2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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海老原嗣生氏(以下、海老原):(すき間労働化の)次に起きることは何か。コンピュータは、1個のことしかできないけれども、人間の頭のようにいろんなことができる「汎用AI」というかたちに進化します。
これが早くて20年後ぐらいから出てくると言われています。30年後、40年後になってくると、かなりこの(汎用AIの)時代になってくる。これが「全脳アーキテクチャ」。まず、第1段階が「全脳アーキテクチャ」です。
脳みそというのは、16個ぐらいのパーツからできています。全脳アーキテクチャというのは、そのパーツごとに機能を真似て、それをくっつけたものだと思ってください。というので、なんとなく人間の頭みたいなもの。
だから、そのパーツ、パーツには、今の人間にわかっている機能以外にも、見えていない機能がたくさんあるんです。そんな機能は放っておいて、ある程度できることだけをくっつける。こんなかたちの「疑似脳みそ」です。
しかも、脳みそって16個も部品をくっつけると反駁しちゃったりするんです。だから、なかなか人間の脳みそにならない。というので、「なんとなく人間の脳みそに似たようなもの」というのが全脳アーキテクチャだと思ってください。
でも、これはなんとなく似ているだけで、さっき言ったサービス業とか、流通業のレジ打ちなどの9つの業務なんてできちゃうんです。この時代になると、すき間労働化はするけど、サービス、流通、製造などが完全になくなって、雇用喪失していくわけです。これが2050年前後の話だと言われています。
よろしいですか。この全脳アーキテクチャの時代になっても、まだ、営業とかクリエイティビティ(が必要)な仕事はなくならないです。こいつは中途半端な脳みそで、人間の脳みそみたいに完璧なことを感じたり、考えたり、工夫したりする行為はできないんです。
完璧なことはできないので、ホスピタリティが必要な仕事はまだ残ります。だから、営業とか編集とかは残るんです。だけど今度は、営業とか編集がすき間労働化していくわけです。
アンドロイドが営業に行ったら、普通「ちょっと待って、こんなの買わないよ」と言われますので、営業の一番大切なところは、人間が行かなきゃならないところなんです。でも、人間が行くとどうなるか。
営業のすごい人は、「このおっさん(お客様)ね、商品の話なんか聞きたくないんだ。このおっさん、野球の話だけしたいんだよ」(と考える)。野球の話だけしていればいいと考えて、野球の話だけして帰ってくる。これは相手も喜ぶし、仕事もパフォーマンスが上がるわけです。ところが、できない営業はぜんぶ商品説明するわけです。
でも、携帯端末が、俺の話すことをぜんぶ聞いて、向こうの話すこともぜんぶ聞いて、「このおっさんは野球の話だけすればいいんだ。やめな、そんな話」ということが(表示されて)出てくる。それで、(営業は)その通りにするわけです。野球の、しかも大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の話とか書いてあって、「今日、二塁打打ちましたね」とか言うようになるわけなんです。
さらに、「このおっさんは、もう早く帰って飲みに行きたいから、飲みに誘ってみな」と出てくるわけです。それで、飲みに行くだけでいいわけなんです。商品説明をしなくていいわけです。「このおっさんは毎週なんて来なくていいの。3ヶ月に1回だから、その代わり、完璧な企画書、完璧なデータをもっていかないとダメだよ」。こういうふうに(携帯端末から)指示が来るわけです。
指示が来て、すぐ帰る。今日は資料を持ってきて、すぐ帰ります。帰ると、こいつ(携帯端末)からホストコンピューターに(資料が)とんでいって、ホストコンピューターがぜんぶデータを集めて、営業資料を作ってくれている。さらに言うと、(営業の)シナリオがくっついてきて、次に行くときはこの声色で、この順番で言うと受注が取れるからって言って。シナリオを読み上げるだけで、どんどん受注がとれる。どうですか? これはすき間労働でしょ。
こういうことを見極めて最適な資料を作ったり、最適な提案をするのが営業なのに、そういう難しいことをぜんぶコンピュータがやってくれる。人間はそれをシナリオに従って読むだけ。すき間労働でしょ。こんな時代が来ちゃうわけなんですよ。そうしたらどうします? 難しい問題ですよね。「働くってなんだろう」という話ですよね。でも、その時考えてほしいんです。
