2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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安藤昭子氏(以下、安藤):じゃあ最後ですね。あと30分ちょっとでざーっとお話をしていきたいと思いますが、もういっこ。アナロジカルシンキングを上達させるための秘訣です。
略図的に考える、ということが書いてあります。先ほどから皆さんに似てるもの似てるものという言い方をしていますけれども、なにかとなにかが似てると思うときは、私たちはたいてい、ある程度の略図化をしてるはずなんですね。
そうしないと、まったく同じものじゃないと似てると認識できなくなっちゃうので。だから、ある程度略図化しながらなにかを比べてるはずです。
安藤:(スライドを指して)例えば、これってわかりますよね。日本地図、もしくは日本列島です。そうなんですけど、日本列島って本当はこういうかたちじゃないですか。でもこれを見て日本列島って思わないひとは、日本人だったらいないですよね。
おそらく、これをアフリカのひとに見せたらわかんないと思いますよ。これは先ほどの3つのアナロジーに必要な要素でいうと、外部知にあたるところですよね。外部知もしくは経験知の、私たちの頭の中のデータベースのなかに、略図化された日本っていうのが入っているんですね。
こういうのをたくさん持ってるんです。そして、私たちの認識っていうのが、まず相当に略図化できるということをいったんちょっと留め置いてください。
これは日本地図、目に見えるもの、かたちについての略図の話でしたけれども、目に見えないもの、概念とか印象とかっていうのも同じく略図化できるんですね。
それってなになにみたいなもんだよね、というのはなにかを略図化して例えて話をしている。ですので、私たちの認識自体も相当に略図化できると。
これは言い方を変えれば、抽象化という言い方をしてもいいと思います。なにか物事を考えていくときに、一歩抽象化をして考えると、パーッとその周りのことが見えていったりしますけれども。この私たちの認識、目に見えないものに関しても、こういう頭の中の動きというのがあります。
このなになにみたいなもんだよね、というのを使って、先ほど皆さんにいくつかワークをしていただきました。
略図的に考える。なにもしなくても略図的には考えちゃってるんですけれども。意図的に、略図的に考えるための型というのもひとつ覚えて帰ってください。
(スライドを指して)これは略図的原型3typeというふうに編集工学では呼んで、私たちも企画などの仕事のなかでよく使う型です。
概念を略図的に捉える3つの視点ということで、プロトタイプとステレオタイプとアーキタイプというふうに書いてます。
類型と典型と原型という言い方もしますけれども。おそらくプロトタイプというのは、ちょっと意味が違ってるかもしれないですけれども、よく聞く言葉です。プロトタイピングするとかね。
なにか頭の中にあるものをかたちにしてみる、というような意味合いでプロトタイプって使うことが多いと思います。
ステレオタイプっていうのも、まあ皆さん使いますよね。その考え方はステレオタイプだよね、というような言い方をすると思いますけれども。典型的なということです。
これはちょっとあんまり聞かないんじゃないかなと思うんですけど、アーキタイプ。原型のことです。編集工学では、このアーキタイプを大事にします。アーキタイプを考えることによって、非常に発想力とか連想力というのが高まっていきます。
もう一回これを図式化して、プロトタイプとステレオタイプとアーキタイプの関係を見てみます。ここになにか情報があったとして、プロトタイプはなにかっていうと、なになにとはつまりと、例えばスマホとはつまりと言って、一言で説明できることばです。
ステレオタイプというのは、なになにと言えば、例えばスマホと言えばiPhoneというような、典型的なものの例ですね。
このふたつというのは、すっと出てくると思うんですけれども、一番頭を使わなきゃいけないのはアーキタイプです。スマホとはそもそもなにか、ということを考えるのがこのアーキタイプです。
これはどこまででもさかのぼれるし、どうとでも考えられる。このアーキタイプをうまくアナロジーしていけるかどうかっていうところで、ものの見方をどれだけ豊かにしていけるかというとことで、キモになってくるところなんですね。
