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司会者:続いては文芸作品を扱う第五事業局の2作品をご紹介します。まず人気の『ハゲタカ』シリーズ最新作が昨日、11月15日に発売されました。真山仁さんにご登壇いただきます。では、どうぞ。
真山仁氏(以下、真山):こんばんは、真山です。よろしくお願いします。
(会場拍手)
今度はとっても柔らかいお話なんです。おかげさまで2004年にデビューして、『ハゲタカ』からずっと、つい最近までシリーズはこれしかなかったんですが、『ハゲタカ』作品は一作一作の間隔がだいたい3~5年くらい開いてるんです。
今、『ハゲタカ』の別のシリーズは『グリード』が最後でして、たぶん2014年か15年くらいだと思うんですが、あるんですね。
今、週刊ダイアモンドで連載『シンドローム』という連載をしてるんですが、この段階ですでに4年くらい開いている状態で、『ハゲタカ』は作品が出て行ってだんだん自分で気づいたことといえば、ドラマにもなったこともあるんですが、最近の時代小説という感覚がものすごく出てきました。
理由はなぜかと言うと、必ず『ハゲタカ』には冒頭には何章何節、全部日付が入っているので、結果的に読んでいる方がだいたい4~5年くらい前を舞台にして物語が動くので、ご自身がその時に何をしていたかみたいなことを考えながら読まれるようです。
こちらの意識としては、現実の中のリアリティを少し感じていただくために日付を入れてる感覚だったんですが、結果的に読んでいただいてる方には、もっともっと、個人的ないろいろな自分の思いとかがありまして。
それが初期の『ハゲタカ』はバブルの崩壊だったり、あるいは21世紀になってだんだん日本の経済が変わってきたりみたいなことがあったと思います。
真山:そういう意味では対話のようになりつつあるんですが、大きな流れの中に、どうしても取りこぼしてしまうというか、主要な登場人物で、ともすると非常に多くのファンがいる登場人物にも関わらず、そこが監修できずに終わってしまったり、その人が登場できなくなってしまったりするところが出てきまして。
最初に、結果的には先に出たんですけど、2年前に『スパイラル』という小説がありまして、芝野健夫が東大阪の町工場を再生するという小説です。これはまったく最初は連載はなくて書き下ろしのように出たんですが。
『ハゲタカ』のⅡからグリードの終わりまでの間の町工場は連載中は時々出てたんですけど、全部外してしまったものを1つにまとめて外伝にした。
作品が出るといろんなところでトークショーとかいろいろやるんですが、この外伝として発表したときにもう1つスピンオフの作品がありまして、「いつ出すの?」とずっと言われていたのが、今回ようやく出ました。
この作品の売りは挿画です。これはご存知かどうか、山田章博さんというたいへん素晴らしい漫画や挿画をお描きになっている方です。山田さんの表紙にはもっと他の作品でも、あえて作品名は言いませんが、素晴らしい挿画です。
今回鉛筆でずっと、これは連載中に描いていただいた絵なんですが、『ハゲタカ』はなんでもありだというのが私のルールでありまして、他の小説に出てきた登場人物を出したり、今までいろいろやらなかったことを小説の中でやってみようと。
今回は『ハゲタカ』にも関わらずこの表紙だけではなくて、各所のトビラに山田さんの絵が入ってます。連載中、100枚原画を描いていただいたんですが、その中の10枚が今回、表紙を入れると12枚になるんですかね、入ってます。
真山:この『ハーディ』という作品のハーディの意味を少しだけご説明します。フライフィッシングのリールのすごい古いメーカーの名前です。
ただもう1つ意味があって、頑固とか譲らないとか、そういう意味があるんです。この上巻に出てくる松平貴子が「日光ミカドホテル」の再生を、自分の人生を懸けてやっていた物語があって、いろんな小説の中に時々は出ては消えていく役割として出てたんです。
でも3作目の『レッドゾーン』でちょっとどうしても彼女を使い切れなくなってしまいまして。いつかスピンオフをするので彼女には諭して出ないでくれないかと。それでしばらくお休みしていたんです。
