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トークセッション(全7記事)

日本の木造建築は遅れている? 坂茂が語る、建築業界の意外な事実

2017年7月21日、銀座 蔦屋書店にて、同書店主催が主催のイベント「坂 茂と語る建築家の社会的役割」が開催されました。映画『だれも知らない建築のはなし』の監督、石山友美氏と建築家の坂茂氏が登壇し、トークセッションが行われました。イベントでは、映画に登場した建築家らのエピソードとともに、建築に求められる社会的な役割というテーマで語り合いました。建築家とは一体何か? 建築家は社会から何を求められているのか? 世界中で活躍する坂氏と、世界各国の建築形にインタビューした石山氏が、その深遠なるテーマを紐解きます。

世界から見ると「日本は天国」

石山友美氏(以下、石山):こうやって話していくと日本の悪いところばかりが目立ってしまうんですけれども。世界を渡り歩いてお仕事されているなかで、日本に希望を見出すとするとなにかありますか?

坂茂氏(以下、坂):建築をつくる立場からすると、日本は天国です。世界最悪はフランスです。それはゼネコンの質の問題なんですけどね。

日本のゼネコンは建築家をサポートして一緒にいい建築をつくろうとするんですよ。ですけどフランスのゼネコンは建築家を敵だと思ってるので、僕も工事が始まった途端ずーっとケンカしなきゃいけないんですね。

フランスのゼネコンは建築家と距離を置いて、サポートしてくれないんです。だからレンゾ・ピアノが言ってましたけど、「ポンピドゥー・センター」の工事がはじまった途端に裁判が始まったって。

(会場笑)

それぐらいいつも戦わないといけないんです。ジャン・ヌーヴェルが日本で電通のビルをつくっていた時に「日本は天国だ。フランスは地獄だ」と言ってましたけどその通りだと思いますね。

石山:それはゼネコンの細やかなサポートということでしょうか?

:細かい話ですが、例えば、アメリカ、フランス、日本でシステムが大きく違うんです。

アメリカは訴訟社会ですから訴訟が絶対に起こらないように、設計事務所は入札するときにディテールの図面まで全部出さなきゃいけないんです。外れたことが起こらないように見積もりを厳密にするのがアメリカなんですね。

日本は、そんな細かい図面を見積もりの時に書く必要がないんですよ。ではなぜ、現場が始まってからゼネコンと揉めないかというと、設計時から我々はサブコントラクターやいろんなメーカーと打ち合わせをして、サブコントラクターは契約もないのに設計時に図面を描いていろんな検討をしてくれるんですよ。それは日本のいいところですね。

ゼネコンは、見積もりをしてる時にサブコンに連絡をすると実際にどういうものになるかということがお金的にも図面的にも上がってくる。だから、細かい図面が見積もり時になくても、現場が始まってからでもそんなに間違いはないわけですね。

フランスはその悪いとこ取りで、見積もり時にたくさん図面を描く必要はないけど、サブコンは契約がないと一切コンサルタントや図面を描いたりしてくれませんから、ゼネコンも資料を取り寄せようがない。

さらに、フランスのゼネコンは仕事を取るためにあり得ないような安い値段を言うんですよ。それで現場が始まってから「これは建築家の責任だ」「役所の責任だ」とか言って設計を変えさせるんですよね。あるいはいかに簡単にするかで勝手に設計変更しちゃったりするんです。ですからフランスの場合、始まってからずっと戦いなんですよ。

なぜ日本でいい建築家がたくさん育つのか?

石山:どこも一長一短なんだと思うんですが、坂さんは率直にどこでお仕事するのが一番楽しいですか?

(会場笑)

:世界中で仕事をするのが楽しいです。あ、もう1つ日本のいいところを言っておきますと、「なぜ日本でいい建築家がたくさん育つのか?」と海外でよく聞かれるんですよ。

それはね、日本で建築家をやっててわかるのは、日本は若手建築家でも住宅を設計するチャンスがあるんですね。先進国でも開発途上国でも、お金持ちしか建築家に住宅設計を頼まないんですね。

唯一日本は、土地が小さくても予算が小さくても、若手建築家に頼んで「おもしろい家をつくろう」という人がたくさんいるんですよ。それを小さい工務店でも一所懸命、よくつくってくれるから、若手建築家のすごくトレーニングの場になる。こんな国は世界で日本しかないですね。だから日本では、どんどん若手からいろんないい建築家が育ってくるんだと思いますよ。

石山:それは70年代、伊東さんや安藤さんが若いときに小住宅からキャリアをスタートさせたというのと同じことが今でもあって?

:そうですね。

石山:今の若い建築家も、言ってみれば世界へ出ていくチャンスはあるっていうことですよね?

