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第三部 パネルディスカッション「JDCアワード受賞企業の事例から見る2021年のデジタル・コミュニケーション」(全4記事)

“嫌われ企業”は何をやっても批判され、揚げ足を取られる 「あいつらは叩いてOK」という空気から脱する、唯一の手段

デジタル上で発生したクライシス(危機や重大なトラブル)を研究する日本初の研究機関、シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所。同研究所が、一年間の研究成果をまとめて発表する『デジタル・クライシス白書』の発行を記念して、オンラインイベント「デジタル・クライシスフォーラム」が開催されました。本記事では「第三部 パネルディスカッション『JDCアワード受賞企業の事例から見る2021年のデジタル・コミュニケーション』 」の模様を公開します。

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嫌われている企業は、なにをやっても叩かれる

桑江令氏(以下、桑江):ヨッピーさんには、昨年ウェビナーでお話いただいた部分で「嫌われている企業はなにをやっても叩かれちゃうよね」みたいなお話を伺いたいと思います。確かにSNSを含めて、そういった空気はあると思っていて。

ヨッピー氏(以下、ヨッピー):ありますね。

桑江:その空気感によって盛り上がってしまった事例などもあると思うんですが。そのあたりで2020年で注目した部分はありましたか?

ヨッピー:会社名とか言っていいんですよね?

桑江:まぁ、はい……(笑)。

ヨッピー:(笑)。電通さんとパソナの2つですね。電通さんパソナさんが、完全に“二大国民嫌われ企業”の代表格かなと思っていて。それはすごくかわいそうだなとも思うし、自業自得だなと思うところもあるんですけど。

例えば、電通の社員がコロナになっちゃって、かなり早い段階で「全部リモートにします」って宣言して、一切出社するなとなりました、と。

その時に、やっぱり嫌われてるので、Twitterのユーザーが電通のビルの近くを通った時に写真を撮ったら「電通のビル、ぜんぜん電気が点いている」とつぶやいて。「あいつら出社しないって言ってるくせに、ぜんぜん働いてるじゃねぇか」みたいなことで「嘘つきだ!」みたいな感じでブワーっと広がったんですけど。

ただ電通の人に話を聞くと、交代制で出社していたらしいんですよね。そもそもフロアに1人はいないとFAXや受注対応とかが必要なので、交代制で1人だけ順番に出社していたらしいんですよ。

だからその当番が電気を点けて、そこで仕事をしていると。なので当然、電気は点けているんですけど、多くの社員は本当に出社していなかったと。

「それは反論すればいいじゃん!」って言ったら「いや、なに言ってもどうせ揚げ足取られるので、なんも言えないですね。悔しいですけど……」ってボソボソ悲しそうに言っていたんですよ。なので、いきすぎるのもよくないなと思いますね。

「あいつは叩いていいんだぞ」という空気感を、いかに脱するか

中川淳一郎氏(以下、中川):あと持続化給付金の時に、国が電通に発注して、そこから下請けに流していたっていうのもありましたよね。

倉田真由美氏(以下、倉田):あ~、ありました。

中川:あの時もハッシュタグで盛り上がったのは「#電通案件」でしたね。「電通案件なんか、全部悪いに違いない」ってなっちゃうのは、本当気の毒で。博報堂だって同じようなことやってるのに、なぜか電通だけが目立っちゃうのがネットの空気なんですよ。

ヨッピー:「『100日後に死ぬワニ』も電通が関わった」みたいになってましたけど、マジでぜんぜん関わってないですからね(笑)。

だからかわいそうと言うか。「あいつは叩いていいんだぞ」って空気感ができちゃうと、もうなんでもかんでもいかれちゃうから。それはよくないなと思ってますね。

桑江:実際にそういった状態になってしまうと、もうどうしょうもないんですかね?

ヨッピー:ちゃんと改善しているという姿勢を、細かく見せ続けるしかないですよね。「あれは叩いていいんだ」って見られていた企業の例で言うと、ワタミとかもそうだったんですよね。一時期は。

倉田:確かに。

ヨッピー:ワタミは細かく改善を続けて「ちょっと努力の跡が見られるぞ!」みたいな雰囲気に戻りつつあった。最近はまた嫌われはじめてますけど(笑)。

とはいえ、長い目で見て、問題とされている部分をコツコツ改善するしかないですよね。例えば、何か記事を出したから180度印象が変わるとかは、絶対にあり得ないので。

印象がガラリと変わりつつある、山崎パンの事例

中川:1個、ずいぶんと印象が変わったなぁという企業がありまして。それは山崎パンなんですよ。もともと山崎パンって、学生たちに「恐怖のアルバイト」として恐れられていたんですよね。

倉田:そうだった(笑)。

中川:倉田さんも知ってるでしょ? 

倉田:知ってる、山パンのバイトね!

中川:「あんな恐ろしく大変なバイトはない」ってね(笑)。それがあって、山崎パンに対するブラック労働的な認識があったんだけど。

ただ数年間に1回くらい、大雪が降ることがありますよね。それで国道とかに雪が積もって止まっちゃう時に、山崎パンのトラックの人が「タダでパンをあげる」って行為を、数年に1回やるんですね。それが拡散されて、毎回絶賛されるという。

倉田:あ~、そう言われてみれば。

中川:その空気感もあって、山崎パンって褒められてるんですよ。あと「イーストフード(※発酵を助ける食品添加物の仲間)を使うのはよくない」みたいなことを言うライバルメーカーがあるんだけど、山崎パンが成分を分析したところ「ほぼイーストフードと変わらないものをお前たちは使っている」って返していて。逆に「さすが山崎の技術力」って褒められています。

桑江:そういった活動を通して、少しずつ改善していくわけですよね。

中川:そうです。

「女性らしく・男性らしく」を、良しとしない空気感

桑江:そういった意味で、最も議論が難しいテーマでいくと、やはりジェンダーという部分で。今だと森(喜朗)さんの話で、非常に大きな話題になっておりますよね。昨年もジェンダー炎上はいくつも起きていると思います。

そういった意味で倉田さんは、ジェンダーに関するコメントも出されていると思いますが。2020年で気になったジェンダー系の話題などはありましたか?

