2024.10.01
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第82回『今こそ“悪”についての話をしよう!〜超絶傑作映画「アメリカン・ビューティ」完全解説スペシャル!!』 1/2(全8記事)
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山田玲司氏(以下、山田):(『アメリカン・ビューティー』で主人公のレスターが娘の友達であるアンジェラにアプローチをかける)一方、リッキーの家族が出てくるんですけど。
このリッキーの家族を表現するのが、またおもしろくって。
久世孝臣氏(以下、久世):リッキーの家族ヤバいですね。
山田:ヤバいです。大佐殿。めっちゃマッチョなお父さん。上からしかものを言わない。気に入らないと殴る、という。これがのちにわかってくるんですけど、リッキーが15歳のときに大麻を吸っているのが見つかって。いきなりこの人、軍の施設にぶち込みます。坊主にして。
やっぱり持たないんで、その施設を出たあとに、坊主頭をからかわれて、クラスメイトと本気で殺そうとします。そしてこの人は強制入院させられます。強制入院2年間終わって、出てきたばっかり。完全に心を閉ざしてる状態のリッキー。そしてお母さんがいます。お母さんは、ほぼ廃人です。
だからお母さんは部屋に友達が、リッキーが友達のジェーンを連れてくると、ピッカピカで完璧に整頓された家にお母さんがボーっといて、「お母さん、友達を連れてきたよ」って言うと、お母さんがいきなり「ごめんなさい、散らかしてて」って言う(笑)。
乙君氏(以下、乙君):怖っ!
山田:だから一瞬で、その怖い感じが出るっていう。
山田:この家族の晩餐がまた恐ろしい。
さっきのシンメトリーと同じパターンなんだけど、今度は真ん中にいるのはジェーンではなくお父さんなんです。お父さんが真ん中にいて、なぜかテレビで白黒の映画を見てるんだけど、それが軍隊もの。
乙君:ええ!?
山田:軍の「規律を大事にしろ!」「すみません!」みたいなやつですよ。ワッハッハ、みたいなの見てるわけですよ。それでお母さんは、ほぼ廃人として横にいます。そしてそこにリッキーが帰ってきます。しょうがないから座るわけ。ここで、1人だけ元気に笑ってるお父さんがいて、お母さんが「今何か言った?」って言うのよ。
「何も言ってないよ」「あ、そう」って言うんだけど。これだけのくだりなんだけど、どんだけこの家がヤバいかっていうのが、わかるようになってる。この暴君がいてまわりが廃人になってる状態にいるのが、この2人ということになってくる、という。
乙君:怖い。
山田:そうそう。「うわ、怖いなあ」となっていく。おもしろいのが、このあと。リッキー、お父さんに送ってもらうシーンがあります。
乙君:学校とかまで?
山田:学校まで。お父さん、運転してます。そうそう、その直前にね、この2人引っ越してきたら、ジムとジムのゲイカップルが挨拶にくる。
乙君:いたなあ。うん。
山田:そんで、気に入らないから「なんなんだ、お前ら」みたいな。「あ、こちら僕のパートナーです」みたいな。「パートナーって何の仕事してるんです?」「僕は税理士で、彼は麻酔の専門医です」とか言って、「どうも」みたいな。お父さん気に入らない。
それで、車の中で息子に向かって言うんだよ。「最近のカマ野郎は、自分のこと平気で言いやがる」みたいな。「堂々としやがる」みたいなことを言う。
息子が「ゲイであることを恥じない時代がきてるんでしょ?」って言って。「ぶっ殺すぞ!」みたいになるわけだよ、お父さん。「適当なこと言うな!」みたいな。「いや、僕も気に入らないですけど」みたいな。
山田:「お母さんの前で言うような、調子のいい上っ面のようなことを言うな!」みたいなことを言うわけ。すばらしいのが、リッキーが何を言うかっていうと、「すみません」って言って。「ちょっと汚い言葉を使いますが、僕もカマ野郎を見てるとムカついて反吐が出そうになります」って言うんだよ。
そしたら父さんが、「私もだ」って。「同感だ」って言って話が終わるんだけど、これは、いかにお父さんのことをスルーするために彼が長年をかけて、お父さんが止まることを覚えている、という。
乙君:ああ、そのワードを出せば、もうお父さんとの会話は終わる、という。
山田:いっさい逆らわず、「イエッサー! ノーサー!」なんだよ。だから『フォレストガンプ』で無意識にガンプがやってたのを、意図的にやってるという。要するにこれは軍人式の人格みたいなものを完全にバカにしてるキャラクターとして出てくるんだけど。
これは、もう心の交流なんてアメリカ人にはねえんだなって思わせるような家族なんだよ。だから、一方でアンジェラのほうもバラバラ。バラバラなんだけど、ジムとジムだけ仲良し、みたいな(笑)。
久世:はっはっは(笑)。
