2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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柳澤大輔氏(以下、柳澤):続いて樹林さんにおうかがいしたいんですけど、樹林さんは生き方そのものにオリジナリティがあるというか(笑)。なかなかいないですよね。
樹林伸氏(以下、樹林):謎ですよね。
柳澤:漫画原作者でありながら、あらゆることをやられています。
樹林:もともと編集者としてキャリアをスタートしたんですけれども、編集者を12年やったうちの半分ぐらいは、作家と兼業という感じだったんですね。だから当然、印税も入りながらの会社員生活だったんです。
「いつ辞めてもいいな」と思いながらもなかなか辞めなかったのは、やっぱり当時、僕が働いていた編集部の『週刊少年マガジン』が、このままいけば『週刊少年ジャンプ』を抜いて日本一、イコール世界一の雑誌になるというタイミングだったからです。なので、ほとんどのモチベーションは「これだけは見届けてから辞めようかな」ということだけだったんですね。
結局1999年に辞めまして、それ以前から原作に参加している作品を引き継いでいくかたちでした。ソフトランディングと言いますかね。そういうかたちで僕は独立して作家になったんですけれども、作家になる前に編集者として仕事をしながらも、いろいろな仕事をしてほしいというオーダーが来ていまして。そのオーダーにまず応えるので、数年間はバタバタした感じですね。
「アニメをオリジナルでやってほしい」とか、ドラマだったら例えばCX・フジテレビのドラマでみなさんご存じだと思いますが、木村拓哉主演の『HERO』の企画などをやりました。あれは一応、木村拓哉という役者に当て書きで何か作ってくれないかという企画のオーダーだったんですけれどもね。そういうことですとか、他にも小説だとかいろいろなことがありまして、バタバタやっていました。
そこから、落ち着いてゆっくりやりたいことをやれるようになってきたのが、本当にここ10年ぐらいかなと僕は思っているんですけれども、独立してかれこれ20年やれていますね。
樹林:そういう中で、僕はオリジナリティにすごくこだわって仕事をしてきたわけではないんですけれども、ただ、何度かそういう時代を動かすような瞬間がありました。『金田一少年の事件簿』で初めて漫画で本格ミステリーをやったときも、時代がちょっと動いた感じがしましたし、あれ以降いろいろな漫画が増えましたね。
あとは『GTO』という漫画の大ヒット。
すべてに共通して言えるんですけど、やっぱり僕は「大きく新しいことが動いたな」という感じがすることが、誰も考えていなかったような「組み合わせ」だったんじゃないかなと思います。
例えば『GTO』ですと「不良で本当にどうしようもないヤンキーだったやつが、先生になる」という、もっとも難しい組み合わせにチャレンジしたということですね。これが実は、あるきっかけになりました。
いろいろなヤンキーっぽいやつとか『ごくせん』もまったく同じ発想ですけれども、先生はもともと金八先生などの熱血先生が多かったんです。でも、そうじゃなくて「ちょっと端から見たら極道に近いようなやつが先生をやる」というスタイルが、そこを始まりとしてけっこう流行ってきました。
実は『HERO』も似たようなもので、あれは最初から木村拓哉に合わせて考えたんですが、その時に「木村拓哉に似合わない職業をやらせよう」と僕は思ったんですね。それが『HERO』という姿で、中卒・高校中退の検事というかたちになって結実しているわけなんです。
僕は時代を動かすものは、その時に意外とみんなが思いつかない発想の組み合わせなんだと思います。先ほどは「掛け算」と川口さんがおっしゃっていましたね。それに近いんですけれども、意外性を生み出す「掛け合わせ」だと思うんですよね。
これがうまくいったときにぐっと歯車が噛み合わさって、時代が動くような何か新しいコンテンツが生まれてくるのかなと僕は思っていますけれどもね。
柳澤:なるほど、確かに「不良を更生させる先生」は『スクール☆ウォーズ』などでもあったけれども……。
樹林:いっぱいあったんですよね。
柳澤:「不良自体が先生になる」というのは、確かにあるようでなかったですね。ちょっとした組み合わせの違いだけで、そんなにいくということなんですね。
樹林:でもあれは、時代の流れでもあったんです。つまり、不良が問題児だった時代はもう徐々に終わりつつあったんですね。不良少年はいろいろな理由で生まれます。それは、貧困などが原因で起こることもけっこうあると思うんですよね。当時はどちらかと言うと引きこもってみたり、社会的に不適合であったり、あるいはいじめなどが学校における問題になってきたんです。
そのときに、そうした問題と闘うのは「不良を更生させる熱血的な先生」や「もともとちゃんと勉強もしてきた人」というよりは、なんと言うか……「『怖いやつ』とか『怒らせると怖そうな不良』のほうが、説得力があるんじゃないの?」というようなことで、時代の流れが大きく変わる時にうまく乗れたということもあると思います。
柳澤:はい。さっき川口さんも潮流とおっしゃっていました。これは特に聞いてみたいんですけど、みなさんはやっぱりその潮流を見極めているから、境目で新しいことができるということでしょう。「時代の流れをつかむ」感覚が優れているという自己認識はあるんですかね?
