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吉藤オリィ氏インタビュー(全3記事)

「ルール=絶対」に隠された"合理的"な理由 吉藤オリィ氏が語る"古臭い慣習"との付き合い方

日本の社会において、教師や上司から古い慣習・時代遅れのルールを強要されるシーンはいまだによく見られます。「なぜですか?」と聞いても「自分たちもそうだったから」「昔から決まっていることだから」と返され、辟易することもしばしば。そんな構造を変え、真に生産的で皆が気持ちよく取り組める「新しいルール」を社会に実装していくにはどうすればいいのか? 「世の中の明らかに時代遅れな制度、ルールにはテクノロジーをぶつけていけ」という、ロボットコミュニケーター・吉藤オリィ氏に話を伺いました。本パートでは「古いルールが変わらない理由」などについて語ります。

「ルール」が変わらない理由

――古い慣習に関係することで、日本には「ルール=絶対」という意識が強く根付いていると感じます。

ルールの存在自体は別にいいのですが、例えば「なんで朝9時出社というルールなんですか?」と質問すると「理由なんか知らないけど、そう決まってんだよ!」と怒られるような。そもそも質問すること自体が悪いみたい風潮がありますが、それはなぜでしょうか?

吉藤オリィ氏(以下、吉藤):ある程度脳のリソースを「本来自分がやるべきこと」に集中させるために「管理」という言葉があったり「ルール」という言葉があると思っています。そういう意味では、なにからなにまで、例えばこの国の法律であるとか、全部を考えるっていうのは、それはもう哲学に近い話になってくると思っていて。だからこそ、自分が本来したいことに集中したいと考えたときに、ルールが役に立つこともあると思ってますね。

で、そのルールができた背景を知ることは、超重要であると思ってはいるんですけれども。単純に多くの人がたぶんそこまで、自分の仕事が忙しい中で考えられていないこともあるよな、と思っていて。だからたぶん「そういうもんだ」と言ってる人たちが悪いというよりは、たぶん「『そういうもんだ』としか答えられないんだろうな」と思いますね。

――それについて深く考えたりとか、議論したりする時間が、忙しい中で取れないから。

吉藤:あとは不自由してないし、困ってないから。それと、生まれた国とかと違って職場であればなおさら、職場選びのときに「この会社が『ネクタイを締めることがルールです』ということを理解した上で入ってきてるんですよね?」って話だと思ってて。

――はい。

吉藤:そこはそのとおりだなって思う。じゃあ「なぜネクタイを締めなきゃいけないのか?」というのは、確かに疑問を抱いてもいいかもしれないけども。そこに対して突っかかることを考えると、単純にその会社を運営している側が「うちのチームはこれでいきたいんだよ、それをちょっと理解してくれ」というだけな気はするかな。

ただ時代によってそこは、確かに変わっていくべきところもあると思っているので。なんでもかんでもルールに従うのがいいわけでもなければ、なんでもかんでもルールに逆らえばいいわけでもなく。時代に合わせて「このルールはそろそろもう時代遅れなんじゃない?」って気づいたときに、それを議論できる土壌があったほうがいいなとは、常々思ってはいますね。

ただ、ルールを議論することはすごくいいと思うんだけど「ルールを議論すること自体」が目的になるとイヤだなって思ってたり。「ルールを疑え」って言いながら、みんな疑い始めるとロクでもないことが起こると思っていて。

疑いたいやつがちゃんと気づいて「そろそろこのルール、古くないっすか先輩」みたいな。「社長、これ何年前に作ったルールですか?」みたいな。「もう令和ですよ」みたいなことを言う人が、何人かいればいいかなと思ってますね。

――「この問題にはこういう問題点があるから、こういう方向にしたらどうですか」という目的があって、その議論をするんだったら意味があるけど。

吉藤:そうそう。

――「なんか今のルールを壊したい」という謎の思想でもって議論すべきじゃない、ということですよね。

吉藤:そうですね。それがもちろん、ちゃんとその人なりにね。例えばだけどLGBT的な観点から「女子トイレと男子トイレと、もう1個トイレ作ったほうがいいんじゃないですか?」みたいな話を会社に提案すること自体は、強引な提案ではなく、双方しっかり話し合えばいいんじゃないかなとは、すごく思っています。

当事者・外野の意見の違い

――Twitterで「車椅子を改造することに対して、当事者以外から『車椅子というのは福祉の機器なんだから、遊びに使うな』と言われた」というエピソードを書いていらっしゃいました。

吉藤:はい。

――「車椅子は福祉機器としてのみ、使うべき!」という固定観念による批判に対しては、どのように対処すべきなんでしょうか?

