2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――気合いと根性に関して、体育会系の先生が生徒に「自分たちの時代はウサギ跳びが当たり前だったから、お前らもやれよ」と無茶振りする、みたいな話を聞くことがあります。下の年代に自分たちと同じ苦労や古い慣習を強制させる人々は、なぜそういった行動に出てしまうのでしょうか。
吉藤オリィ氏(以下、吉藤):それで自分たちがうまくいったからだと思いますよ。
――自分たちの成功体験を忘れられないからということでしょうか。
吉藤:というよりは、たぶんそれが本当に子どもたちのためだと思っているケースもあります。もし「子どもを痛めつけてやろう」だったらただの体罰なので、それは罰したほうがいいんですけど。
たぶんね、我々も次の世代に指導するとき「自分たちが一番いいと思っていること」を教えるしかないんだろうなと思ってます。その人(指導者)にとっては一番いいと思っているやり方が、教えられている子たちにとって合わなかった場合、反発が起こるという。つまり、世の中の変化が早くなりすぎていて。たぶんこれまでの変化が緩やかだった時代っていうのは、それで間に合っていた。
おじいちゃんが孫を教えることはできなくても、お父さんが子どもに教えるくらいはできた。「俺がやってきたからこうやりな」みたいな。自分が自転車の乗り方を練習したように、子どもにも同じように自転車の乗り方を教える。
――転んで転んで、だんだんと乗れるようになるみたいな?
吉藤:そうそう。ただ最近、自転車もめちゃくちゃ進化してたりとか。そもそも自転車じゃなくてセグウェイかもしれませんよね。
――たしかに。
吉藤:でもそうなってくるとけっこう酷な話で。お父さんが息子に教えることがなくなってしまう。これはなかなか辛い話だと思う。
――テクノロジーの進化のスピードが早すぎて、自分たちが子どもだった時代のものが、もはや存在していない。だから子どもに「これどうやってやるのか教えて」と言われても「いや、やったことないから教えられない」みたいな状況になりつつある、と。
吉藤:そうなっていると思ってます。つまりこれって、学校の先生がまさにそうで。生徒はみんなネットネイティブであり、生まれたときからスマホが存在し、ネット掲示板が存在し。SNSがあって、Twitterがあって。YouTubeから、おもしろい情報が山ほど入ってくるような状態。
しかもいまは自分でエンタメを選べるから、めちゃくちゃおもしろいYouTuberの説明を聞いて目も耳も肥えてる生徒たちが、学校にジッと45分座って先生のおもしろくない話を聞かされるという状態に対しての、そもそものベースが先生が若かったころとは違うと思うんですよ。
――たしかにそうですね。エンタメが本当に限られていて、テレビと新聞と本くらいしかなかった時代だったから、先生の決しておもしろいわけではない話も何十分とか耐えられたけど。今はそれと比べてしまうから。
吉藤:今はYouTuberがライバルですよね。先生は。
――おもしろいですね。たしかにそうかもしれません。子どもが家で一番見てるエンタメって、YouTubeかもしれないですしね。
吉藤:とくにいま、みんな家にいるじゃないですか。パソコンの前にいるじゃないですか。ZOOMで授業やるじゃないですか。これってもはや、YouTuberですよね。
――そうですね、たしかに(笑)。画面上の人ですもんね。
吉藤:そうそう。これでおもしろくなかったら最悪ですよね。でも実は、同情すべきは子どもではなく先生かもしれないです。
――おもしろくない授業を受けさせられている子どもが被害者というよりも、それを配信せざるを得ない先生。別にYouTuberになりたくて先生になったわけじゃないのに、みたいな。
吉藤:先生たちはたぶん、自分たちが学生の頃に自分の先生からすごくいろんなことを学んできた。人との対話の大切さだったりとか、命の大切さだったりとか、道徳精神を学んできた。
でも先生に憧れて先生になった人が、次の世代の子どもに同じこと(自分たちが学んできたこと)を伝えようとしても、時代・価値観があまりに変わっているために、誰も話に耳を傾けてくれない。現代のスピード感が残酷すぎるのかもしれないと思ったりはします。
――現代的なインプットがないのに、アウトプットさせられてるみたいな状況ですかね?
