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漫画をSNSでプロモーションする方法 根田啓史×工藤雄大(全5記事)

在庫管理のリスクがない『異世界妹。』は「いつ売れてもいい」 雑誌のプロモーション機能が薄れた時代の、漫画の売り方

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、漫画家で『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』の著者 根田啓史氏と、株式会社ナンバーナイン 執行役員 工藤雄大氏によるトークセッション「漫画をSNSでプロモーションする方法」の模様を公開します。

最初は“すごく嫌い”だった、Twitter

小林琢磨氏(以下、小林):そんなかたちで「SNSの選び方」は「自分に合うところ」「苦がなく続けられるところ」がいいんじゃないかっていうようなお話でしたね、まとめると。根田さんの場合は、それがTwitterだったと。

根田啓史氏(以下、根田):本当はTwitter、最初はすごい嫌いで……(笑)。

(一同笑)

工藤雄大氏(以下、工藤):最初の話どこいったんですか(笑)。

根田:リツイートっていう機能がすごく好きで。

工藤:あぁー、機能が。

根田:リツイートってすごいじゃないですか。フォローしてるってことは相手に興味持ってるんですけど、フォローしてる人のリツイートしたものって興味ないかもしれないじゃないですか。その接点がないかもしれないものを強制的に見させるって、ものすごい機能だなって思って(笑)。企業ってテレビCM打ったり駅ナカ広告やったりとか、心血を注いでやってるわけじゃないですか。それを指先ひとつでできちゃうっていうのが、すげぇなって思って。

だからTwitterはやっぱり使ってみたいって思ってたんですけど、人と感覚を共有するのがすごく苦手で。炎上したり、気持ちが伝わらないんじゃないか、コミュニケーションできないんじゃないかっていう恐怖があって。

裏アカを作ってまで行った、Twitterの修行

根田:もともと自分は『僕のヒーローアカデミア』のスピンオフ漫画を描いていて。

小林:『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!』。

僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!! 1 (ジャンプコミックス)

根田:大好きな作品なんですけど、それのスピンオフ漫画を描いたこともあって、やっぱり「自分の意見をどのぐらい言っていいのか?」みたいな。「公式の人たちに迷惑かけちゃいけないな」とか、そういうところからきてて。怖くて最初は本当、何つぶやいていいかもわかんないし(笑)。だから裏アカ作って、けっこう修行はしましたね。

(一同笑)

工藤:Twitterの修行?

小林:さっき「苦がなく続けられること」って言ってませんでした?(笑)。

根田:いきなり矛盾しちゃうんですけど(笑)。その『すまっしゅ!!』終わりかけのあたりからだと思うんですけど「毎日Twitter使わねばならん」と思って(笑)。「好きなとこが見つからなかったらやめよう」とは思ってたんですけど。

工藤:なるほど。使っていくうちに好きになっていけたらいいなと。

根田:そうです。使っていろんなTwitterの人たち見てたら、けっこう気の合いそうな人たちもいたりして。で、(裏アカは)匿名だったんで、けっこうやりたい放題、いろんな人にリプライして。

工藤:(笑)。

根田:あんまり攻撃とかはしてないですけど(笑)。ただ自分の思ってること、思いの丈を伝えて。

小林:根田さんのTwitter、ちょいちょい危ないところありますね(笑)。

根田:そうそう。実はよく言われてるんですけど、あれが俺の裏アカとまったく運用方法が同じで。だから、自分にはあれしかできないんですよ。やっぱり漫画家用の宣伝アカウントじゃないですけど、コンテンツを広げるための(手法がある)。

工藤:漫画のみを上げる。

根田:職業漫画家としてのTwitterっていう、たぶん使い方の正しいやり方はあると思うんですけど。自分には、自然にやれるにはあれしかないから、ああいう使い方をしてるっていう感じで。

小林:要は苦がなく続けるためには、ああいうきわどい発言もしていかないといけないっていうことですね。

根田:……気を付けてはいるんですけどね(笑)。

(一同笑)

自分なりには(笑)。

小林:いやでも「苦がなく続けられる」っていうところは、今回の「SNSの選び方」っていうところではまさに一番大事なのかなと。その苦がない使い方が、自分にとってのいろんな発言だったりとか、もしかすると「おはようございます」みたいなブログとかかもしれないし。変に肩肘張らずに使えるところがいいって感じですかね。