乙君:だから、新しい繋がりというかね。禁断とされてたようなものが、ものすごく普通にうまくいってて。旧体制というかアンシャンレジーム(注:フランス語で旧体制の意)みたいなのは、もう歪みがものすごいきてる。
山田:そうそう。それを見せてるっていう。どこまでやるかな? もうちょっとやるか。
山田:この演出の素晴らしさの話をもう1つしますけど。サム・メンデスの演出のすごさで、いくつかあるんだけど。
キャロリンが、不動産王バディが主催するパーティーに現れる。こいつが主催するかわかんないけど、不動産関係が集まるパーティーに連れてくる。
でも、この人1人で来るわけにいかないから、旦那(レスター)を連れて行って、かたちを整える。旦那はこんなこと来たくねえ。「去年も来てるしうんざりだ」って言って。バディがいるわけだよ。バディは、なぜかクリスティっていうめちゃめちゃ綺麗な奥さん。これトランプ状態です。
(一同笑)
山田:なぜか、ちょっとだけ高いステージにいるんです。それを見つけてキャロリンが近づいていく。「やあ、キャサリン」って言うんだよ。キャロリンです。「おーっと、ごめんごめん」みたいな。「旦那のレスターです」「去年も会ってるよ」って言って、「あ、すまなかった!」って。もうぜんぜん覚えてないわけ。
大丈夫だよ、「僕も自分のこと忘れるからね」って言って。すごい寒い空気になるのを、キャロリンが林家パー子みたいにキャキャキャって笑って、それをごまかそうとするわけ。もうこの一連が笑える。なにがおもしろいかって、バディのところの台の位置まで、キャロリンは上がるんだよ。
でもレスターは上がらないんだよ。1個下から。つまりカメラアングルで見ると、(バディとキャサリンが)上、上、(レスターが)下になってくるわけ。
乙君:ああー!
山田:そう。キャロリンがバディのことを大好きだってわかってるから、「心身ともに健康でね」って言って、いきなりディープキスをします。ぶちゅっと長いキスと。
乙君:ああ、やってた!
山田:最悪っていう空気になる。クリスティは、「なんなの?」みたいな。この人、ニューヨークに行っちゃいます。ここはもうだから終わってるんです。別居することになります。バディは1人になるっていう展開になってくるんだけど。
山田:そこの見せ方で、要するに回想っていうのを見せてるんだけど。そのときにレスターは、「ああ、飲みたくなってきた」って言って、1人で飲みに入る。そのときにこうやって「ウイスキー、もっと酒を、ケチんなよ」って言うわけだよね、そこで。「もっとつげよ、ケチんなよ」って。完全に荒くれ者になってる。
そしたら、そこに背の高いウエイターが現れる。なぜかリッキーなんです。
乙君:え!?
山田:「あの赤い扉の家の人ですよね」って言って。「僕、隣に引っ越してきたリッキーです」って。「どうです? やりますか?」って言われて。「何が?」って言って、後ろに呼ばれる。リッキーは大麻を持ってます。マリファナを持ってます、と。
乙君:やめてなかった。
山田:リラックスする? って言って。それで2人でキメます。このときの構図がすぐに出てくるんだけど、さっきの構図と対照的にこういう構図で表れる。
山田:裏側。
乙君:あー。
山田:これ壁です。これお店。ここで、駐車場みたいなところだよね。ここで2人で、同じところでゾンビの映画の話とかしてる。この2人は、ウォールやピンクフロイドとか、聞いてるんだよね。リッキーは60年代のロックが大好きで。ヒッピーカルチャーが大好きなんだよ。
だからマリファナも大好き。これはなにかって言うと、レスターの青春そのものなんだよ。だから世代を越えて友達になっちゃうから、ここフラットなんです。階層がないんです。そして、ここでやってくるのが支配人。「いい加減バイトよ、戻れよ」って言い出す。
山田:けっこうきつい態度だったんで、このリッキー、何て言うかって言ったら、「え、戻りません。辞めます」って。「いいんだな?」「給料はいりません」って。「しょうがねえ野郎だ」みたいな感じでバンっていなくなったあとに、レスターはそれを一連を見てて、リッキーに向かって「君は僕のヒーローだ」って。
「You are my hero.」これよく出てくるセリフなんだけど。君は僕のヒーローだ。ここが親友になっていく、という流れ。そしてここからですよ。レスター・バーナーはどうなるかって言うと、ティーンエイジャーへなっていく(笑)。ティーンエイジャーになっていくという革命を起こすわけ。そこから。
乙君:40の。
山田:42歳からのティーンエイジ革命が始まる。
久世:そうやって聞くと『ゼブラーマン』ですね。
山田:めちゃくちゃおもしろくない? これ。
久世:むっちゃおもしろい。
山田:どこまでやるの? これ(笑)。
乙君:いやあ、もうちょっとこのへんで後半いきますけど。
山田:すごいでしょ?
