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漫画家はいつまで漫画を描き続けられるのか【小沢高広×末次由紀】(全5記事)

自分だけではがんばれなくなる日が、きっと来る 人気作家が語る、ファンを“エンジン”に漫画を描く未来

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、二人組漫画家「うめ」で原作を担当する小沢高広氏、『ちはやふる』の作者・末次由紀氏が「漫画家はいつまで漫画を描き続けられるのか」をテーマに語ったセッションの模様を公開します。

自分だけのエンジンではがんばれなくなる日が、きっと来る

小禄卓也氏(以下、小禄):では最後のトークテーマに行きたいんですけど、個人的には末次さんが「自分にファンを付けないといけないな」みたいな危機感を持っていたのは、意外でした。

末次由紀氏(以下、末次):私、2~3年前にサイン会を初めてやらせてもらった時に、自分に熱いファンの方がいるサイン会は初めてで。ファンと直に会う機会が初めてだったんですが、100人のファンの方と会わせていただいた時に、すごい思ったんですよ。

私なんかを、こんなに長く応援してくれる。そんな人が目の前にたくさんいた時に「私はこの人たちと、長く付き合っていきたい」と思ったんですね。今までは一方的に作品を描いて、気に入った人だけ読んでくれればと思っていたんですけど。

自分の漫画でも描いたことがあるんですけど「自分だけのエンジンではがんばれなくなる日が、きっと来る。そして自分の外側のエンジンに、この人たちがなってくれるんだ」と思ったんですね。

この人たちのために描こうと思ったら、がんばれると思って。そういう気持ちの変化があって。今までは「漫画が目立てばいい」と思っていて、作家はあまり目立っちゃいけないと思ってましたけど。

小禄:そういうお話はよくされていましたよね。

末次:名前さえ知らなくていいし、パーソナルなことはできる限り出さないようにと思っていたんですけれど。20年みたいな長いスパンで追いかけてくれる人を見たら「あ、何をそんなにビクビクしていたのだろうか」という気持ちにもなって。

もっとファンを信頼して、自分のことを出していこうかなという気持ちにもなったんですよね。

小禄:ファンの方々を信頼するとか、エンジンが増えるって考え方は素敵ですね。

末次:やはり信頼しないと出せない部分があって。出しすぎるのはどうなの? というところもあるんですけど。このさじ加減が難しいんですけども。

年を取っても、新しいテクノロジーを身につけていくこと

小禄:ありがとうございます。じゃあ最後のテーマにいきましょう。

「描き続けるために必要なこと」について、それぞれ簡単にまとめていただけますか?

小沢高広氏(以下、小沢):すっげぇ難しいよ。

末次:じゃあ私から(笑)。たぶん、デジタルテクノロジーのキャッチアップをがんばるところが、すごく大事だなと思うんです。

紙でアナログの原稿だと、身体的にも視力的にも限界が来る。でも「年をとってからiPadを始めたら、描けるようになったんだよ」という70代の先生がいらっしゃって。そういう拡大縮小が簡単なものに触れることは、描き続ける上で大事だと思うんです。

でも「デジタルが苦手」って言っていると、触れないじゃないですか。年を取っても新しいテクノロジーを身につけていくことが、長く描き続けるためにはすごく必要だなと思っています。サポートしてくれるサービスもいろいろありますから。

小禄:「私はアナログなので」と言い続けちゃうと、どんどん苦しくなるのかもしれませんね。

末次:やり方を守ることも大事なんですけど、いつか書けなくなる瞬間がきてしまうから。

小禄:両方大事ですが、新しいものは知っておくに越したことはないってことですよね。

末次:ずっと勉強ですね。

人生最後に描きたい漫画

小沢:では、最後にQ&A行きましょうか。1つ目の質問です。

「『死刑囚の最後の食事』というのがよく話題になりますが、最後に描きたい漫画というのはありますか?」。

末次:最後の食事のように、おいしいものがいっぱい出てくる漫画を描きたいです。「やはり最後は卵かけご飯だよね」とか言いながら。

(一同笑)

小禄:結末が見えちゃいましたね。

末次:見えちゃった。

小沢:僕の場合は、すっごいスケールの小さい話を描きたいかも。なんか箱庭みたいな話を描きたい。とんでもない話。

末次:もうきれいに短編で終わるみたいな?