先ほど編集工学研究所の事業案内で、企業さんが自分たちはなにもので、どこから来てどこへ向かうのかということを問い直す際のお手伝いをしている、というお話をしました。。新しい領域に出ていきたい、理念やビジョンをもう一度捉え直したい、自分たちの存在意義を未来に向けて価値付しなおしたい。そのときに、このアーキタイプの思考を動かしながら、お客様と一緒に編集工学を駆使してさまざまな捉え直しをしていきます。。これを「ルーツ・エディティング」と読んでいます。
そういうわけでこれはすごく実践的な型なんですが、今日はその一端をさっそく皆さんにやっていただきますね。
ここでは例としてカフェを挙げてます。カフェの類型と典型と原型。今お話ししたプロトタイプとステレオタイプとアーキタイプというのを、ちょっと考えてみてください。
これ正解はないので、先ほどから言ってるように、皆さんそれぞれの発想を大事にしてメモしてみてください。
1番目のカフェの類型。カフェを一言で説明するとカフェってなんですかと? ここはあまり気負わず、すっと書いていただければいいと思います。
じゃあカフェの典型。カフェといえばなんですか? って思い浮かぶものをパッと書けばいいです。
そして、ここが勝負です。3番目、カフェの原型。カフェってそもそもなんですか? ここですね。この思考をどれだけ動かせるかっていうところです。
これは2分ぐらいで、ぱっとやってみてください。
(参加者ディスカッション)
はい。いいですかね。じゃあ、これも先ほどと同じようにお近くの方とシェアしてみてください。カフェの類型、典型、原型ですね。
(参加者ディスカッション)
はい、よろしいですか?
参加者16:ひとことで、休憩するところ。カフェと言えば、コーヒー、ケーキ、サンドイッチ、読書、音楽。原型のカフェとはそもそも、ひとが集まるところなんじゃないかな。場所はどこでもよくて、ひとが集えて、リラックスできるような空間かなと思いました。
安藤:ありがとうございます。そうなんです。アーキタイプはこれぐらい。そもそもなんの機能があれば良かったんだっけ? というような見方もありますね。
じゃあ、こちらはどうでした?
参加者17:えっと、カフェを一言でいうと、お茶をするところか、会話をするところ。典型はスタバです。原型のところは、ひとが集まるところという意味で、友達の家、近所の友達の家。
安藤:なるほど、なるほど。そうですね。今最初の方がおっしゃっていただいたような、ひとが集まるっていう機能を、今のかたはちょっとメタファで例えていただいて、友達の家というふうにぱっと表現していただいたということですね。
じゃあ、もうおひとかた。
参加者18:はい、カフェを一言でいうとすると、コーヒーを飲んで休憩をするところ。カフェと言えばドトール。カフェとはそもそもと考えたときに、スタバって出てきたんですけど、家でもなく職場でもなく、自分の居場所であると。
安藤:うんうん、そうですね。ありがとうございます。そうなんです。ここのアーキタイプのところが難しいんですね。簡単に一発で決まったというのが出るものでもないんですけど、皆さん素晴らしかったです。
私たちがこれをやるときも、ステレオタイプとプロトタイプはそれぞれでいいんですけれども、アーキタイプに関しては、イマジネーションの力だけでは限界があるので、今皆さんには頭の中だけでやっていただきましたけれども、そうとう調べたりとか、勉強したりというのもします。
内部知と外部知と思考、その合わせ技ですね。そして今みたいに思い切ってあたりをつけることがまず大事です。
そもそもひとが集まる場所って考えるといいんじゃないかなとか。そもそもこれ友達の家でよかったのが商売になってんじゃないかな、というふうに考えていきながら、じゃあ、ひとが集うというのはどういうことだろうかというのを、そのあと学習していったりして、先ほどのアナロジーの3つの要素である、外部の知と自分の経験知と思考のスキルというのをいろいろ組み合わせながら考えていくわけです。
この型を頭に入れておくと、例えばカフェでなにか新規事業をしようっていうときに、「そもそも」の思考からスタートすることができるというとこですね。
皆さんにやっていただいたのは、略図的原型という型を体験していただきたかったというところなんですが、この略図的原型というふうに考えたときに、もうひとつ大事な見方として「らしさ」というのがあるんですね。
なんとからしい、って私たちよく言うと思うんですけれども、このなんとからしさで相当いろんなものを捉えているはずなんです。言ってみれば、これも略図なんですよね。