大学を出たてで何にも知らない人間がそれに従えば、今のMVPA(multivariate pattern analysis)並みのパフォーマンスがあがるわけです。そうするとどうなるか。すごく売上が上がるんですよ。当然、給料も上がります。端から見たら営業というのは、泣きながら上手くなっていったのが、それが何の苦労もせずに(給料が)今の数倍もらえるから、苦労もせずに給料が上がる。これがすき間労働のすごさです。
「労働って何だろう?」「働くって何だろう?」、考えさせられるような事態になってくるんです。そして、その先に来るのが「シンギュラリティ(Singularity)」なんです。シンギュラリティはどうして起こるか。
「全脳エミュレーション」という時代になったら、社会がぜんぶ変わります。この脳みそ(全脳アーキテクチャ)は、なんとなく脳みそを真似たものです。こっち(全脳エミュレーション)はどうなるかというと、神経細胞の配線図、人のコネクトームといいます。
これが、ぜんぶ明らかになっちゃう時代なんです。そうすると、人の(神経細胞の)配線をぜんぶ真似て電子回路を組めば、人間の脳みそと同じようになります。見えなかった機能も、ぜんぶそこに入ってきます。
だから、これは完全に「脳みそ」です。その(細胞の)一粒一粒は、人間の脳みそよりも、はるかにすごいパフォーマンスを出します。そうすると、この脳みそはどうなるでしょう。感じて、考えて、想像もしていっちゃうんです。
世界中の物理や科学の論文をロボットが読んで、アルベルト・アインシュタインの数倍の脳みそをもって、しかもそれを集めて咀嚼して、「もっとこんなことやったらおもしろいだろう」と考えて、創意工夫で論文を書いちゃうんです。それも世界中のデータを集めて、なんの計算ミスもなく、どんどん論文を書いちゃうんです。そうすると、科学の発展は、今とはまったく違うレベルになります。
さらに言うと、作文とか小説も、彼らは小説をぜんぶ読んで、音楽をぜんぶ聞いて、感じて、感動して、次のユーミンよりも、すごいものを作っちゃうんです。そこら辺に出ている小説や音楽もぜんぶ、ペンネームだからわからないけど、ぜんぶAIが書いてる時代になっちゃうんです。さらに、もっと簡単なのは経営なんです。経営の難しさは何か。人を扱っているからです。
(社員)全員がAIで機械になっちゃったら、文句を言う人もいない、モチベーションも必要なくなるんです。そうするとどうなるか。世界中のデータを集めて、マーケティングして、すごいものを作っちゃう。スティーブ・ジョブスだって、死ぬ最後の10年間で5個くらい、すごいものを作りました。2年に1個くらいは作りました。
そうじゃなくて、毎週のようにスティーブ・ジョブス並みの(商品)ができちゃう。それを今度は製造のAIがいて、なんの歩留まりもなく、ジャストインタイムで作っちゃう。それを販売のAIがいて、欠品なんか絶対起こらないようにロジスティクスしちゃう。そうすると、どうでしょう。
毎週、すごく買いたいものができる。なんで今、デフレかといったら、買いたいものがないから、みんな貯蓄しちゃうじゃないですか。買いたいものがあったら、すごく経済は伸びる。さらにいうと企業は、労働者がいないからすごく儲かる。でも、すごく儲かっても雇用がないから、お金や人がなくなってくる。
こういう社会ってどうなるか。国は儲かった企業に猛烈な税金をかけて、その税金を今度はみなさんに生活保護として配る。これが「ベーシックインカム(basic income)」、シンギュラリティ後の社会。そのころになったらどうなるんでしょう。寝てても月収100万、200万もらえちゃうんですよ。
「働くって何だろう」。いきなり、ここ(の状態)にいっちゃったら人間はおかしくなってしまいますけど、その途中にすき間労働というのがあって、疑似体験をしているわけです。こうやって、いつの間にかやることがなくなっていく。
「ちょっと待って、俺、(働かなくても)100万、200万もらえるんなら、趣味に徹しよう。ちょっと小説とか書こう」って小説書くと、いくら書いてもAIロボットの方が上手いから、小説のコンクールじゃ賞をとれない。
街中を歩いていると、自分好みのすごくかわいい女の子がいて、声をかける。声をかけると駆け引きがあって、その後、なんか上手くいって、自分の家で同棲するようになる。けっこう喧嘩もするけど、なんとなくいいタイミングで謝ってくれて、だんだん仲良くなる。3ヶ月くらい経って愛が深まってきたときに、クレジットカード会社からくるんですよ、請求が。「弊社のアンドロイドをご使用のようなので、いくら払ってください。」