倉田:2020年のジェンダー系ですか。良い話題で言うと「貝印の脇毛のCM」ですね。ああいうのはおもしろいなと思いましたね。脱毛を推進する企業が「剃るかどうかは別に自由」みたいなメッセージを発信されていて。

女の人の場合は「絶対に脇毛って許されない」みたいな強迫観念がある中で、ああいう出され方をされると、ハッと足を止めてしまうところはありますよね。自分は剃るけど、剃らない自由もあるべきだと思うので。

そういった問題を自分の話にしてしまって、問題を曖昧にしてしまうジェンダーの問題って多いと思うんですよね。

例えばだいぶ前ですけど「土俵の上に女性が入っちゃいけないというルール」がありましたよね。それで、土俵の上で力士が倒れた時に、女性の救助者が入ることを躊躇したという事件があったと思うんですけど。

これはとんでもない話で、土俵に女性が入っちゃいけないって当たり前のように言われている。じゃあ私は女ですけど「土俵に入りたいですか?」って言われても別に入りたくはないんだけど。

でも自分が入りたいかじゃなくて「女だから入っちゃいけない」ことに対する疑問とか、感受性は残しておきたいなと思っています。

そういうことを世間一般も忘れないようにしてもらいたいんだけど、そういう問題に対して声高に言うと「あの人は変わった人」みたいなことになってしまうので。その感じは変わっていくといいなと、個人的にはすごく思っていますね。

ヨッピー:だいぶ変わってきてるんじゃないですかね? 

倉田:そうなのかな?

ヨッピー:もちろん、社会に浸透しているとは言いませんけれども。例えば、バンドエイドのポスターですごくいいなと思ったのが、就活中に靴擦れをしますと。それに対してバンドエイドはよく使われていていますけど、バンドエイドが「こういう『ヒール履かなきゃダメ』みたいな就活はやめませんか?」みたいなポスターを貼っていて。

バンドエイドからしたら「自分の売り上げが減る可能性があるのに、そんなの言っていいんだ」みたいなところで、すごく粋だなぁと思って。

倉田:そういうのいいですね。

ヨッピー:女性が女性らしくあれとか、男性が男性らしくあれみたいな。それを良しとしない空気感は、ここ2年くらいで完璧に出てきたなとは思ってますかね。

倉田:このまま良い方に変わっていくといいなと思いますけどね。

「お母さん食堂」がダメなら「俺のフレンチ」とかもダメ?

桑江:そういった意味では「お母さん食堂の件」はどう感じられましたか? 中川さんいかがですか。

中川:あれはたぶん、プロのコピーライターを入れて決めたネーミングのはずだし、投資もいっぱいしているし、デザインとかパッケージも決まっている話なんですね。それに対して、企業の商品に過度に関与していいのか? ってことを、私は思っちゃうんですよ。

抗議まではしなくていいんじゃないのかなとも思うんですよね。気に食わないものがあれば『change.org』という署名サイトを使って「署名7,000名集まりました。ファミマさんは変えなさい!」ってすればいい。

でも、実際の動きは圧力団体に近いなと思ったので、自由な企業活動は尊重する空気でいいと思うんです。もちろん差別とかはマズいですけどね。でも、お母さん食堂はまだ許容されるレベルじゃないかと。あれは世間の空気感によるものだと思います。

ヨッピー:お母さん食堂がダメだったら「俺のフレンチ」とかもダメじゃんとか思っちゃうんですよね。それって「俺の」という言葉には、頑固な職人が作ってくれるんじゃねぇか、みたいなイメージを使っているだろうし。それこそ「ビアードパパ」とか「りくろーおじさんのチーズケーキ」とか。それはどうなんだ!? とか言い始めると、本当にキリがなくなるので。

僕は企業の案件にワーワー言うんじゃなくて「それくらいはいいじゃん」ってちょっと思ってますね。言い出すと本当にキリがないので。雑なまとめですけど(笑)。

倉田:私もそう思うなぁ。「これはありじゃない?」ってラインと「ここはなしでしょ!」ってラインは、人によって感じ方が違うのは当然ですけど。そのあたりのラインが「なし」に大きく傾いてしまうと危ないなぁって思いますね。

お母さん食堂に関しては「え、これどこがダメなんだろう!?」って第一感で思った人のほうが、きっと多いんじゃないかなという気がするし。ジェンダーとは違うけど、人種差別的なこととか、男女差別もあると思うけど、明らかに一発アウトだよねってものと比較すると、お母さん食堂なんてぜんぜんですよ。

これがダメだったら相当いろんなことがダメになっちゃう。今、ヨッピーさんがおっしゃったような話だと思うので。むしろ断固として、ファミマは変えないでほしいなと思っていますね。

ヨッピー:「おばあちゃんのぽたぽた焼き」とかもダメになっちゃいますからね。

倉田:そうだよね。そういう単語からイメージするようなことが、全部ダメになってしまう。

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