「とりあえず4ページ漫画を作る」から出発した『異世界妹。』

小林:時間もあるので、次のテーマにいきたいと思うんですけれども。

工藤:そうですね、どんどんいきたいなと思います。

小林:続きまして、次のテーマは「Twitterでの『異世界妹。』連載」について。

ここらへんに関してどういう座組でやってるのか……まぁ僕らは当然知ってるんですけど(笑)。

工藤:ナンバーナインと根田先生とで、一緒にやらせていただいてるので。

小林:はい。ちょっと話していただければなと思うんですが、どうでしょうか。

根田:ちゃんと共有できてるか不安はあるんですけど(笑)。Twitterに慣れてきて、2年間でフォロワーもだんだん増えてきたので、プロモーションの基盤みたいなものにしようっていうのがあって。ただTwitterは4ページしか投稿できないから、長編漫画は描けないだろうとは思っていて。だから「とりあえず4ページ漫画を作る」っていうのが、出発点としてありました。

それで『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』っていうのを始めた時に、ナンバーナインさんが異世界モノのIPを売りたいって言ってて。

小林:そうですね、ちょうど。

根田:じゃあ一緒にやりませんか、っていう話で。で、やっぱり小林さんの魂というか、マインドとして「王道をやりたい」って、けっこう強くオファーがあって。「いやでも、王道漫画は4ページじゃ無理ですよ」と言ってたんですけど。「じゃあTwitter漫画はプロモーション用にして、本編というかたちで少し厚みのある世界観の続き物を」と。

さっき若林(稔弥)先生とかも言ってたんですが、Twitterは続き物を描くにはあんまり向いてないので、そういう縦軸のある方はほかでちゃんと連載しながら。ただ閉じたプラットフォームが、僕はすごく嫌いで。今はWeb雑誌も全部、広告打たないと人が集まらない仕組みになって。「漫画がめちゃくちゃおもしろければいい」ってみんな信じてるんですけど、やっぱりタイムラグもあるし、100パーセントじゃないと思うんですよ。なんなら、20パーセントぐらいしか使ってないんじゃないかと思って。

だからそれを閉じたプラットフォーム、雑誌連載で本編だけをやるっていうのはやりたくなかったから。だからTwitterでのプロモーションを同時並行でやりながらっていうのが、自分の中の最初に決めたことで。

だから『異世界妹。』のショートストーリーは、自分もスピンオフをやってたんで、そういう作品を作るというか。そういう気持ちで、4ページ漫画をTwitterでプロモーションしながら、本編も描いていくかたちで。それで、本編のほうはナンバーナインさんから電子書籍として下ろしていくという。

プロモーションの役割をあまり果たせなくなった、雑誌

小林:そうですね。一応『異世界妹。』のけっこう特殊なところとしては、電子書籍のみで配信を行っているっていうのと、これちょっとどこまで話していいか難しいアレですけど……(笑)。基本的に単行本連載みたいなかたちで、描き下ろしで電子書籍の漫画を出していて、最初に根田さんと話したのが「年6冊出しましょう」と。要は2ヶ月に1冊のペースで単行本を出そうと。そうすると月刊誌みたいなかたちで読んでもらえるよねと。

ただ、どこの媒体にも連載してないんで、宣伝をしなくちゃいけない。なので本編、描き下ろしの漫画とは別にスピンオフを作って。そのスピンオフをTwitterで、単行本が発売する前後2週間とかで週1ペースで出していくと。だいたい4本ぐらいスピンオフを作って、それも単行本に入れてやっていくかたちなんですよね。

根田:昔は雑誌がプロモーションになってたはずなんですけど、雑誌自体がもうプロモーションの役割をあんまり果たせてなくて。しかも閉じてる構造になってるから、広告打たないと外に行けないってなってるから。結局“プロモーションのプロモーション”をしなきゃいけないというか。「ここで連載してます」ってわざわざ別のところ(媒体)から言って、それを見て単行本を買うみたいな。「そこの中間(プロモーションのプロモーション)いらなくね?」っていうのはずっと思ってたので。

「プロモーションしていきなり単行本連載」みたいかたちでやれば、買うモチベーションにもなるし、やっぱりどこにも出てないものだから、買わないと読めないっていうので。

小林:初日の赤松(健)先生とのセッションでもちょっと話したんですけど、この『異世界妹。』はけっこう「電子書籍だからこそできる」新しいチャレンジみたいなことを行っていて。だいたい単行本1巻が80ページぐらいで販売してるんですね。もちろん160ページぐらいにして単行本1巻出す選択肢もあったんですけど、そうすると、がんばっても年2冊とか3冊しか出せないみたいな。それよりも、数をとにかく出すことのほうが大事。

特に電子書籍は、数がけっこう正義。「継続が力」みたいなのと同じように、巻数が多ければ多いほど売れやすくなるというか、売上も上がっていく傾向があったので「数を出していきましょう」と。なので1巻を半分、要は「普通の紙の単行本の半分ぐらいのページにして、価格も半分ぐらいにして販売しましょうよ」というかたちにしたんですよね。