川口典孝氏(以下、川口):優れた作家はみんなそうじゃない? それは最低限持っていないと、時代と空回りして、独りよがりになっちゃうんじゃないんですかね。
柳澤:なるほど。ありがとうございます。上野さんの場合は先ほどのサッカーの話もありましたし、ブロックチェーンの話もありましたけれども『アオアシ』は経営者の間で一時期むちゃくちゃ流行りました(注:2020年7月現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載中の小林有吾氏によるサッカー漫画。Jリーグのユースチームを扱い、上野氏は取材・原案協力のかたちで同作に携わっている。主人公の青井葦人はフィールドを俯瞰する能力に長けている)。
漫画は多様化しているので、オリジナリティのあるサッカー漫画はたくさんあるから、なかなかどうこういうのは難しいです。だけど、主人公の視野の広さは「あ、そういう能力がサッカーにあるんだ」というのはおもしろかったです。どっちの話でもいいんですけど、何か話していただきたいなと思います。
上野直彦氏(以下、上野):ありがとうございます。そうですね。人それぞれにあると思うんですけど、もともと自分はオリジナリティと言うか、心にひっかかる人とかワードを常に大事にしています。
『アオアシ』の前に、(自著に)『なでしこのキセキ 川澄奈穂美物語』というものがあったんですね。これは、(サッカー女子日本代表の)なでしこジャパンが2011年にドイツ(ワールドカップ)で優勝、2014年のロンドン五輪で銀メダルを獲得しました。
私は現地で見させていただいたんですが、その5~6年前ですね。2006年の川澄選手が4年生のときのインターハイを見て、なんだか心にひっかかったんですね。みなさんもあると思うんですよ。デビューの頃に「このお笑い芸人、もしかしたらヒットするんじゃないか?」「このアイドル、売れちゃうんじゃないか?」とかね。
(川澄氏には)なんだか、そういう心にひっかかるものがあった。それから4~5年後、(東日本大震災で)日本が本当に苦しい2011年になって、そこで希望を与える存在やチームになるとは思いませんでしたけどね。
上野:川澄選手をずっと追いかけて、周辺取材をして年表を作っておいたんですね。それで2011年にドイツで、なでしこジャパンが優勝しました。そうしたら「一番お詳しい方ですよね?」と小学館から突然連絡がありまして「漫画にしてください」ということでしたが、プロットもある程度書いていたので、もうすぐにできたんですね。
漫画はそこそこのヒットだったんですけど、それを読まれた当時の『週刊ビッグコミックスピリッツ』の副編集長から「Jユースの漫画をやりたい」ということで連絡をいただきました。それには徹底した取材力が必要だそうで、あれを読んで「一緒にやらないか」と言っていただいたのが、漫画(『アオアシ』)の始まりでしたね。
柳澤:川澄さんに、やっぱり他とは違う何かを感じたわけですね?