山田:そうそう。構図と光、シンメトリー、それからバラが表しているドアとドレス。それから扉。いろんなものを象徴している。
そしてもう1個が、カメラなんです。リッキーが持ってるカメラがどういう意味になるかっていうことが、わかってくる。
そして今のところまでくるところの流れで、奥さんは、キャロリンはバディに相談をする、と。正直、「酔っぱらって言うけど、あなたみたいになりたい」と思ってる。本当はライバルだけど教えてもらえないかって言って。
「協力しようか、力になろうか」って言って、この2人はデキちゃうわけですけど。これがまた、安いモーテル行くんだよね。
乙君:ああ……。
山田:うん。そこで、「王様、ファックしてー!」みたいなのやるわけだよ。
(一同笑)
山田:これが本当に悪意に満ちてる。「どうだ! 王様にいたぶられる気分は?」「王様最高!」みたいになるわけだけども。これがもう、アホとしか言いようがない感じになって。
久世:めっちゃおもしろかった。アホですよね。
山田:そのあと、「ストレスが解消されたの」って言って、「僕のストレス解消は銃をぶっ放すことさ」って。2人で銃ぶっ放しに行って、いえーい! ってなる。これはだから、要するにトランプ政権です。
(一同笑)
山田:いわゆる南部、テキサス、カウボーイ、白人文化みたいなものを茶化してる。
乙君:ああ、はい。
山田:だから賢いのよ。「バカみたい!」って見れるようになってる。本当に共和党、トランプ政権は(バディとキャロリンを指して)ここ(笑)。それをうんざりしてる、俺たちはレスターを見てるから、冷静。そして1番乗っかれるのは、だんだんレスターからジェーンになり、そして、みたいな展開になってくるんだよ。
乙君:そして!?
山田:それがリッキーなんです。
乙君:リッキーなの!?
山田:サイコ野郎リッキー、っていう展開になってくる。
乙君:リッキーなんだ!
山田:リッキーの話も、まあせっかくだから無料部分でしようか、ちょっと。
乙君:いやあ、もう……。
山田:いいか。だめだ、じゃあ。
乙君:ちょっと……。
山田:すごい話なんだよ、それは。また、じゃあせっかくだからお金払ってる人たちのためにしますか。
乙君:2年ぐらい前に見て。ヤンサンで『アメリカン・ビューティ』やろうっていう話になって、それで見たけどずーっと先延ばしになって。今思い返すと、「俺、同じ映画見たのかな?」って(笑)。
(一同笑)
乙君:めちゃめちゃおもしろそう!
山田:めちゃめちゃおもしろいんです。めちゃめちゃおもしろい。
山田:『まどかマギカ』後半ではいよいよエネルギー問題に突入しますね。
久世:はっはっはっは(笑)。
山田:僕の大好きな発電問題。やっぱり発電の話じゃーん! っていうやつ。そして、なぜ発電に感情なるもの、知的生命体の感情なるものが発電にならなきゃいけないのかっていう話を、やすす(秋元康)を絡めて。
乙君:また!?
(一同笑)
山田:やりますが! それだけじゃなくって。ベタですけど、このシーンにおける人魚とユニコーンってなんですか? って話は誰でもわかるやつなんで、あんまり偉そうに言いません(笑)。これはみんな知ってるでしょ? だから、それもちょっとやります。
久世:お願いします。
山田:大好きでしょ?
久世:いやあ、俺わかんなかったですよ。
山田:気がつかなかった?
久世:気がつかなかった。
山田:本当に?
乙君:そのシルエットすら。
久世:シルエットすら思い出せへん。
山田:(ニコ生のコメントに)『アメリカン・ビューティ』このあとやります。やります。
乙君:これはあれなんですか? さっきコメントで、字幕と吹き替えどっちがいいですかって。
山田:えっとね……実を言うと、吹き替えのレスターの声が最高です。
久世:まじか。見たことないわ。
山田:もちろん俺は字幕でも見てますけど、仕事中に何度もかけるんで。そうすると、死にながら生きてる男の声っていうのをすごい再現できていて、それがおすすめなんで。
久世:吹き替えでも見てくださいってことですよね。
山田:(声真似をしながら)「レスター・バーナーです」(笑)。
(一同笑)
久世:腹立つー!(笑)。
山田:「腹立つー!」みたいな(笑)。それからキャロリンの嫌味な感じのすごくよくできてて。
久世:へえ。見てみよう、吹き替え。
山田:とってもいいんで、吹き替えもおすすめ。いい仕事してますよ、吹き替えチームも。
乙君:いい仕事してますか。
山田:はい。
乙君:そうですね。寺泉憲さんっていう方が声優さんですね。
山田:あと、不動産王はビックの人がやってるね。
乙君:ビック?
山田:『セックス・アンド・ザ・シティ』のビックだね。あの人すごいいいよね。
乙君:ということで、ありがとうございます。
山田:(笑)。もういいんじゃない? この機会に(有料放送に)入ってよ(笑)。
久世:はっはっは(笑)。
山田:後半も見てもらいたいんで(笑)。
乙君:『アメリカン・ビューティ』。徹底解説、今後は全部ネタバレするんで。今これぐらいだと、ネタバレっていうかね。
久世:まだ説明ぐらいだもんね。
乙君:そうそう。っていう感じでやりましょうか。
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