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Killer Bees: The Real Zom-bee Apocalypse(全1記事)

品種改良で生まれた、凶暴すぎるミツバチ「キラービー」 ブラジルで起きた伝説級の事故の顛末

国連環境計画によると、世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はハチが受粉を媒介しているそうです。実はハチは、未来の食糧事情にさえ影響を与える存在なのです。そんなハチをもっと私たち人間の役に立つ存在にしようと、品種改良をした結果、ある事故が起こりました。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」は、人工ミツバチに関する研究とその顛末について解説します。

人工的に生み出された失敗作のミツバチ「キラービー」

オリビア・ゴードン氏:新種のミツバチが、直近の60年ほどの間に、ゆっくりと南北アメリカ大陸を北へ勢力を延ばして来ています。ただのミツバチではありません。その名を「キラービー」と呼ばれているハチなのです。

このミツバチは、性格のおとなしい在来のミツバチに接近し、巣を乗っ取り、女王バチを殺害し、働きバチを奴隷化します。こうしてひとたび巣を設営すると、きわめて獰猛な性質を発揮して守り抜くのです。キラービーのコロニーを刺激してしまうと、何千匹という集団が攻撃をしかけ、攻撃者を執拗に追跡し、毒針を雨のように降らせます。

ところで実は、このハチは偶然の産物であり、実験室で人工的に生み出された「失敗作」が脱走したものです。

キラービーの正式名称は、「アフリカナイズドミツバチ」です。名前の由来は、このハチがセイヨウミツバチとアフリカミツバチの、2種の亜種を交配したものであることからきています。

アフリカナイズドミツバチの外見は、セイヨウミツバチとうり二つであり、専門家でさえDNA鑑定を行わないと見分けがつきません。しかし習性はまったく異なります。

この交雑種は1950年代半ば、ハチを専門に研究する科学者、ワーウィック・カーの手により作り出されました。彼は、凶暴なハチの軍団で世界征服を目論む、マッド・サイエンティストでした。……冗談です。

カーの研究は、ブラジルでの養蜂に適したハチの品種改良でした。ミツバチは、もともとはアメリカ大陸が原産のものではなく、ヨーロッパやアジアの一部やアフリカが原産で、ハチミツや蜜蝋を採取するためにアメリカに持ち込まれたものです。

一部のミツバチが逃げ出したものが野生化してはいますが、本来は牛や鶏のような家畜です。他の家畜と同様、人の手により交配が行われ、集蜜力や病気への抵抗力などの特性が強化されています。これがまさに、カーが試みていたことでした。

セイヨウミツバチは集蜜力に優れてはいますが、ブラジルの気候には適していませんでした。病気に弱く、熱帯の捕食動物の餌食となっていたのです。一方でのアフリカミツバチは、集蜜力はあまり優れていませんでしたが、ブラジルの熱帯気候によく適応し、病気にも抵抗力がありました。

凶暴なミツバチを脱走させた伝説級の事故

カーは、セイヨウミツバチとアフリカミツバチを掛け合わせ、熱帯気候に適した、集蜜力の高いハチを作ろうとしていたのです。ただ一つの問題は、セイヨウミツバチと比較して、アフリカミツバチの巣の防御本能がはるかに高いことでした。

アフリカミツバチがこれほどまでに凶暴に進化した理由は定かではありませんが、生息領域を同じくする脊椎動物の捕食者に対抗するためだったのではないか、と推測されています。ラーテルは怖い物知らずの動物で、ハチの巣を引き裂き、蓄えた蜜や幼虫をむさぼり喰います。対抗するには、ハチ側も凶暴にならざるを得ないでしょう。

しかし、アフリカの養蜂家は、アフリカミツバチの旺盛な防御本能を熟知し、上手に管理して扱っています。そのため、セイヨウミツバチとの交配は、有望視されていました。

実際、カーが生み出したアフリカナイズドミツバチは、ブラジルの気候に非常に良く適応しましたし、ブラジルにおける蜂蜜の生産量向上の立役者になるかと思われました。ところが、凶暴性は消えませんでした。ここでちょっとした、しかし伝説級の、ラボでの事故が起こります。

カーの留守中に、外部の研究者が、26匹のアフリカナイズドミツバチの女王バチを、実験施設からうっかり逃がしてしまったのです。たいへんだ!

アフリカナイズドミツバチは、野生のコロニーを形成し、在来のセイヨウミツバチと交配して、南アメリカ中に広がり始め、あげくは中央アメリカ、メキシコ、アメリカ南西部にまで到達してしまいました。セイヨウミツバチにとって、これは災難でした。なぜなら、エサがアフリカナイズドミツバチと競合する上、競争に負けるからです。また、アフリカナイズドミツバチは積極的にセイヨウミツバチの女王を殺して巣を乗っ取ります。

アフリカナイズドミツバチのおかげで、ブラジルの蜜の生産量は向上しましたが、その反面、きわめて攻撃性の高いハチが、広く分布する事態になってしまいました。外来種もしくは亜種が他の生物を駆逐してしまうケースの、珍しい例です。また、在来していたセイヨウミツバチを駆逐する意図は、人間にはまったくありませんでした。

「キラービー」パニック

しかし、通称「キラービー」によるパニックが起きたのは、ハチの脱走劇から10年も経った後でした。当時のブラジルで政権を握っていた独裁軍事政権を、カーが批判したため、当時の政権や一部マスコミが、カーの失脚を狙い、アフリカナイズドミツバチを「abelhas assassinas」、つまり「殺人ハチ」と名付け、思いのままに操れて人を殺戮するハチを作り出したフランケンシュタイン博士として、カーを糾弾したからなのです。

実際は、アフリカナイズドミツバチが脅威となることは、ごくたまにしかありません。個体としてのアフリカナイズドミツバチの危険性は、セイヨウミツバチとそう変わりはなく、花の蜜を漁っている個体を見つけても、刺される心配はまずありません。アフリカナイズドミツバチが攻撃性を増すのは、巣を守ろうとする時だけなのです。

また、たとえ刺されたとしても、針の毒はセイヨウミツバチとほぼ同等です。ハチの毒にアレルギーがある人を除き、標準的な成人を死に至らしめるには、1,000回ほど刺されなくてはなりません。

ただし、セイヨウミツバチのコロニーと比較して、アフリカナイズドミツバチのコロニーであれば、1,000回刺される可能性は大いにあると言えます。また、アフリカナイズドミツバチが作り出されてからこのかた、刺されて死んだ人は約1,000人ですが、年間に換算すると16人程度になります。

良いニュースとしては、アフリカナイズドミツバチがだんだん温厚になってきているとしう証言が出ていることです。メキシコでアフリカナイズドミツバチを扱う養蜂家の情報や、プエルトリコで行われた研究結果によれば、苛烈な防御行動がだんだん見られなくなってきているようなのです。

より正確の温和なセイヨウミツバチと交雑してそうなってきた可能性がありますし、人間が特に凶暴性を発揮する巣を破壊することにより、人工的に淘汰が行われてきた可能性もあります。

とはいえ、しっかりとした知識と相応な防御服が無いかぎり、下手にハチの巣にちょっかいを出すことは禁物です。ゾン「ビー」を生み出す、殺人ハチの巣でなかったとしても、それは同様ですよ。

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