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誰も思いつかない優れたアイディアの育て方(全5記事)

最初に思いつくアイディアは“捨て案” 大ヒット漫画の原作者が明かす、意外性を生み出す鉄則

「誰も思いつかない優れたアイディアの育て方」とは、いったいどういうものなのか? 2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)でこのテーマについて、有限会社集い家 代表取締役社長・樹林伸氏、アル株式会社 代表取締役・古川健介(けんすう)氏、株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム 代表取締役・川口典孝氏、AGI Sports Creative Co., Ltd. 代表取締役・上野直彦氏が語りました。モデレーターは面白法人カヤック 代表取締役CEO・柳澤大輔氏が務めます。

最初に思いついたアイディアは、1回捨てる?

柳澤大輔氏(以下、柳澤):各自、聞いただけでもやっぱり新しいことをやられています。常にこだわられている方だなというのを全員に感じたと思うんですけど、ここからは、今日のテーマの「アイディアをどうやって育むか」というノウハウ的な話に移ります。これが一番難しい気がしますけど、もう挙手順でいきましょう。

「こんなことにこだわると、他の人には思いつかないものが育まれる。生み出せる」というヒントを出せる方がいましたら。

樹林伸氏(以下、樹林):さっき事前に話しかけちゃったので、せっかくだから続きを話してもいいですか?

柳澤:はい。お願いします。

樹林:先ほど登壇者のみなさんの前で、ちょろっと話したんです。これは単純に僕のやり方なんですが、アイディアには2種類あります。

例えば『金田一少年の事件簿』とか『GTO』とか。『HERO』もそうだし『GetBackers-奪還屋-』もいろいろあって、そういう作品をどーんと作る時はまた別の考えがあるんですけど。僕ら漫画家の世界は毎週毎週、作品の中でもアイディア・知識が必要になってくるわけなんですね。

こういう時、一緒に編集者と仕事をしていると、僕が必ずアドバイスとして言うのは「アイディアを出す時は、最初にぽんと思いついたことは捨てちゃえ」ということですね。ぽんと思いつくことって、わりと「よくあるアイディア」なんですよね。

でも、1回思いついちゃったものは、自分の考えだからおもしろく感じてしまう。それをぽいっと1回捨てまして、次に出てきたものがどうなのかというところを見ています。最初に出てきたアイディアを捨てることによって、意外性とか他にない新しさが入ったものが「次」から出てくるんですよね。

「その次」ぐらいになってくると、だいぶ考え抜かれて、周りにないものが出てくる。「最初に思いつくもの」は、けっこう誰でも思いつくアイディアが多いんでね。そう心がけることによって、意外と誰にも思いつかないようなアイディアが、ぽんと出てくることがあるなと思っているんです。

新規性のあるアイディアを思いつきたいと思っている方は、最初に思いついたことは「これは陳腐なんだ」と思って、自分で1回捨ててしまう。そして、次に出てくるものを採用していくように心がけていくと、ちょっと他とは差別化されたアイディアの育成ができるようになってくるんじゃないかなと思っています。

連載漫画がおもしろくなったり中だるみするのは、なぜ?

柳澤:これはすごくおもしろいですね。もしかして起業もそうなんですかね? 最初に思いついた事業は、やっぱり意外と本人だけしか……。

樹林:ええ。最初にぱっと思いついた事業って、みんなが似たようなことをおもしろいと考えていたりする。そういうことってあるんじゃないですか?

柳澤:それを鉄則と言うかルールとしてやっていると、本当にすごく磨かれるということですよね。

樹林:そうです。だから、ちゃんと頭を使ってアイディアを考える習慣がつくということですね。

柳澤:おもしろい。ちなみに漫画のアイディアをどんどん出していくという話でしたけど、漫画って始まってからどんどんおもしろくなったり、中だるみしたり、いろいろな山谷があるじゃないですか。

樹林:ええ、もちろん。

柳澤:あれは、どうしてそうなるんですか? やっぱり作者のテンションですか?

樹林:そうですね。一番大きいのは作者のテンションと、あとはおもしろいと思うようなところはある種のピークというか、テンションの高いところなんですよ。それをずっとやっていっても、読者も疲弊しますしね。少し落ち着けてしまって、そこでもう1回盛り上げていくような波のある作品は長く続きますよね。

柳澤:意図的にやることもあるんですかね?

樹林:あります。だからやっぱり「この漫画、ずっと戦っているよね」というのは、意外とそんなに長く持たないことが多いですよね。

柳澤:なるほど。ぜんぜん関係のない個人的な質問になっちゃいました。みなさんも、登壇者の方も質問があれば、途中でどんどん聞いてください。

おもしろいものを生み出すための“自分サンドバッグ状態”

上野直彦氏(以下、上野):はい。さっきの樹林先生の話ですが、僕は樹林さんの作品はもちろん『金田一少年の事件簿』もですし『神の雫』も大好きなので、おこがましいことを言うつもりはまったくないですけど。

金田一少年の事件簿File(1) (講談社漫画文庫)

同じようなことで「儀式」と呼んでいることが、自分にもあります。まずは最初にプロットを書くんですよ。徹夜でもなんでも、とにかく完璧だと思うものを書いて、それを破り捨てます。

柳澤:おー、同じじゃないですか。

樹林:同じですよね。うん。

上野:一晩経ってから見たり、あるいは第三者から見たりすると、もうだいたいが予定調和のオンパレードなんですよ。

樹林:そういうことは多いですよね。

上野:だからこれは、自分の中でもすごくやっている方法です。もっともっとロジカルにしたり、いろいろ考えたり、人に聞いたりしてチューニングしたほうが、絶対に磨かれると思っています。おもしろくなる。

柳澤:でも「必ず最初のものを破り捨てる」とわかっていたら、最初の作品のテンションが下がりません? 「ちょっと軽く、適当に流しておこう」という話になりません?

