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第二部 パネルディスカッション「炎上とフェイクニュースのこれから」(全5記事)

ただの批判を“炎上”に仕立て上げる、PV稼ぎメディアの存在 そして「炎上とフェイクがつながったビジネス」が生まれるワケ

デジタル上で発生したクライシス(危機や重大なトラブル)を研究する日本初の研究機関、シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所。同研究所が、一年間の研究成果をまとめて発表する『デジタル・クライシス白書』の発行を記念して、オンラインイベント「デジタル・クライシスフォーラム」が開催されました。本記事では「第二部 パネルディスカッション『炎上とフェイクニュースのこれから』」の模様を公開します。

「炎上とフェイクニュースのこれから」

桑江令氏(以下、桑江):では、第二部のパネルディスカッションに移らせていただければと思います。二部のテーマは「炎上とフェイクニュースのこれから」になります。

では、パネリストのみなさまをご紹介させていただきます。まず一人目は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一先生です。

『クローズアップ現代』などのメディアにも多数出演されており、炎上に関する著書も出されております。

山口真一氏(以下、山口):国際大学の山口と申します。本日はよろしくお願いします。

桑江:それでは二人目です。株式会社メディアコラボ代表取締役の古田大輔さんです。

BuzzFeed Japan創刊編集長であり、現在はGoogle News Lab・Teaching Fellowにも就任されまして、幅広くご活躍されております。

古田大輔氏(以下、古田):ご紹介にあずかりました古田です。もともとは朝日新聞で記者をしていて、そのあとはBuzzFeed日本版の創刊編集長をしておりまして、一昨年、独立しました。今はGoogleでも働いているんですが、今日はメディアコラボという自社としての立場で、お話させていただけたらと思います。よろしくお願いします。

桑江:よろしくお願いいたします。本日は「炎上とフェイクニュースのこれから」というテーマになりますが、もう少し細分化した8つの議題を用意してみました。

1つ目は「2021年の炎上とは 消費者の変化と炎上を扱うメディアの変化」でございます。第一部でも発表したとおり、メディアも消費者も大きく変化をしている中で、2021年の炎上動向はどうなっていくのか。どんな炎上が起き、どんな変化に注目しておくべきなのか。そういった観点を掘り下げていければと思います。

“炎上”は、企業として無視できないところまで来ている

桑江:まず最初に『デジタル・クライシス白書』の中で気になる内容等についてお二人にお伺いできればと思っております。山口先生からお願いしてもよろしいですか。白書全体のところで事前にコメントもいただいておりますが。

山口:そうですね。『白書』にコメントを書いていますので、そのとおりなんですけども(笑)。まず印象的だったのが、炎上の統計データを5,000人規模のアンケート調査で出していらっしゃいますよね。

そこで「消費行動に炎上がどういう影響を与えているか?」っていう項目を出していたじゃないですか。そこに対しては、私も非常に興味を持っているところでして、確か30パーセントぐらいの人は「炎上によって実際の購買行動を変えたことがある」みたいな結果が出ていましたよね。これってやっぱり、企業としては無視できないところがかなり出てきたのかなと感じました。

桑江:ありがとうございます。今日はテーマとしては取り上げなかったのですが、炎上後の対応に注目されている方も多くいらっしゃいました。かつ「炎上への対応が評価されるものであれば、印象はポジティブになる」といった結果も出ていましたので、そこも興味深かったのかなと思っております。

情報発信者に求められる「これは本当に炎上?」を分析する力

桑江:では古田さんには、白書の中でフェイクニュースに関することも取り上げていたのですが、その辺りを含めて一言感想をいただければと思います。

古田:今回、僕が一番興味深いなと思った点で言うと「炎上事案を放送・記事化するメディア」という項目でした。2019年はデジタルメディアが78.6パーセントでしたが、2020年はデジタルメディアが98.7パーセントと増えてる点なんです。

これは、マスメディアが炎上記事を扱うことを減らしたわけではなく、デジタルメディアで炎上を記事化するところがすごく増えてるんですよね。理由は簡単で、デジタルメディアの中でも、ほとんど一人で運営しながらメディアを名乗っているところも、実態としてたくさんあります。そしてそのほとんどのビジネスモデルは、PVに支えられているんですね。

そうなると「有名人の名前」と「炎上」という言葉を見出しに入れておけば、それなりのPVが取れてしまう。それを商売にしている人たちがたくさんいるんです。しかも個人メディアだけではなく、中規模ぐらいのメディアでも、意外とそういうところがありまして。それを専門に記事を書きまくってるような人もいてですね。そういった背景もあって、デジタルメディアでの炎上記事が増えてるというのが、このデータによく表れているんだろうなと思います。

もう1つ、それを示しているデータが「記事化されるまでの速度」です。24時間未満で記事化される割合は、2019年では21パーセントでしたが、2020年は48パーセントに増加している。ものすごいスピード感になっている。これは何が影響しているかというと「炎上」という言葉をTwitter等で監視しているんです。「炎上」という言葉が出てきたり、ネガティブな反応を目にしたら、すぐにそれを記事にしている。

現実的には炎上と呼べるほど批判が広がっていないものでも、メディアが「炎上」と記事にして、それをきっかけにさらに批判が増えて、本当の炎上状況になる。そんな事案が増えてきている。

こうなってくると「これって本当に炎上なの?」ということをきちんと分析する力が、企業や情報発信者に求められると思っています。

メディアが「炎上だ!」と煽ってるものは、世間の声ではない

桑江:ありがとうございます。8つの議題でいきますと「炎上を扱うメディアは変化している」というところに絡んできますので、まずはここを掘り下げていければと思っています。

