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デジモノステーション滝田編集長と考える、家電・ガジェットのオンラインとリアルの両接点での「顧客体験価値」の考え方・つくり方(全4記事)

「誰か欲しがるかもしれない」で生まれる製品は売れない “愛”を持ってもらえる家電・ガジェットの条件とは?

新型コロナウイルスの蔓延を受け、既に多くの会社が新製品発表会をオンラインに切り替えている、昨今。そこには「従来の記者発表会の単純なオンライン化」とは異なる視点が必要となり、その巧拙が商戦の設計において重要なポイントとなると考えられます。では、オンラインならではの顧客体験・オフライン(リアル)ならではの顧客体験、それぞれの特性を生かした最適な顧客体験価値の設計と、先行販売などを含めた「指名買いの構図」をどのように作り出すべきなのでしょうか。そこで今回は、家電・ガジェットなどを長年見続けてきた『dsデジモノステーション』滝田編集長と、株式会社マクアケ共同創業者で取締役の木内氏が登壇し「顧客体験価値の考え方・つくり方」について語ったイベントの模様をお届け。本パートでは「“愛”を持ってもらえる家電・ガジェットの条件」などについて話します。

“愛”を持ってもらえる家電・ガジェットの条件

矢内加奈子氏(以下、矢内):では次のテーマ「愛車・愛機となるような“愛”を持ってもらえる家電・ガジェットの条件」。(笑)。

木内文昭氏(以下、木内):はい。これはすごいですね。

まずこの辺りって、本当に欲しいものか、それを作るためにすごいストーリーがあるかとか。やっぱり「すごく自分が欲しい」ということには、それがすごく洗礼されたデザインであるとか、そのあたりが重要だと思うんですよ。

矢内:おっしゃるとおりです。

滝田勝紀氏(以下、滝田):「誰かが欲しがっているかもしれないから、こういうのを用意します」みたいなものっていうのは、だいたい失敗している……というか、あまりいいものじゃないし。紹介する側として「あー、この人これをすごく欲しいと思って作っているんだな」と思えるようなものだったら、こっちも「なんでそんなの欲しいの?」と聞きたくもなりますし。

滝田:そういういい話とかって、人に言いたくなるじゃないですか。ここがすごく重要で。なんていうんでしょう? マーケティング的な視点で、今っていろんなものを考えたり、効率をすごく重視して物を作ったりという環境になっているんですけれども。自分はちょっとそういうところが、うーん。今は違うのかなと思っていて。

要はこれ、元々スマートニュースとかの執行役員だった西口(一希)さんの『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』。あの本なんですけどね。要はN1の法則。「その人1人を見て沿うものを作れ」とか。それさえ理解できれば大丈夫だと。まさになんかあれな気がしていてて。

要は自分も媒体を作っている人間として、一緒にやっているスタッフたちには「なんかおもしろいと思っていることは記事にする」というふうに、実はルール化しているんですね。

矢内:なるほど。

滝田:これは「自分がおもしろいから」という。「それを世の中がどう受け取るかは知ったこっちゃない」という視点でやっているんですよ。

でもやっぱり自分が好きということは、実際、人っていっぱいいるので、必ず同じようなことを考えている人っていて。また同時に、それが嫌いという人もいるわけですよ。でも、好きとか嫌いとかという感情で何か訴えたくなるようなものというのは、どっちにしても言いたくなるじゃないですか。

木内:そうですね。

滝田:要は、愛を持ってもらえるような家電とかガジェットというのはやっぱり……。

矢内:条件? 

