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Good News: Daffodils Are The Worst(全1記事)

スイセンは薬になる? 動植物の命を脅かす“粘液”に隠されたパワー

春の訪れを知らせてくれる、スイセンの花。その見た目のかわいさとは裏腹に、人やペット、さらに他の植物へ害を与える有毒な粘液を持っています。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、スイセンが持つ粘液「ミューシレージ」が他の植物に与える被害と、人にもたらす恩恵について紹介します。

人やペット、植物に害を与える粘液「ミューシレージ」

オリビア・ゴードン氏:スイセンは、ほがらかな黄色の花で、春のシンボルですね。しかし実は、冷酷な殺し屋でもあるのです。その毒は、人やペットだけでなく、他の植物にも有害です。ところが近年、この毒にはすばらしい利用法があることがわかってきました。

スイセン属の植物は、球根から花に至るまですべてが有毒です。スイセンが持つ化学物質の「リコリン」は、ヒトやペットに有害です。しかも、他の花も枯らしてしまいます。

切ったばかりのスイセンを、チューリップやバラなどと一緒に花瓶に生けると、他の花は急速に萎びて、葉が黄ばんでしまうことに気づくことでしょう。つまり、早く枯れてしまうのです。

バラの切り花の寿命は通常であれば11日程度ですが、スイセンと一緒に生ければわずか3日でしおれ、チューリップであれば7日程度もつものが4日でしおれてしまいます。生花業者は、これを「花瓶エフェクト(vase effect)」と呼んでいます。

これはスイセンの茎が原因です。茎の中には、「ミューシレージ」という粘液が詰まっています。切りたてのスイセンの花の茎からは、その粘液が大量に分泌されます。これ自体にはさして問題はありませんが、他の切り花を同じ花瓶に生けてしまうと、水と一緒に毒物も、茎からストローのように吸い上げられてしまうのです。

植物によって異なる被害

ミューシレージによる被害は、植物の種類によって異なります。バラの場合は、ミューシレージの糖分により間接的にしおれます。花瓶の水に生息する細菌には、糖分はごちそうです。

バラの茎には、外界の細菌などから防御するマイクロバイオーム(注:細菌・微生物がまとまったもの)が十分にないため、細菌が茎に侵入して詰まらせてしまい、水を吸い上げることができなくなるのです。

チューリップなどには、「ナルシクラシン」が害となります。ナルシクラシンとは、カフェインやニコチンなどと同じ成分に属するアルカロイド(注:植物由来の窒素を含む有機塩基類)です。

ナルシクラシンを含有するのはスイセンだけではありませんが、有害であることには変わりなく、さまざまな方法で他の植物に害を与えます。ナルシクラシンは、生存に不可欠な細胞分裂やたんぱく質の合成を阻害するのです。また、植物の成長ホルモンであるオーキシンにも干渉します。

つまりナルシクラシンは、気の毒なチューリップが生気を保つのに必要な要素を、全て阻害してしまうのです。

生花業者は、スイセンだけ別の花瓶に数時間活けて、スイセンの茎の汁を抜きます。水を入れ替えれば、ほとんど毒素は残りません。しかし、新たに茎を切断したり傷付けたりすれば、毒液がまた漏れてしまうので注意が必要です。

抗がん剤としてのポテンシャルが明らかに

とはいえ、ミューシレージは決して無駄にはできません。ミューシレージを好む植物もあるからです。例えばアイリスは、スイセンと同じ花瓶に活けた方が長持ちします。スイセンが、アイリスの老化を促進するたんぱく質や酵素の働きを阻害するため、花持ちを良くすると考えられます。

スイセンの茎の汁の恩恵を被るのは、アイリスだけではありません。医学の父、ヒポクラテスは、はるか紀元前5世紀から4世紀もの昔、ガンの治療その他にスイセン油の軟膏を使っていました。

1960年代、ナルシクラシンの分離が成功すると、抗がん剤としてのポテンシャルが認識されました。現代では、ナルシクラシンの細胞の成長と生存を阻害する能力が、ガンのコントロールと治療に活用できるか、研究者たちから注目を集めています。

スイセンは、見かけによらず攻撃的な花です。そして実は、それが魅力でもあるのです。

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