ちょうど講談社文庫の中にあるインポケットという文芸誌があるんですが、たまたま当時の文庫の私の担当者がそこの編集長に就任されて、お祝いに「眠っていた松平貴子のスピンオフを、軽く短めにやりましょう」と、やり始めました。それが2008年のことなんですが。なんと5年続いて、私の小説史上最大2,200枚の小説になりました。
もうすでにどこかで私の作品の作り方をご存知の方はご存知だと思うんですが、私は連載の作品はたいがい切り刻みまくって、たいへん加筆したり修正したりするんです。これはたぶんその中で最大。たぶん千数百枚、削った状態で、ただ物語がつながってると思うんですが、変えました。
それはこの中に出てくる、松平貴子ともう1人、『ハゲタカ』ファンの方にはたいへん人気のある、鷲津の右腕であった金髪のアラン・ウォードという非常に愛されていた登場人物は、私があろうことか『ハゲタカⅡ』の冒頭で殺してしまいまして。彼の魅惑のある女性、下巻のところに出ている彼女なんですが、麗しいと書いて「レイ」と読むのですが、この2人の女性だけを使って、女性がハゲタカをやっていくよと。
さっき言いましたけど、なんでもやってみるのは『ハゲタカ』のよいところなので、今まで男臭くて、鷲津や芝野といったのを中心に非常に男臭い小説をやってきたなかで、女性だけでやれないかと。
真山:そう思ってやり始めたんですが、いかんせん自分の能力をどうも私は過信しておりまして、書けども書けども物語が動かなくてですね。で、結果的には2,200枚と信じられない量になって、実はお蔵入りして本当は二度と発表するつもりはなかったんです。
ただ、ぜんぜん関係のない、例えば特捜部の小説のトークショーをやった時に、必ず「『ハーディ』はいつ出ますか?」と聞かれます。年1~2回、うちのホームページでも聞かれます。どうかすると「私がきっと見落としただけでどっかから『ハーディ』は出てるんですよね」って言われまして、その重圧になかなか真綿で首を絞められる。
結果、山田さんの素晴らしい絵もあるので、なんとかそれでがんばってみようと思って、渾身の力で削り続けたんですが、削ったことによって、不思議なもので、たいへん物語がまっすぐになった。さらに何か私が言うのもあれですけど、女性が登場する女性っぽい小説になった。
だから不思議なもので『ハゲタカ』を絶対読まない真山ファンってたくさんいるんですよ。まず小説を見たくない、テレビドラマの原作は絶対読まない、男臭いのが嫌い、みたいな人がいるんですけど、きっとこれはそういう方にも読んでいただける。
さらにこの小説はおもしろい趣向もありまして、上巻はホテルの再生の物語です。下巻はちょっとノワール、暗黒小説のような。場所はパリに移るんですが、そうしないと終わらなかったんですよ。なぜ終わらないのかは読んでいただければわかります。
そういういろんな試みをしながら『ハゲタカ』をちょっと別の角度から読んでいただきたい。『ハゲタカ』の場合はどうしても鷲津政彦という非常に人気のある登場人物がいるんですが、少しだけですが出てきます。とても重要な発言をします。
真山:『2.5』ってついてるのは、『ハゲタカⅡ』と『レッドゾーン』の間に3ヶ月か半年くらいのタイムラグが開いてるんですよ。そこを埋めてしまってます。なので、鷲津が次どこを買おうとしてるのか、とかその前の買収どうやるかの続きの中で物語が出てくると。
ただし、これだけを読んでいただいてもぜんぜん違和感なく、1つの物語として読んでいただけると思います。
今までぜんぜん挑戦したことがない、女性だけの小説という意味でも、ぜひ一度手に取っていただいて。
さらにこれ文庫オリジナルの本です。やっぱり文庫のインポケットで連載した本なので、今回やはり文庫でやりたいという思いが強く強くありまして、単行本にせず文庫から始めました。
なので逆に言うと、なかなかイライラしにくい。文庫はだいたい全部そろって披露するので、ぜひここにいるみなさんが、私のこの涙ぐましい努力や心を汲んでいただいて、文庫だけど、これは「読まなきゃいけない本」としてぜひご推薦いただければと思います。
今日はどうもありがとうございました。
(会場拍手)
司会者:真山さんありがとうございました。ぜひよろしくお願いいたします。
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