滝田:うん、その作る条件は「本当にその作り手が好きかどうか」。そこは本当に大事だと思います。

矢内:そこはもう、木内さんが前に乗り出すぐらい話したがっている話なんで(笑)。

木内:Makuakeでいろんなプロジェクトをやっていて、全然ロジカルじゃないんですけど「この人はきっとこの商品を、本当に欲しいと思って作っているんだろうな」とか「そんなに欲しくないんだろうな」とか。そういうのってなぜかバレちゃうというのが、創業以来ずっと思ってやっていまして。

やっぱり熱狂的に「これを出したいんだ!」みたいな、そういったことをどうやって世に問うかというのがすごく大事だなと思って。さっきのN1インタビューの西口さんの話にもあったように、いろんな人に聞いて作るというのも大事だと思うんですけど、僕が思うのは「ユーザーは物を買うプロであって、作るプロじゃない」んですね。

なので、やっぱり自分が欲しいとか、これは絶対欲しいに違いないって、企画側が作るプロとしてそれを世に出して仮説検証するみたいな。「それを狙ってどうヒットを出すか?」という視点で出さないと「私は買わないけど、その辺の人は買うんじゃないか?」みたいな考えだと、マジでそれがバレる時代だなと思ってます。

自分が愛を持っていないのに、他人なら愛を持つのでは? というのが、ユーザーに失礼なので。そういった視点で物を作っていく、というか考えるのが大事なんだろうなと思います。

作り手が欲しくないものを、誰かが買ってくれるか?

滝田:もうまさに、本当に今おっしゃっているように「自分が欲しくないものを誰かが買ってくれるか?」という話なんですよね。

矢内:そうですよね。

滝田:最近そういうので顕著なものが、三菱電機のブレッドオーブンという商品がありまして。これはご存じの方もいると思うんですけど、1枚の食パンしか焼けない、しかも3万円するというトースターなんですよ。

矢内:3万円。

滝田:3万円ですよ。1枚の食パンしか1回に焼けない。それで3万円。でもその味というのは、抜群においしいわけです。ただ、高級トースターの中で1番高い。

でも、これって去年の4月ぐらいに発売されたときに、もう在庫が全部なくなっちゃったんです。

やっぱりそれって、食パンをおいしく食べたいということで、当然作られているんですけれども。作り方も本当に不器用で、工場が生産ラインを組めない。だから1人の工員が、全部プラモデルみたいに作って世の中に出しているという。でもそこまでユニークな作り方をしてでも、出したい。

それで出して、世の中に売れた。だからこれってもう、すごいことだなって正直思っていて。なんかそういう、真似できないものを作るというのもすごく大事ですし、そこまで熱意のあるものってなかなかないじゃないですか。

矢内:そうですし、それで3万円って、そのストーリーも含めて買ったという気持ちになるので。

滝田:まさにその、体験価値というものを感じたくなりますよね。

木内:アレですよね。やっぱり買った人は、自分の買った行動を正しいとしたくなるので。

滝田:そう、そう(笑)。正当化したくなるんです。

木内:また人に言いたくなるとか、食べさせたくなるんで。そういうループが生まれますよね。

滝田:そう。自分でもう3万円出したから、納得せざるを得ない。

(一同笑)

木内:そうですね。

矢内:納得したい! みたいな。

滝田:したいですよ! もう迎えにいく感じですよね。まさに。

「100人に1人、熱狂的に欲しいかどうか」

木内:このブレッドオーブンのストーリーって、なんか聞いたときにすごくいろいろなエッセンスが詰まっていまして。私がやっているMakuake Incubation Studio(MIS)でも、様々な大手企業と新商品開発でご一緒させていただいているんですけど、こんな観点が必要だなと思っていまして。

(スライドを指して)まず左の“らしさ”で、技術に依拠しているとかユニークさがあるとか、そういった“勝てる”かつ“らしい”ものを、流行っているからではなくて、技術をいかしたその企業らしいもの。たぶん三菱電機さんのブレッドオーブンは、炊飯器とかそういうもので圧釜で蒸気をなんとかみたいな技術が生きてるはずで、そういう“らしさ”があって。

かつ、市場の魅力というところで。たぶんバルミューダさんが出る前は、3000円のトースターがある中で「10倍(の価格の商品)が売れるか?」ってなってたところに「高級トースター市場」みたいなのができてきて。「マーケットとしてあるよね」となって。そこに対しても、相対的に自社が勝てるのかどうかみたいな、自社にとっての市場の魅力があり。かつ、作る・研究の人、今回企画された人は、絶対に(自分が)欲しいと思っていたはずなんですよね。

