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The Strange Case of the Missing Sunscreen Gene(全1記事)

人類が失ってしまった「日焼け止め遺伝子」の謎

紫外線は5月頃から強くなりはじめ、7~8月にピークを迎えると言われています。外出する機会が減っていますが、紫外線は窓ガラスを透過して家の中にも降り注いでいます。ところが、日焼けに悩まされる人類と違って、多くの動物たちは自前で「日焼け止め」を生成できる遺伝子を持っているようなのです。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、ヒトが進化の過程で失った能力について解説します。

ほぼすべての魚・鳥・両生類・爬虫類は体内で「日焼け止め」を作れる

ステファン・チン氏:お日様の下、ビーチでバケーションを過ごして帰宅したら、顔にサングラス跡がくっきり……最悪ですよね。トマトのように真っ赤な日焼けも、うれしいものではありません。さらには、皮膚がんも心配になりますよね。ところで、自前の日焼け止めを体内で作れるため、そういった心配がいらない生物がいるのです。

魚類、鳥類、両生類、爬虫類のほぼすべてに、体内で「日焼け止め」を作る遺伝子があることが、数年前に判明しました。これはつまり、私たち哺乳類以外の、ほぼすべての脊椎動物の主要集団です。私たちがこの遺伝子を失った経緯は、当初に遺伝子を獲得した経緯と同じくらい不思議なものです。

1960年代、生物学者たちは、海藻、バクテリア、サンゴなどが、太陽光の紫外線から身を守るために、マイコスポリン様アミノ酸、略称MAAという成分を生成していることを発見しました。UV光線を拡散・反射させる人間の日焼け止めの成分とは異なり、MAAはUV光線を吸収します。

5億年前に藻類から受け継いだ能力

その20年後には、生物学者たちは、魚や魚卵からガズソールという類似の成分を発見しました。それまでは、自前の日焼け止めを作れるのは微生物だけで、魚は微生物を摂取することにより、それらを体内に取り込んでいるのだと考えられてきたのです。

2015年、ゼブラフィッシュにガズソールが生成できることが判明し、そのための遺伝子が特定されました。そして特定されたその遺伝子は、その他の生物にもあるかどうかが調べられました。すると、何とほぼすべての鳥類、爬虫類、両生類、そして他の魚類にもあることがわかったのです。

とはいえ、これらの生物のすべてがこの遺伝子を発現して、自前のUVブロック成分を生成しているのかまではわかっていません。しかし、これほどまでに多くの脊椎動物のグループが同じ遺伝子を持っているということは、この遺伝子は、脊椎ができたばかりのごく初期の生物から受け継がれてきたのでしょう。

研究者たちは、その生物は、ガズソールを作る能力を5億年前に藻類から受け継いだと考えています。この遺伝子は、親から子へではなく、まったく異なる生物間の「遺伝子の水平伝播」により、藻類からその生物に受け継がれた可能性があります。

哺乳類が「日焼け止め」を体内で生成できなくなったワケ

ガズソールの伝播に関しては、具体的にどのように起こったかまではわかりませんが、基本的な考えとしては、藻類が動物の細胞に入り込み、その藻類のDNAの一部が動物のゲノムに組み込まれたというものです。DNAには、ガズソールを生成する遺伝子が含まれており、遺伝子はその生物の子孫に受け継がれました。そして、私たち哺乳類を除いたほとんどの脊椎動物に、数億年もの間受け継がれてきたのです。

私たち哺乳類は、進化の過程においてこの遺伝子を失ってしまったようです。その理由は、哺乳類は必ずしも、日光を好む生物ではなかったからだと考えられています。

私たちは、哺乳類が地球を席巻している現状を当然のものと考えていますが、実はこのような状況は、非鳥類型恐竜が絶滅した6千500万年前の大量絶滅以来のことなのです。古生物学者が、私たちが生きている新生代を「哺乳類の時代」と呼ぶのは、このためです。

2万500千万年前頃には、哺乳類はほとんどの時間を闇の中で過ごしていました。日中にあたりをうろつく巨大な恐竜から身を隠すためです。闇の中で長時間を過ごすことにより、哺乳類は、体毛や鋭敏な触感など、その特性の多くを獲得しました。これらの特性は、保温や光に乏しい環境下でのエサ探しに役立ちました。

しかし闇に暮らすことにより、哺乳類は、ガズソール生成能力などの生存に不要な特性を失うことにもなりました。ごく初期の哺乳類の多くにDNAのランダムな突然変異が増え、ゲノムが変異してガズソールを生成しなくなったと考えられています。

この遺伝子が、仮に生存に必要なものであったならば、変異を起こした個体はほとんどが繁殖できずに終わり、変異を継承できなかったはずです。しかし、身を守る必要があるほど大量の日光を浴びないことから、日焼け止めの生成は不要になり、変異はそのまま継承されました。時を経て変異が重なり、遺伝子を持つクラスタは消滅したのです。

同様のことが、西アフリカのシーラカンスにも起こっています。哺乳類以外でガズソールを持たない、数少ない脊椎動物のうちの一種です。この魚は、暗い洞窟の中で生息し、夜に狩りをします。

ヒトは体毛を失った代わりに、メラニンを生成する能力を得た

今日では、多くの哺乳類が日光から身を守る独自の手段を発達させています。ゾウは泥の中を転げ、カバは有名な血の色の汗をかきます。

そして私たち人間の多くはメラニン色素を持っており、これはガズソール同様にUV光線を吸収します。私たちの祖先は、2千800万年前に濃い色の体毛を失った時に、メラニンを生成する能力を発達させました。

しかし、メラニンは最大でも4分の3程度のUV光線しか吸収することはできない上、薄い肌色の人々は、そもそも持っているメラニンがあまり多くはありません。そのため、少なくとも現時点では、強い日光を浴びる際には日焼け止めをたっぷり塗ることが必要です。

研究者たちは、ラボでガズソールを生成する方法を研究しており、遺伝子操作で作られたイースト菌である程度の成功を収めています。洗い落とす必要があったり、それによりサンゴに害を与えたりする可能性のある、日焼け止めで通常使用されている成分とは異なり、すでに海洋環境内に存在するガズソールは、環境に優しい点で優れています。

いつかガズソールは錠剤になり、べたべたするローションに悩まされたり、誤って目にスプレーしてしまったりする日々は終わるかもしれません。私たちには、魚の日焼け止め遺伝子を取り戻すことはできませんが、少なくともうまく利用することはできるのです。

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