小沢:うん、短編を描きたいですね。

末次:それで人生終われたら美しいですね。

小沢:そんなにうまくいかないだろうけどね。

(会場笑)

小沢:生前に用意しておいて「これが最後の作品でした」と発表して、演出かな。

末次:「死んだらこれを世に出してくれ」って。

小沢:本当は5年前くらいに描いておいてね。

末次:自分のいい状態の作品で終われますね。

漫画を描き続けるにあたっての、現時点でのボトルネック

小禄:ありがとうございます。では次の質問です。

「ずっと漫画を描き続けるにあたって、現時点で何がボトルネックだと感じていますか? 今、心配だなぁと感じていることはありますか?」

末次:うーん。やはり紙が売れなくなっている、雑誌が売れなくなっているので、普通のデビューの道が王道でなくなるかもしれないなと思いますね。なので、従来型の編集さんに育ててもらうつもりで、未完成な自分のままで行くと「うちは総戦力が欲しいんで」みたいになるのかなぁと思いますね。

小沢:漫画家を育てる機能は、ずいぶん減っていますもんね。

末次:そうなんですよね。

小禄:出版社さんの育てる機能、本当にすごいなと思います。

末次:本当に今YouTubeとかで、漫画やイラストのHOW TOもいっぱい出ているので、こんな動画が小さい頃にあったら、ものすごく早く上手になったと思います。

自分で独学で学べる教材がものすごくあるので、やってみるだけで格段にやれることが広がると思います。

小沢:確かに。オリジナル同人誌からそのまま出版して、すごい売れている作品もたくさん出てきていますもんね。

末次:うん、ルートがいっぱいできたなと思います。他の選択肢もちゃんと当たっておかないと、危ないぞと思いますね。

小禄:本当に漫画家さんが選べる権利がありますからね。

末次:あとは腰が大事なので、体感を鍛えろと思います。

小禄:腰は大事。

小沢:ああ、大事。

末次:みんな、腰は大事に。

読んでモチベーションが上がる漫画

小禄:ありがとうございます。もう1問くらい行きましょうかね。

「読んでモチベーションが上がる漫画はありますか? 漫画じゃなくてもいいです」

末次:読んでやる気がなくなる、素晴らしい漫画はいっぱいあります。

(会場笑)

末次:「私は描かなくていい。こんな作品があるならもういい」って、しょぼんとなる作品はいっぱいありますよ。

小禄:すごく興味あるんですが、聞いても大丈夫ですか? 

末次:モチベーションが下がる漫画ですか?

この間、清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット-』を読んで、私は一生漫画を読む側でいたいと思いました。

(一同笑)

小沢:ああ、わかる。

末次:「モチベーションが上がらないけど大好き」みたいな作品はよくあるんです。あと、新海誠監督の映画見ると「漫画描きたい」となります。

小沢:おもしろい。

小禄:へえ!

末次:なんででしょうね。「私もこんなふうな胸キュンストーリーが描きたい」って思うんですよね。

小禄:ああ、いいですね。モチベーションが上がりそうです。

末次:モチベーション上がります。

小沢:妹尾(朝子氏)の場合は『ガラスの仮面』の22巻を読むと、必ず落ち込みますね。

末次:決まっているんですか?

小沢:決まっているんです。どうしても好きなエピソードがあって、そこを読むというのはやっていますね。

末次、小禄:へえ〜。おもしろい。

小禄:小沢さんは最後の質問はどうですか?

小沢:ちょっと待って。なんだろう。

末次:あ、私は『DAYS』の27巻です!

小禄:『DAYS』は最高!

(会場笑)

末次:苦しい時はいつも27巻を読みます。小沢さんは?

小沢:僕は『エレン(左ききのエレン)』読みますね。

末次:エレンなんだ。エレンもやる気になりますよね〜!

小禄:エレンは非常にモチベーションが上がる漫画ですからね。

ということで「漫画家は何歳まで描き続けられるのか」に関しては、以上とさせていただきます。改めまして、登壇いただいた小沢高広さんと末次由紀さん、ありがとうございました。

小沢、末次:ありがとうございました。

(会場拍手)

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