吉藤:逆にもうちょっと切羽詰まったら、学校の先生もある意味そのへんを自覚しはじめて「このままじゃいけない」とか、むしろ「今の俺たちが子どもを導くとか教えるということ自体が、今の時代に合わないんだ」って気づいて。むしろ優良なネットコンテンツとか勉強の仕方、勉強のおもしろさを伝えていくような立場になる。
つまりティーチャーというよりもファシリテーターみたいなポジションですね。これまでどおり「年上が年下を導く」という考え方は今の時代には合わないと思います。
――それはインタビューや著書『サイボーグ時代』でもおっしゃっていますね。あと年上年下の話だと、著書ですごくわかりやすい例えだなと思ったのが「2000年に出たPCと2020年に出たPC。どちらも値段が一緒だったら、新しい方を選ぶに決まっている」という話。
吉藤:人間と機械の一番の違いって何かと考えたら、人間って年功序列なんですけど、機械って“逆年功序列”なんですよね。
――新しいほうがいいですもんね、どう考えても。
吉藤:なんでそれが起こるかというと。新しく出てきた機械とかツールというのは、今までの進化の歴史を完全に受け継ぎ、知識だったりスペックだったりを完全に受け継いで、新しいものが出てくる。だから明らかにスペックが高いわけですよね。
いま人間ってどうかというと、人間の頭の中にストレージされた記憶だったり知識だったりというのは、だいたいウィキペディアとかのネット上にすでに存在している、と。
勉強なんかもYouTube見ればわかる、というようなところで。すでに知識においては、人間はネットには絶対に敵わなくなってて。ネットにどれだけ早くアクセスできるかという点で、多くの年上の人は年下の人たちには及ばないわけですね。
――スマホネイティブだと、効率的な検索の仕方を知ってるから?
吉藤:そうそう。もうこれが当たり前になってるからです。機械との対話がネイティブだからですよね。そこで敵わないとした場合に、いま人間が年下に勝てるものがあるとすれば何かといえば、例えばその人ならではの経験であるとか。一般的な教科書に載っているようなマニュアルではなく、その人自身のパーソナル的な価値と。
もう1つはノウハウとか、うまくやれてるというような成功体験といったもの。その人の持っているスキルセットやその時代を生きていたからこその価値観、文化みたいなものは、簡単には真似できないので。そこはより大きな価値になってくるんだと思うんですよね。
あとは単純に人としてのおもしろさとか。キャラクターとか。それを持っている人は、年下だろうが年上だろうがたぶん頼られてくる。けどたぶん、知識や過去に身に着けた能力とかだけで戦ってきた人たちというのは、いまはネットに完全に負けてしまうので。ある意味、AIに取られたような状態になっているなと思います。
吉藤:あとここ最近思っているのは、役に立つとか便利さっていうもので自分を価値化している人は、このさき生きていくのが難しそうな気がしてます。
――それはどういうことですか?
吉藤:「この人はお金持ってるから」というのと同じかな。あと単純に「この能力があるから頼られている」というふうになってくると厳しい。わかりやすい例でいうと、サークルがあったとして。旅行サークルの中に、1人だけ英語を話せる人が居たら、みんなからすごく重宝されるんだけど。
たぶんそいつがどんな嫌なキャラクターでも、英語を話せたら海外行くときは頼られるから、キャラクター性を磨く必要がないわけですよ。
――なるほど。
吉藤:でもこれってたぶん、ポケトークとか通訳系のアプリが登場したりした瞬間に、個人の能力というのは置き換え可能なものになってしまうわけですよね。つまり便利さとか能力とか立場だけで尊敬を集めること自体が、生きやすい時代ではなくなってきている気がしていて。
だとしたら極端な話、お金も能力もなくなって寝たきりになってしまったとしても。1日1回毎日遊びに来てくれるような友人はなかなかいないかもしれないけど、1ヶ月に1回遊びに来てくれる友人が30人いれば、わりと楽しい毎日を過ごせる気がしませんか?
