2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中野京子氏(以下、中野):中野です。今日はどうもありがとうございます。
「別冊100分de名著『シンデレラ』」のなかではディズニーとペローとグリムの3つを、三者三様の特徴などとかいろいろ書きましたが、今日はもっぱらペローとグリムの比較をお話ししようかなと思います。その前にまずペローをもとにしたディズニーのシンデレラの絵を見てみましょうか。
シンデレラのディズニーはみなさんご存じだと思いますが、一応見てみてくださいね。
まず、このディズニーのシンデレラというのは1950年につくられまして、その1950年代のアメリカの価値観というものがすごく反映されています。下敷きはペローです。
ペローというのは、あとでお話ししますが、王族などの宮廷色がとても強かったんですね。ディズニーはそれを全部はずして、自由の国アメリカの文化を反映させたので、非常に奇妙なかたちになっています。それをちょっと見てみましょうか。
シンデレラは金髪ですよね。この金髪というのは、今回の「怖い絵展」に出品された「ソロモンの裁判」などもそうですが、どちらの母親が本当の母親かといったときは、たいてい金髪の女性が善です。赤毛の女が悪女になります。
黒い髪はエキゾチックというのがなんとなく欧米人の頭の中にインプットされています。ですから当然のように金髪になっていますね。日本人は全員黒なので髪の毛の色でどうというのはありません。
それからペローと違うのは動物の扱いです。立場の弱いシンデレラを助けるのに、やっぱり立場の弱い動物たち。ここにはいませんが、老馬ですね。老馬というのは老いた馬ですね。それから老犬ですね。そういうものも一生懸命シンデレラを助けてくれます。つまり完全に擬人化しています。
ところがペローの場合は一切擬人化していません。人間とそれ以外のものとで区別していた時代ですから、動物が人間を助けるとかそういうことにはならなくて、単に魔法でネズミを馬に変えましたというだけの話なんですね。だからネズミ捕りのところのネズミを使ったりもしています。そこがすごく違っているところです。
それからかぼちゃの馬車ですね。これはすばらしいファンタジーのアイデアで、口承文学ではなくて、ペローという宮廷詩人のアイデアでつくられたものです。それがそのまま使われていますね。
それと、この、人の良い魔女ですね。これもペローです。
これはディズニーランドのシンデレラ城になっていますが、ご存じのとおり、ドイツのミュンヘンにあるノイシュヴァンシュタイン城ですね。ルートヴィヒ2世が建てた建物を模したと言われています。
それから、ここに継母とお義姉さん2人がいます。やっぱりお義姉さんの髪の毛も赤だったりするんですけど。それからお義母さんの鼻が鉤鼻になっていますね。これも人種的な、ちょっと異人種的なものを入れています。そして母親の造形がとてもごつい顔になっていますね。男性的なんですね。
だから二元論、善/悪、美/醜ですね。美しいのと醜いのと。それから非常に女性的な良い魔女と、男性的な悪い魔女。ディズニーは完全に母親を魔女化しています。まぁ、そのお話は「別冊100分de名著『シンデレラ』を読んでいただければと思います。
ディズニーがグリムのシンデレラではなくてペローのシンデレラを使った理由は、やっぱりお話としてとてもおもしろいからです。さっき言ったように、かぼちゃの馬車という、その意外性ですね。
それからもう1つは、12時というタイムリミットです。これも、もともとの口承文学にはなかったものです。12時までに帰らないと、もとに戻されるというのは非常にサスペンスを与えますよね。聞くほうに、見るほうに。それもペローのものです。
あとお義姉さんたちを醜く描いています。これが美であり、これが醜い。つまり金髪でこういう人が善であり美であり、お義姉さん方のような悪い心の人はこんなにも醜い。表情も醜いし、顔も醜いし、お義姉さんたちがパーティに行ったときにしなをつくったりすると笑い者になるとか。そういうのはディズニーのものです。ペローもグリムもお義姉さんを醜いとは一言も書いていません。
とくにグリムの場合は、「姉2人は顔は白かったが、心は黒かった」というふうに……あ、「顔はきれいで白かったが」ですかね、そういうふうに書いているだけで美醜は関係なかったんですね。それをディズニーは明らかに目に見えるかたちのものにしたんですね。それが良いかどうかということはそれぞれの方で考えていただくとして、ディズニーについてはここまでにしておきましょう。
今日はペローのシンデレラの成り立ちと、それからグリムのシンデレラの成り立ちの違いというものをお話ししていけたらなと思っています。
まずペローというのは、17世紀の太陽王ルイ14世に仕えた宮廷詩人です。宮廷詩人というのは今でいう高級官僚みたいなものですね。ヴェルサイユ宮殿に住んで、王を称える詩を書くという仕事をやっていた人です。そして彼は乳母から聞いた昔話をもとにして書いたわけです。
