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漫画家はいつまで漫画を描き続けられるのか【小沢高広×末次由紀】(全5記事)

引退しても、永遠に描けなくなるわけではない 売れっ子漫画家2名が語る「引退宣言」へのあこがれ

紙本売上の落ち込みによる出版不況から始まり、スマートデバイスの普及やSNSの発達を通して、ここ数年で急伸してきた電子書籍市場。漫画業界でも各社によるデジタルシフトがニュースで取り上げられる一方で、漫画家たちに起こる変化について語られる機会は多くありません。そこで、ナンバーナインが主催で「いまの漫画家たちが何を考え、どんなキャリアを歩むのか」を考えるオンライントークフェス「漫画家ミライ会議」が開催されました。本記事では、二人組漫画家「うめ」で原作を担当する小沢高広氏、『ちはやふる』の作者・末次由紀氏が「漫画家はいつまで漫画を描き続けられるのか」をテーマに語ったセッションの模様を公開します。

意外と多い“就活きっかけ”でプロを目指す漫画家

小禄卓也氏(以下、小禄):次は末次さんの漫画家としてのキャリアも、簡単にお願いします。

末次由紀氏(以下、末次):う〜ん……高校2年とかでデビューしたのを考えると、30年とかになっています。恐ろしい……。

小沢:30年!

末次:え、いや、嘘だった。そこまでいってないかも。

(一同笑)

小禄:本当は何年くらいになりますか?

末次:28年です。でも大差ないです。

小沢:それはもう30年ですよ。

小禄:少女漫画家さんって、デビューが早いって言いますよね。

末次:そうですね。高校生デビューの人は多かったです。別に私が珍しいわけではないです。ただ、真面目に描き始めたのが大学に入ってからになりますね。

小禄:高校生の頃は、どうして連載とかをしなかったんですか?

末次:やはり受験勉強しなきゃとなって。漫画家でやれる確信もないじゃないですか。なので、大学行ってちょっとやってみて、試してから進路を決めようと思って。でも就職活動を始めた頃に、私には無理だと思って(笑)。

実際に漫画を描かせてもらって「やれそうだな」って思えたので、就職活動から離脱して漫画描こうと思いました。

小禄:その頃に、もう連載が始まったりとか?

末次:そうですね。短い連載とかはやらせていただいていました。

小禄:じゃあ漫画家の道で行くと決めたのが、大学の頃になるわけですね。意外と“就活きっかけ”でプロ目指す方って多いですよね。

末次:はい。大きな決断の時ですよ。就職したらまた描けなくなるし。

小沢高広氏(以下、小沢):うちの妹尾(朝子氏)も、就活をきっかけに漫画家を目指しましたね。

小禄:そうなんですか。

末次:それまではモラトリアムみたいな感じで。本当に漫画家に向いているのかわからないから、とりあえず違う道も覚悟しておこうみたいな感じで。

小禄:そういう意味でいうと、僕も大学行きましたけど、大学ってやはり4年間のモラトリアム期というか。4年間で自分の将来をどうするのかみたいな大切な時期ですよね。

「後から漫画家になれないことはない」

末次:そうですね。同時に「後から漫画家になれないことはない」ってこともみなさんにお伝えしたいですね。

小禄:そこ、大事です。

小沢:うんうん。

末次:30歳過ぎてからスタートして、成功されている方もいるので。単純に早いほうがいいわけではないですね。

小禄:なるほど。すごく大事ですね。では、大学を卒業して漫画家1本で行くぞと決めてからの道のりはどうでしたか?

末次:うーん、そうですね。たくさんのご声援のおかげで。ここまでやらせてもらいました。『ちはやふる』が長いので、ずっとまっすぐ走っているような感じですね。

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

小禄:もうそこにはブレとかないんですね。

末次:そうですね。途中で「パン屋さんになりたい」とかはあまり思わなかったですね(笑)。

小禄:あはは(笑)。じゃあ漫画家として描き続けていた先に『ちはやふる』が生まれたわけですよね。ちなみに『ちはやふる』が生まれる前は、けっこう短い作品をやられていたという感じですか?

末次:そうですね。ここまで長いのは初めてで。長すぎるなと思っています(笑)。

もう短い作品がもう描けないのではないかと思って。でもそういうわけにはいかないので、次はコンパクトな作品を描きたいと思っています。

小禄:コンパクトな作品も描きたいんですね。

末次:ちょっと45巻は長過ぎるから(笑)。

「77歳まで描きたい」の真意

小禄:ありがとうございます。お二人のキャリアについてお伺いしたところで、次のテーマに行きたいと思います。

「何歳まで漫画を描き続けたいですか?」についてです。これは僕個人もすごく興味があるテーマです。なぜかというと、僕もいろんな漫画家さんとご一緒してきた中で、30代後半〜40代以降の漫画家さんとかお話するときは「私たちは一体どこまで漫画を描き続けるのか?」みたいな話題がよく出たりします。

業界や環境も変わっていく中で、本当に漫画を描き続けられるのか? について、お二人にお話を伺ってみたいなと思っております。

末次:小沢さんは「77歳まで描きたい」とおっしゃってましたね。

小沢:(笑)。

末次:それが意外でびっくりしたんですよ! 私は65歳くらいかなって思っていたら、小沢さんは77歳だって。すごい具体的じゃんと思って。

小沢:Facebookでクローズのところに書いたやつね(笑)。

末次:そうそう、でもなんで具体的な数字が見えるんですか?

