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契約のNew Norm(全3記事)

「個別の法律よりも、法律の“作り方”を変えるべき」 弁護士・水野祐氏らが語る、withコロナ時代の法と契約

「withコロナ時代到来を契機に、見つめ直される働き方・暮らし方を新たな視点で研究、社会実装すること」を目的に発足した、New Norm Consortium。「新しい当たり前=New Norm」を想像していくという強い意思のもと、ITや広告、人材などさまざまな業種の賛同企業・団体が主体となり活動を実施します。第2回目となる今回は「New Normから産まれるサービス」「ヒトとロボット・知能技術のNew Norm」など、3つのセッションに分かれて議論がなされました。本記事ではセッション3「契約のNew Norm」について、登壇者が語ります。

「法のNew Norm」について

小笠原治氏(以下、小笠原):「New Norm Meeting」というかたちでNew Norm Consortiumに関わっていただいている方々と、いろんなNew Normについて話していこうということで先月から始めていますが、今回New Normミーティングの2回目、その中のセッション3ということで、東さん・水野さんと「法のNew Norm」そういったところまで話していければいいなと思っています。

軽くお二人の自己紹介を先にしていただきましょうか。水野さんからお願いしていいでしょうか。

水野祐氏(以下、水野):おっと、自己紹介の時間を考えていませんでしたが……。

小笠原:軽くで(笑)

水野:東京で弁護士をやっております。スタートアップから大企業まで、わりと新規事業の開発に関わることが多いかなと思います。

新しい技術を使ってどう新しい価値観を社会に実装していくか、ということのサポートをさせていただいている弁護士でございます。今日はよろしくお願いします。

小笠原:よろしくお願いします。この間、日経さんに“異色の弁護士”的な紹介をされていましたよね。

(一同笑)

水野:いや、いや。個性派法律事務所に、うちの事務所を挙げていただいていましたね。

小笠原:個性派というのも、なんか不思議な感じですよね。

水野:そうですね。個性派ではあると思うんですけど、リーガルテックをやっているような法律事務所とか、いろいろなおもしろい事務所が出てきているんですが、そういうわけでもないのですが(笑)。

ちょっとよくわからない浮いた存在、みたいな感じになっていましたね。でも、ありがたいことです。

小笠原:(笑)。ありがとうございます。

水野:小笠原さんにはいつもお世話になっています。

小笠原:いえ、いえ。こっちがお世話になっています。じゃあ、東さん。

東さんとはけっこう政府の委員会なんかでよく一緒になるので、あれですけど。どんなお仕事をされているか教えてください。

東博暢氏(以下、東):日本総合研究所の東です。ご存じの通りシンクタンクですので、今は私、4割ぐらいが政府の仕事で、6割ぐらいが民間企業のお手伝いをやっています。

まさにこういう危機的状況のときによく政府に呼ばれるんですが、東日本もそうでしたけれども、今後どうしたらいいかというところを、まさに現場で意見交換しながら。

今回、大きいのは、特に首長の方々から直接の相談がほぼ毎日来ていますので。そこで現場対応をどうするか、というところを主にやっています。

あとはスタートアップ支援とかスマートシティ推進とか、このあたりは引き続き前からやっていたので、そこも含めてお話できたらと思います。

押印と出社の問題

小笠原:はい。ありがとうございます。「法のNew Norm」とか、ちょっと大きい話をいきなりするのもなんなので、些末だけどけっこう困った問題として、押印問題、押印出社問題があったかと思うんですが。

水野さん、押印って今、法律的にはほとんどなくせるんでしたっけ? 

水野:押印を法的になくせるか。電子署名法に基づく署名とかを使うとか、あるいはクラウドサインさんとか、GMOの(電子印鑑)Agreeとか、海外だとDocuSignとか。

そういったクラウド型の電子契約を使って契約する慣習というか、そういう商慣習みたいなものは少しずつ増えているんじゃないかなと思います。

なので、必ずしも押印をしなくてもいいという考えは、少しずつ広まっているんじゃないかなと思いますね。

小笠原:逆に言うと法律で押印を求められるって、あるんですかね? 法律上、押印が必要?