吉藤:批判はあってもいいと思います。それはあくまで、その人の意見なので。実際「車椅子が特別なものだと思いたい」当事者もいます。

――実際乗ってる人が?

吉藤:そう、乗ってる人が。「俺はその意見に賛成だ」というリプもありました。一方で「俺は車椅子に乗ってる側。乗りたくないのに乗らざるを得ないような人がいる中で、健常者が遊び半分で車椅子に乗ってほしくはない」という意見もあって。

それもそうだと思う。ただ私は「そういう人の意見はわかった。けど私は単純に乗り物だと思ってる」ということです。だって普通の会社で使ってるようなオフィスの椅子、ローラーがついてるところを電動化してるようなもんじゃん、って思ってるんですよ。

――確かに。

吉藤:それを障がい者だけが使うっていうのは単純にズルいし、みんなむしろ使ったほうが車椅子に対する理解も広がるし。「私はその方がいいと思うけどね」と。私はそういうスタンスってだけの話で。なので私は、そういうことを言ってくる人たちに対して「しょうもないこと言いやがって!」と言う必要はないかな? と思ってます。

――こういう意見がある人はこうだし、私はこう思っている、というスタンス。

吉藤:はい。ただそれはむしろ、その人がロジカルがぶっ壊れた感情的なことを言っているとか、私のことがキライで言ってるとかじゃない限り、聞く価値はあるかなと思っています。

とくにTwitterって、そういうことができる場だと思ってるんですよ。というのも、例えば私の会社で私に対して、そういう意見を言ってくる人はあんまりいないと思うんですよね。

――確かに(笑)。

吉藤:一応まだ小さい会社だし、それを理解した上で入ってきてる人たちだし。で、たぶん私がやってるオンラインサロン「オリィの自由研究部」というのがあって。ここに入ってくる人たちもたぶん、私がやっていることが好きだから入ってきてる。月1,000円を払って来てるわけだから、たぶんそこに来てまでわざわざ「俺は違うと思うよ」っていうのも。

いや、それはそれで建設的な意見ならいいと思うんだけど。たぶん広い意見ではない。それはそれで偏ってるんで。で、気の合う友人たちはたぶん、空気読んだりするところもあるだろうから。だからそういう意味では、Twitterでいっぱい文句言われること自体は、それが攻撃的でなければとくに問題ないのかなとは、私は思いますね。

周囲の賛同を得られないなかで、何かを実行するには

――「分身ロボットカフェ」の構想の話でも、なかなか周囲の賛同を得られなかったというエピソードを拝見しました。

吉藤:はい。

――それも「反対意見はあると思うけど、自分はこう思うよ」というお考えで、実行に移されたという感じでしょうか。

吉藤:実行に移せるものは、全部実行に移してきました。でも私の場合は、実行に移すときって、自分のポケットマネーでやるんですよ。

会社のお金を使う場合、それは私のお金じゃないわけですよね。つまり人のお金を使ってやろうとか、人の労力・人のスキル、他人を動かそうとか。自分が完全に自由にできる時間・お金以外のものを動かそうとすると、やっぱりそこってちゃんと納得できるものが必要だと思うんですよ。そこでやろうとすると説得が必要ですけど、自分がやりたいと思ったことに対して、自分のお金と時間でやるぶんには、なんの説得も必要ないですよね。

――そうですね、確かに。文句を言われる筋合いがない。

吉藤:そうです。じゃあどこかの瞬間で、仲間を見つけてくるとかお金を調達してくるとかって、要はプレゼンテーションが必要なんですけど。そのプレゼンテーションをするためにもなにかが必要だっていうのであれば、その「なにか」までは私が勉強して、私のポケットマネーを何十万とか何百万とか全財産を突っ込んでやってます。

「それだけのことを、本当に自分の中でやりたいのかどうか?」という気がしていて。借金してでもやりたいかどうか、みたいな。個人で取れるリスクを使って。そこまで本気でやると、周りに本気さも伝わりますしね。

そういう点で私は今まで「OriHime」というロボットも10年前はまるで理解されなかったし、視線入力装置「OriHime eye」というALSの患者さんのところで作ったプログラムも、私が個人で作ったから特許取れるところまでやれた。でももしあれをスタートの時点から「きっとめっちゃいいものができるから!」みたいな。なんの根拠もないことを言って人を巻き込んでいくと、たぶんそっちのマネージメントにすごいコストかかるし、うまくいかなくて方向転換する時に大変だと思っていて。

