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The Lost City and the Origin of Life | Weird Places(全1記事)

生命は深海底から始まった? 「ロストシティ」の謎

2000年に偶然発見された「ロストシティ」と呼ばれる熱水噴出域。ここには、一般的な熱水噴出孔とは全く異なる性質を持った「白いチムニー」が存在していました。12万年前から存在するこの場所を調査することは、生命誕生の秘密を暴くことに繋がるかもしれません。そこで今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、そんな深海底の謎を探ります。

他と比べて10倍近くも古い、白いチムニーの存在

「熱水噴出孔」という言葉を聞いたことはあるでしょう。熱水噴出孔は、海面下何千メートルもの深海底にあり、地球の深部から、鉱物を豊富に含有する強酸性の黒煙を、チムニーが噴き上げています。地球上でもっとも過酷な環境の一つであり、現存のもっとも興味深い生物たちの棲み処でもあります。2000年、他の物とは一線を画した熱水噴出孔が発見されました。それほど深くはない海底に、他の熱水噴出域にあるものよりも10倍近くも古い、白いチムニーが存在していたのです。この熱水噴出孔の研究は、生命誕生を解き明かすことにつながると考える科学者もいます。潜水調査艇アルビン号に搭乗し、水深750メートルから900メートルの大西洋中央海嶺付近を調査していた研究者たちは、広大な熱水噴出域を探していたわけではありませんでした。巨大な白い尖塔やチムニーが60メートル近くもそびえ立つ、どこまでも広がる熱水噴出域に偶然に遭遇したのです。ドラマティックな姿とアトランティス岩体にあるそのロケーションから、研究者たちはこれを「ロストシティ」熱水噴出域と名付けました。ロストシティは、他の熱水噴出域に比較して際立ってユニークであることがわかりました。一般的な熱水噴出孔は「ブラックスモーカー」と呼ばれ、火山活動が活発な地域に形成されます。このようなケースでは、地球外殻内の水は地中で高温に熱せられ、岩石は溶解して深海底に噴出します。この熱水は、深海底の超高圧により気化を妨げられているため、沸点よりも高温です。この超高温の水は、接触する岩から硫化鉄などの鉱物を分離させるため、黒く変色するのです。ロストシティの白いチムニーは、これとは真逆のプロセスである蛇紋岩化作用によって形成されます。この作用は、海水が、マグネシウム、鉄、ケイ酸塩を含有する、緑色を帯びた鉱物であるカンラン石と反応して起こります。カンラン石のうち宝石として扱われるものがペリドットです。皆さんも実際に見たことはあるかもしれませんね。

カンラン石は、地球の地殻下の、粘性の高い融解した岩石層であるマントルで形成されます。マントルはカンラン石を豊富に含み、ロストシティでは通常よりも地表にほど近い位置に迫っています。ロストシティの位置が、中央海嶺と断層の交接部に近いからかもしれません。理由は何であれ、マントルが地表に近いため、海水が地殻の裂け目を通り、カンラン石に接触し、化学反応を起こします。カンラン石の結晶構造の隙間に海水が浸透し、カンラン石を蛇紋岩に変えるのです。

カンラン石の鉄分と酸素の原子が結合し、磁鉄鉱が生成されます。そして水素の原子が結合して水素ガスが発生するのです。ところが、これに海中の二酸化炭素が反応すると、ある物質が発生します。二酸化炭素の炭素の原子と、蛇紋岩の水素の原子が結合して、メタンガスが発生するのです。これが、実はロストシティを特異なものにしている理由なのです。この話には、また後ほど戻りましょう。まず大切なことは、こういった一連の反応により熱が発生し、周辺の海水温も上昇するのですが、その水温はわずか40度から90度にすぎないことです。これは、ブラックスモーカーに比較して低温です。このプロセスで二酸化炭素が海水から分離するため、海水の酸性度もそれほど強くなりません。

さて、二酸化炭素が海水に溶解して反応すると炭酸が生じます。それがさらに反応を起こすと、炭酸塩と重炭酸イオンが発生します。最終的には水素イオンが発生し、海水の酸性度が上がります。ところが二酸化炭素が無いと、まったく逆の反応が起こります。ロストシティのチムニーがpH9なのはそのためで、これは通常の水よりも重曹に近い程度です。これは、強酸性の水を噴出する他の熱水噴出孔とは真逆の性質です。

ロストシティのチムニーが吹き出す煙が白いのも、同じ理由です。炭酸カルシウムという鉱物の名は聞いたことがあるでしょう。貝の殻やサンゴを形成する白い物質です。これは、酸性度がそれほど高くない海水中であれば、建材としてうってつけです。酸性度の高い海水の場合、浮遊する水素イオンは、カルシウムではなく炭酸イオンと反応します。水素とカルシウムのイオンはどちらも正の電荷を持っており、海水に含まれる場合は、負の電荷を持つ炭酸イオンと結合するところです。しかし、実際に起こるのは水素が共有結合を起こして炭酸塩へと変化し、さらには重炭酸塩へ変化する反応です。つまり、重炭酸塩は負の電荷を持っているにも関わらず、正の電荷を持つカルシウムとは結合しません。ロストシティのようにpHが高く水素イオンが無い場合は、重炭酸塩は重炭酸塩のまま変化せずに、カルシウムと結合することができます。白みがかった色は、こうして生まれるのです。

12万年前から存在するロストシティが、生命誕生の地?

ロストシティが他の熱水噴出孔と異なる点が、もう一つあります。それは、ロストシティが遥かに古いことです。(ロストシティ以外の)ブラックスモーカーの活動源は、火山活動です。活動熱源が枯渇したり、火山活動が構造プレートの移動によって終息すると、チムニーは活動を停止します。ロストシティは、活動源がこうした気紛れで変わりやすい火山活動では無いため、12万年前から存在していると考えられています。これは、同じ熱水噴出孔でも、ブラックスモーカーの12倍以上の古さです。さらにその活動は一向に終息の気配を見せません。ロストシティは、とても興味深い場所なのです。熱水噴出孔としてその特異性が際立っているだけではなく、ロストシティは生命の誕生を解き明かす手がかりも与えてくれます。さきほどのメタンの話に戻りましょう。メタンは最も単純な構造の炭化水素です。地球上では、生物が生成する炭化水素のが大半を占めます。そして、既知の生物はすべて、生きるために必須であるたんぱく質、脂肪、糖などの成分を生成するため炭化水素が不可欠です。生命がまだ存在しなかった頃、最初に誕生した生命は、生物由来ではない炭化水素を使う必要がありました。その炭化水素の元となったものが、蛇紋岩化作用だったかもしれません。ホワイトスモーカーは珍しい熱水噴出孔であり、ロストシティは確かに、その最大にして最も有名なサンプルではありますが、唯一無二の存在ではありません。科学者たちは、ロストシティのような場所が、地球上、さらにはタイタン、エウロパ、エンケラドゥスなど、遠く離れた太陽系の他の天体の衛星においても、生命誕生の源である可能性があるのではないかと考えています。

地球上でいかに生命が誕生したかはまだ解明されておらず、このような深海底が始まりの場所ではないかもしれません。とはいえ、生物を形成する成分が噴出されている、このような場所を研究するのは、よいスタートであるといえましょう。さらに、ロストシティには、他にも生命の秘密が隠されている可能性があります。科学者たちは、そのユニークな微生物コミュニティとその生息地である温かなアルカリ性の海水を、研究し始めたばかりなのです。

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