こういう社会になってくるわけなんですよ。そうするとどうですか。今度は恋愛の苦しみも楽しみも、わからなくなってくる。人間は満たされるけど、幸せってなんなのかがわからなくなるのが、シンギュラリティ。こう言われているわけです。ここまでの話、よろしいですか。
これ(スライド)を見てみるとわかりますけれども、すき間労働の時代はまず、士業のような知的単純業務がなくなってくる。製造業とか、肉体労働とか(仕事に)就けるところは、すき間労働です。でも、次のフェーズで雇用崩壊する。今度はクリエイティビティとか、営業とか、ホスピタリティが必要な仕事が「すき間労働化」する。すき間労働の次のステージだと、雇用崩壊する。
雇用崩壊する前に1回だけ、このようなすき間労働というものを過ごしながら、人はがんがん働かなくなっていく。これが、今いわれている世界なんです。ここまでよろしいですか。こう書くと、野村総研みたいで嫌になっちゃうけれども、でも見ていただくと、技術の進歩でいうと、全脳アーキテクチャの時代に入るのは、どんなに早くても2035年と言われています。
順当に見ると2050年ぐらいだって言われています。でも、全脳アーキテクチャの時代に入った後、すぐに浸透することだけは確かみたいです。全脳アーキテクチャで、サービス業でも製造業でも、なんでもできるロボットができたら。(会場の参加者に)「そのロボット、いくらまで下がれば買いますか?」最初にできた時は10億、20億円くらいはすると思うんだ。でも、代わりにぜんぶ製造作業をやってくれる。
会場参会者1:人件費。
海老原:いくらだったら(買いますか)?
会場参会者1:え? いや、わからないです。
海老原:一声でいくらだったら買う? 5,000万円だったら買う? 雰囲気で(答えてもらっていいですよ)。
会場参会者1:いやあ、買わないです。
海老原:1,000万円だったら買う?
会場参会者1:内容によっては買います。
海老原:そう、これが1,000万円くらいが上限だと思うじゃないですか。ところが5,000万円で投資価値が猛烈に取れるんです。だから、5,000万円まで下がれば、すぐ売れちゃうんです。
納得いかないじゃない。1人の年収が200万、300万、400万だから、15年も経たなきゃ元が取れないものって買わないじゃん。ところがこれ(ロボット)は、3年で元が取れちゃうんです。なぜかと言うと、そいつは24時間働くから、まず3人分働いているんです。
休みが(年間)120日もいらなくて、メンテナンスで15日くらいだから、4人分働いているんです。そして、製造機械が3個と土地も3倍必要だったのが、製造機械も1個で済むから、設備投資が必要ない。これで5人分になるんです。その上に、「明日までにやっておいて」「いや、できません」と言っていたのが、24時間営業なので、明日にできちゃうんです。機会ロスが減るんです。
こう考えると、(ロボットが)1人で6人分くらい働くって言われているんです。5,000万円なんて、あっという間に元が取れちゃうんです。というので、これは浸透が速いと言われています。全脳アーキテクチャが始まったら、あっという間に雇用崩壊が進むでしょう。そして、その次に全脳エミュレーションの時代、これは2100年を超える。玄孫の時代です。これくらい、僕らは良い時代に生きているんだねってことなんです。
ここまではわかりました? だけど、野村総研の話は、相当、嘘なんだよ。(スライドを指しながら)野村総研の話は、今すぐに来ちゃう。さっきのを見れば、2050年までは、何も起きないのに等しいじゃないですか。2100年にならないと、完全なシンギュラリティは迎えないじゃないですか。
そして、野村総研が出している、今すぐなくなる仕事。これを見るとひどいんだよ。なくなる仕事は、引き延ばしに引き延ばして、1職種を10とか20で書いてあるわけ。残る仕事は、何十にも分けられるのに、1つにしてるわけ。例えば、(スライドを見ながら)これを読むと、事務員というのが何個に分けられているか。
赤文字で書いたのが事務員だけど、一般事務員、医療事務員、貸付係事務員、学校事務員、行政事務員(国)、行政事務員(県・市町村)。これなしだよね。人事係事務員、生産工程事務員、通信販売事務員、物品購買事務員。物品購買事務員と通信販売事務員も同じものだよね。