上野:そうですね。今の文脈で『アオアシ』に関して言うと、もともとトップチームや日本代表も好きなんですけど、日本のサッカーはやっぱり育成が絶対に課題になると思ったんです。
柳澤:なるほど。確かに、それが新しいと言えば新しいんですね。
上野:だから、必ず注目されるだろうと思いました。もう1つは、今まであの年代、15・16・17歳というと、だいたいは舞台が高校サッカーなんです。調べたら95パーセント。
人の真似はしたくないし、以前にあるものはやりたくないというのは決めていました。それで、ユースを扱うのはおもしろいと思い、副編集長にも「それはぜひやりたい、おもしろい!」と言ったのが動き出した最初でしたね。
柳澤:おもしろいですね。サッカーの漫画を読まれている方は、どうなんですか? みなさん読んでいるのかな? 『アオアシ』を読んでいる方、どれぐらいいらっしゃいますかね? かなりおもしろいから、けっこう読んでいますよね。確かに、下部組織から上がってくるところを描いていること自体が、だいぶ新しいというのがあったということですよね。なるほど。やっぱりこだわっているんですね。
柳澤:さすがに今回出られている方は、全員こだわられている印象なんですけれども、最後にけんすうさんに聞きたいです。けんすうさんは、僕の認識ではやっぱりご自身がこだわっているし、こだわっている人の目利きもすごくできるという印象です。また「違うほうを狙っていこう」という、あまのじゃく的な感じもあると思っているんですけど(笑)。どうなんですか?
古川健介氏(以下、古川):僕、ちょっとみんなと違うことを言いますね。誰も思いつかないアイディアが何かと言うと、たぶん地域から生まれると思っているんです。都市にはメッセージがあると思っているんですね。
東京とニューヨークだと、ぜんぜん違うオリジナリティのあるものが生まれると思っているので「その都市にある最前線の空気をどうつかむか」をけっこう意識しています。
我々の会社は東京にもあるんですけれども「東京にしかない最前線の空気は何か」というところを、アイディアを発想するときのベースにしていたりしますね。
最近だと「たぶんつまらないコンテンツが来るんじゃないか」という予感がしています。あらゆるコンテンツがもうかなり「おもしろい」というのがベースになっていて。「コンテンツのおもしろさ」で人を引きつけるのが難しいと言っている人たちを、ちょこちょこ見るようになっています。
一方で、インターネットやスマートフォンで「ながら見」や「ながら聞き」をするようなものが多いんです。例えば「つまらないテレビを流しながら小説を読む」ということをしている人がけっこういます。「テレビがおもしろいとテレビを見ちゃうので、小説が読めないんですよ」と言っていたんです。
柳澤:(笑)。
古川:だから、その辺がありそうだなと思っています。今は、漫画家さんが作業中の映像を配信するだけのライブサービスを作っていたりしますね。そうすると、コンテンツは作業をしている姿しか映されないので、みんなが他のことをしながら見るコンテンツになるかなと思います。そんな感じで考えたりしています。
柳澤:なるほどね。なんだか今の話はおもしろい。
樹林:(笑)。
古川:コンテンツを全力で作っている人の前でする話ではないですね。すみません(笑)。
柳澤:「最強におもしろい戦い」はもう、レッドオーシャン。コバンザメのように何かにくっつくとか、あまり邪魔しないとか、シンプルでおもしろすぎない領域というのもあるのかもしれない。
古川:そうですね。
柳澤:そういう領域を狙うということなんですね。たぶん他の方で「つまらないコンテンツを作ろう」なんて人はいない。
古川:(笑)。
樹林:あんまり考えないですね(笑)。
古川:「つまらないコンテンツ」というのは、言い方がアレですよね。なんでしょうね。「ながら見」とか「ながら聞き」の「お供」になるようなコンテンツが求められているけど、それに特化したコンテンツは実はあまり存在しないということですね。
柳澤:だいたいコンテンツじゃないですもんね。
古川:コンテンツじゃないですね。
柳澤:BGMとか。
古川:確かにBGMはそうですよね。あとはラジオとかもそうですね。ラジオを作っている人が「刺激を強くしないようにしている」という話をしていたので、そういうことかもしれないですね。
柳澤:なんかおもしろいな。YouTubeを2倍速で見るじゃないですか。Netflixも集中して見ているようでいて、確かに他のことをやっているから、2倍速で集中して見るか、同じ速度だったら他のことを2倍やる感覚があるので、Zoomの会議などはほとんど集中できないですよね。もう上の空で、だいたい他のことをやっちゃう(笑)。
(一同笑)
柳澤:このあいだ、僕はできるかな? と思って「右耳と左耳で同時に2つの会議の違う音声を聞く」というのをやりましたけど、それはさすがにできなかったです。
古川:両方ともコンテンツとして成り立っちゃっているからです(笑)。
柳澤:だから「こっちをやって、こっちもやって……」というのはやっぱり無理なんですけど、そういう能力が求められる時代なんです。ぜんぜん違う話になっちゃった。それは置いておいて(笑)。
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