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Why Is It So Hard to Make a Male Birth Control Pill?(全1記事)

男性用のピルの開発が難しいのはなぜか?

女性用の経口避妊薬(ピル)はあっても、男性用の経口避妊薬はいまだ開発段階です。どうして男性用を作ることが難しいのか? 今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」は、男性用の経口避妊薬の開発について解説しています。

男性用の経口避妊薬の開発について

ステファン・チン氏:最近開催された内分泌に関する学会では、男性用の経口避妊薬の開発に一歩近づいたという新しい研究内容が発表されました。このニュース、以前に聞いたことがあるような気がしませんか? 実は、そのとおりなのです。

研究者たちは、安全で回復可能な男性用経口避妊薬の開発を何十年も続けてきました。もう少しでできるところまでは来ているのですが、まだ完成には至っていません。これまでSciShowでは、クロマチンリモデリング、ホルモン注射、輸精管または精管を遮蔽する可溶性ゲルなど、さまざまなものをリポートしてきました。

研究者たちは、これらをまとめて避妊と呼んでいます。精子を作る「シスジェンダー」(注:トランスジェンダーに対して非トランスジェンダーを指す語)の男性がテストの対象であったからです。

さて、男性用の経口避妊薬を作るのはどうして大変なのでしょうか。答えは簡単です。「ひと月に1度、1個の排卵を防ぐ方が、1日に何億もの精子を作ることを止めるよりも楽だから」です。

女性用の経口避妊薬は、なんと60年前の1960年代からありました。しかも、たくさんある選択肢の1つに過ぎません。経口避妊薬は、エストロゲンとプロゲステロンの両方か、プロゲステロンのみのいずれかの合成ホルモンを含有しています。

これは、ホルモンレベルを安定させて排卵を促す、生理周期の半ばのエストロゲンの急上昇を抑えます。エストロゲンの急上昇が阻まれれば、排卵は起こらず、妊娠することもありません。

非常に稀なことですが、女性用の経口避妊薬は、血栓や心臓の疾患など、深刻な副作用を起こすことがあります。一方で骨粗しょう症や貧血、がんの一種などの発症を低減させるという健康上の利点もあります。

男性には、コンドーム、パイプカット、膣外射精など以外には、あまり避妊の手段はありません。男性は、1回の射精で平均1億8千万もの精子を排出します。そして、卵子1個を受精させてパートナーを妊娠させるには、たった1個の精子で十分です。つまり、避妊は膨大な数の精子に対応する必要があるわけです。

男性用の経口避妊薬は、コンドームのように精子を物理的に止めるのではなく、精子数を減らすことを目的としています。要は精細胞生成を妨げるもので、精子そのものに干渉することはありません。

精子のテストステロン濃度を調整?

この基本戦略は直観的なものではありません。男性に大量のテストステロンを投与すると、精子の生成が止まることはわかっています。精子は精巣で作られます。精巣ではテストステロンも生成されます。当然、精巣のテストステロン量は多く、血中の20~125倍にも上ります。

精子が正常に生成されるには、こういった高濃度のテストステロンが必要となります。テストステロンを注射したり、経口で服用すると、脳と脳下垂体は、体内のテストステロン濃度レベルは十分だと判断し、精巣でのテストステロンの生成を制限します。

精巣でのテストステロン生成が制限されると、テストステロン濃度が低減し、精子が生成されなくなります。これまでのホルモンを使った男性の避妊は、週に1度かひと月に1度、合成テストステロンを投与するといったものでした。これにさらにプロゲステロン投与を加えると、ホルモン注射や移植、パッチなどの成果が上がりました。

しかし、こういった処置は精子生成の制限に効果がある一方で、欠点もありました。テストステロンとプロゲステロンのレベルを、同時に安定させることが難しかったのです。

また、自宅で毎日服用できるピルに比べて、週に1度や月に1度とはいえ、注射しなくてはならないのは手軽さに欠けました。避妊は実行できなければ意味がありません。さらに、人によっては注射痕が痛んだり、にきびができたり、性格が攻撃的になったりと、不快な副作用が発生しました。

これまで行われた研究結果では肝臓に大きな負担を与える恐れがあるので、研究者たちは必要量である大量のテストステロンの経口投与をためらっていました。

また、経口のテストステロンは体内では非常に迅速に分解されてしまうため、こういったピルは1日2回摂取する必要がありました。

新薬は何が違うのか

では、新しい男性用経口避妊薬は、何が違うのでしょうか?

この経口避妊薬はワシントン大学とロサンジェルス・バイオメディカル研究所の共同研究の成果であり、シカゴで開催された直近の内分泌学会にて報告されました。

同共同研究チームは、男性用経口避妊薬「Dimethandrolone Undecanoate(DMAU)」を中心とした臨床試験を行いました。DMAUは、テストステロンとは異なる構造を持ち、体内に長時間留まってテストステロン濃度を安定されるため、服用は1日1回で済みます。

DMAUは、代謝されて体内に影響を与える活性分子へと変換されるため、プロドラッグとして認識されています。この場合、エストラーゼという酵素が、DMAUを「ジメタンドロロン(DMA)」に変換します。DMAは、全身でテストステロンやプロゲステロンと結合するホルモンレセプターと結合します。

DMAは、ピルや注射で注入されるテストステロンと同じように、体をだまして精巣のテストステロン生産量を減らすため、精巣のテストステロン濃度が減少し精子が生成されなくなります。

DMAは、動物実験でもうまくいきました。DMAにより、繁殖力の高いことで知られるウサギの精子すら生成を抑えることができました。これはかなり希望が持てるのではないでしょうか。この研究は多くの注目を集めていますが、まだ初期段階であるのが実情です。

DMAU実験の結果は

最近実施された臨床試験をご紹介しましょう。研究者たちは、18~50歳の、83名の男性に28日間、毎日DMAUを服用してもらいました。

さらに、試験前と後の血液サンプルを採取し、ホルモンレベルや、コレステロールのようなその他の健康指数を調べました。

すると、被験者の血中のテストステロンが著しく減少し、精子の生成が止まるレベルになっていることがわかりました。

さて、ここで明記しておくべきなのは、研究者たちは精子の量までは測定していなかったということです。この研究の目的は、もっぱら薬品の安全性の確認であり、その点では成功だったようです。

被験者たちの性欲や生殖能力には目立った変化はなく、当初の懸案であった肝臓や腎臓への深刻な副作用は見られませんでした。何人かに体重と赤血球にわずかな増加があり、善玉コレステロールにわずかな増加がみられた被験者もいましたが、いずれも深刻なものではありませんでした。

研究チームはこの後まもなく、より長期間のDMAUピルを服用してもらう追跡調査を開始し、精子のサンプルを採取して精子生成量を測定する予定です。同チームもしくは他の研究者たちが、ブレークスルーを達成できるかどうか、つまり安全、手軽で回復可能な避妊薬を開発できるかどうかは、たいへん大きな業績となることでしょう。

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