例えば、docomo さんらしいサービスって言ったときになにかしら思い浮かべることはあると思います。
もしくはイチローらしいとかね。解説者が「今のはイチローらしくないですね」といったら、なんかちょっと不調なのかなと思ったり。
あるいは、これは男らしさとか女らしさとか。あなたらしくもないと言われたら、叱られてるのかもしれないし、励まされてるのかもしれないし。
うちらしいやり方で、というのもよく会社のなかで聞くんじゃないですかね。じゃあ、この「らしさ」ってなんですかという話です。
なにかしらの略図であり、なにかしらの抽象化されたものなんだけれども、じゃあそのらしさとかなんとかっぽさっていうのって、どこに宿ってるんでしょう。
(スライドを指して)これは編集工学ではよく情報をコードとモードというふうにわけて考えるんですけれども。コードというのは言ってみればスペックですね。事実だったり形態だったり。例えばマニュアルやスペック表に書かれている定量的な情報だと思ってください。
モードというのは必ずしも言い表せないなにかの印象だったり、様式だったり。モダリティというような言い方もしますけれども、定性的な、いわく言いがたいようなものというふうに思っていただいてもいいと思います。
らしさっていうのは、たいていの場合このモードに宿ってるんですね。だから、わかりにくいし、取り出しにくい。ですので、らしさを大まともに扱うっていうことが、なかなかしにくいものなんですね。
でも、このらしさがものすごく大事だったりします。
とくにアナロジカルシンキングにおいては、らしさによって捉える、らしさによってなにかの遠くのものから、なにかのモデルを借りてくる。それによってなにかに当てはめて新しい理解をしたり、新しい発見をしたりということをする。
このなになにっぽいとか、なになにらしいというところは、ぜひ積極的に取りに行くべきものというふうに思ってください。
ここで皆さんにワークをもうひとつしていただこうと思うんですけれども。ちょっと連続でですけれども、これ今日の最後のワークだと思います。
さっそくなんですけれども、このらしさっていうのを使ってみてください。
今皆さんカフェについて、短い時間でしたけれどもぐっと集中して考えていただきました。このカフェっぽいっていうのってあると思うんですね。なんかカフェっぽいフォントがあったり、カフェっぽい洋服があったり、カフェっぽさっていうのはいろいろだと思うんですけれども。カフェっぽいホニャララを考えて、ヒット商品を生み出してください。
これさっき皆さんに会議を改善していただくときに、例えばスポーツだったり、オーケストラだったりのいいところを借りてきて、それを会議にアナロジーとして使ってもらおうということをしていただきましたけれども、これも理屈は同じです。
カフェって、これだけ今いろんなところにできていて、皆さん日常的に使っているということは、きっとなにかしら素敵なんですよね。このカフェっぽさを使いながら、ぜんぜん関係ないものがいいと思います。なるべくカフェから遠くのものでヒット商品を生み出してください。
そのときのコツはさっきも言いましたけど、思い切って仮説するんですね。間違っていいんです。なんども行ったり来たりです。思い切って仮説を置いてみる。とにかく当てずっぽうで。それはなるべく遠くから持ってくるほうがいい。そしてカフェらしさというのをそれに当てはめてみる。
それと先ほどお話ししましたBPT ですね。ベースとプロフィールとターゲットをどんどん動かしていく。つまり、思い切った仮説にカフェっぽさをのせてみる。うまくいくかなどうかな。あんまりうまくいかないな。じゃあ、ちがうのに変えてみようかな。そうやってどんどん連想を動かしているあいだに、ふっとなにかが降ってくるかもしれない。
というのを2分でやってください。はいどうぞ。
これワークシートはこんなざっくりしたものですけれども、カフェっぽいホニャララとまず書いてみてください。そして、それはどんなものだという簡単なメモを添えていただけるといいと思います。
コツは、たった1発でヒットを当てようとしないで、何度も書くということです。
あと1分ぐらいで、お隣の方とシェアできるぐらいにはしてください。
はい、じゃあこのあたりでいったんいいですか。お近くの方とご自身のヒット商品のアイデアを交換してください。はい、どうぞ。
(参加者ディスカッション)
よろしいですかね。そろそろ皆さん、交換はお済みですか。ちょっと聞いていきましょうかね。このチームのなかでは、どなたのヒット商品が自信ありますか?