小沢:あれは本当に77歳って思って言っただけなんですよ。まず77歳までと言って、その根拠をあとで考えようかなと思って。

末次:後付けだ!

小沢:数字をこねくり回してみたんだけど、うまくいかなかったんで(笑)。

(一同笑)

漫画が溢れてきちゃう人は、何歳まで描きたい?

小沢:末次さんはどうなの? 末次さんってなんとなくの勝手なイメージだけど、noteで公開している育児の漫画があるじゃないですか。あれとかも含めて、休めばいい時まで描いているじゃないですか。

末次さんって、いわゆる漫画が溢れてきちゃう人で、放っておいても描くタイプですよね。なので、そういう人って何歳まで描きたいんだろうって気になるんですよね。

末次:正直イメージはなくて。今描いている『BE・LOVE』という雑誌は、先輩の作家さんがいっぱい活躍していらっしゃるところで。70歳の先生とかもいらっしゃるので「そこまではがんばれるんだ」というイメージが湧いてきてから、やっと65歳までがんばっていいんだと思えたんですね。なので、その辺は雑誌に励まされています。

小沢:なるほど、なるほど。

小禄:そうすると、70歳とかぐらいまで描きたいなと思うわけですか?

末次:それはわかんないなぁ。

末次:わかんないけど、たぶん私、自分でがんばると思ったらがんばっちゃうほうなので、65歳までとか70歳までと思ったらがんばると思います。

小禄:なるほど。敢えて年齢設計せずに「たぶん描き続けると思います」みたいな感じなんですかね。

末次:いやぁ……でも逆に目標にしたほうががんばるんだろうなぁ(笑)。

敢えて引退するからこそ、再起もできる

小沢:昔やったトークイベントに、そこそこ売れていらっしゃる漫画家さんがいたんですけどね。その時に質問コーナーでスッと手を挙げて「僕、さっさと売れて引退したいんです」と発言されていたことがあって。

その視点自体が10年くらい前までなかったなと思って。だから、引退したい願望ってありますか? ちょうど昨日も水島(新司)先生が引退宣言なさいましたけど。

小禄:めちゃくちゃタイムリーでしたね。81歳で。

末次:「水島先生は野球がお好きだから、引退というものをしてみたかったんじゃないか」というご意見もありましたね。

小禄、小沢:(笑)。

末次:でもそれっておもしろい考え方だなと思って。引退セレモニーとか、ああいう感じの引退をしてみたい気持ちは確かにあるかなぁ。そしてまた復活したいみたいな。

小沢:うん、うん。わかるわかる。

末次:復活してもう一回もありじゃないですか? 逆に敢えて引退するからこそ、再起もできるみたいな。そういう引退ってぜんぜんありだなと。

小沢:宮崎駿的な。

末次:そうなんです。もう一回話題になれるし。

小禄:引退って言っちゃうと、もう永遠に描けないと思いきや、そうでもないよねと。

小沢:そういう意味では、引退って何回してもいいもんですよね。

末次:そうなんですよ。「あの人また戻って来たみたいだよ!」というのも楽しいなと思うので、そういうのは自由だなと思います。

小禄:末次さん的には引退願望はどうですか?

末次:ええ!? ないなぁ〜。ないんですけど、楽しみのために「引退する」と言ってもいいなと思います。「決してお前は引退しないだろ」と思われつつ。

小沢:そういう意味では「引退したい願望」よりも「引退宣言をしてみたい願望」だったら少しあるかもなぁ。

末次:そうですよね。けっこう楽しそうですよね、それ。

小沢:生前葬みたいな楽しみですよね。

小禄:じゃあ、引退宣言するとしたら、例えばどう宣言しますか? 

小沢:いや、どうだろう? なんか、ふと注目を浴びたくて、寂しくなった時かなあ。違うか。

(一同笑)

小禄:絶対にやめてくださいと言われますよ(笑)。

末次:でも、仕事していないと引退宣言も虚しくなるので、がんばっているうちにしないといけないですね。じゃなきゃ失礼ですもん。

小沢さんは、漫画を描き続けたいですか?

小沢:どうなんですかね。少し描かないでいると、描きたくなる感覚はあるかな。描いている時って、本当に面倒くさくなったり、疲れて逃げたくなるじゃないですか、絶対。

末次:今すぐ一週間逃亡したいことはありますね。

小沢:酷な仕事なんですよ。締め切りはずっと追ってきますし。でも、限界に挑戦したいところはやはりあって。

末次:でも、小沢さん。子育てが放り投げられないのと同じように、連載も放り投げられないじゃないですか。

小沢:そうですよね。

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