2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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石山友美氏(以下、石山):今回のイベントのテーマは「建築家の社会的な役割」ということで、映画の終着地も「建築家というのは社会にとって何なんだろう」というのを考える内容になっています。伊東(豊雄)さんも安藤(忠雄)さんも、日本においては建築家が社会から認知されていない、認められていないというのを「空しく感じる」というような発言があったんですけど、それに関しては共感しますか?
坂茂氏(以下、坂):すごくそう思いますね。例えば、「ポンピドゥ・センター・メッス」はフランスのメッス市につくったんですね。それで、街を歩いていると「うちの街にこんな素敵な建築をつくってくれてありがとう」と、見ず知らずの市民の人が声を掛けてきてくれるんですよ。日本じゃありえないですね。
逆に、日本では何が起こっているかと言えば、例えば中央都市へ行ってタクシーに乗って、立派な建築現場があるから運転手さんに「あれ誰がつくったんですか?」と聞くと、「あれは鹿島だ」とか「竹中だ」とか。
(会場笑)
建築家の名前なんか興味ないし知らないんですよね。運転手さんに「あの建物行きましたか?」って聞くと「いや、客は連れて行くけど、自分は美術館なんか行かないよ」と。意外と一般市民は公共建築を使ってないんですよ。
それは、建築家にも責任があると思うんです。公共建築なんだから、美術館は美術愛好家しか楽しめない建物じゃダメだし、音楽館も音楽愛好家しか楽しめない音楽館じゃダメだと思う。
だから大分でやったことは、普段まったく来ない人たち、街をふらふらって歩いている人たちも、いかにふらふらと入っちゃうような美術館にするか。それが一番のテーマだったんです。
確かに日本では、建築家の存在も知らないし、興味ないし、「血税使ってあんなコンクリートの塊つくって」と、ほとんど愛着を持たないんですよね。そういう日本の建築に対しての意識や文化的なレベルの問題もあるかもしれないけど、建築家の努力も足りなかったんじゃないかなという気がします。
石山:それは建築家のコミュニケーションというか、作品を伝えていくことが少なかったということなんでしょうか?
坂:さっきも言いましたように、公共建築はとくにそうですけど、市民に説明しなきゃいけない建築はダメだと思うんですね。日本の建築家に限らないけど、自分のエゴの表現としての建築に走っている人はやっぱり多いですよ。だから一般の人たちが愛着を持てない公共建築って結構ありますね。
「建築家に頼むと値段が高くつく」などの間違った認識が広がっているのは、やっぱり建築家のせいでもあると思うんですね。自分の建築のコンセプトや、エゴの表現としてじゃなくて、いかに市民に愛着を持ってもらえるかを考えながらつくらないと、いくら説明したってダメだと思うんですよ。
石山:ちょっと話が戻るんですけれども、一番はじめに「建築家になりたい」と思ったのはジョン・ヘイダックのものを見たり、磯崎さんの群馬の美術館を見に行ったり、そういった空間の体験だったというふうにおっしゃられてると思うんですけれども。
坂:いや、それはアメリカに行くきっかけであって、「建築家になりたい」と思ったのはもともとちっちゃいころ大工になりたいと思っていて。ものをつくるのが好きだったんで。
高校生の時に、さっき紹介された「a+u」という日本の世界の建築を紹介する雑誌を、たまたま僕の先生の家で見て。75年の特集号でジョン・ヘイダックとクーパー・ユニオンの特集とか、ピーター・アイゼンマンとかリチャード・マイヤーが特集されていて。
ジョン・ヘイダックは、ピーター・アイゼンマンの親友でニューヨークの建築家で僕の行ったクーパー・ユニオンの校長先生なんですけど。それでもうこの学校に行くっきゃないなと思って。それでアメリカ行っちゃったんですけども。アメリカに行くきっかけになっただけであって、彼らがきっかけで建築家になるってわけではないです。
石山:小さいころに大工さんに憧れていたということで。実際に手を動かしたりと、そういう「自分の作品に対するある種純粋な建築への思い」と、「建築家としての社会に対する使命感」というものは共存するとお感じになられたから、今お仕事をやってられると思うんですけれども。
エゴというふうにおっしゃられましたけれども、エゴというと言葉にすると悪い印象になってしまいますが、私はその部分もちょっと信じてみたいんですよ。
坂:いや、エゴがなければいい作品つくれないですよ。あなたも言ったように、エゴという言葉にしちゃうとなんとなく良くないけど、やっぱり自分の信念がなかったらいい建築物はつくれないですよね。ただそれをどう発揮するかっていう、発揮の仕方はいろいろあると思うんですけどね。
石山:それはやはり自分の内面の、言葉にすればエゴなんですけれども、そういったものを持ち続けながらも、社会に対する説明ということなんですかね?
