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話し言葉の「書き起こし」から、読み手を惹きつける文章を生み出すには?(全4記事)

凝った表現、小難しい単語は不親切 広く読まれる文章に不可欠な「言葉の精度」の高め方 

「書く」を学び合い「書く」と共に生きたい人の共同体「sentence(センテンス)」。2016年に発足したこちらのコミュニティは、オンライン・オフラインの両軸で、全国各地の会員さんと「書く」を学び続けています。これまでは現役編集者によるトークイベントなどを開催してきましたが、2020年から新たな取り組みとして、ライブ配信イベント「sentence LIVE」を始動。その第3弾となる本企画では「書き起こし〜執筆におけるノウハウと心構え」について、2名の編集者が考えを語ります。こちらのパートでは、言葉のチョイスやリード文の書き方など、具体的な文章の作成フローについて説明します。

凝った表現、難しそうな言葉は不親切

岡島たくみ氏(以下、岡島):(スライドを指して)「かっこつけた表現より、デフォっぽい表現がいい派です」というのを書いているんですけど。

小山和之氏(以下、小山): ほう。

岡島:これは、僕がちょっとひねくれているだけな気もするんですけど。「ちょっと凝った表現をしようとするのは良くないな」という考えの派閥(にいます)。

無理に強そうな語彙、難しそうな言葉を使わずとも「大切」とか、誰でもわかりやすいような言葉を使ったほうが親切だよねと思っていて。

言葉を使って、言葉の精度を高めていくことをやります。難しい言葉ほど、めちゃくちゃ具体的になっていって、うまくはまれば精度は高まるんですけど、その分「ガチガチの文章」というか。読みにくい感じの、意味が固定化された感じの文章になっちゃう気がしているので。それを避けたいというのもあるんですかね。

小山:固定化されるのを避けたいというのは、どういうことなんですか?

岡島:ごめんなさい。日本語が下手ですね、こんな話をしておきながら。「意味の幅が狭いとか広い」とかのほうが正しいかも。「大切」ってわかりやすいじゃないですか。「大切」ってすごく広くて「大切」という広い意味の中に、もっと細かく「どう大切なのか」を伝えられる言葉があるんですよ。具体的に。

そこまで意味をガチガチに固定しなくても、もっと広い言葉でいいじゃん。そっちのほうが楽じゃん、と僕は思っています。もちろん場合によるんですけど、それは場を選びつつ。「全部が大切、大切!」と言ってる文章読んでも「うーん……」となるんで。

小山:(笑)。

岡島:選びつつ、あまり別に難しい言葉を使わなくてもいいんじゃないのかな? というのが、僕の派閥ですね。あとは、無意識にジェンダーバイアス的なものとか。ジェンダーだけじゃなくて、いろいろバイアスがかかっている表現に注意しようというのはありますね。

「ビジネス“マン”」とか、ついテレビで使われている言葉だと染み付いているんですけど、バイアスかかってるんで。そういうのを1個1個注意して直していく、ということを大切にしております。

小山:言葉の精度の中で、ということですよね。

岡島:そうですね。そういう意味では「精度」とも言えるんですかね。「ビジネス“マン”」という言葉からは女性の方が漏れちゃっているんですけど、そこを正しく含めるという意味では、精度を高めるとも言えるのかなと思いました。

取材音源を記事の形に

岡島:次は(スライドを指して)⑤「記事の形に整える」。ここまでにできたものって「取材の音源の使いたい部分が、読みやすい形になった」というだけで記事じゃないので、これにタイトルだったりいろいろを付けます。

僕がここまでやってきた工程を「やりながら見出しを付けていく」という方もいらっしゃいますし、人によりけりかなと思っています。僕は最後に全部書くんですよね。そっちのほうが楽だなと思っていて。タイトル、見出し……当たり前ですけど、これは全部「本文でどこを使うのか」がわからないと、なかなか付けられないですし。

見出しも最後の最後で「さっき組み替えたこことここ、入れ替えたほうがいい」みたいな感じになって「見出しの元になっていたエピソードが(段落から)抜けちゃったから、じゃあ見出し変わるよね」ということにもなるので、最後に付けます。

記事の頭に入るリード文も、僕は最後に書くんですけど。(スライドを指して)「読者さんに関心を持ってもらうための要素を、最適な順番に並べる」とあります。読者さんに関心を持ってもらうための要素の中に、記事の中でおもしろいポイントをリードに載せておくというのはあるのかなと思ってて。

記事の中でおもしろいポイントというのも、本文をある程度書いた後の方が「ここがおもしろかったな」というのを、しっかりわかっている状態だと思うので、最後に書きますね。そっちの方がコスパがいいんじゃないかな? と思っています。

締めの文は、そりゃそうという感じなんですけど、最後に書きます。締めを書くのか書かないかというのは、記事によると思うんですけど。小山さん、どうですか?