――たしかに、それは間違いないです。
吉藤:って考えてくると、いまってたぶん「役割がある人とか仕事できる人が頼られる」みたいなことがあるかもしれないけど。ここを早くお互い様みたいな関係にして、それこそ本当に関係性みたいなものを強化するとか。単純に人として付き合ってて楽しいみたいなこととか。
つまり相性だと思いますけど。自分と相性がいい人と、人生の大事な時間とか20〜30代を過ごして思い出を一緒に作っておくとか。同窓会のときにたまたま会えるような腐れ縁を作っておくみたいなことのほうが、たぶん今後の価値としては重要になってくるような気がしていて。
そうなってくるときっと先生という生き物を見たときに……うちの父親も学校の先生ですけど、厳しめだけどけっこう隙の多い人間なので生徒から適度にいじられたりするけど、好かれてもいて。だから勉強を教えられるだけというよりも、むしろお互い様な感じで生徒からも教えられることがいっぱいあって。
生徒から若干舐められつつも「先生、こんなん教えたろか」みたいな感じで。でも先生は先生のほうで「これ、お前でけへんやろ。俺がやったるわ」みたいな感じの、いい相互関係みたいなものがあると友達になれると思うんです。
――先生と生徒ではあるけども、そもそも人間として友人関係でいられる。
吉藤:そう。たぶんそうじゃないと、役割だけで見ると学校卒業したあとに縁が切れてしまうと思うので。そういう、たまたまのきっかけが終わったあとも友達であり続けるような関係性というのは、今後生きていくうえでけっこう重要になっていくような気はしてます。
――その重要性に気づいてない人が多い気がします。例えば先生の話でいうと、フレンドリーに接してくれる生徒に対して「俺は先生だぞ!」みたいな感じで上から抑えつけようとしたりとか。ましてや「YouTuberに学ぼう」という先生は少ないイメージがあります。
吉藤:たぶんそれってYouTubeとかITとか若者の流行りとかっていうよりも、さっきと同じで「普段やってないことを実行に移すモチベーションは何か」という話だと思ってて。子どもが「先生、左手でペン書くのめっちゃ楽しいよ!」って言ってても、さてどうしたものかじゃないですか。
右手あるしなと。もしかしたら次の世代は「足で文字書くのすげぇ楽しいよ!」って言ってるかもしれないですね。さらに次は「足でパソコン打つの超いいよ」みたいな可能性も。
――(笑)。
吉藤:それが自分の孫の世代で起こったときに、我々は果たしてどうなるのか。これにはたぶん2つあると思ってて。「そんなこと知らん!」って無視するのを含めると3つだけど。
「じゃあやってみようか」って思える。つまり新しいことに興味が持てるかどうか。「左手でペンを持つってやったことないけど、みんながそんなにいいって言うならちょっとやってみようかな」って思えるかどうかが、まず1つ。
ちなみにこれをやるとね、今の時代的に「完璧である必要がある」と思ってるタイプの人はやりにくいと思います。要は左手にペンを持ち替えた瞬間、それに慣れた子どもよりも能力が落ちるので。
――それに耐えられない?
吉藤:そうそう。
――常に自分ができてないと気が済まない。完璧主義者というか、まじめな人ということですか、ある種。
吉藤:たぶん今までのリーダー像って、完璧主義だったと思うんですよ。減点方式で、なんでもできるようなタイプ。じゃないといけないっていうタイプは、自分が苦手なことをやってると、その瞬間に自分の教え子とかに追い抜かれてしまうのに耐えられない。例えば、ガリ勉でめっちゃ勉強できるタイプが、運動会に出たら評価がガーンと落ちるみたいな。合唱コンクールに出るとみんなの足を引っ張ってその瞬間にヒエラルキーが逆転するみたいな話に近くて。今の時代は、もう完璧を装うことが不可能だと思っている。
――周囲にバレてしまう?
吉藤:そう。そもそもそれは無理ですよね、という話で。だから完璧じゃないという事実をお互い尊重しながらも、この人だったらって人がついてくるような状態。それが、たぶんこれからの中心に行く人たちだなと思ってて。
そういうリーダー像というものが、今はまだ大人たちの中では「やっぱり学校の先生とか上司たる者、部下や生徒に頭下げてなにか教えてもらったり、舐められるわけにはいかない!」みたいな。そういったマインドの人たちにとってみると、ちょっとやりにくいのかもしれないけど。さっき言ったみたいに、興味を持ったところでそれをやらないかもしれない。
そしてもう1つが、やらざるを得ない状態になるということです。
――それは具体的にどういうケースでしょうか??
吉藤:例えば「コロナの影響で学校に行けないから、どうやったらネット越しにいい教育コンテンツを与えられるのだろうか」と前向きに考えるとか。それをやらないとクビになってしまうから、やらざるを得ない状態になるというようなこと。そう考えると、つまりこれってYouTuberだから彼らから学べばいいんだ! ってYouTubeを勉強しようというのは、ピンとくる人たちならやるような気がするんですよね。
つまり人間のモチベーションって「興味を持てるか」「お尻に火がつくか」の2つだと思ってて。そういう点では、いま学校の先生たちが変わろうとしないのであれば、どうやったら興味を持てるかを考えるか。どうすれば火がついた状態に自分を追い込めるか、といったコントロールは必要だと思っています。
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