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中野信子氏 上智大学講義(全4記事)

イケメンは得するけど、美人は損をする? 中野信子氏が研究からひもとく、容姿と性差の関係性

例年、中野信子氏が上智大学の学生向けに行っている講義を、今年はログミーのYouTubeチャンネルにて公開。本パートでは「美人は得とは限らない理由と、性自認・同性愛について」語ります。

果たして美人は本当に得か

中野信子氏:「美人は得か問題」についてお話をしたいと思います。よく「美人はそうでない人よりも生涯年収が高いんじゃないか」とか「美人は得していいね」というような声って、たくさん周りでも聞かれると思うんです。美しい人って、ちやほやされているようにも見えると思いますし、モテて、とてもうらやましい感じがしますよね。

じゃあ実際はどうなのかということで、研究がけっこうあるんです。これ意外にも性的魅力……女らしい魅力を持っている人が得をするわけでもないということが、数字で現れてしまってるんですよね。

実は「美人のほうが、平均的な容姿の女性よりも損をしてしまうことがある」という研究はたくさんあります。それはどういうことかというと、外見が良いと性的類型化って言うんですが……性的というのはセクシャルのことですね。類型化というのは、ステレオタイプになるという意味なんです。

性的類型化が起こることによって、女の人は損をしてしまうんですね。意外にも男性は有利になるんですね。要するに「男らしい」と見られると、リーダーシップが高いというふうに思われたりとか、仕事ができるというふうに思われたりとか。あとは、決断力があるとか。男らしいとみなされることによって「社会で活躍する能力が高い」と思ってもらえる傾向があるので、イケメンというのは、仕事上の評価には良く働く場合が多いんですね。

要するに外見で男の人は得をする。だけれども、女性はそうではないんですね。女性は「女性的である、美人である」と見なされると、堂々とした振る舞いをすることで「ちょっとこの人はちくはぐな感じがする、女性らしくない」と見られたりとか。

「決断力に欠けるに違いない」と容姿で思われたりとか。セクシーすぎて仕事がしにくいとかですね。「消極的であるべきだ」「サポートする仕事はうまくできると思うけれども、リーダーとしてはどうなのか」と、外見だけで判断されてしまうことがあって。

実際にサポーティブな仕事の遂行能力は高いでしょうという評価は与えられるんだけれども、リーダーとしてはこの人は適切でないに違いないというふうに、評価の点数を付けられちゃうんですね。

そういうことがあるので、女性はあんまり外見がいいことで得をするとは言えない。外見がいい人でがんばっている人はハンディキャップを持ってがんばっているんだということで、ぜひ応援してあげてほしいと思います。

もっと悪いことには、ステレオタイプに当てはまらない、つまり女らしい外見を持っているのにそうでもなく活躍しているという人がいると、周りから「この人は性格が悪いんじゃないか」とか「結婚生活がうまくいかないんじゃないか」とか。「子どもを作らない」とか「子どもがかわいそう」とかですね。そういうふうに言われる。攻撃されるんですね。

いつの間にか、そういう攻撃によってステレオタイプ風に振る舞うように社会が圧力を、無意識のうちにというかね。あたかも「社会が女性を洗脳していく」というようなことが起きるんですね。なので美人は得とは限らないよということを、知ってもらえるといいかなと思います。

あと性差の問題というのは、非常におもしろくて、スウェーデンのカロリンスカ研究所というところが、積極的に研究をしている領域なんです。女性で容姿に優れた人がどういう扱いを受けるかというと「人間として扱ってもらえない」という問題があるんですね。

どういうことかというと、記号とか物として扱われる。これはとてもショッキングな研究なんですけれども。ビキニを身につけているセクシーな女性の姿を見ると、男の人はその女性のことを人間というふうに認知しないんですね。

物を見るときと人を見るときで脳の活動は違うんですけれども、物を見るときの活動と同じ活動がビキニの女性を見るときに起こる。人間を見ているような脳の働きが起こらない、ということがわかってまして。つまりあまりにもセクシーな格好をしていると、男性は女性を物として扱ってしまうわけです。

要するに感情がその人にもあるとか、容姿のことをいろいろ言うと女の子はすごく残念な気持ちになるんだとか、人格を認めてもらえないという感じが女性には……どんな人でも1回は経験したことがあると思いますけれども、そういうことが起きるのは、容姿によってそういう脳の働きが誘発されるからだ、ということが言えます。