参加者19:私ですか? えっと、カフェっぽい傘ということで、さっきカフェというので情報を集めたり、シェアしたり、交流とかあったので、傘を広げると音楽が鳴ったり、匂いがしたりするとか。あとさっきひとが集まるところとあったので、できたらその傘を自分で使うんじゃなくて、ひとに貸し出したりすることによって、その情報などがアップデートされるとか、繋がってくようになると、ヒットするかどうかはわかんないんですけど、そういうコンセプトを考えました。
安藤:なるほど、おもしろいですね、ありがとうございます。
(会場拍手)
安藤:傘というカフェとは機能がぜんぜん違いそうなものから持ってきたっていうのが、まず成功の要因ですね。そこから上手に先ほどの3typeで考えたことをうまく活かしながら考えてくださいました。
こちらのお二方では、どちらのヒット商品がよさそうですか?
参加者20:最初はお風呂屋さんかなとも思ってたんですけども。そのあとで少し車ってどうかなって話をして。カフェっぽい車。でも車だと道路だから、タクシーとかバスでどうかなって。椅子にこうリラックスできて、コーヒー飲めて、そのうち目的地に着きますみたいな。そういうものがあるといいかなっていう話をして。
安藤:ありがとうございます。
(会場拍手)
安藤:いいですね。カフェタクシーみたいなのがあったら。コーヒーの一杯も出てきたら、ちょっと200円ぐらい高くてもいいかなと。
皆さんうまくカフェっぽさ、らしさ、いわく言いがたいなにかというのを使って、第三の価値、次の価値を生み出していただく体験を、わずか2分ですけれどもしていただきました。
今お聞きしたようなおもしろいヒット商品アイデアも出てきましたね。日常のなかでも遠慮なくこれをやっていただくといいんです。
日頃自分が扱ってる商品でもいいですし、なにかサービスでもいいですし。もしくはお仕事の領域に関して、さっきアーキタイプの威力を少し感じていただけたんじゃないかなと思うんですが、「これってそもそも」というのを1回考えてみるだけで、そこから広がるアイデアっていうのはずいぶん違うはずなんですね。
これとなになにっぽさという、いわく言いがたい、扱いにくい情報っていうのをうまく組み合わせながら発想していただくと、いままでと違うアイデアが出てきやすくなるんじゃないかなと思います。
じゃあ、そろそろまとめに入りたいと思います。最後に、これはもう時間がないので通りすぎるだけにしますけれども、せっかくなので少し覚えて帰ってください。
編集工学では3Aと言うんですが、アナロジーの隣接する仲間みたいなもんです。アナロジーはいま散々やってきたものですね。それにアフォーダンスとアブダクション。聞いたことのない方のほうが多いと思うんですけれども、この3つのA をどんどん動かすことが、編集工学のなかではとても大事なことなので、一言ずつだけ説明します。
アフォーダンスってなにかっていうと、ある時期まで認知科学の世界では、情報における意味というのは私たちの頭の中から生まれてる、頭の中で処理されてると思われてたんですね。それに対してアフォーダンスは、外側にある環境のなかに意味があるという捉え方んです。
ひとことで定義するのであれば、ある対象から与えられている行動の可能性に気づく能力、ってちょっと難しい言い方ですけれども。
例えば卑近な例でいうと、私今マイク持ってますよね。このマイクを持つときに、手が自然とマイクのかたちになります。これって別に考えてるわけじゃないんですけれども、このマイクのかたちが私の手をこうさせているんですね。
これは対象から与えられている行動の可能性に気づく能力というのを、この私の手が持っているということです。なぜこのアフォーダンスが大事かというと、頭の中だけに全部あるわけじゃないよという立場に立つ、ということですね。
つねに自分たちを取り囲んでいる情報や環境との相互作用のなかで、思考というのは動いていると。まずそういう前提に立っていないと、連想力とかアナロジーの力というのは働きにくくなるんです。ですので、アフォーダンスというのがとても大事だと思っています。
3つ目のアブダクションですが、これはけっこう最近言われるようになってきました。仮説的推論というふうに日本語訳では言います。仮説を立てて推論をする能力。
さっき皆さん、ワークのなかでいろいろやってくださいました。思い切った仮説を立ててくださいね、という言い方をしましたけれども、あれもいわゆるひとつのアブダクションなんですね。
