2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
Those White Crusts on Whales Are Alive and Full of Stories(全1記事)
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マイケル・アランダ氏:クジラ、特にセミクジラの写真を見ると、頭や顔に独特の白いかさぶたがあることに気が付きます。単なる皮膚の異常にも見えますし、実際もそのとおりなのですが、実はあのかさぶたには秘密があります。
かさぶたの色が白く見えるのは、なんと甲殻類が大量に付着しているためなのです。しかも不思議なことに、その小さな生き物を調べることによって寄主のクジラについてさまざまなことがわかってきます。
白い斑紋はカロシティ(Callosities)と呼ばれる、皮膚にできるタコと同じ物です。
通常の生き物であればかさぶたとなって剥がれ落ちるはずの死んだ古い皮膚が、少しずつ積み重なってできた物がカロシティです。
おもしろいことに、セミクジラの頭部にできるカロシティは、目の上や唇、顎沿いなど、人間の顔で毛が生える場所と同じです。
さらに、噴気孔と吻(頭の先端部)の間にもできるため、まるで髭のように見えます。
生まれたてのクジラの赤ちゃんにはカロシティはありませんが、生後数ヶ月のうちに見られるようになります。人間の髭と同様に、カロシティが何の役に立つのかはよくわかっていません。しかし髭と同様に、その模様は非常に特徴的です。カロシティの模様は、人間の指紋と同じようにクジラの個体ごとに異なります。研究者たちが個体を見分けることができるため、個体群の追跡調査に役立ちます。
ところで、カロシティは実はもともとは灰色です。白く見えるのは、シラミがたかっているからなのです。なんとシラミは海にもいます。クジラジラミとは言いますが、実際にはシラミではありません。「cyamid(クジラジラミ)」という甲殻類の一種なのです。
セミクジラ1頭には、クジラジラミが1万匹ついていると言われています。クジラの赤ちゃんが生後数週間になる頃には乗り移って寄生し、死んだ皮膚をエサにします。
クジラジラミ自体は泳げないため、クジラの母親が赤ちゃんに授乳する際などのクジラ同士の濃厚接触のタイミングで寄生が広がると考えられています。寄生相手に乗り移ったクジラジラミは、落ちないように扁平な体と鋭い爪を利用してしっかりとしがみつきます。
クジラジラミが、クジラに単に寄生しているだけなのか、もしくはクジラ側になんらかの利益を与えているのかは、まだわかっていません。
1つ考えられる利益は、寄主であるクジラがクジラジラミのおかげでエサを見つけやすくなることです。カロシティに生えている硬い毛が髭のような役割を果たし、クジラが周囲の獲物の動きを捉え易くなると考えられています。そしてクジラジラミは、その能力を補強しているのではないかと言われているのです。
クジラジラミの近親の甲殻類は、近くに小さな獲物が来たことに気がつくと、立ち上がって捕食します。そのため、クジラのセンサーとなっている毛に付くクジラジラミが、クジラのエサ探しに一役買っている可能性は十分にあります。しかし、はっきりとしたことはわかっていません。
クジラジラミは宿主であるクジラにとって、さして害は無いように見えます。さらに私たち人間、特にクジラの研究者には大いに役に立っています。
寄生するクジラジラミの種類は、クジラの種により異なります。その中でも、セミクジラだけは、なぜか複数種のクジラジラミが寄生します。まず、健康なクジラに寄生する2種類のクジラジラミがおり、それぞれが生息場所を細かく住み分けています。1種はカロシティの深い割れ目に生息し、もう1種はもう少し広い場所に生息しています。
もう1つ、白ではなくオレンジ色をした種もいます。これは、ごく幼い個体や病気の個体にしか寄生しません。つまり、このオレンジ色のクジラジラミを観察することで、セミクジラの健康状態を知ることができるのです。
クジラジラミは、他にも役に立ちます。常に寄主であるクジラにくっついていることによって、研究者たちの目が届かない情報を提供してくれるのです。例えば、3種のセミクジラに付くクジラジラミの遺伝子の違いを調べることにより、それぞれの種の変遷を類推することができます。
クジラジラミの個体数は、宿主のクジラの個体数や群れの構造と密接に関係してきます。さらに、クジラ1頭には無数のクジラジラミが寄生しています。つまり、クジラの個体数よりもクジラジラミの個体数の方が多く、はるかに遺伝的多様性に富んでいます。研究者たちにとっては、クジラジラミは情報の宝庫なのです。
クジラジラミの遺伝的変異をたどることにより、セミクジラ3種は600万年ほど前に分化したことが推測されました。北半球に生息する2種は乱獲により現在絶滅の危機にありますが、クジラジラミの遺伝子を調べることにより、かつては南半球の種と同様に多くの個体が生息していたことがわかりました。
非常に稀なケースとしては、岸に打ち上げられた子どものセミクジラに、通常であればザトウクジラに寄生するはずのクジラジラミが寄生していたことがありました。つまり、このセミクジラの子は、ザトウクジラに育てられていたと考えることができます。異種のクジラが育ての親となっていたのです。
クジラの白い斑紋は、それ自体が生きているだけではありません。クジラを研究し、保護活動を行う生物学者たちにとっても非常に役に立っているのです。シラミは、単なる気持ちの悪い不気味な生き物ではありません。豊かな物語の語り部でもあるのです。
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