小山:僕は「締めとリードはこういうことを言う」みたいなのを決めてて、書くのは最後ですね。タイトルも同様で。見出しは「(この塊は)どういうことを言うブロックで、どれくらいの分量になる」というのを知っておきたいので。文字起こしを並べた段階ぐらいから「ここに見出しが入る」みたいなのは、意味の分割みたいな感じで入れていますね。

「見出し」「入れるもの」「見出し」「入れるもの」。あとは先に決めちゃって、具体で言う言葉だけ最後に整えるという感じですね。

岡島:じゃあ、一緒かもしれないですね。僕も「ここに見出しを入れるぞ」というのは意識しながらやっていますね。文字起こしの話のときには、みなさんすごいチャットを書いてくださっていたのに。今、ぜんぜんなくなっちゃった(笑)。

小山:(笑)。

記事1本にかかる時間

岡島:文字起こしの話は、みなさん思うところがありますよね。

小山:この辺は逆に言うと、そんなに違和感・ツッコミポイントなくという感じなんですかね? 僕は岡島さんの話を聞きながら「文字起こしをどこまで削るか?」については、(岡島さんは)かなり削るなと思ってましたね。

「大枠、これで書いていくぞ」となったとき、僕、多いと1万字を超えた状態で並べて、そこから原稿にしていくんですけど。その間に、要素をけっこう削るみたいにやったりするので。(岡島さんは)けっこう削ってからやったな、と思っていました。

岡島:そうですね。僕も1万字くらいから始めちゃうときもありつつ、やはり「1回ちゃんと直したけど、後から削るのは時間かかっちゃってもったいないな」と思うことが多くて。チクショー! とけっこう思うんで。

小山:(笑)。

岡島:書くの遅いんですよ、僕。できるだけ速くしたいんでがんばって削ろうとしつつ、そうならないときもありますね。がんばって削りたいなと。

小山:1本にどれくらいの時間かかってます?

岡島:完全に記事によるんですよね。60分くらいの取材音源の記事で、速いときで6~7時間くらい。かかるやつだと倍くらい。文字起こしのフローは完全に今、無視しましたね。文字起こしが上がってきた状態からですね。だいたいそこから6~7000字くらいの取材記事にするときに、早くて6~7時間、かかるものだと倍とかかかるんじゃないですかね。

小山:はい、はい。

岡島:それは「地の文と会話文」の記事にするときと「質問文と会話文」にするときでも違いますし。質問文のほうが、やはり速いんですよ。楽なんですね。いちいち地の文にするというのは、変換の量が多いので。あとはそもそもの、取材の取れ高?

取れ高というより、話していただいた方の言葉がどれくらい整理されているかで、けっこう変わってきますね。根拠がめちゃくちゃに省かれていたりしたときに、それをこちらで汲み取って書くのをやったりするとか。

ものすごく文脈が飛んでいたりするところを、がんばって繋げるという作業で。けっこうしっかりしたものにしようとすると、それですごいかかっちゃうときはありますね。小山さん、どれくらい時間かけられていますか?

小山:文字起こしからの記事化で、平均10時間くらいかかっちゃうんじゃないかなという気がしますね。

岡島:かかりますよね。

リード文にはメディアごとの「型」がある?

岡島:質問で「リード文で読者に関心を持ってもらうためにしていることってあるんですか?」というのをいただいています。

小山:あるんですか?