アブダクションをもうちょっとだけ説明すると、アブダクションはある推論のかたちでなんです。演繹的推論や帰納的推論って聞いたことあるかたいらっしゃるかな? 演繹というのはある自明のこと、前提となるものがあって、それを論証していく思考のプロセスを言います。
帰納っていうのは、たくさんの事例があって、その事例から共通してみられることを論証していく推論ですね。
アブダクションはそのどちらでもなくて、第三の推論の方法というふうに言われてるんです。
チャールズ・パースというひとが名付けたものなんですけれども。例えば、うさぎはにんじんを食べるっていうのがまず前提のこととしてあって、うさぎはなぜにんじんを食べていくのかというのを論証していくのが演繹だとすると、このうさぎはにんじんを食べてる、あっちのうさぎもにんじんを食べてるというのをたくさん見ていって、うさぎっていうのはにんじんを食べるものなんだというふうに推理していくのが帰納ですね。
アブダクションというのは、うさぎはにんじんを食べる、でもここにいる見知らぬ動物もにんじんを食べている。じゃあ、この動物はうさぎの仲間なんじゃないか? という仮説を立てると。
ですので帰納と演繹からは、新しい見方や新しい発想というのは生まれくいんですね。分析したり、検証したりすることはできるんですけど。これに対して、新しい見方を生むための推論をアブダクションと言ってます。
このアブダクションは、最近人工知能の世界のなかでもチャレンジングなテーマになっているようです。これって人間の脳のアナロジーの力をフル稼働しているものなので、いまのところ人間特有の能力だと思うんですが、これをA.I.が実装できたらどうなってしまうんだろう、といも思いますね。
今日は、「3A」といって、アナロジーの仲間のアフォーダンスとアブダクションというものがありますよ、というご紹介ぐらいにとどまってしまうんですけれども、いずれこの編集工学シリーズのなかでもうちょっと詳しく取り上げたいと思います。
アブダクションとかアフォーダンスというものをしっかりと見ていくと、今日皆さん差しかかってはいただきましたけれども、ハッとひらめくみたいな、なにか降りてくるとか、直感がひらめくみたいなことを手順を踏んで、方法的に、意図的に、マネジメントしていくことができるようになると思っています。
そのヒューリスティックな、発見的な思考というのをどんどん加速していくための方法論が、このアブダクションのなかに隠されているとも言われています。ですので、非常にこれ大事だと思われている方法論です。
今日、皆さんがずっとやってきてくださったアナロジーですが、アナロジーの力は私たちの捉え方だとほぼイコール編集力というふうに思っています。
編集力っていうのは、一言でいうとまったく関係のないAとBのあいだになにかしらの関係性を発見すること。情報と情報のあいだに関係線をひくことから編集が始まる。もしくはアナロジーが始まると思っています。
それぞれの情報が豊かになればなるだけ、もしくは見方が多様になればなるだけ、この関係性が発見されやすくなりますね。
ですので、先ほど皆さんにやっていただいた、あるひとつの事象、リンゴひとつからたくさんの見方を抽出しておく、もしくはスマホからたくさんの見方を抽出しておく、そうするとリンゴとスマホはどっかでくっつくかもしれない。
先ほど言った連想する思考というのが非常に大事ですというのは、こういうことでもあります。
もう一歩言うと、編集的思考っていうのは、今言ったような連想する方向、わーっと広げていく方向と、それを今度は要約してまとめていく方向というのを行ったり来たりをするんですね。代わる代わるに。
たとえば会議などでう話が止まっちゃうとか、煮詰まっちゃうとか、自分で企画書を書いていてもこれ以上先に進まないというときに、非常に多くあるのが、この要約と連想を同時にしようとしていることが多いんですね。
これはブレーキとアクセルをいっぺんに踏んでいるようなもので、私たちの頭ってそんなことができるようにはできてないはずなんです。
ですので、広げていく方向と、広げたものをじゃあこれをどうしようかなと思う方向を、高速に行ったり来たりすればいいんですね。
さっき皆さんにワークをやっていただいたなかで、とにかく仮説を立ててみる、なんかわかんないけどこっち側に行ってみる。広げてみて、それを検証していって、ああ違うなと思ったら、また違うものを連想してみる。その行ったり来たりをするといいですよと言ったのは、このことと関係があります。