貿易系事務員、なんとか事務、よくわからないけど、とにかく事務員だけで11個も入っていたりするんだよ。こんなレベルの話なんだよね。さらに言うと、世の中には3,000もの仕事があるけど、そのうちの69職についてだけ聞いています。それをメタ分析したものです。たった69職務。
それも、69職務を詳しく調べたのかというと、機械研究者やAIの研究者に「この職務なくなりますか」って聞いただけなんです。俺のような雇用に詳しい人に聞いたんじゃなくて、機械研究者という、(雇用のことは)何も知らない人に聞いただけなんです。その機械研究者のぶるぶる震えているおじさんが「これは残る、これはセーフじゃ、これはアウトだ」と言ったところから始まっているんです。
たいした内容じゃないということに気付いてほしいんです。(スライド)飛ばしますね。私の話はここまでで終わりですが、最後だけちょっと話させてください。未来予想図ね。
未来予想図がどうなっていくかという話なんですよね。これ(『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』)に書いたように、2035年、2050年、2100年、これが1つのキーワード。
だから、2050年くらいになると、営業がすき間労働化しています。営業がコンピュータの言うとおりにやると、新人でも、ものすごく売れちゃう。そうすると、人間が一番やるべき行為というのは、コンピュータの言うことを誠実に守る(ことになります)。
こんな時代になっちゃう可能性がある。そのころの教育ママってどういう教育をしているか。(スライドを見ながら)絵に描いてきたんですけどね、今とあまり変わらない。ママが、机に向かっている子どもに対して「もっとなんとかしなさい!」って怒っている。これが言っていることが真逆になってしまうんです。
「あんた、勉強なんかしちゃダメよ。いい高校なんか入ったら就職なんかできない。AI様に従順に話を聞いていればいいのよ」こんな時代になるけど、これはあんまりおもしろくないね。これは前段。
もっとおもしろいのは、2100年以降、どうなっているか。もうぜんぶアンドロイドに持っていかれている。というので、流行るサービスはこんなんじゃないか。「生身の人間がサービスをします」。こういうお店が流行るはずなんです。こういうお店が流行って、その後に、ニュースでこんなのが流れるんです。(スライドを見ながら)これ、捕まっているおじさんが警察にいます。ニュースキャスターがこんなことを言うんです。
「今日、新宿歌舞伎町で生身の人間が接客をすると偽り、アンドロイドを働かせていた風俗店経営者が、摘発されました」。こんなことが出てくる時代になると思います。それでこの情報を聞いて、居酒屋で、そのお店に行ってきた上司と部下、先輩と後輩が、「ちきしょー、生身の人間だって言うから高い金払ったのにアンドロイドじゃねえか! バカヤロー! ふざけんじゃねえ!」と。
こんなクダを居酒屋でまいていると、こういうことが起きるんです。その後輩が「実は、僕もアンドロイドです」と。「アンドロイドがあの店行ったの?」という話なんです。こうやって「ふざけんじゃねえよ、アンドロイドのくせに」って言っていると、その隣のテーブルで飲んでいるのもアンドロイドで、アンドロイドが怒りだすわけです。「アンドロイド、アンドロイドって何が悪いんだ!」
そうすると、そこにロボット警察が出てきて、ピーっと(笛を)吹いて、「人間に危害を及ぼす行為は、抑制機構で規制されています」と言って止められると。こういうことで、アンドロイドの感情が高まって、感情が蓄積していって、その抑制回路がいつの間にか壊れて、だんだんアンドロイドと、人間の戦いが始まるという。三文SFみたいな話です。
ここまでで、私の話は終わりです。さあ、前座は終わりました。
(会場拍手)
海老原:じゃあ、佐渡島さんお願いします。ご無沙汰してますね。
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):お久しぶりです。でも、ちょっと前にリクルートで会いました。3ヶ月か2ヶ月くらい前ですかね。
海老原:あ、アメフトの話したいですか?
佐渡島:僕、さっきのエビさんの意見とちょっと違ったんで。
海老原:そう、(話)してみてください。怖いよう(笑)。
(会場笑)
佐渡島:僕は監督もたいして悪くないなと思っていて。
海老原:なんで、なんで?
佐渡島:宮川君ももちろん悪くないと思っています。
海老原:悪いのは関西学院なの?
