2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
How Studying Bacteria Almost Kept Us From Discovering the Flu(全1記事)
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ステファン・チン氏:咳やくしゃみが出て、体の具合が悪くなれば、ウイルスやバクテリアが原因だな、とわかりますよね。しかし、病原体の存在が知られたのはそれほど昔のことではありません。紀元前400年ころの医師たちは、感染症は「四体液」のバランスが悪化したものだと考えました。
1700年ころには、感染症を運ぶのは、目に見えない霧だと考えられていました。今日の私たちには、感染症の原因となるのはウイルスやバクテリアなどの微生物、病原体だとわかっています。
しかし、感染症の原因となる微生物を特定するのは、実は意外にも難しいのです。1882年、細菌学者ロベルト・コッホは、結核菌が肺結核をおこすことを立証しました。
1890年には、コッホは後続の学者たちが同様の発見ができるような枠組みを確立しました。感染症と病原体とを紐づける際に、研究者が参照するべきチェックリストを作ったのです。そのステップは、以下のとおりです。
その1、病原体は、健康体の動物には見られず、感染症にかかった動物たちから見出されなければなりません。
その2、病原体は純粋培養できなければなりません。つまり、感染症にかかった動物から採取された微生物サンプルは、19世紀バージョンのペトリ皿で単離培養できなくてはいけないのです。
その3、その2において培養した病原体を健康な動物に感染させた場合、同じ感染症を引き起こさなければなりません。
その4、その4はリストに含まれないこともありますが、その3において感染症になった動物から、その1で見られたものと同じ病原体が、再び分離されなければいけません。
これらのステップは、「コッホの原則」として知られています。病原体がコッホの原則を満たせば、その感染症の病原体であると特定できます。
残念なことに、コッホの原則にはいくつか欠陥がありました。例えば、原則その1を見てみましょう。結核菌は、健康体の個体にも見られます。潜在性結核感染症と呼ばれるもので、これはコッホの原則には該当しません。モルモットを使ったコッホの実験では、この状況を作り出すことができなかったからです。
原則その3にも、欠陥があります。病原体はすべての健康な動物に同じ感染症を引き起こすべきという条件は、免疫システムの差異が考慮に入っていません。健康な動物であれば、抵抗により病原体を排除できたり、すでにその感染症に対する免疫ができあがっていたりする可能性があるからです。
しかし、もっとも大きな混乱の元となったのは、原則その2でした。純粋培養される微生物とは、1種類のみを指すのですが、多くの病原体は、単独で分離することが不可能なのです。例えばウイルスなどは、感染する宿主の細胞機能をハイジャックして増殖します。つまり、ペトリ皿上での純粋培養は不可能です。
しかし、バクテリアであれば大抵は純粋培養は可能です。原則その2は、病原体の純粋培養を要件としたため、20世紀初頭の研究者たちは、感染症研究において、バクテリアばかりを病原体として特定しました。そのため、誤りが多々起こりました。
例えば、マラリアは血中に寄生する寄生虫により引き起こされますが、1880年代にはイタリアの沼地に発生するバクテリアがその原因だとされ、”Bacillus malariae”と名付けられました。
イヌに発熱・嘔吐を引き起こし、命を奪うこともあるイヌジステンパーは、1920年にようやく病原体がウイルスであると特定されるまで、まったく別のバクテリア群が原因だとされてきました。
インフルと呼ばれる、おなじみのインフルエンザウイルスは、1892年、コッホの同僚により、誤ってバクテリアが病原体とされました。このバクテリアには、「インフルエンザ菌」という名前が付けられてしまったのです。
インフルエンザの研究においては、発症患者の痰と鼻水のサンプルが必要です。さて、インフルエンザの研究を難しくしている一因は、毎年冬に流行のピークが来るにもかかわらず、研究者たちが、一度に大人数のインフルエンザ感染者を確実に確保できるのは、パンデミック時だけであることです。パンデミックの発生は、数十年に一度です。
1892年の研究結果を確かめる最初のチャンスは、なんと次のパンデミック、1918年まで待たなくてはなりませんでした。しかも、1892年版の研究の反復実験は不成功だったのです。
当時は、近代史上稀に見る最悪のパンデミックと、第一次大戦の終焉というカオスのただ中であったため、その理由が、研究がうまくコントロールできなかったためなのか、単純に結果が間違っていたためなのかはわかりませんでした。ニューヨークでは、とりあえずの備えとして「インフルエンザ菌」のワクチンが作られました。当時、インフルエンザはウイルスが原因だと正しく証明できた研究は、少なくともたった一つだけしか存在しませんでした。
科学者たちが、インフルエンザの原因はウイルスであると、疑いの余地なく特定できたのは、実に1933年にインフルエンザのパンデミック発生以降でした。それは、フェレットがモデル動物として採用されたおかげでした。フェレットは、インフルエンザに感受性があり、人間に似た症状を呈する唯一の小型哺乳類だったのです。
つまりコッホの原則、特に原則その2が、バクテリアを病原体としない感染症を研究する際に足かせとなってしまったことは否定できません。
ではコッホの原則は、無意味だったのでしょうか。とんでもありません。1880年代以降、科学者たちは、病原体について得た新たな知識に添って、コッホの原則を改良し続けてきました。
今日、研究対象として注目されているのは、微生物そのものではなく、その遺伝子です。科学者たちは、遺伝情報解析により、一つのサンプルから、DNAやRNAなどのヌクレオチドすべての情報を収集し、コッホの原則の改良版を用いて、感染症の症状にもっとも関連性の高い遺伝子を判別することができます。
例えば、1996年、スタンフォード大学の科学者たちは、遺伝子を中心とした7つの新原則を発表しました。遺伝情報解析によって、科学者たちは、これまで分離や特定ができなかった病原体を発見できるようになったのです。しかも、培養の必要すらありません。
コッホの原則は、感染症の原因を特定し始めた研究者たちに、確固たる足場を提供してくれました。もちろん、いくつかの誤りはあり、後年に改良を加える必要があったり、フェレットの鼻づまりなどの犠牲を払いはしましたが、感染症の解明のための正確で分析可能な基盤を築いたのです。
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