:あると思いますよ。磯崎さんがわれわれが世界で戦う道筋を広げてくれて、われわれはそれについて戦って、若手建築家もすぐ出ようとしてますから、チャンスはあると思いますよ。

石山:最後にそれを聞けてほんとによかったです。

(会場笑)

:ありがとうございました。

石山:ありがとうございました。

(会場拍手)

日本の「木造」の現在

司会者:ありがとうございました。時間が少し押し気味ではありますけど、せっかく今日たくさんお客様が来てくださいましたので、1人かお2人ぐらい、よければ質疑をうかがいたいなと思うんですけれども。いらっしゃいますか?

質問者1:TOTOギャラリーで坂先生の展覧会を......。展覧もそうなってましたけれども、木のデザインをかなりメインにやられていると思うのですが。日本の木造と海外の木造とではかなり違うように思う。日本はこのままですと、ガラパゴスみたいになってしまうんじゃないかなと思うんですけど、それについては先生どう思いますか?

:今、世界的に木造ブームなんですね。だから今まで木造をやったことのない建築家も流行りでみんなやり始めているんですけど。実は木造ってそんな簡単に、流行りでできるものじゃないんですよ。例えば、木造でも大きな鉄のジョイントを使ってやったら鉄骨屋がやるのと変わらなくて、だから木が飾りになっちゃてる。

「和風」みたいなことで、最近、木を使ったりする人がすごく増えてるんですけども。でも本当は、木造に対しての知識と、それから木造の専門のエンジニア、それかパブリケーターとのコラボレーションがなかったらいい木造はできないんですよね。そういう意味で残念ながら日本はすごく遅れを取ってしまった。

戦後、日本は、やはり木は燃えるということで木造建築の開発をやめてしまったので、いつの間にか欧米から遅れてしまって。例えば、いろんな集成材とか、新しい木の材料の技術も開発されてないし、それから木造を扱えるエンジニアもいない。パブリケーターもすごい減ってしまった。

法的規制の弊害

:そういう意味で、今、世界で一番進んでいるのは、スイスとドイツなんですね。

例えば、展覧会で出していたスイスのスウォッチの本社ビルは三次元にカットできる機械を駆使してつくってるんですけども、それはそれを解析できるエンジニアがちゃんといるからなんですよね。

日本にはそれはいないし、そのパブリケーターもいないですね。あるいは新しい集成材をつくる技術も日本にはないんで。今、ガラパゴスって言われましたけど、実は僕も木造のガラパゴス化って言ってるんですけども。

残念ながら日本はすごく遅れた上に、法規的な制限もありまして。「燃えしろ設計」といって、木で耐火建築をつくらなきゃいけない場合は構造に必要な大きさの周りに、厚さを増しておくとそれが30分耐火、1時間耐火って認められるんですけど。日本は「燃えどまり」っていうバカげた制度があって、その燃えしろの中に燃えないものを入れないと使っちゃいけないんですね。

こんなバカげた法律、日本しかなくて。別に火の勢いがスイスやドイツと比べて日本がひどいわけじゃないのに、日本だけそういう法律があるために、日本のメーカーは特殊な木の材料をつくっている。これはもう日本でしかつくれない、ほんとにガラパゴス技術なんですね。

だからこんなことやってると日本の木造技術はどんどん遅れて、ファッションでの流行りでの木造でしかなくなってしまいますね。

「紙をつかった建築」の耐久性

質問者2:本日は貴重なお話ありがとうございました。紙管を使って大きな建築だや、仮設の建物をつくったりしているということなんですけれども、紙管自体の素材の耐久性がどれぐらいなのかというのと、もしそれが短い場合は交換可能なようにして経営されているのかどうかを聞きたいです。

:はい。あの、はっきり言って何年持つかわからないです(笑)。まだ僕は始めて25年ぐらいしか経ってないんで。ですけどね、今、まさにいいことおっしゃったのは、木造と同じ、あるいは木造よりもっと簡単に交換ができるんですよね。だからディテール的にもやはり、なにかあったら交換できるように考えてやってます。

外部の場合はすごく防水に気を付けてますけども、内部に使う以上はあまり防水は関係ないですし、実験でずっと強度を確認したり、それから煮沸試験とかいろいろやって耐久性も確認してます。

今のところ一番古くて今でも使われているのは、高橋睦朗さんという有名な詩人の書庫で、1991年にできたものがあります。なのでもう26年経ちますけども、なんにも問題なく使ってますね。

そう考えると鉄筋コンクリートなんていうのはまだ数百年しか前例がない。木だったらもう何百年はありますけどね。そういう意味では紙は木に近いですから、あるいは交換したり直すことができますから、耐久性というのは十分に恒久なものとしてあると思います。

質問者2:ありがとうございました。

司会者:それでは長時間ありがとうございました。ではお二人に大きな拍手で。ありがとうございました。

(会場拍手)

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