本編もスピンオフの漫画も入れて、全部でだいたい80ページぐらいにして、250円で販売したんですけど。これはけっこううまく当たりまして。最近だと出版社さんも分冊版とか出されてますけど、分冊版だと1話を販売してますから。1話とはまた違って(『異世界妹。』は)4話ぐらい入ってるんで、ちゃんとある程度は単行本としてボリュームもありつつ、でも通常の単行本の半額の金額で読めるっていうので、ちょっとお得感もあって。スマッシュヒットはできてるんじゃないかと。

工藤:そうですね。新刊が出るたびに、kindleの全体100位以内には毎回入っていたので。

小林:必ず入りますね。で、新刊が出るたびに1巻が動くんですよね。

根田:これがすごいところだと。ずっと雪だるま式に。

システムをうまく使った「一人先読み」

小林:なので『異世界妹。』はもともと連載場所も設けてない、描き下ろしでやってたってかたちですよね。来年(2021年)以降、『異世界妹。』には新しい動きがいろいろ出てきているので。言える話と言えない話はありますけれども。基本的には、僕は根田さんは「インデペンデントの星」だと思ってるので。

根田:(笑)。経済規模の大きい作家さんはもっといっぱいいるのに、なんで俺が呼ばれたのかな? と思ってたんですけど(笑)。

小林:「インデペンデントの星」だからですよ(笑)。だってプラットフォームないんですよ。連載媒体が。根田さんのTwitterにもnoteにも公開してないですから。Webメディアでもない、Twitterでもない。本編は本当に全部描き下ろしなんです。でもそれが売れてるんです。具体的にどこまで言っていいかアレですけど、この半年で2万冊ぐらい売れてますから。

工藤:そうですね、半年以内で。

小林:描き下ろしでだけですよ。やっぱり本当に、独立型の新しい動きなんじゃないかなと思って。もちろんすべての人が真似できることではないとは思うんですけど、こういう選択肢もあるし、それで成功してるっていうのが根田さんのところはあるんじゃないかなと。

工藤:そうですね。あと今回、毎回イベントの頭に告知させていただいてた小雨大豆先生も、結局は同じかたちなんですよね。

根田:そうですね、うまいですね。

工藤:pixivFANBOXのみで連載して、単行本化して。で、そのあとにTwitterで、単行本が出たあとにやるんで。

根田:小雨さんのほうがたぶんうまいです(笑)。しかもあの人マジメだから、しっかりしてる(笑)。

工藤:(笑)。そのパッケージに関しては、本当にみなさん真似していただきたいというか、これはすごい変革だなと思ってて。中国とかでやっぱり「先読み」が流行ってるって言われるじゃないですか。アプリとかでも先読みがすごく課金されやすい、ユーザーも購入動機が得られやすいって。小雨さんは一人で先読みやってるんですよ(笑)。

小林:(笑)。

工藤:単行本があって、それがどこでも買えるんで。Twitterでその単行本が出たあとに1話からこうやっていくと、みなさん気になったタイミングで続き読みたいじゃないですか。そしたら単行本買えば読めるんですよ。システムをうまく使って「一人先読み」やってるんですよね。

っていうので、もっと「いいね!」数がついてる作品とかよりも売れてたりとか。やっぱりそこをうまく使われて、売上を伸ばされているので。FANBOXのお金も入ってきますしね。

小林:そうそう。

在庫・流通管理のリスクがないから「いつ売れてもいい」

根田:で、やっぱり(紙の単行本を置いておく)棚がいらないっていうのが(強い)。在庫管理とか流通の管理をするとなると、ここにリスクがすごいかかるから。それがないってことなので、いつ売れてもいいんですよ。

小林:ほうほう。「いつ売れてもいい」。

根田:だから自分もあんまり焦ってないというか。本当に自分が描きたいところまで描けて、それがおもしろければ、いつか売れて多くの人に気づかれた時にもっと売れる。知らなかった人からしたら、既に発表されてる話数がたくさんある漫画をいきなり知れてうれしいじゃないですか。だから本当に、いつでも売れるときに売れれば(それでいい)。

昔だったら、やっぱり雑誌が売られてるタイミングだったり、告知を打つタイミングだったり、それと書店の在庫(などに売れ行きが左右される)。今は「『鬼滅の刃』が書店にないから買えない」とか、そういう思いをしてる人たちもいると思うんですけど、そこの心配はない。本当に機会はいつでもいいから。個人とかでも自由にできる。

工藤:そうですね。なのでそういった個人でのやり方とか、うちの使い方とかもいろいろ組み合わせてというか、使われてる方々がすごい増えてきていて。うれしいなっていうところがあって。

小林:本当にそうですね。

工藤:で、うまいかたちを見つけていければなとは思っていますね。

小林:本当に「いつ売れてもいい」っていう根田さんのやつでしたけど、まぁ限りなく早く売れてほしいなと(笑)。

根田:そりゃそうなんですけどね(笑)。がんばります。

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