ルイ14世の一番有名なリゴーの作品をちょっと見てみましょう。
もうみなさんご存じの絵ですね。王の中の王、絶対主義における王の典型といえば、1つは、ものすごく残酷で中世を引きずっているような王、イギリスのヘンリー8世ですね。
それからもう1つの、華やかさと、宮廷人というものはどうあらねばならないかを規定して、別の意味での王というものがどういうものであるかを代表したのがこのルイ14世になります。
あだ名の「太陽王」というのは、まるで太陽のようにみんなを引きつけたというのはもちろんあるのですが、もう1つはルイ14世はバレエを踊ったんですね。太陽になって踊った。その版画もあります。「太陽になった」とはどういうことかというと、幼稚園みたいなんですが、太陽を模した被り物をしてバレエを踊ったんですね。
それと足を見てください。脚線美を誇っております。女性が足を出すのは19世紀終わりぐらいからのことで、それまで脚線美というのは男性のことでした。男の人が足を見せていたんです。逆に女の人はぜんぜん足を見せなかった。だから最初女性が足を見せ始めたときは、くるぶしぐらいでも「なんてはしたない」と言われていました。
それ以前は男性がこうやって足を見せていた。タイツを履いて、赤いハイヒールなんか履いていますが、このときすでに60歳を過ぎています。
それでかつらをかぶって。このモジャモジャかつらがすごく流行った時代です。この絵は室内ですからこれで済んでますが、外へ出るときにはたくさんの羽をつけた帽子をかぶるのですから、もう大変なもんですね。
まさに見上げるようだったらしいですが、背は低かったみたいです。だからハイヒールを履いて、かつらも高くして、帽子をかぶったと言われています。そうして、みんな右へ倣えしたんですね。
それと、このマントのところにあるブルー。地がブルーで金のユリの花が刺繍されていますが、これはブルボンの象徴です。フランス革命の時にはそういうものは全部否定されました。
そしてナポレオンが来た時、ナポレオンは紋章にユリを使わずに蜂を使いました。ナポレオンの戴冠式の時のマントを見ると蜂になっているのがわかります。
あとは袖のところを見てください。レースの丸い袖がこの時の流行りです。これはクラバットというネクタイの前身と言われているものです。要するに首元をレースで伏せているやつです。
さて、なにを言いたいかというと、とにかく着ているものが地位と権力を表しました。逆にいうと、着ているものでしか地位と権力を表せなかった。この時代は、もちろん写真はないし動画もありません。「ルイ14世です」といって、肖像画を見たことがある人はいるかもしれないけれど、本物を見ないかぎりは、本当のところはわかりません。たいていの肖像画というのは3割アップですからね。
フランス革命でアントワネットが変装して逃げた時、かなり長い間逃げられましたね。それは顔がわからないからです。今だったら、オバマ前大統領がボロを纏ってホームレスの真似をしたってすぐ見つかってしまいますが、そういう時代ではなかったんです。
要するに、権力を見せつけて、その地位を見せるのが洋服だったということです。これがすごく大事で、それはペローのシンデレラの中にも表れています。
ペローのシンデレラを読むと、お義姉さん方の洋服について、「袖口のところに丸いひだをつけて」とか「金の刺繍をマントにして」と表現されていますが。まさにこんな感じですね。つまり、ルイ14世時代の女性のファッションを表しているのです。
当然、ディズニーはそういうものは使わないで簡素なドレスになっています。それは、もう着てるものだけで地位を表さなくなったから、ということも言えます。
ペローがルイ14世に仕えた時、古代ローマ論争のようなものがありました。ペローは、ルイ太陽王の時代はすでに古代ローマ帝国を超えたという説を唱えた人です。
なんでそんなことを言っているのかというと、古代ローマはイギリスまで遠征しましたが、当時のフランスは「ガリア」と呼ばれて属州にされていました。
しかしルイ14世の時代は「そうではなくなって、ヨーロッパ中が太陽王の王としてのあり方を認め、ヴェルサイユ宮殿にみんなが挨拶に来る。そして言語はほとんど全部フランス語になっている。だから、古代ローマを超えて、いまやフランスこそが優れているのだ」という説を唱えたのです。
宮廷詩人というのは「よいしょ」をするのも仕事ですから、王を称える詩を書き、王妃を称える詩を書く、ということをペローはやっていた
そして、「どうしてフランスはこんなに優れているのか。なぜなら、ずっと昔から優れたものがあったからだ」という流れのなかで口承文芸――ドイツ語でいうとMärchen(メルヘン)ですが、昔話とか民話とかを集めて、いろんな人たちが民話を出すようになった。そのなかの1つがペローの『シンデレラ』なのです。
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