古田さんがおっしゃった部分としては、2019年と2020年で「炎上を最初に扱ったメディア」の数を比較すると3倍に増えているというところでした。要するに、新たなメディアが「炎上」に参入してきているという話になってきます。

実は細かく分析していくと、もう5年ぐらい運営しているような中堅・老舗メディアが、これまで扱っていなかった炎上系のネタを扱うようになってきた、という事例も見受けられました。ですので、古田さんのおっしゃるとおり“PV数稼ぎ”を含めた、メディアの運営方針の変更が2020年に起きたのかな? と感じている次第です。山口さんの新著の中でも触れられていたテーマかと思いますが、そのあたりいかがでしょうか。

正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書)

山口:古田さんのおっしゃっていたことに同意なんですけども、御社の調査では、昨年度の炎上件数は1,400件ぐらいでしたよね。これほどに存在する炎上について、それをメディアが取り上げるということは、もはや「卵が先か鶏が先か」みたいな話だと思うんです。

それこそ炎上になってないような、ただの批判が少しあったものを「炎上だ!」と取り上げることによって、PV数を稼いで儲けるってことが、一連の流れとしてすでにネットのメディアで作られてしまってる気がするんですよね。

それを可能にしてしまっているのは「炎上してるんだ」とか「批判を浴びているんだ」と思ってクリックしてしまう、消費者や我々だということもあると思います。

なので私もいろんなところでお話しますが、炎上というのは、参加してる人数は実はごくわずかだし、それこそネットメディアが「炎上だ!」と煽ってるものなんて、最初の段階では非常に少なかったりするんです。そういったものは世間の声ではないし「あんなもの無視しようよ」というように、社会全体の認識して変わっていくことが、この“負の連鎖を断ち切っていく”といいますか。

「炎上だ、炎上だ!」と煽って不寛容な社会になっていくのを止めるためには、そういった認識を持つことが必要なのかなと感じています。

桑江:なるほど。いわゆる「非実在型炎上」なんて言われる言葉も最近は出てきておりますね。それこそ古田さんがよく発信されている「フェイクニュース」という観点の中で「海外のニュースの出典元をあまり調べずに日本のメディアが取り上げて……」という事例等ですよね。

「炎上とフェイクがつながったビジネス」が生まれるワケ

桑江:2020年はフェイクニュースという観点でも、メディアのあり方が注目されていたのかな、と思っています。このフェイクニュースや疑義言説について、古田さんの方で少し解説いただいてもよろしいですか。

古田:はい。それで言うと、炎上について個人やメディアが発信する時に「対象の取り上げ方」にパターンがあるなと思うんです。1つはさっきも言ったような「有名人×炎上」でひたすら記事を書く人たち。これってけっこう中堅のメディアで多いんですよ。いわゆる「こたつ記事」ですね。テレビでも目にしましたが、炎上に関する記事を書きまくる人たちがいるんですよね。

それはなんというか……フェイクではないんですよ。例えばワイドショー等で芸能人がこんなことを言ったとします。それに対してTwitter上では「ちょっとそれ違うんじゃない?」みたいなことを言ってる人たちがいます。なので、ここに関してはフェイクはないんですよね。

ただ、その事象をまとめた記事を書くことでPVが稼げるから、その人たちはひたすらやっている。情報価値としては非常に低いと僕は思いますけども、フェイクではないワケです。

そしてもう一方のパターンは何かと言うと「お得意様を相手にする商売」に関連するパターンです。僕はこの言葉があんまり好きではないんですが“ネトウヨ”と呼ばれる人たちがいます。

保守的な言説が大好きで、例えば「立憲民主党の政治家を批判するような内容の記事」を喜んでシェアする人たちがいるんですよね。同時に、そういった記事をひたすら書きまくるメディアがあるワケです。受け手にお得意様がいるから、そういった記事を書けばPVが取れるんですよ。それで広告収入を得てメディアの運営ができる。

中には自分の政治信条、イデオロギーとして、本当に立憲民主党や共産党が大嫌いでそういう記事を書いてる方もいるんですけど。そうではなくて、本当にビジネスとしてやってる人たちもいるんですよね。その人たちは、別に報道倫理とは関係なくやっているので、多少誇張していたり、嘘が混ざっていたり。そういったコンテンツが増えていきます。そこにおいては「炎上とフェイクがつながったビジネス」が生まれてしまうんですよね。

これは別に、立憲民主党みたいな一部の政党だけではなくて、一部の企業に対してもあります。この企業は嫌ってる人が多いから、多少嘘が交じってもいいから記事を書いたら、その企業が嫌いな人たちに「そうだ、そうだ!」って言ってもらえる。そしてPVも集まって支持してもらえる。そういったことを見越して記事を作っている。

僕はよく「フェイクとヘイトのスパイラル」って言葉を使うんですけど。ある企業やある対象に対して、ヘイト心を持っている人は、その企業に対してマイナスになる言説であれば、フェイクでもなんでもいいから、とにかくシェアしたい。その人たちの心をうまく狙ってフェイクを発信してくる人たちがいる。

これは本当に企業側としては対応が非常に難しいですよね。100パーセント完璧なフェイクであれば「それは完璧に100パーセントのフェイクです」と発信すればいいですが……。半分本当であるとか、ミスリーディングな言説で攻撃してくるとか、いろいろなパターンがあるので。

その辺りに関しては、企業の方々は十分に研究をして、事前に心構えをしておく必要があるだろうなと思います。

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