滝田:そうですね。まさに。

木内:なので、まさにMISではこうインタビューで、買うと言ってくれる人にぶち当たるまでインタビューを続けるみたいなことをやるんですけれども。買うかどうかというところに、こだわってやれたんじゃないかな? みたいな。

あとはやっぱり(Makuakeの)ページを見ても、企画する人やチームが「これを作りたい」とか「やりたい」というのを、絶対に思っているんだろうな、みたいなのが伝わってくるので。こんな要素があるなと思っているんですけれども。まさにぎゅっと詰まったプロダクトだと、そんなふうに思っていました。

滝田:だから、これ(スライド)は今「商品を考える切り口」って書かれているじゃないですか。やりたいことを企画する人たち、要は自分たちがやりたいこととか、いや、ここはけっこうワガママでいいと思うんですよ。なんか世の中にこういうものがあったらいいな、というような。いや、俺が欲しいし! というような。

なんかそっちのほうが、たぶん作っているほうも当然、熱量が加わってきますし。なんとなくぼんやりと誰かに何かを届けたいって、聞こえはいいんですけど、その前に自分が欲しいかどうかとか、これがあったら絶対この人だけは助かるみたいな。そういうこととか。なんかすごいワガママみたいなことかもしれないですけど、そういうもののほうが、結果的には魅力あるものが生まれたりするのかなと。

木内:そうですよね。僕たちも作るときに「100人に1人、熱狂的に欲しいかどうか」みたいな話をするんですけど、99人は「もういらない」と言ったとしても、100人に1人熱狂的に欲しければ、日本国内だけで見ても、1億2000万だから、100分の1の人数のユーザーがいて。

それだったらたぶん、家電で大ヒットだと思うんですよね。それぐらいこだわって、絞ってボールを投げるみたいなことがすごく大事だなと思うんですよね。

「誰が何人買っているか」が可視化されるMakuake

矢内:Makuakeでもディープニッチなプロジェクトであればあるほど、すごく伸びますよね。

木内:Makuakeの商品でもそうですけど、まあ「これ、普通に考えたら誰が欲しいんだろうな?」とか思う商品も、(世の中に)けっこうあるじゃないですか。

滝田:ですよね。ここをこう、なんか記事になっているのを見たときに「ああ、そんなに欲しいんだ。そんな思いでこれを作っているんだ」というのを理解すると、その話を聞いたときに「あ、ちょっと自分も欲しいかも」みたいなことを思っているときがあって。

矢内:かつ、Makuakeのプロジェクトだと、サポーターが多いとかわかりやすいんで。そこに乗っかりたいみたいなところで……。

滝田:そう、そう(笑)。

矢内:けっこう、応援購入があったりしますね。

木内:やっぱり伝わって買うかどうか? みたいなのが、今までは例えば流通のバイヤーさんとか、仕入れる立場の人が欲しいか欲しくないかで、マーケットに出せるかどうかが決まっていたのが「誰が何人買っているか」とか「いくらぐらいで売れているか」というのが可視化されるじゃないですか。

滝田:そうですね。

木内:アレがまた今っぽいというか。投票が見える化されているというのは、フェアでいいなと思っていまして。

滝田:いや、本当にそうですね。当然バイヤーさんとかは目利きですし、そういうところですごくコレが売れるかどうか? という分析力があったりもしますけれども。今あまりにももう人の考え方とか、それこそ人間自体があまりにも多様性を持ちすぎていて。既にいろんな楽しいものがいっぱいある中でマスを狙うことが、人の分析ではもはや追いつかない時代になっているのかなと思っていて。

だからそういうところに無理矢理、なんていうんですかね。大風呂敷をばーんと広げるよりかは、やっぱり1点突破というか。ここはもう「他はダメだけど、ここは大丈夫!」みたいなところに剛速球を投げ込むほうが、今の時代はヒットは生まれている気がするんですね。

矢内:なるほど。

滝田:さっきのブレッドオーブンもしかり。バーミキュラさんのライスポットという電気鍋しかり。やっぱり、ちょっと変わっててしかも保温できないけどみたいな、でも8万円もしますみたいな。

ワガママな商品だと、市場は狭まる?