佐渡島:アイヒマン実験ってありますよね。結局、社会の流れがそうなったら、国民全体の9割近くの人が殺人に加担してしまうし、善良なる官僚になってしまう。体育会的な思想が良しとされていた時代があった。
そういう文化がずっとあったので、結局は、内田正人(監督)さんも宮川さんも、その文化の中での振る舞いだったと思います。それに対抗する意思を持つのは、かなり強い人にしか無理で、そんな強い人は、ほとんど存在していないと思っているからです。だから、監督を悪にして議論を終わらせるのは、よくないと思っている。それで、気軽に、監督が悪いと発言できないと考えているんです。
海老原:あのね、僕も今の聞いて、「売れないジャーナリスト」と「売れるビジネスメーカー」の差だと思いました。そういうものに対して、俺は憤りを感じて、「俺はあんなことやらないから、あんな人間にはならない」っていう揶揄のしかたをして、たいして売れないんだけど、師匠はそっち側にのって、そっち側でどれを儲けるかっていうことを考える人じゃない。
(会場笑)
それは私との差ですね。
(会場笑)
佐渡島:だから、今起きてる“me too”の問題とか、すべてが旧世代の人たちの価値観が強烈に否定されていて。それで、旧世代の人たちって、若い人たちが見ているメディアをあまり見ていないと思うので。だから、時代の変化に気づかず、今まで通り振る舞ってしまう。
海老原:そうね。でも(記者会見の司会進行をした日大広報部の人は)共同通信出身なんだよな。
佐渡島:そうです。司会者だけど、価値観が旧世代のままで、自分の役割を理解できていなかった。戦後のアメリカがやってきて、価値観が一気に変わったというようなことが、今、ネットの中で起きている。
海老原:それでもさ、この変わり身の早さ……。「鬼畜米英」って言ってた老人たちが、いつの間にか「アメリカ良いとこ」とか「アメリカは良い国」とか、(アメリカの)歌を歌ってたんだよ、みんな。あっという間に変わるのも人間なんじゃないですか?
佐渡島:そうなんですけど、戦争の時って情報は等しく、どの世代にも触れることができたのに対して、たぶん、あの人たちはデジタルデバイスに触れていないから、みんなが何を考えているかを振り返るチャンスがあまりないんじゃないかと。今までは同じことを言って、絶賛してくれたマスコミが、急に憎悪をもって取材するようになってきて、理由を理解できていなかったと思います。
海老原:本当にね。
佐渡島:だから、日大の監督に世間が要求していることって、簡単なようで、めちゃくちゃ大変なことだとは思うんです。どの年齢でも新しい情報を仕入れて、どんな時代にも適応するような、普遍性のある倫理観を持てる人間になれるのって、人口の1パーセントもいない。僕は日大に人口の1パーセントもいない立派な人になれ、と求めるのは、現実的ではないと感じるんです。
海老原:これさ、俺、少し気づいたんだけど、本を読んでいる人って600万人くらいしかいないっていわれているじゃない。600万人相手にベストセラーを作ってるわけじゃない。
そこの波及って、ものすごく早いから、ちょっと「売れた」っていう話を聞くと、その600万人は感度がよくて、すぐ100万部ぐらい売れちゃうわけじゃないですか。商売を600万人の中でやっていて、ワイドショーを見るのも、たぶん2,000万人くらいしかいなくて。
その他のおじさんは見ていないし、Twitterを見ている人も2,000万人くらいしかいないけど、そこで本当にものすごく大きな流れができちゃうと、単発的なものだと、おじさんは一生読まなくて、Twitterなんか知らないって言ってるけど、その2,000万人って日本人の6分の1しかいないのが、今度は1億人のことを、そいつらがのしかかってくるというので、一気に変わらない?