岡島:これ、あるにはあるんですけど。それを細かく持ちすぎると、けっこう良くないなと思っていて。仮にビジネスの媒体だとして、1行目にある事業の課題、社会問題について触れて、その後にそれを解決しているこんな会社があるよって……ごめんなさい。めちゃくちゃ説明が下手だな。

こういうときは、具体例を持ってくるのが一番いいんですが。1行目に読者さんが関心を持ってそうなトピックを持ってくる。2行目にトピックについての解決策っぽい、読者のためになるっぽい人がいるよということを書く。それが誰なのかというのを書く。その人に聞いて何を喋ってくれたのかという、注目ポイントを書く。みたいな型で、あるビジネス系の媒体では書いていて。

それは、スローガンさんという人材の事業をやられている会社の『FastGrow』ってメディアなんですけど。そこだと基本的にはこういう型で書いていたりして。でも、それ(型)を他の媒体に持ち込んで良いことが起こるのかというと、そうならない気もしていて。

例えば僕は今、アルという会社で漫画家さんの作品を紹介したりするんですけど。リード文に時間をかけても、読者さんは興味ないんですよね。(そこで紹介されている)漫画を読みに来ているんで。

漫画家さんのインタビューとかを読みに来る場合って、そもそも(その漫画家に)関心を持った状態で記事を開いてくれたりするから、そういう型を使おうとしても時間がかかって、会社としてコスパが悪くなるだけなので。じゃあ「○○先生にこれを聞きました」とだけ書いたりで、リード文の形がぜんぜん変わったりするんですね。

ある程度、型を作ることがいいことだなと思いつつ、じゃあ「その媒体のターゲットがどういう人で、その人が何でこの企画に興味を持ってくれるのかな?」ということを、いちいち考えて書くうちに、その媒体の型っぽいのができていくなと思いつつ。「関心を持ってもらうために、考えるのが大事」ぐらいの抽象度で僕は留めています。

小山:媒体の目的によって「関心を引くためのフォーマットを意図的に作る」よりも「もう関心を持って来てくれているはずだから、早く本旨に入ったほうがいいよね」みたいなパターンがあると。

「話し言葉」を残す必要性

小山:今の話というか、ここまでの話と関係ありそうだなと思った質問が来ていて。「話し言葉として残した方が良いときと、書き言葉に書き換えたほうが良いときの判断基準ってありますか?」って、たしかに難しいな。

岡島:なるほど。ありますよね。まあ、記事によりけりというより、媒体によりけりなんですかね。柔らかく書いていい媒体は柔らかく書いていいと思いますし、これを話すとなると、そもそも「話し言葉と書き言葉の違い」をしっかり説明する必要があるんですかね?

小山:口語と文語ということですよね。

岡島:口語と文語。難しいですよね。めちゃくちゃ急に具体になると思うんで。でも僕は基本的に、話し言葉として残す必要はそんなにないと思ってます。

「敢えて話し言葉にする理由って何だっけ?」と考えたときに、そんなに(理由は)ないと思うので。「それで取材対象者の人柄が伝わる?」みたいな話もあるかと思うんですけど、そもそも、その記事で対象者の方の人柄を伝える必要があるのかな? って考えると、別にないことが多いと思うんですよ。

読者さんは取材対象者に興味があるわけじゃなくて、多くの場合、その人の話している内容に興味があると思うので。その人の人柄をそこまで出さなくて良くね? と。

岡島:僕のほうにもあとで出てくるんですけど、本田圭佑さんに取材したときに、あえて関西弁を残したりはしましたね。それは、そっちのほうが読む人の中の「本田圭佑っていう人格」ができちゃってるので。「本田さんっぽいなと読者が感じたほうが、心に残りやすい」という目的があったので。

それでSNSで取り上げてもらえるかなと思って。実際に「本田さんの口調だ~」みたいな感じでのシェアも見られたので、そのときはあえて残したりしたんですけど。

小山:映像とかでパブリックイメージがある人だと、それから離れた言葉になってしまってすげぇ堅いこと言ってると「ど、どうした?」ってなっちゃいますよね。

岡島:そうですよねぇ。パブリックイメージができてる人なのかなぁ。本田さんのときとかは、ぜんぜん関西弁で言ってないところを僕がわざと嘘の関西弁にしたりしてたので。よくないのかなとも思いつつ(笑)。

言葉をこっちで書き換えていく中で、日本語の形がまるっきり変わっちゃったりするので。そこがうまくはめられるといいですが、ミスると事故っちゃうかもね~みたいなことを思ったりしました。

小山:たしかに、そうだと思います。やり過ぎてもちょっと違和感出たりしますし。でもあんまりパブリックイメージっぽいしゃべり方をしてなかった、例えば取材当日あんまり元気がなかったみたいなときに「これは寄せたほうがいいんだろうか?」みたいな悩みもあったりするかもしれないです。