矢内:そんな滝田さんに、いい質問が来ていまして。

滝田:なんスか!? 

矢内:「とはいえワガママな商品を売ると、市場が狭まらないか心配に思います」と。

滝田:ああー、心配ですね。

矢内:それでもディープニッチに行ったほうがいいと。

滝田:行ったほうがいいと思います。少なくとも、そりゃビジネスで考えたときには、たくさんの人に売りたいとかって思うと思うんですけど。やっぱりそれで、じゃあなんかこう……今、特に日本のそういう家電とかで見ていると、うまくいっているものがそんなにないんですよね。

あともう一つ。今って、ちょっといいものを作るとすぐ真似されて、あっという間にコモディティ化していく。それで低価格戦略に、結局は巻き込まれちゃう。

だから、広い市場に向けて作ったとしても、それより安いものが出てくるとどうしてもそっちに取られちゃうから。

矢内:なるほど。

滝田:さっきも言ったように、なんかもう、これは他が考えないような、真似できないようなものを作ったほうがヒットが生まれると思いますし。

さっきの“愛”という意味では、そういうもののほうがおそらく愛着を持って、人は買ってくれると思いますね。

矢内:そうですね。確かに。

木内:そこはMakuake Incubation Studioで大手メーカーの方々と新規事業を考える上で「これぐらいの事業の魅力度があります!」ってプレゼンができないと、社内で通らないみたいなのがあると思うので。

滝田:はい、はい。

木内:それが市場の魅力、一見そういう市場データはないんだけれども、マーケットはこうこうこういう切り口で見ると、小さな池で大きな魚はできるんじゃないかみたいな。

そういう観点が必要かなというのと、あともう1個。やっぱりビジネスモデルって、高い商品を一個だけ売って終わりみたいな、顧客接点がそこで途切れるというのはなかなかしんどい環境下にあると思います。

なので、そのお客様に継続的な接点を持って、なにかしらその付属品や消耗品を買っていただけるようなビジネスモデルをどうやって描くか? ということをセットで組み合わせることによって、ビジネスとして成立させるという観点もあるんじゃないかなと思いますね。

ヒットを出すことで変わる、上長の意見

矢内:もう一つ、アレですね。Makuakeでワガママな商品のプロジェクトをやっていただいて、意外にヒットしたりすると上長の意見が変わったりとかもありますよね。

木内:ありますね(笑)。

滝田:そうですよね。Makuakeとかそういう使い方は、すごくやっぱりいいと思うんですよ。結局、コレが世の中でどういうふうに受けるかが、正直わからない。さっきみたいなことを言っていますけど、当然、それがウケるウケないはわからないじゃないですか。

だからそれを事前にそういうところに出すことによって、こんなに反響があるじゃん! というのとかは自信を持って出せばいい。

矢内:そうですね。

滝田:逆に「あれ、ぜんぜんないね」というのは、やっぱりそれは違うのかもしれないですけど。だけど凡庸なものよりは、絶対にそういうもののほうが人は好き嫌いを言いたいと思うので。

矢内:まさに。

木内:そうですね。

滝田:そういう意見も集まりやすいような気がするんですね。

木内:ある一部上場企業のメーカーさんで、企画会議でだめ、役員会議でだめ、それで社長がだめって言って。でも出したいって言って(笑)。

滝田:(笑)。

矢内:いいですねぇ。

木内:それで「これぐらい集まったらいいよ」って言って(Makuakeに)出して、目標をクリアして……。

滝田:ああ、すばらしいですねぇ。

木内:(その結果)社長も言うことが変わったみたいな。

矢内:(笑)。

滝田:はい、はい。

木内:そういうのがこう……フェアにできるみたいなのが、なんかすごいチャレンジのしがいがあるなって思うんですよね。

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