アナロジカルとロジカルという見方が何度か出てきました。アナロジカルシンキングとロジカルシンキングの一番の違いというようなこともか話しましたけれども、これは当然ながらどっちも大事なんですね。
どっちもないと、例えば皆さんはビジネスをされてる方だと思いますけれども、お仕事になんないと思います。
ただ、ロジカルシンキングはそうとうフレームワーク化されていますし、自分の外部に取り出して処理できる手続きなので、正解がわかりやすくて扱いやすいんですよね。それですごく広まったというのはあると思います。
ただ、今の時代、ある枠組みのなかで、みんなで同じような正解を求めていき、それを少しでも効率よくやるという方向性が、どっかでもう頭打ちになっているところに来てるんじゃないかと思います。
いろいろな環境変化のためにそうなっていると思いますが、今自分が入っている枠組みから出なきゃいけない、いったん自分が今いる立ち位置をセットバックして見てみてぜんぜん違う枠のフレームのなかで考えなきゃいけない、フレームを思い切って飛び移らなきゃいけない、そういった場面に、たくさんのひとが差しかかっていると思います。そのときに、それができるのはアナロジーしかないんですね。
そこはロジックじゃないんですよ。アナロジーでフレームを飛び移ったあとに、そのフレームをじゃあどうやって着地させていくかっていうのは、ロジックで考えればいいんです。
これもやっぱり行ったり来たりで同じように使っていくことが大事で、私たちはそれを繋いでいく思考というのを編集的思考っていうふうに思っています。
今日冒頭で皆さんに、私たちの頭の中ってブラックボックスですよねってお話をしました。その漠然とした思考プロセスを、意図を持ってマネジメントするのが編集ですよってお話もしました。
この編集的な思考に立つと、直感と呼ばれるようなもの、センスだったり、たまたまだったりというイメージがあるものもマネジメントすることができるんですね。今日、皆さん、アナロジーという文脈のなかで、それをやってくださいました。
もしくは論理は詰めていくものですけれども、ある必要なところに差しかかったら一気にジャンプをするということもできます。
今日アナロジカルシンキングの一端でも体験いただいたと思いますけれども、つまりはこういうアナロジーとロジックを行ったり来たりすることが、昨今よく言われるイノベーションと言われるものの土壌になっていくんじゃないかなと思っています。
ですので、編集的思考、この行ったり来たりはぜひ積極的にしていただけるといいと思います。
関係を見つける、理屈を詰める、可能性をどんどん増やす、そしてそれらをまとめていく。私たちのイマジネーションの力を最大化するうえで、アナロジーとロジックの行ったり来たりというのは、非常に大事なことだろうと思います。
最後に、J・G・バラードというSF 作家の言葉を紹介して終わりたいと思います。「人類に残された最後の資源は想像力ですよ」ということを、弊社の所長の松岡正剛との対話の中で、J・G・バラードは言ったそうです。
石油だとか石炭だとかのエネルギー資源を使いながら、人類は前に進んできました。これらの資源は有限ですが、無限に湧き出る資源がわたしたちの頭と心の中にある。イマジネーション、想像力こそが、人類に残された最後の資源ではないか、というお話です。。
ですので、皆さんも日々お仕事、コミュニティ、もしくはご自分の生活のなかでいろいろなことがあると思うんですけれども、皆さんのなかに眠っている、もしくは起きているんだけれどもうまく使えてないかもしれない想像力を最大化する、というふうに一回思っていただくといいと思います。そのための方法論として、今日やっていただいたアナロジカルシンキングというのは、なにかしらのお役に立てるはずです。
ちょっと時間が過ぎてしまったんですけれども、今日はここまでといたします。次回は9月20日に第3回の編集工学シリーズをやります。
まだ中身を詳しく決めてないんですけれども、最後にご紹介したアブダクションのあたりをやっていきたいなと思っています。
2時間、お疲れ様でした。どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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