女性が女性を評価するとき

今は、男性から女性を見た場合の反応のお話をしたんですが、女性が女性を評価するときっていうのも、なかなかトリッキーな問題がありまして、子どもを対象にした実験というのがあるんですね。子どもを4種類に分ける。

4種類に分けるというのはどういうふうに分けるかというと、まず「男の子、女の子」。そのうち「容姿の良い男の子、容姿のそうでもない男の子、容姿の良い女の子、容姿のそうでもない女の子」と分けます。

そして4種類の子のうち「どの人が階段の下に倒れている子を突き落とした犯人でしょうか?」と聞く、というタスクをするんですね。そうすると、女性は「容姿の良い女の子が犯人だった」と答えてしまうことが、男性よりも多いんですね。男性のほうは「容姿の良くない男の子が犯人でした」と言う人が多かったんです。

これはなかなか難しい問題ですよね。これを男の人から見た場合、嫉妬なのかとか簡単な言葉で片付けてしまいたくなるかもしれません。容姿の良い女の子が、ちょっと損をする典型的な場面かもしれません。容姿だけで、性格が悪いと思われちゃう。

あともう1つ興味深い研究があって。これは、必ずしも女性から見た女性というわけではないんですけれども。やっぱり今のように容姿の良い男性、容姿のそうでもない男性、容姿の良い女性、容姿のそうでもない女性の写真を用意して、文章に写真を添付するんですね。

文章に写真を添付して、この文章を評価してくださいというふうにすると「容姿の良い女性が添付された文章には、より点数を低く付けられちゃう」という問題があります。つまり「美人は頭が悪いに違いないと思われてしまう問題」という。

女性は自分の容姿をアピールするよりも、容姿は抑えめにして能力をアピールしないといけない場面があるんだということを知っておくと、この先の就職活動とか、プレゼンテーションとか職場でうまくやりたいというときに役に立つことがあるかもしれません。必ずしも、美しくキラキラにしておくことがいいとは限らないんですね。TPOを考えて使い分けられるようにしておくといいと思います。

性の自認について

今、女性と男性のお話をしたので、性自認の問題についてお話をしたいと思うんですね。コロナの感染拡大のときにすごく話題になった、台湾の唐鳳(タンフォン)というIT大臣がいますけれども。あの人は性別欄に「無」って書いてあるんですよね。「どちらでもないです。自分は唐鳳です」という人です。

なかなかこういう人が、日本では大きな声を上げにくいという状況がまだあるのかなと思います。自分が「同性の人を好きです」とか「自分は女の格好をしているけれども、本当は心は男です」とか。逆に「男の格好をしているけれども、本当は心は女です」という人がなかなか、数が少ないということだけで、ちょっと不利益を被ったりしている場面というのがあるんですよね。

学生さんの中にもそういう苦しい気持ちを抱えている人がいるかもしれないので、ちょっとそのお話もしていきたいと思うんですね。非常に興味深いものですし、脳科学的にもよく調べられてきているので、このお話は私もとても興味のあるところです。

性自認の問題というのは……性を自分で認めると書いて性自認と言うんですけれども、遺伝的なものなのかどうかということで、しばらく議論が昔あったんですね。ジョン・マネーという、今では科学の黒歴史と言ってもいいようなトピックに数えられると思うんですけれども。

赤ちゃんのときに手術に失敗して性器を傷つけられちゃったという男の子がいて、女の子として育てられたという人がいたんですね。女の子として育てられたデイビッドという男の子です。この人の話は『ブレンダと呼ばれた少年』という本が詳しいので、気になった人は読んでみるといいと思います。

女の子として育てられて「性自認というのは後天的に決まるものだから、女として育てれば女の子になるんだ」と考えられて、そういう生育歴を辿ったんですけれども。のちに非常に精神的に追い詰められて、デイビッド君自身は14歳のときに経緯をお父さんから教えてもらって、自分は本当は男なんだということを知って男性に戻るんですね。

ただ、戻ったんだけど、38歳のときに自殺してしまうんです。非常に痛ましい事件ですね。性自認というのは後天的にできるものではなくて、やっぱりもともと持っているもの(遺伝)なんじゃないかというのが、この人の例から広く人口に膾炙するようになったんです。

じゃあ遺伝というのはどういうことかと言うと、同性愛の方もおそらく何人かいるだろうという前提でお話するんですけれども。「同性愛遺伝子」というのがあるようだ、というのが最近わかってきてまして。

ショウジョウバエの求愛行動で、おもしろい実験があるんですけれども。とっても有名な東北大の先生が研究したものなんですが。「satori」という遺伝子があるんですね。ショウジョウバエの変異体です。

