

甘糟:そうですか?

長倉:日本のほうが楽だし、楽しいし、安全だし。アメリカだと夜は絶対に出歩けないので。別に遊びたいわけじゃないですが、家にいない限り(安全は)ありえないし、外に出たら何かされるので。そう考えると、日本は一番楽かなと思っていて。

栄養ドリンクのキャッチコピーは「24時間戦えますか」

甘糟:「セクハラ」という言葉は、いつぐらいからなんだろう。

長倉:僕もそれはけっこう引きずっているんですが、「男は酒を飲め」とか、イッキ強要とか。そういうのも未だにやっていたりしますけど、今それは許されないじゃないですか。

甘糟:あの頃、男性が「僕、お酒弱いので」「飲めないので」とかって言えない感じでしたよね。

長倉:許されないと思います。みんな酒もたばこもやっていた雰囲気ですよね、自分の親父とかを見ていても、毎晩飲んで帰ってきていましたからね。

甘糟:だから肝臓を壊す人も多かったですよね。

長倉:毎晩夜中まで飲んで帰ってきて、でも朝早く(会社に)行って、土日はゴルフみたいな。子どもの時、会ったことなかったですもん。

甘糟:リゲインですね。「24時間戦えますか」ですよね。

長倉:さっきバブルの本で読んでいた、1988年のリゲイン(栄養ドリンク)のCMのコピーが「24時間戦えますか」なんです。

甘糟:時任三郎さんがいろんな国に行ってCMを撮っていましたけど、本当に24時間というか、30時間働いている感じでしたよね。

長倉:今、「24時間戦えますか」と言ったら、問題になる。

甘糟:8時間までですものね。

長倉:そうですね。

バブルがあったからこそ今がある

長倉:「24時間戦えますか」なんて聞いたら、超問題になりますよ。それぐらい時代の価値観が違って、僕はそこがおもしろいなと思っていて。時代によって価値観が変わると。

もちろんこの前のオリンピックの件で、小山田圭吾さんがどうのこうのとか、僕はやったことは悪いとぜんぜん思うし、それは別に言われても当然だと思うんですが、当時の雰囲気や価値観と今が違うのは、みんなわかっておいたほうがいい。

甘糟:今の物差しで全部測ってしまうと、昔は全部否定されてしまうし。そういう時代があったからこそ(今がある)という感じですよね。

長倉:ぜんぜん擁護はしていないんですが、ただ、昔のことで今責められることがあるというのは、今後の勉強になります。下手なことは言えないというか、残せないというか。

甘糟:そうすると言葉を飲み込んじゃいますよね。

長倉:あと、優秀な人が公の仕事に就かなくなると書いてありましたね。結局、税金をもらうような仕事だと叩かれるわけで。そうすると、優秀な人がそういうところに絶対行かなくなるような雰囲気もあると言っていましたね。

甘糟:そうですよ。

「バブル世代の上司が嫌」という世間の声への本音

長倉:(視聴者からの質問で)「今の尺度で測ると、責められてしまうことばかりということですが、バブルに対して否定的な意見を持たれることについて、どう感じますか?」ということなんですが。

甘糟:「気持ちはわかるが認めてくれ」という感じですかね。

長倉:しょうがないですよね。

甘糟:あの時代があったから今がある、ということはあると思うんですけど、ただ私たちバブル世代の上司がいると嫌だと言う人が多いのはわかります。なんでも能天気に「何とかなる」という気持ちが根本にあるので。奢ってもらえるけど、タクシー代も衣装代もかかっていました。

長倉:さっきの話にも出ましたけど、ほとんどの金を服代に投入するという。

甘糟:さっき出た『夜霧のハウスマヌカン』の歌詞にもあるけど、「シャケ弁食べて洋服を買う」ですからね。

長倉:日本にああいう時代はもう来ないと思います。

甘糟:そうですよね、100年は来ないですよね。

長倉:もう来ないでしょうね。だからそう考えるとすごく貴重な、特殊な。

甘糟:特殊な、本当に変な時代だったなと今思いますね。

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