岡島:ありますよね。登壇してるときはめちゃくちゃ賑やかだけど、取材で会ってみるとめちゃくちゃ静かみたいな。そういう人って、本当にいらっしゃいますよね。「ふだんはこういうテンションなのかぁ」という方もいらっしゃいますし、逆にそのまんな方もいらっしゃいますし。いろいろですねぇ。

ファクトチェックは職業倫理である

小山:いい具合の時間になってきたので、一旦本旨に戻そうと思うんですけど。ファクトチェックは大事な話なので、一応言っときましょうか。

岡島:めちゃくちゃ大事です。職業倫理です。ここサボっちゃうとダメになっちゃうので。ダメになっちゃうっていうのは、長期的にいいことがマジでないと思うので。大事です。

(スライドを指して)「全部の表現の正しさを確認します」と書いてるんですけど。リード文とかで「ここで人気な人がいます」とか「これが注目を集めています」とか書きたくなっちゃうんですよね。でも「その注目っていうのは、誰からどういうふうに、どれだけの量が集まっているんだ」と本当に言えるのか? というのは、すごく大切な観点だなと思ってて。

それを言えないのであれば、もっと具体的に「今回そもそも、なんでその人に話を聞きに行ったんだっけ?」と。「なんでその人が一家言あると言えるのか」ということをしっかり説明できる。それはなんとなくの感覚「だって人気じゃん」「だって注目されてるじゃん」じゃなく、それを論理的にどれだけ言えるのかを書くことは、すごく大事なことだなと思ってます。

それと、事実に誤りがないかって確認を1個1個していく。「2020年の1月にこういうことがありました」とか、1個1個しっかり本当かどうかを確かめて。ちょうどいい記事があれば「この媒体はある程度信用できるな」というところの記事かどうか確認する。基本的には一次情報ですね。トピックの中心になってる人や法人が正式に出している声明とかがあれば、そのリンクを直接貼るようにしてます。

あと人名、会社名、サービス名、その他なにか正式名称があるものは、全部が一次ソースですね。それを取り上げた媒体とかが間違ってることもザラにあるので、一次情報を見て、会社だったら会社概要のページを見て、1つひとつ表記を確かめます。

これは、FastGrowのデスクチェックをされている長谷川賢人さんという方がいらっしゃるんですけど、長谷川賢人さんから「正式名称は敬意を持ってコピペ」というのを教わっているので、1個1個コピペしております。ファクトチェックはすごく大事だなと思っております。小山さん何かありますか?

小山:名前だと旧字体と……ヤマザキの「ザキ」が立つのほうの人とかの、けっこう細かい違い。ワタナベさんとか無限に「ナベ」がいるじゃないですか。絶対に自分を信じちゃいけないと僕は思っているので、コピペはめっちゃ大事ですね。

岡島:「ザキ」は見逃しがちなんですよね。ワタナベの「ナベ」はいけるんですけど。「ザキ」は失念しがちなんですよ。「右上が大になってるのか」ってあったりするじゃないですか。大変です。

小山:あと、取材対象の人が言っていたことを「良い意味で信じない」のはけっこう大事だなって思ってて。「5億円調達したんですよ!」とか言ってるけど「リリースだと4.9億じゃねぇかよ!」みたいなことが普通にあったりするので。

岡島:あはは(笑)。

小山:それを疑ってかかるというより「その人がそうやって言ったと思われちゃうことが、その人自身にとっても損」だったりするので。正しいことを言っている人だって認知を外に持ってもらうためにも、正しい情報を探すっていうのは大事だったりしますよね。

岡島:それに関連して「うちの事業伸びてます!」っていう人に「どう伸びてるんですか? ファクトを記事にちゃんと載せたいので教えてください。どの数字がどれだけ伸びているのかを教えてください」と質問するのもすごく大事だなと思ってます。毎回ちゃんと聞きますね。

じゃないとビジネス系の記事だったら「なんとなく伸びてるらしい」みたいな感じで、説得力ないじゃん! となっちゃったりするので。記事を詰めていく中で、怖いなぁと。大事です、ファクトチェック。

小山:原稿を書くときのファクトを押さえるのもそうだし。取材の段階でファクトがないと伝わりにくそうみたいなところは、ファクトを取りに行くっていう感じですね。

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