2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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房野史典氏(以下、房野):それ(『♯DX白書2021』)読んで、ちょっと長くなるけどしゃべっていいですか?
須藤憲司氏(以下、須藤):いいですよ。
房野:DXを取り入れるみたいな話になった時、須藤さんも書かれていましたけど「反対意見も絶対あるでしょう」みたいな。「既存の会社って変わることにすごい抵抗があるから、怒る人も出てきますよね」みたいなことを書かれてたんです。
僕、最初にそこで思ったのは。幕末に、参預会議という会議があったんですけどね……。
須藤:参預会議。
房野:「参加に預かる」と書いて参預会議というんです。これ、そんなめっちゃマイナーではないんですけど、一般的には「ん?」という(レベルの単語)。幕末に長州という藩があって、あるときまで、めちゃくちゃイケイケで伸びていたんですよ。
須藤:飛ぶ鳥落とす勢いで。
房野:飛ぶ鳥落とす勢いで。でも、長州はイケイケになりすぎたんですよね。もう朝廷まで席巻していった長州に対して、みんなが「なんなんこいつら」となっちゃう。で、会津や薩摩なんかが協力して、長州を京都から追い出しちゃうんです。
で、その後に「邪魔者の長州がいなくなったんだから、新体制でやっていきましょうよ」と、京都の政治を新たに立て直そうとするんですよ。そうなった時、朝廷が「君たちにお願いするよ」と集めたメンバーがいたんですけど、そのメンバーによって開かれた会議のことを「参預会議」っていうんです。そこには、いろんな藩の優秀とされているリーダーが集うわけですね。
薩摩から島津久光、土佐から山内豊信、会津から松平容保とか、優秀だった人が集まってくる。そこに徳川慶喜もいるんです。のちの15代将軍。この時はまだ幕府の中核を担う「ちょいリーダー」みたいな。
須藤:若手。
房野:若手。
須藤:なるほど。
房野:で、めちゃ先進的な考えを持った人たちだから、外国と争うのは無謀なことってわかってるんですね。「国を開くことは、もう決定事項だ。外国と戦うなんて無理だ」と。今まで長州は「外国人と戦うぞ」とやっていたけど「そんなのは無理無理」という考えで、みんなの意見は統一されてるんですよ。
ただ朝廷は天皇も貴族も、やはり「外国人嫌い。嫌だ」という人が多いから、この時すでに条約を結んでるにも関わらず、彼らは「破約しろ」つまり「条約を破れ」と言い始める。でも日本全国の全員が「絶対無理だよ」と思ってるわけです。
だから、最初は「日本から外国人を追い出せ!」という意味で使われていた「攘夷」という言葉の意味が、だんだんスライドしていくんですね。「もう条約をぶっ壊すのは無理。じゃあ、せめて何ができるか? 開いた横浜の港を閉じる。これくらいはできるんじゃないか?」と。天皇とか貴族はそれを望むようになる。で、この参預会議では、そこが争点になるんです。この「横浜港を閉じるか閉じないか」について議論しましょうよ、と、こうなるわけなんですよ。
でも、参加者みんな先進的な人たちだから「いや、閉じない。そんなの無理だ。外国とも貿易バリバリしてるから(閉じるのは)止めましょう」と、全員一致しかけるんですけど、唯一反対したのが徳川慶喜です。
須藤:ほう。
房野:それまでみんなが「閉じるなんて無理です」という意見で一緒だったところに、徳川慶喜さんが急に「閉じましょう」と言い出して、みんなが「え!?」となるんです。「この前と話が違うじゃん!」「いやいや、この前はこの前。横浜港は閉じましょう」みたいな感じになるんですけど、これ、裏側があるんですね。それは、1つはここで「閉じる」と言えば、朝廷のウケがよくなる。朝廷のバックアップが取れる。
須藤:なるほど。ちょっと保身に走ってるんですね(笑)。
(会場笑)