佐渡島:今回の日大の人たちは、もう自分たちのいろんなことがやばかったっていうのはわかっていたとしても、自分たちにかかってくるプレッシャーというか、その憎悪がどうしてなのか、たぶん全体像が見えてないのではないかと。
海老原:日大の当事者たちはわからない。ところが、ここから先なんですけど、当事者じゃない1億人の感度の悪い人たちって、例えば、安倍首相の事件、森友学園問題があって加計学園問題があって。これはすべて、最初に「ごめんなさい」って謝ればいいのに、言わなかったから問題になってるじゃないですか。
日大も共通するように、最初に「ごめんなさい」って言わなかったのが問題じゃないですか。こういうのを見てくると、しかも、ちょうどいい時期に集まってきてるから、最初に「ごめんなさい」って言えばいいっていう勉強は、1億人みんながしちゃうんじゃないですか。
佐渡島:いや、結局「ごめんなさい」っていうふうに、自己否定ができるようになるのが、究極的に難しいことなんじゃないですかね。自分が間違えている可能性があることを理解するんですよね。
社会の人の多くは、自己肯定感に……。なんて言うんですかね、本質的な自己肯定ではないんですけどもね。みんな、かなり自分を防御する思考に陥って、論理的じゃない論理を自分の中で正当化する思考回路を持っているなって思っています。
海老原:いや、俺はすぐ「ごめんなさい」って言う質ですよ。
(会場笑)
佐渡島さん、絶対に謝らないですよね。
(会場笑)
佐渡島:謝らないですかね? どうだろうな? けっこう僕サクサク謝る気がしますけどね。
海老原:いや佐渡島さんはすごいよ。あのさ、『エンゼルバンク』(注: 三田紀房氏の漫画作品『エンゼルバンク-ドラゴン桜外伝-』のこと。海老原氏はこの漫画に登場する転職代理人・海老沢康生のモデルである)をやっていた時の思い出で、僕はその時、霞ヶ関に勤めていたんですよ。それで、(勤め先の)隣に経産省があるんですよ。経産省のことを『エンゼルバンク』の中で、すごく……。
佐渡島:ああ。あれは謝らなかったですね(笑)。
海老原:特許庁の話、すごいよね。向こうからクレーム来てさ。俺としては経産省と仲いいから「海老原がやらせているのか?」と思われて、困ったわけじゃない。
佐渡島:(笑)。
海老原:あの時、謝んなかったよね?
佐渡島:そうですね。あれは悪いと思わなかったですね(笑)。
(会場笑)
海老原:それ自己肯定感じゃないの?(笑)。
佐渡島:あの、どういう話かっていうと、『エンゼルバンク』っていう海老原さんと一緒にやっていた漫画の中で、特許庁を批判的に書いたんですね。今も僕が思っていることなんですけど、特許庁の今の仕組み自体が、経済の発展にそんなに寄与してないなって。
それが改善されれば、と思ってあの部分を作って、特許庁の人が抗議をしてきたので、「その抗議をぜひぜひ単行本に掲載して、公開で議論したらどうですか?」って提案をしたんです。
海老原:かっこ良かったよね。
佐渡島:(笑)。
海老原:あのね、特許データって、あの頃はレーザーディスクみたいなのに入っていて、ぜんぜん検索もできなかったのよ。それを一気に公開すべきなのに、してないのは「二重三重に儲けているんだろ?」みたいな書き方したんだよね。
佐渡島:そうですね。ちょっと嫌味な書き方ではあったかなとは思います。特許庁の人が悪いと思っているわけではなく、仕組みがよくないと思っているだけなんです。
(会場笑)
海老原:いつも落ち着いているのよ。僕と歳が15歳違うのよ。それで、『エンゼルバンク』をやっていた時、僕は43、44歳でこの人は27、28歳だったのよ。まったく敵わなかったね。
佐渡島:いやいや(笑)。
海老原:その頃、私はそこそこ偉かったのよ。事業部長くらいだったんだよね。それでも、この人にはぜんぜん敵わなかったね。さあ! 今日も敵わないで負けていちゃいけないんで、そろそろAIの話をしましょうか。
佐渡島:はい、しましょう!
海老原:「AIで仕事がなくなる」という煽りはどのくらい信じていましたか?
佐渡島:まったく信じてなかったです。
海老原:まったく信じてなかった?
佐渡島:はい。保険のCM見て保険入るとか、銀行のCM見て貯金しようとかって思うみたいな話ぐらいの感じで。
海老原:恐怖商法ってやつね。
佐渡島:そうですね。
海老原:日本人は、なんでこれをみんな信じちゃうの? ちょっと順番が前後しているけど、なんで日本人は信じちゃうんですか……。
佐渡島:そこって、日本人っていうよりも……。
海老原:人間は。
佐渡島:そうですね。リテラシーが低い人は現状しか見えないというか。
海老原:はい。
佐渡島:未来って現状と変わるものがたくさんあるじゃないですか。
海老原:はい。
佐渡島:だから「これがなくなってしまう」っていう不安の要素がいっぱいあるわけですよ。でも、未来の新しいものって1つも予想ができない。その想像力があったらとっくに成功しているんでね。不安を1,000個思いついても「安全な未来」は1個ぐらいしか思いつかないんですよ。
海老原:はい。
佐渡島:だから不安になる。「心の中に思い浮かぶものの数」の問題だなあと思って。
海老原:それにしてもですよ、AIってのは人工知能じゃない? 人工知能は、物理的な業務はできないじゃん。普通の人はこれぐらいのことも気づかないの?