巨大なOriHimeである「OriHime-D」もそうだし。本にも書いたんですけど「夢AWARD」という、優勝すると2,000万円の融資がもらえる大会に6〜7年前ぐらいに出たときなんかも。優勝したら2,000万円借りられるんだけど、2位だったらもらえないわけで。それに対して「会社のリソースを使っていいか」って言っても、許可下りないわけですよね。「じゃあいい、私がやる」って言って、ポケットマネー60万円ぐらい突っ込んで、3ヶ月でインターンたちと冬休みとかでひたすら作って。それで優勝したと。

――武道館で、大観衆の中で発表したというやつですよね。

吉藤:そうです(笑)、1万人の前でやらせてもらったんですけど。そういう意味で、私はつまりここに関しては、やっぱり自分がしたいことなので。「気合と根性と我慢がイヤ」って言ってますけど「自分がやりたい気合と根性と我慢」は、私は全力でしますよ。

「合理的かどうか」ではなく「自分がやりたいか」

吉藤:ラクしたいことはラクしたほうがいい。けど「苦労したい」という欲求も人にはあるんですよ。なのでそれはもしかすると「名刺交換したい」に近いかもしれないけど。要は「合理的かどうか」じゃなくて「自分がしたいかどうか」なので。

――情熱を傾けられるかどうか。

吉藤:実は私が気合で我慢してるものがあって。いつも「黒い白衣」(吉藤氏が自身でオーダーし、作成した黒いコート)着てるじゃないですか。

――着られてますね(笑)。

吉藤:これね、毎年、夏は暑いんですよ(笑)。

――(笑)。でも「オシャレは我慢だ」みたいな感じでしょうか。「着たくないものを着る我慢」なのか「暑いのを我慢する」のか、みたいな。

吉藤:そうです。でもこれ、私はただ一つだけ反省点があって。耐えてしまったんですよね。「オシャレは我慢」ということに対して。これがもし真夏で40度ぐらいとか「これ以上はさすがに死んでしまう」レベルになってくると、私はここに対してお金を投下して、中にクーラーとか扇風機を内蔵する改造をし始めたかと思うんですけど。13年間「黒い白衣」を着続けるとですね、徐々に体が慣れてきてしまって。30~35度くらいだとまあいいかってなってしまってる。

――(笑)。

吉藤:意外といま、冬でも夏でも、着ててもそれほど影響ないようになってきてるんですよ。

――すごい! 進化ですね、ある種(笑)。

吉藤:そう、進化してるんですよ(笑)! でも逆に言うと、人間が服を冬にたくさん着て、夏たくさん脱いで。夏はクーラー、冬はこたつで……とやることによって、今まで人間は退化していたと言えるかもしれない。

――緩やかに退化してたけど、同じ格好を1年中することによって、戻ってきつつあると。

吉藤:そう。本来の生き物の対応力を、見つけることができてるかもしれませんね。

――(笑)。

吉藤:ただこれがやりたかったことかどうかは別ですけど(笑)。

――(笑)。でもそういうところには、努力と根性で立ち向かうこともある。

吉藤:そう、要は自分がしたいなら。だから、すべて合理的に、すべて楽したいから研究しているわけじゃないのです。「孤独の解消」ということを私は、命かけてやりたいと思っているので。命かけてやりたいと思っていることに対しての労力は、惜しまないって決めています。

ただし一番いい方法をとりたいとは思っていて。ほかの人たちをとにかく説得して、計画書立てて研究計画作って「これでアカンかったら、こっちのプランBに移行します」みたいなものをいっぱい作ったりとか。「さぁこれでどうでしょう!」みたいな感じで仲間たちに頭を下げて。

「俺はこれをやるから協力してくれ」ということを、実績もない、お金もない、全部人任せで人望もないという「なにもないとき」に、それはきっとできない。

そういうときに、それらを一個一個身につけていってから動かす方法もあるかもしれないけど、私の場合はいろいろ考えた結果、自分がやるのが一番早いと思ったので。

――自分でやって実績作って、それに賛同してくれる人が集まってくる。そういう順番、みたいな感じですかね。

吉藤:ですね。いろいろ順番はあると思うんですけどね。先に人望をつける人もいるし、先にお金を稼いでから好きなことをやる人もいるでしょうけど。私は先に自分でやってしまって、ビジョンを形にして見せつけて「こういうのが俺が作りたい最終ゴールなんだよ。まだちょっとこのへん足りないけどさ」という。「だからここ手伝ってくれないか」というやり方を、私はしています。

インターンシップとか、オンラインサロン「オリィの自由研究部」とかはまさにそんな感じで、背中と共に隙や失敗も隠さずにボロボロと見せていくので、皆も参加してもらって一緒に孤独が解消される研究をガンガンしようぜと。そんなつもりでやっています。

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