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Why Don't Whales Deafen Themselves?(全1記事)

800キロ離れていてもコミュニケーション可能 クジラたちの聴覚の謎

広大な海の中で仲間とコミュニケーションをとるクジラやイルカ。彼らは、遠く離れた仲間に呼びかけることができますが、その音量は人間ならば鼓膜が破裂するほどの大音量。それほど大きな音を聞き続けながらも、彼らはなぜ聴力を失わないのでしょうか? 今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」は、クジラやイルカの聴覚の秘密について解説しました。

クジラが仲間に呼びかける声は、人の鼓膜が破裂する音量

マイケル・アランダ:クジラやイルカは、おどろくほど大きな音を出すことができます。たとえば、シロナガスクジラが800キロメートル離れた他の個体とコミュニケーションを取るために使う呼び声は、190デシベルもの大きさです。

また、マッコウクジラがエサを見つけて追い詰めるのに使うクリック音であれば、その大きさは230デシベル以上にものぼります。

人間の鼓膜は、150デシベルで破裂すると言われており、85デシベル以上であれば聴力を失う恐れがあります。

では、人間の耳と多くの共通の部位を持つクジラはなぜ、これほどまでにも大きな音を絶えず聞き続けながらも、聴力を保っていられるのでしょうか?

クジラが聴力を失わない理由については、そのいくつかがわかってきました。主たる理由は、水中での音の伝わり方が、大気中とはまったく異なることです。

通常「音」と呼ばれているのは、実際は「圧力波」です。水は大気よりもはるかに密度が高いため、こういった音波はまったく異なる伝播の仕方をします。そこで、水中での音の強さを示す単位は、大気中とのそれとは異なるものが用いられます。

「デシベル」は、「センチメートル」のような単純な単位ではありません。基準とする量に対する比の対数で表したものです。基準が設けられていない限り、その数値は無意味なものとなります。サンディエゴ州立大学でクジラを専門に研究する海洋生物学者、テッド・クランフォードが、SciShowに解説してくれました。

水を加熱させるほどのマッコウクジラの「クリック音」

研究者が「シロナガスクジラの出す音は188デシベルである」という場合、基準となるのは水中での圧力であり、対する比の対数は1マイクロパスカルで表されます。ジェットエンジンが出す、耳がきーんとする轟音は150デシベルですが、この場合に基準となるのは大気中の圧力であり、対数は20マイクロパスカルです。

これを単純計算してみると、水中での188デシベルの音は、大気中での126デシベルに相当することになります。この比較は、水と大気の差には他にもさまざまな要素が介在するため、厳密なものではありません。しかし、クジラが聴力を失わない理由を説明する手段にはなりえます。

クジラの出す音は、ジェットエンジンというよりはむしろ、ロックコンサートのようなもののようです。しかし、マッコウクジラとなると、話は別です。

クランフォード博士によりますと、マッコウクジラが出すクリック音は、これまでに知られている限りでは、生物が出す最も大きな音だそうです。水中で存在しうる最大規模の音であり、その圧力は極めて高いため、不思議なことに、水が過熱されたり、沸騰するといった現象が起こります。

しかし、マッコウクジラがこれほどまでに大きな音を出しながら、聴力を損傷することが無い理由は、実はよくわかっていないのです。ハワイ大学海洋生物学者のオーデ・パチーニ博士によりますと、これにはいくつかの仮説が唱えられています。

クジラはなぜ大音量に耐えられるのか

一つにマッコウクジラのクリック音が、ピンポイントでまっすぐ前に向けて発信されており、最大音量で耳に達することはないことが挙げられます。

さらに、マッコウクジラの耳骨は頭骨から遊離しているため、人間のように、音声を発している際の振動が耳に届くことはありません。

何にもまして大きな点は、マッコウクジラは、聞こえてくる大音量の音のボリュームを下げることができるのです。他のハクジラ亜目にも同様のことが可能です。

パチーニ博士と研究チームによりますと、これから170デシベルの大音量の音を出すという意味の警戒音を聞かせた場合、4種類の異なる種のクジラは、聞こえる音を13から17デシベル低く調整したというのです。この実験ではマッコウクジラは対象ではありませんでしたが、このような調整ができる可能性は十分にあります。

マッコウクジラは、音を聞く仕組みが異なるため、大音量に耐えられる可能性もあります。マッコウクジラは音を聞くときに外耳道を使いません。

マッコウクジラや、シロナガスクジラなどのヒゲクジラ亜目には、音を外部から取り込む外耳道がなく、脂肪組織で癒合されてしまっています。外耳道の代わりに音波が最初に通るのは、あごにある脂肪組織です。

振動はacoustic funnelという独特の構造を通して伝播し、音声の情報が耳に届けられます。他の骨格や組織も音を伝達するため、クジラは頭全体を使って音を聞いているということができます。

事が水中であるため、人間の聴覚の損傷閾値をそのままクジラに当てはめることはできません。とはいえ、クジラに有害な音は何であるかということと、その音が有害である理由をつきとめることは大切なことです。それほどの大音量ではないとしても、人間が水中で発している音がクジラにどんな影響を与えるかは明らかになっていないからです。

動物たちが大きな音を発しても聴力を損傷することはありませんが、その生息環境に人間が流すソナーや船舶などの音により、動物たちが混乱したり害を被ったりする可能性は十分にあります。

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