水野:法律上、押印を求められるというのはないのですが、紙の書面で契約を締結することが法律上求められるケースというのはありますので、そのときに事実上、リアルの署名または押印が必要になる場合はありますね。定期借家契約とか、不動産分野とかに多いですね。

小笠原:本来は、いわゆるクラウドでの押印というとあれですけど、署名というか。

水野:(笑)。クラウド型の契約ですね。

小笠原:クラウド型の契約というものにそもそも対応しようとしてなかったので、自粛時に大変だっただけなんですよね? きっと。

水野:そうですね。そもそも押印で契約を交わすという商慣習自体が、日本独自のものだったりしますので。

書面やら他の方法で当事者間の合意を残すやり方というのは、他にもいくらでもあって。押印にこだわるというのは、1つの文化なんでしょうねという話です。電子署名法の解釈とかで、法律家は細かいこと色々言うんですが、法的にはほとんど差異はないと私は思います。

小笠原:本当にそういう、前から課題だったことが、今回のいわゆるCOVID-19の広がりで、ものすごくあらわになったじゃないですか。

これだけ緊急事態宣言だ、自粛しろ、自宅にいろ、在宅で……。でも押印での出社は認めるって「なんじゃそれ」みたいな。

水野:なんか本当に、こんなにいろんな日本の商慣習で履行できていないみたいなものって、昔からたくさんいわれていたと思うんですけど。

今回、非常に興味深かったのは、コロナにおいてやっぱり会社に行かなきゃいけない理由が、押印という文化に寄っていたところがわかりやすく出たというのは、興味深いところだと思います。

小笠原:ですね。東さんの会社、日本総研さんって、外から見ると固そうですけど…。

:はい(笑)。固いとは思います(笑)。

小笠原:そういう問題って起きなかったんですか? 

:押印問題ですか? 

小笠原:押印出社問題とか。

:もともとうちの会社はけっこうそこは…。かなり分散型・リモートで働いていたので、理論上は別にオフィスに行かなくても働けるんですよ。真っ先にオフィスがガラガラになりましたから。

1回目の打ち合わせのようなかたち。オフィスいらないんじゃないかの議論も、とっとと出ましたね。

マネジメントの問題ですよ。業種にもよるかもしれないんですけど。

小笠原:なんか緊急事態宣言中のアンケートで『話せなくてさみしい』みたいな話って、マネジメント層のトップ3に入ってくるんですけど。

:(笑)。

小笠原:いわゆるその、若手のところには(『話せなくてさみしい』という項目が)上位には入ってこないってアンケートもありましたね。

:(笑)。

小笠原:でもやっぱり、硬い柔らかいではなく、分散とかリモートとかをもともと認めていたところは、当然困らなかったという当たり前の話ですよね。

:そうですよね。相手方に引っ張られますよね。だから基本、私たちのオフィスはリモートにしたんですが、やっぱり相手方の話があるので、しかたなく輪番で組んだというのはあります。周回で回しているという。

これからのために「法律をどう変えるか」

小笠原:そんなところで、質問が。孫泰蔵さんという方から来ております。

(一同笑)

小笠原:ちょっと泰蔵さんから質問が来ると、ドキドキしますよね(笑)。

水野:いやあ、急にふられてもちょっと困る感じ、怖い感じがします。

小笠原:まず「New Normな法案、お二人ならどう考えますか?」と。ド直球で聞かれてますが(笑)。

水野:New Normな法案。うーん、ちょうど今週スーパーシティ法案とか、衆議院を通ったりしていましたけれども。

小笠原:スーパーシティ、これ東さんがいるので、あえて聞きますけど……。

:呼ばれましたからね。はい。

小笠原:スーパーシティってあれ、参加する人のインセンティブ少なくないですか? 

:そうだと思う。だからまだ、ぼやっとしているでしょ? 