坂:ですからその説明を言葉じゃなくて、建築で。説明しなくとも一般の人たちが気に入ってくれたり、使いやすかったり理解してくれるということを、建築でちゃんと喋れているかどうかだと思いますけど。
石山:まさに理想はそうであってほしいと思いつつも、やはり言葉の説明というものが日本では足りてないような気もするんですよね。建築家が何をやっているのか、何を考えてどういう建築を生み出しているのかというのがあまりにも理解されていないなと、とくに新国立競技場の問題なんかを見ていて感じるんですけれども。
坂:僕が説明するべきものではないと思ってるんですけど、あれは完全に政治の茶番ですよね。ザハは悪者に仕立てあげられちゃったけど、僕はザハと親しいんで、ずいぶん彼女から電話がかかってきて愚痴を聞きました。
政府の親しい人からちょっと聞いたら、結局「予算は1500億で通る」とザハは言われてた。ザハは「安くするんだったらするよ」と言ったのに、クライアント側がこれでいけるって踏んで。それでも安倍さんが他のことと絡み出して白紙にしちゃったんですけどね。
あれは、まったく彼女の責任じゃないし、「彼女を選んだこと自体コンテクストを壊す」とかそんなこと言う人いるけど、だって別に彼女はもともとコンテクストを大切にする人じゃないし。東京の街にそういうものが必要かどうかもわからないし。それは彼女の責任じゃまったくないですよ。
もうあれはほんとに政治の茶番ですね。
安藤さんが説明しなかったとか、擁護しなかったっていう側面もちょっとあるかもしれないけど、でも安藤さんの責任でもないし。もう完全に政治の茶番。結局その後に行われたコンペも出来レースだったわけですよ。
あれも僕は警戒を発してたんですけど。あの規模の建築ができるのは日本のゼネコンでは5社しかないから、ああいうふうにゼネコンと建築家が組むと、最大でも5人しかコンペに出られない。JV(注:共同企業体)でもくるからもっと減っちゃったらもうコンペにならないんですよね。
だから最初からあんな出来レースはやるべきじゃないのに。日本の建築家は自分たちの地位があんなことで落ちていってしまう可能性があるのに、それに参加してやっていく。建築家の責任でもありますよ。
石山:私は建築の業界にいるわけではないので、そういった問題が起きた時に建築家に責任をなすりつける社会自体にやっぱり問題があるなとその時は感じました。坂さんは建築家として一連の出来事を見てらして、やはり建築家に対しては厳しい意見をお持ちなんですね?
坂:いや、僕も悔し紛れもあるんですよね。最初、第一次のコンペは出たんです。それで二次も出たいと思ったけど、ゼネコンで組んでくれるところがなくて。結局2社しか出ないことになったんですね。ザハは「もう一度コンペに挑戦する」と言ってくれたんですよ。だけどどこのゼネコンも組まないわけですよね。
もうだから「大成」と「竹中」、最初にコンペが通ったところと組むのが日本の慣習ですから。もうそこしかやらないわけで、あんなのコンペじゃないですよ。だからやっぱりもう少し、建築家もなんとかそれに対してね、それだったら降りるなりしなきゃいけなかったと思いますよ。
石山:そういった建築家のあり方とか、変わっていき方というのは、映画では70年代から使ってるんですけれども。その時から実感としては急速に変わっていったものなんでしょうか? それともずっとそのまんまというか、変わらずあるものが発露しているという感じなんでしょうか?
坂:いや、だからどんどん時代の問題性が変わってきていると思うんですね。今は「新国立競技場」の問題を代表として、デザインビルドっていう悪い流れがあって。結局これも設計の力の責任というのがあるんですけども。アトリエ建築家に頼んでると、予算がどんどん膨れてしまって工期が遅れたりするから大変なことになっちゃうということで、ゼネコンにやらせると。
それで、ゼネコンの下で建築家がなんとなくデザインをする。そういう建築家の立場が非常に危うくなるような工法が、今あるんですよ。そうすると、どんどんいい建築家が日本に生まれなくなりますね。でもそれはやっぱり建築家の責任でもあるんですね。
石山:それは世界中でお仕事をされていて、実感として日本については危機感を感じてらっしゃる?
坂:例えば、つい最近パリにつくった音楽ホールも、今回の新国立競技場と同じようにいわゆるPFI(注:民間資金活用による社会資本整備)といってゼネコンと組んで出さなきゃいけなかったんですね。新国立競技場は今回は出来レースになっちゃってるって言いましたけども、フランスだってその規模ができるゼネコンなんて日本より少ない、3社しかないんですよ。
だからそのままだと3案しか出ないけど、フランスはそれを避けるために各ゼネコンは2チーム、2人の建築家と組まなければいけない、最低2チームつくらなければいけない。だから今回6チーム出たんです。フランスではそういう出来レースにならないようなシステムがあるんですよ。
日本は最初から、政府がどの建築家、どこのゼネコンの仕事にしたいって決めてますから。今回も「大成」でやらせるって最初から決まってますからね。だから第二回は、あえて広いオープンなコンペにはしたくなかったわけですよ。だけどフランスはそれを避けるために、PFIみたいにゼネコンと建築家が組む場合でも「2者と組みなさい」とかそういうシステムがあって、ちゃんとしてますね。
石山:システムがそうやってできているのは、社会的な関心や、建築が社会に根付いてることが前提としてあるんでしょうか?
坂:フランスはいい建築をつくるということ、世界から建築家を集めてきてつくりたいと。例えばの「ルーヴル・ピラミッド」にしてもそうですけど、そういう歴史的にありますし。
僕は「今まで建築家は特権階級の仕事をずっとしてきた」と批判的に言ってるんですけど。例えば、財力とか権力とか目に見えないから、それを社会に見せるために特権階級は建築家を雇って立派な建築をつくって表現する。そういうことに我々は使われて、我々もそれを利用してきたわけですけども。
だけどフランスは「ポンピドゥー・センター」や「シャルルドゴール空港」とか、全部大統領の名前がついているように、やっぱり昔ながらの政治家は自分の名前を付けた建築を残したいんですよ。それにはやはり世界で歴史に残る建築をつくりたい。だから建築家がすごくリスペクトされているんですよね。
日本の政治家は、良くも悪くも自分の名前が付いた建物を残そうなんて思ってないし、それに興味はもっていないですよね。いい公共建築かどうかというのもわからないのかもしれませんけど。
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