2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
Alice Hamilton: The Doctor Who Made Work Safer | Great Minds(全1記事)
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ステファン・チン氏:1890年代の終わり頃と20世紀初頭は、低賃金の工場労働が激増し、急速に工業化が進んだことが特色です。
これらの工場は、はなはだしく危険でした。労働者たちは危険な化学薬品を取り扱って働き、薬品まみれで帰宅したと考えられています。職場に閉じ込められることすらありました。
これらの労働ではさまざまな病気や症状が発生し、避けられない職業リスクとされていました。しかし、子どもたちを食べさせていくには、労働者たちはこういったリスクを取らざるを得ませんでした。
ここで、アリス・ハミルトン医師の登場です。彼女は、このような疑問を提起しました。「どうすればこのようなリスクを軽減させ、働く人々の安全と健康を保つことができるだろうか?」
アリス・ハミルトンは1869年に誕生しました。みなさんもご存じのとおり、この時代には医学界に籍を置く女性はほとんどいませんでした。しかし、ティーンエイジャーのころには、アリスは進路を決めていました。割増しでたくさんの解剖学講義を受講し、父を説得の末、ミシガン大学医学部に入学し、医学博士号を取得したのです。
研修期間を修了すると、彼女は開業ではなく研究の道を選びました。そこで細菌学を学ぶためドイツに留学しました。そこでは、アリスは存在を隠すことに同意させられ、講堂の後方に完全に隠された席に何度も忍んで講義を受けました。
アメリカに帰国すると、アリスは、シカゴのいわゆるセツルメントハウスである「ハルハウス」に住み込んで勤務しました。ハルハウスでは、入国したばかりの移民が、医療を受けたり、語学の授業を受講することができました。
アリスは、このコミュニティの多くのメンバーに、仕事で発生した怪我や症状の治療を施すこととなりました。彼女は、ハルハウスでの日々を、当時「産業病」と呼ばれていた病気の研究を始めた大きなきっかけの一つであると認めています。
そこで、アリスは医学と科学の研究対象を、こうした労働環境の安全対策に定め、手始めに自分の職場から始めました。1905年、彼女は病院内における猩紅熱(しょうこうねつ)と類似の感染症の伝染についての論文を発表し、特に今の時代において画期的ないくつかの発見をしました。
アリスは、猩紅熱の患者の一群に、ペトリ皿上に咳、叫び声、息をかけてもらいました。そしてサンプルを培養し、猩紅熱の原因菌である化膿レンサ球菌が検出されるかを調べました。果たして、化膿レンサ球菌は検出されたのでした。
彼女は、単純に口と鼻を覆うことが菌をブロックする最善策であることを発見しました。感染症を媒介するのは、唾液や呼吸器飛沫であると思われたからです。
そこでアリスは、無症状の猩紅熱の感染拡大を防ぐために、外科医師に施術中は常にマスクをするよう提言しました。これは、病院職員の労働安全上、きわめて重要な動きでした。その結果、呼吸器飛沫で媒介されるすべての感染症において、これが有効であることが証明されたのです。こうした発見は、公衆衛生上、歴史に残る偉業でした。
感染症拡大予防にマスクの装着が定着したのは、特に彼女の業績が原因です。1918年のスペイン風邪の流行期を筆頭に、近年ではSARSやMERS、そしてこのたびのCOVID-19などでもマスクが装着されました。
アリスの初期の研究対象は呼吸器感染症でしたが、彼女が真に名を残したのは、産業における有害物質についての研究です。彼女は、鉛害について調査するために、最初はイリノイ州に、後日はアメリカ合衆国労働省に雇われました。
鉛は安価で加工も容易であったため、パイプから金属箔、塗装に至るまで、あらゆる物に使われていました。ここで問題なのは、鉛の毒性はすでに世に知られていた一方で、その仕組みがわかっていなかったことでした。
今では鉛の毒性は、体が鉛を、骨格や歯、そして筋肉や神経系の機能をコントロールするための細胞シグナル伝達に使われる、カルシウムと間違えるためだと考えられています。
鉛は骨や歯、神経、脳の内部に濃縮されます。鉛は、脳や筋肉の働きを即時に止めるのではなく、骨格内に沈殿し、まったくありがたくないことに体内に蓄積され、実際に接触した時期よりもずっと後になって徐々に体内に放出されるのです。
アリス・ハミルトンが調査に乗り出した時期は、鉛を扱う労働者にはありとあらゆる多様な症状が見られていましたが、発症や症状の進行は、鉛と接触した時期とは必ずしも重ならなかったのです。そのため、こうした疾患の原因が鉛であると断定することが困難でした。工場のオーナーは、こういった症状はアルコールの摂取や衛生状態のせいであるとして、まんまと難を逃れていたのです。しかし、医師ハミルトンは、どちらも誤りであることと、鉛が決定的な犯人であることを証明しました。
さて、データ収集において、アリスは自ら実際の調査にあたりました。彼女は、オーナーの許可を得ずに工場に潜入しました。オーナーが鉛の使用量や用途について虚偽の申告をするのは、日常茶飯事だったからです。
また、医師ハミルトンは、工場労働者や組合のリーダーをビールを飲みに誘い、気兼ねなく話をさせました。鉛の検出実験ができるよう、労働者に素材のサンプルを持ってきてもらうこともありました。
こうして、医師ハミルトンは70以上もの工程において、労働者たちが中毒を起こしたり死んだりしていることを明らかにし、鉛産業全体の安全性を大々的に見直しさせることに成功したのです。同時に、塗料や金属箔に使用される鉛を、別の物に代替させました。
このような業績により、医師ハミルトンは産業医療のエキスパートとみなされるようになりました。ハーバード大学で産業衛生プログラムが発足すると、医師ハミルトンは助教授として迎え入れられました。彼女は大学教授としての終身在職権を得ることはありませんでしたが(だいたい理由はおわかりでしょう)、一年のうち半分は、フィールドワークを続けるために休みをもらえるよう交渉しました。
彼女のこのような努力の結果、米国労働省労働安全衛生局(OSHA)や米国労働安全衛生研究所(NIOSH)などの機関がアメリカに設立され、職場の安全ガイドラインが設けられ、職場における健康被害が調査され続けているのです。
アリス・ハミルトンの独創的な科学的思考と比類のない能力のおかげで、世の中ははるかに安全になったのです。
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