2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
The Ridiculous Reasons It's Hard to Measure Sea Level(全1記事)
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ステファン・チン氏:「海面水位」の概念は、きわめてシンプルに思えます。要は、海面の高さですよね。しかし、沿岸部の海面水位は常に変化しています。また、海から何百キロメートルも離れている、ここモンタナ州ミズーラが、海抜976メートルにあるとわかっているのも不思議な話です。
海面水位の定義と計測は、意外にも難しいものです。さらに、その難しさの理由もとんでもないものです。月との関係や地球の地表の凹凸、万有引力の法則が問題になってきます。しかし、こういった数々の障壁にも関わらず、海面水位は測定可能です。
ぱっと見には、海面水位の測定はさほど難しくはなさそうです。もちろん、波浪や気象、潮の干満の変化などがありますが、その平均値を取ってしまえばよいように思えます。嵐が来たとしても通過してしまいますし、潮の満ち引きもせいぜい数時間単位ですから、データが数週間程度あれば充分に思えます。
ところで、地球の海水が押されたり引っぱられたりするサイクルは、実はこれよりはるかに複雑です。例えば、月の公転周期である29日間の潮汐を観測し、その影響を除いたほぼ正確な数値を出すことは可能ですが、これには太陽の影響は含まれません。太陽は、月の半分程度の潮汐を起こします。不運なことに、太陽と月の潮汐は、ばらばらに起こり、時には互いの潮汐を増幅し、時には相殺します。
太陽と月は、19年に1度だけ、直列に並びます。つまり、信頼性の高い平均値を得るには、最低でも19年間は待つ必要があるのです。
19年というサイクルは、実は十分ではありません。なぜなら、太陽の影響を受けるのは、地球の気象も同様だからです。気象による海面水位の変化は、潮汐よりもはるかに劇的です。つまり、精度の高い平均値を得るには、何十年もの歳月が必要になる可能性があるのです。しかし、平均値を得ること自体はさほど難しくはありません。観測を続ければ、徐々に平均値に近づくからです。
ところが、他にも海面水位に影響を与える物は多々あり、これは規則的でも周期的でもありません。例えば、海岸の形状や位置は、絶えず変化しており、それに伴い海面水位も推移しています。
多くの地域において、陸地はわずかではありますが上下に変動しています。海面水位の測定が困難である理由がまさにこれです。私たちが立っている陸地は、実は絶えず変動しているのです。
数万年前、ユーラシア大陸と北米大陸の一部は、厚さ数キロメートルにも及ぶ氷床の下で圧縮されていました。氷床が消滅して長らく経ちますが、陸地は復元し隆起する動きをいまだに見せています。氷床により圧縮されていた、スカンジナビア半島やカナダ北部などの陸地は、重圧から開放され、年間数センチメートルほどの隆起を続けています。
アメリカ東海岸は、氷床の圧力により隆起していたため、現在では年間1センチメートル程度で沈下が続いています。大きな差異ではないように思えますが、わずか数センチメートルでも、異なる複数の地点で起これば大きな差異となります。自然界で生じているこれらの変動は、人の手でもたらされた地球温暖化による海面水位の変化との判別が困難です。
さらに、計測機器も、漫然と地表に設置すればよいわけではありません。前述のように、陸地は変動しているからです。こういった細々とした問題点を回避するため、海面水位の測定には、衛星レーダーが導入されています。
レーダー測定においては、電波が対象物から跳ね返ってくる時間を測定することにより、対象物との距離を測定します。人工衛星に搭載されているレーダーの性能は極めて高く、地上数十キロメートルの上空から、地表に置かれた10セント硬貨を感知するほどです。
衛星レーダーは、隔週で世界中の海面水位を測定しマッピングしてくれるため、変化の観測が可能です。すばらしいとは思いませんか。人類は、静止軌道上に地球を観測する衛星を打ち上げ、常に地表から電波が跳ね返る時間を測定しているのですから。
さて、もう一つ問題があります。実は地球の引力は、地球上すべての場所で同等には働いていないのです。
地域により含有される岩石や水の量が異なるため、地表の密度には変化が生じます。密度の異なる地域には重力異常と呼ばれる現象が起き、地表の水の動きに影響を与えます。引力の強い地域では水は強く引き付けられ集約します。逆に、引力の弱い地域からは水は逃げます。
ずいぶん細かいことを言うな、とお考えの方もいらっしゃるでしょうね。でも事実、地球上のすべての地域で働く引力は等しいと仮定した場合に比べ、海面水位が数百メートル近く上下にずれている海域は存在します。つまり、地球上の海面水位を算出できたとしても、それが地球上すべてにあてはまるとは限らないのです。このように、衛星レーダーは、海面水位の値が複数あることを明るみに出したのです。
とはいえ、海面水位を測定することは無駄にはなりません。近年、海面水位が注目を浴びている最大の理由が、気候変動の解明の手段としてです。気候変動による海面水位への影響は、当然ですが地域ごとに異なります。
ところで、地球温暖化が進むと、この海面水位の上下動にも、驚くべき変化が現れます。これは、氷が溶け出すことによるもので、二つの現象が生じます。
第一の現象は、氷床が海洋に溶け出すと、周辺の海面水位が下降することです。氷床はあまりにも巨大であるため、なんとそれ自体に大きな引力が発生するのです。例えるなら、地球上に小型の月がたくさんあるような状態です。
氷床が水を引き寄せているため、広大な部分が溶け出してしまうと、周囲の水が逃げ出してしまいます。海面水位は、現在平均で3ミリメートル上昇していますが、仮にグリーンランドの氷床がすべて溶け出してしまえば、アイスランドの海面水位が20メートルは下降するはずです。逆に南半球の平均海面水位は上昇します。
第二に、氷床の溶解により地表密度の分布が変わり、地球の自転にも変化が生じるはずです。そうなのです。人類により地球温暖化が進めば氷床は溶け出し、地球の密度は変化し、宇宙規模での地球の動きが変わってしまうのです。
しかも、これは終着点ではありません。地球の自転が変動すれば、地表での水や大気の分布にも影響を及ぼします。自転の変動がほんのわずかであっても、水や大気の動きは大きく変わります。水や大気の動きが変われば、地球の自転にはさらなる変動が生じます。自転が変動すれば、平均海面水位が上昇し、他の海域で海面水位が下降するといった現象が生じます。
つまり、わかりづらいのですが、こういった要因がすべて絡み合い、海面水位は非常に複雑なものとなっており、仕組みの解明は困難で、定義すら容易ではありません。
海面水位の定義は、必要に応じて変わります。気候変動の影響を知りたい場合は、地球規模での平均海面水位が必要とされます。氷床が溶け出すことにより、ある都市にどのような影響が生じるかを知るには、一定の海域での推定値が必要になります。
この先、人類が存続するにおいて、海面水位の把握は、困難ではありますが有意義であり、役に立つことなのです。
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