房野:でも、根本は徳川慶喜さんって朝廷が好きというか。水戸藩に生まれてアイデンティティが尊王なので、元からそういった部分もあるんですけどね。もう1つは、これこそがDXに反対する、まさに大企業ぽいと思ったんですけど。
実は慶喜さん、事前に老中、要は当時の大臣ですね。政府の大臣から「絶対に横浜を閉じてくださいね。朝廷が言っていることに従ってください」って言われてたんですよ。(でも慶喜は)「いやいや、閉じるのなんか無理だよ」と。
ここでポイントなのが、老中が「横浜港を閉じる」側にまわった理由なんです。本当の本当は、老中も「横浜港を閉じるのは無理」ってことはわかってるんですよ。でもね、老中の言い分は「これまでずっと長州が政治に介入してきて、長州にいいようにされてきた。で、今度の参預会議はというと、先導してるのは薩摩だ。ここで薩摩の意見に乗っかったら、幕府の威厳は地に落ちる。横浜港を閉じるのが無理なことは分かっているけど、薩摩が『横浜港を開いたままにしましょう』と言ってるのなら、こちらは『閉じる』を選ぶべきだ」ってことなんですよ
須藤:なるほどね。
房野:つまり「俺たちのポジションないでしょ」って。老中たちも慶喜も「港を閉じるのは絶対無理!」ってわかってるんです。わかってるんだけど、老中は慶喜に「絶対に薩摩の話には乗らないでください」ってお願いをするんです。
須藤:駆け引きね。
房野:そう。それで「絶対『閉じる』と言ってください。でなきゃ、僕らは老中を辞めます」と徳川慶喜に言って、慶喜は「いやいや、辞めるのは違うじゃん」と、彼らをなだめるんですよ。それで慶喜さんは「老中はああ言っていたしな」となって、参預会議では「横浜港を閉じましょう」という意見になったんです。
その結果、慶喜は他の参預会議のメンバーとむちゃくちゃ大喧嘩することになるんですね。さらに、せっかく仲直りのために設けられた酒席でも、慶喜さんは酒飲んで酔っ払って、参預会議メンバーのこと「こいつら、マジで日本の中で一番馬鹿」と言って(笑)。
(会場笑)
房野:やっぱり大喧嘩して終わりました(笑)。
須藤:めちゃくちゃ居酒屋みたいな感じ。
房野:そう。
須藤:ノリで参預会議。
房野:新橋の飲み屋にいそうな。
房野:結果、そういう保身があったという話です。参預会議のメンバーって、めちゃくちゃ先進的で外国とも付き合おうとするし、新しいやり方を模索するタイプの人たちなんだけど「既存の体制である幕府のことも、守らなきゃいけない」と思ってる面もあったんですよ。
でも参預会議で、慶喜さんが老中たちの意見を取り入れて「横浜港を閉じる」とか、実情に合わないことを言っちゃったでしょ。それを聞いた藩主たちは思うわけです。「ああ、やっぱり幕府とはやっていけない」って。結果、薩摩とかは離れていって、のちに倒幕へと踏み切っていく。そう考えると、参預会議ってキーポイントだったなというか。
須藤:なるほどね。
房野:老中の意見もわかるけど、一番僕が思ったのは、その時の老中の何が駄目だったかというと。政府・幕府が自分たちの企業だとしたら「自分たちの企業は、もうすでに破綻しかけている」というのを、ちゃんと理解できていないということですね。もちろん幕府がヤバいということはわかってるでしょうが、それでも今まで通り「幕府が絶対」というポジションを取ろうとする姿勢は、真の意味で終わりかけている事を理解していない。そうじゃなきゃ、あの意見は言わないと思うんですよね。
須藤:ああ。それは理解できていないですね。
房野:そうですね(笑)。
(会場笑)
須藤:だって僕、いろんな大企業とか経営者の方とかお会いするんですけど、やはり優秀なんです。
房野:やはりそうですよね。
須藤:優秀。たぶんわかっているんです。わかっているんだけど「今それやるの?」と。ちょっとバランス悪め。たぶん全盛期とは違う。
房野:なるほど。
須藤:葛藤は感じているんだけど「でも、今そこまで踏み込むとちょっとバランスが悪い」という感じがする。
房野:なるほど。
須藤:どれくらい時間軸で考えているかじゃないですかね。