小笠原:インセンティブ設計がまだ甘そうだな、と思って見ていたんですよね。

:そうなんですよ。ただ、おそらく次のCOVID-19、コロナショックが起こるとまったく次元が違う話になると思います。

それまでは、たぶん同じような話で「まあ小粒だよね」と。「今までの延長上だよね」という捉え方にしかならなかったと思うんですけど、たぶん今はすごくタイミングがよくて。

小笠原:お二人にそれぞれ聞きたいんですけど、これからの新しい当たり前、ニューノーマルな状態に、新しい基準、規範としてNew Normが必要というのが僕の思っていることなんですけど。

新しい状態に持っていく、どんなことでもいいんです。お二人が思いつく新しい当たり前。「こんなふうに変わっていったらいいな」のために、どんな法律をどんなふうに変えたらこうなるんじゃないかみたいなのって、何か思いつくことってありますかね。

水野:なんか自分の最近の興味は、個別の法律の問題もあるけれども、法律の作り方とか変え方自体を変えたほうがいいんじゃないかとか、全体の設計の部分の考え方をガラッと変えていかないとしょうがないんじゃないかというような。いつまでも議論が進まないんじゃないかという、興味がそういう方向に移っています。

もちろん個別の法律でここを変えたらとか、そういうものもありますけれども、なんかもっと上位の法律の作り方自体とか、議論の作り方、起こし方とかムーブメントの起こし方みたいなものをちょっと考えていきたいなというのは思うところですよね。

お答えになっていないかもしれないけど。

小笠原:それって、あれですよね。法のデザインの仕方を変えよう、リデザインするのではなくて、デザインの手法そのものを変えてしまおうというNew Normなわけですよね。

水野:そうだと思います。そういう言い方はできると思いますね。

小笠原:そっか。法の作り方。法律ってどうやって作るんですかね。

水野:(笑)。それはいろんな……。いちおう国会で作ることになっていますけど。まあ、日本は霞が関の行政が下地を作って、いちおう国会で議論して、それが法案になっていくという流れがありますし。国会議員が主導する議員立法もあり得ますけれども。

ほとんどが前者のかたちでできあがっていくことが多いというのが、すごくざっくりした説明になっちゃうんですけど、法律のでき方といえますかね。

やっぱり国民不在というか、代表している国会議員や霞が関に任せっきりになりがちというのはやっぱりあるのかなと思うんですけど。

小笠原:国はそういうかたちですよね。地方行政って、条例をいろいろ変えていっているんですかね。どうなんだろう。 

水野:条例は、基本的には大きな枠組みとしては「法律の範囲内で条例を定めてください」という流れがあって。憲法でそう規定されていて、条例制定権とかっていいますけれども。

ただ2000年以降での地方分権の流れの中で、どんどん地方に独自の手法とか独自の取り組みをやってくれというふうに、大きく権限を明け渡していった時代があって。

いちおう今も、そういう流れの中で地方独自の試みというのが推奨されている、という建前なんですが。

一方で条例の作り方というのは、過去の最高裁での判例があったりして。いわゆる法律が定めているよりも義務を付加させるようなそういう上出し(うわだし)条例とか、横出し条例とかそういう用語が使われるんですけれども。義務を増やしたり、重くする方向での独自色のあるルールというのは作れるし、そういうことは行われるんです。

でも、軽くする方向とか緩和する方向での独自条例というのは、作れない、あるいは非常に作りづらいと考えられていますね。

ただ私は、このコロナもそうですし、ニューノーマルの、今日のいろんな2つの前のセッションの中でも、やっぱり実験していかざるを得ないし、いかなきゃいけない。そういう変化に対応していかないといけないという流れの中で、それは地方自治体も変わらないので。

最近、首長の人とか自治体の人に呼ばれてアドバイスをするときには、やっぱり独自色のある条例というものをどんどん打ち出していかないといけないんじゃないか、そこを積極的に地方のほうからデザインして、国のほうにむしろ提案するぐらいのルールを作っていくべきなんじゃないか、みたいなことをよく言っています。

それが憲法の解釈的にも、いちおう可能なんじゃないかなと私自身は考えていますね。ちょっとすみません。そこは難しい話になっちゃうんですけども……。

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