上野:ある意味、もう自分を追い詰めるというか、もっとおもしろいものを出せという“自分サンドバッグ状態”ですよね。

柳澤:なるほど。それはすごいな。

作家が経験する「キャラが勝手に成長する」という感覚

川口典孝氏(以下、川口):ごめんなさい。こんなチャンスは滅多にないので、僕もちょっと質問していいですか?

柳澤:そうですよね、はい。

川口:樹林先生。キャラクターを作った後に、勝手に生き始めることはやっぱりありますよね?

樹林:そうですよね。

川口:勝手に成長し始めたとき、これを泳がせる作家さんの感覚というのは、もう神様視点なんですか?

樹林:不思議な時ってありますよね。漫画は週刊誌だから、1週間に一定の量を書いていくわけなんですけれども、例えば小説とか長い脚本だと、だーっといっぺんに書くんですよね。そういうふうに書いている時に「こいつら勝手にやっているよね」というような、なんだか乗り移ったような感覚と言うんですかね。

これは神様が教えてくれるわけでもなんでもなくて、たぶん自分の中にある混沌としたものが、なんだかバラバラに動き出すんですよね。1人の人間が何かを考えているのではなくて、僕の中にあるいろいろな要素が勝手に主張し始めるんです。それは、物語が進んでいく中で起こる瞬間なんですかね。

僕も何度も経験していますし、漫画で言うならば僕はストーリーを作る側ですが、絵を描く人である漫画家とのテンションの噛み合いですよね。そのせめぎ合いの中で、どんどん新しいキャラクターに成長していくことは、やっぱりけっこうあります。そういう理由も1つありますね。

川口:ありがとうございます。

最初にアイディアを思いついた人は、2番手の人をどう思う?

古川健介氏(以下、古川):すみません。僕も樹林先生に質問していいですか?

柳澤:おっとー! やっぱり漫画好きだから、漫画の話を聞きたくなっちゃうかな。

古川:我々にとってのレジェンドなので(笑)。

(一同笑)

『金田一少年の事件簿』などで、新しい本格ミステリーが漫画界ですごく流行って、いまだに続いていると思うんですけど。始めた人としては、それらの後に続く作品をどう思っているのでしょうか。「ここは発展させてくれたな」というものがあるのか、もうちょっと……。

柳澤:なるほど。最初におもしろいものを思いついた人が、2番手の人をどう思うか。

古川:そうですね。

柳澤:なるほど。

樹林:僕は普通に、楽しんで読んでしまっているんですけれどもね。ぜんぜん違うものが出てくるといいなとは思っています。僕が作ったスタイルの変化系のものが多いと言えば多いので、本当にまるっきり違う何かすごいものが出てこないかなぁ、なんて考えたりしているんですけれどもね。

それがなかったら、自分でやってやろうかなという気持ちでもあったりもするんです。当たるかどうかは別としてね。

古川:なるほど。

樹林:「思い切ったことが起こるといいな」「『ナントカの事件簿』というタイトルは、もうやめたほうがいいな」とか……。

(一同笑)

古川:確かに。

先に思いついたのに、他の人に持っていかれた経験

柳澤:それはやっぱり、王者の風格ですよね。みなさんに質問ですけど、逆に自分が思いついていたのに先を越されたとか、自分のほうが先にやっていたのに他がもっと売れちゃったとかで「悔しい!」というものはあるんですか?

樹林:『名探偵コナン』とかですか?(笑)。

柳澤:そういうものがありますか?

古川:僕は2014年ぐらいに「ダンスでつながるソーシャルネットワークが来る!」って言って作って、大ゴケしたんですけど。後にTikTokが来たので……。

柳澤:いやぁ、それは悔しいね。

古川:ちゃんとうまい具合にやっていれば、もしかしたらあったかなと思ったことはありますね。ただ、それはアイディア云々よりも、たぶん実行力の問題だなと思ったので、素直にTikTokはすごいなと思います。

柳澤:あれは、クリエイティブの形が、その概念がなくて、(他の人では)もうあの形に着地できないですもんね。

古川:そうですね。だから「あんなにうまく、やりたかったことをできるんだ」と感動はしましたね。

柳澤:なるほど。おもしろいな。あと何か、「こうやればアイディアを育てられるよ」というものはありますか?

川口:今の元の話だと、TikTokも誰かがやったからそうなったわけで「自分がやっていてもそうはならなかった」というのは、似たようなことを僕もよく感じますね。「俺じゃなかったんだ」「この人だからこれは当たったんだ」というふうに考えます。なので後悔もないし。

柳澤:なるほど。同じことを思いついていても、形にする能力はまた別ですもんね。

川口:はい。形にする能力と、形にできてヒットするのは、運みたいなところが強いと思うんですよね。その人の運命というものがあるんじゃないかなと僕は考えて、生活しています。だって、悔やんでいたら前に進めなくなるじゃない(笑)。

古川:確かに(笑)。そうですね。

川口:「これは、この人のバトンだったんだ」って思うよね。

柳澤:でも一方で、自分が「こういうものを考えたら当たるのにな」と思って当たったことによって「自分の感覚が正しかった」という1つの成功体験にはなりますよね。

川口:それはでかいですね。数年ぐらい自分の自信につながるんじゃないですか?

柳澤:だから、常にアンテナを張って「こういうのがあったらいいのにな」と考えるトレーニングそのものが、アイディアの育て方でもあるという感じになっている。

川口:あとは、さっきの「時代を読む」ことの訓練になるんじゃないですかね。

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