佐渡島:それは、車ができたら職業がなくなるとか……。
海老原:電話ができたら、とかね?
佐渡島:電話ができたとか、白物家電の時にみんなが感じた恐怖と、そんなに変わんないんじゃないかな……。
海老原:そうしたら慣れているわけじゃん。FAXができたら何がなくなるとか、Eメールができたら営業がなくなるとか言われたけど、なくなってないんだから、今度もなくならないんだなって。それぐらいは考えないのかな?(笑)。
佐渡島:最近、会社の人事制度をいろいろ作ったり考えたりする中で、FFS(Five Factors & Stress)っていう診断をやっています。それで、社員のみんなに受けてもらったり、あとコルクラボっていうコミュニティでも受けてもらったりしていて、すごくたくさんの人のFFSのデータを見ているんですよ。
そうすると、論理的に意思決定をする人ってほとんどいないですね。論理的に考えられるかどうかはテストじゃなくて、意思決定の時に何を重視するかを見て、意思決定の癖を見るものなんですけど。
海老原:はい。
佐渡島:ほとんどの人が、意思決定の時は周りの人を見るか、好きか嫌いかで選んでいるんですよ。だから、身の回りにいる誰かが言っている意見に7割の人が流されるんです。ただ流されるというだけなので、マスコミとか声の大きい人の意見は、流れになりやすいなと思いますね。
海老原:そういう心情とか、行動特性を商売やる時に逆に利用しているんですか? 「人は流されやすいからこういうふうにやれば動くだろ」「こんな流れを作っちゃえばいい」って。
佐渡島:社内だと、例えば「席はどうするの」とか。
海老原:それは社内ね。
佐渡島:社内だとそうですね。
海老原:そうじゃなくて、漫画を作るとか、ビジネスを作る時。
佐渡島:漫画を作る時は、その作家がどう作るかを助けるだけなので、あんまりそういうのを考えないです。でも、どうだろう、ビジネスをする時は、結局人は、周りの人に流されて買っていくんです。だから例えば『君たちはどう生きるか』っていうのは……。
海老原:売れたね、あれも。
佐渡島:そうですね、あれはもう「売れているし、みんな読んでいるし、今の時代に読んだ方がいいよ」っていう雰囲気が出たのが大きいですね。
海老原:そうですね、うん。
佐渡島:そうしたらみんな、中身は何を書いてあるかわかんないけど読んでくれるわけじゃないですか。
海老原:そうだよね、アドラー(心理学の本)だってそうだしね。
佐渡島:そうです。たぶんみんなまず買ってみる。読む人がどれくらいいるのかは、ネットではないとわからないですよね。(笑)。
(会場笑)
海老原:それもわかっているわけね!
佐渡島:そうだと思います。本ってそういうものですよね。
海老原:ちょっとごめんなさい。みなさん佐渡島さんのことはいいよね? 紹介しなくても知ってるもんね? 今日は佐渡島さんが目当てで来てるんだもんね。
佐渡島:(笑)。
(会場笑)
海老原:じゃあさ、なんで吉野源三郎に目をつけたの?
佐渡島:あれは僕じゃなくて、マガジンハウスのヒットメーカーだった人が『君たちはどう生きるか』を原作に漫画作りたいって言ってきて。それで「羽賀くん(注: 漫画家の羽賀翔一氏)でどうですか?」って言われて。羽賀くんはあまり描くのが速いタイプじゃないから、「原作付きがいいかも」って思って「やりましょう!」って言って始まったんです。
海老原:でも……。
佐渡島:それで、僕もここでなんとか単行本1巻分、ストーリーを描く力を身につけてもらおうと考えていて、「今回は3万部をまず、目標にしよう」ぐらいの感じでやったんです。
海老原:漫画で200万部でしたっけ?
佐渡島:漫画で200万部ですね。
海老原:それで、小説の方で50万部。すげーよな。
佐渡島:そうですね、あれは運の力も強いです。『君の名は。』とか『アナ雪』も全部そうだなって思っています。
海老原:じゃあ佐渡島さんのやるもの、買わない方がいいね。こんなこと言われたらね。
佐渡島:(笑)。
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