最初になんでsatoriと名付けられたかというと、この遺伝子はメスに求愛しない。性欲を持たないからsatoriだというふうに名付けられたんですけれども、のちによく行動を見てみると、オスがオスに求愛してたっていうことがわかった。satoriというネーミングの由来とちょっと違う性行動を取ってたんだということが、あとでわかったなかなか興味深い遺伝子だったんですね。

この形質が「同性愛という行動が遺伝的な形質によって決まる証拠」ということで注目をされました。別におかしなことではない。人間だけがやる特別な行動というふうに言う人がいるんだけれども、そういうわけではない。自然界に普通に広く見られる行動です。

同性愛の遺伝子があるというのはちょっと奇妙な感じがするかもしれませんけれども、実際には、種の保存という観点からするととても大事な役割を果たしています。同性愛の遺伝子を持っている個体がいることで、より子孫が繁栄するようになるという研究があるんですね。

これはとても不思議に思われるかもしれませんけれども、イタリアのカンペリオ・キアーニという人が研究しているんです。同性愛者男性の親戚女性は、ストレートの男性の親戚女性よりもたくさんの子どもを産むということが示されています。

数にして、平均的に見て1.3倍だというんですね。非常に多いですよね。平均で1.3倍ってかなり多いと思うんです。この研究はなかなかおもしろくて、同性愛の意味についてしみじみと考えるきっかけになると思うんです。

要するに、次世代への貢献というのは産むだけではないということです。この遺伝子が認知上どういう働きをしているかというのは、まだ明らかではないんです。明らかではないけれども示唆的な状況証拠を集めてみると、ストレートの男性よりも、よりサポーティブであったりとか世話を焼く性質があるとか。

あとは、自分が可処分所得を多く持つのでより女性の親戚の子供に対して経済的なコミットメントが大きくなるとか。そういう部分から、次世代に対してポジティブな貢献ができるようになるんじゃないかというのが、考え方としてはあるんですね。

もう少し生理的な見方としては、同性愛者の親族である女性の人が性的により早熟になって、より多くの子供を持つように促進する役割があるんじゃないか、というふうにも考えられています。

これはヘルパー仮説というふうに呼ばれていて、同性愛者のおじとか、親戚にそういう人がいることによって血縁者の子育てをよく助けるので、より次世代が多く育つようになるという仮説ですね。これはなかなかおもしろいものだと思います。

人間だけではなくて、たくさんの動物が同性愛の行動をするんです。ベルリンの動物園でオス同士でしか交尾しないペンギンというのがいたり。どれくらいの割合かと言うと、ドイツの例はたまたま見つかったんですんが、家畜の羊では、オスのうち約10パーセントはメスと交尾したがらないんですね。オスと交尾したがる。

10パーセントというのはかなり多いと思うかもしれませんけれども、だいたい人間だと全体の5~15パーセントが同性愛だと言われるんですが、これと同じような割合ですね。哺乳類はだいたいそれくらいの同性愛の個体がいるんだなぁ、ということが示唆されるようなデータかと思います。

おもしろいのはアホウドリですね。アルバトロス。アルバトロスはどういうふうかと言うと、メス同士が“つがい”を作るんですね。3分の1はメス同士でつがいを作る。メス同士がたまにオスと浮気をして子どもを作るんですけれども、子どもだけオスと作って、育てるのはメス同士で育てるということをするんですね。3分の1というのは、なかなかすごい割合だと思います。

行動解析をすると、アホウドリのメスのカップルがどれくらい長く一緒にいるのかというのを調べられるんです。なんと1組のカップルは、19年も一緒にいたということがわかりました。ヘタしたら人間のカップルより一緒に長くいるかもしれませんね(笑)。これもあんまり知られてないかもしれませんけれども、とてもおもしろい例だなと思います。

自然界ではそんなに不自然なことではない、同性愛の行動なんです。やっぱり人間界では受け入れる人と受け入れない人の温度差が激しいところです。「そうなんだね」とあっさり普通に受け入れる人もいれば「え!?」ってびっくりしちゃう人もいる。

びっくりされちゃったときに、伝えた側はそんなにびっくりされるなんてとショックを受けちゃうことがあるかもしれません。ショックを受けちゃうなと思ったら敢えて誰かに伝えないでいるのも、大事な選択だと思うんですね。相手をびっくりさせないのも配慮といえるかもしれないし、カミングアウトすることがいいか悪いかって誰にも判断できないので。自分の満足のいくようにするのが、一番いいのかなと思います。

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