房野:ああ、そう、そう、そう。もちろん老中って大臣ですから、そこに上り詰めてるということは全員優秀なんです。でも、長期スパンでは甘い考えというか。僕たちは、現代人として結果を知ってるから言えることではあるんですけどね。
須藤:うん。結局は企業経営でもよくある話で、例えば取締役会。僕は以前、リクルートというデカイ会社の執行役員をやっていたんですけど、自分のいた会社のいわゆる役員会みたいなのに出ますよね。その時僕は、一番若い役員だったんですね。
房野:最年少。
須藤:みんな先輩です。で、リクルートって、けっこう人が辞める会社なんで。
房野:そうですよね。
須藤:「どうせ10年後、こいつら全員いない」と僕は思っているんですよ。
房野:(笑)。
(会場笑)
須藤:全員いないのわかっているから。
房野:思いながら会議に出席しているんだ。
須藤:思いながら会議に出席するわけじゃないですか。そこで僕が何を発言するかといったら「10年後から今をバックミラーで見た時に、正しいと思う行動・言動しかやらない」。
房野:おもろ! 何、それ。
須藤:だってそうじゃないですか。
房野:そうですよね。いないから。
須藤:どうせいないから。
房野:おもしろ。ほう。
須藤:でもみんな逆に「あと数年、俺がいる時は何かしたい」と思っている。
房野:なるほどね、なるほどね。
須藤:あと数年なんとかすればいいと思っているから、フロントガラス越しにすべての物事を考えるわけですね。
房野:その人から見たフロントガラス。一方で、須藤さんは未来のバックミラーを見てる。
須藤:そうそう。そうすると、意見が対立するわけですね。
房野:絶対そうですよ。
須藤:それが今の参預会議の話、まったくそれで。
房野:似てる。
須藤:似てる。その時に。結局は時間軸の話なんですよね。どっちも正しい。未来にとって正しいのか、今にとって正しいのか。
房野:うわー、めっちゃ本当だ。確かに。
須藤:その時に経営者とか社長は何しているかというと「どこに今の正解を置くか?」ということを決めるわけです。
房野:なるほど。そういうことか。
須藤:そう。だから結局、ある程度の経営会議もそうなんですが、対立しないとダメなんです。
房野:はい、はい。対立にならないとダメということですよね。
須藤:だって、対立しなかったらヤバいもん。
房野:(笑)。
須藤:冷静に考えて。だって、そうじゃないですか。毎日毎日ちょっとずつ時間が動いていて、どっちかに舵を切ってかなきゃいけない。つまり、当たり前ですけど刻一刻と物事が進んでいて「こっちかな? それともこっちかな?」と言って「いやいや、こっちこっち!」って、毎日毎日舵を切っているわけですよね。
その時に結局「未来から見た時の今の決断が正しい」と思うほうを取るか「いやいや、今はバランスを取ろうぜ」という時なのか? というのを判断するわけですよね。そう僕は思っていて。
房野:すげぇおもしろい話してくれるじゃないですか。
須藤:いやいや。そうなんすよ(笑)。
(会場笑)
須藤:結局「未来の答えをわかっている人」が批判することは簡単なんですよ。
房野:そうですよね。
須藤:でも、その場に立った時に難しいんですよ。
房野:難しいか。
須藤:本当、難しい。
房野:俺も今、老中の人に謝りたいわ。
(会場笑)
房野:いや、すいません。
須藤:会議に出た時に「空気読んじゃう」みたいな、あるじゃないですか。
(会場笑)
須藤:「読んじゃうよね」みたいな。
房野:あるよなぁ。そうだよなぁ。
須藤:「嫌われたくないしな」みたいな(笑)。
(会場笑)
須藤:あるわけですよ。
房野:最年少で出てたら、めちゃくちゃあれじゃないですか。
須藤:僕、だからもう「どうせ俺も数年後にはいない」と思って。
(会場笑)
房野:図太いな。
須藤:そうそう。
房野:そこ、図太いな。
須藤:こっちはもうね。
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