2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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山田玲司氏(以下、山田):だから、(『ブレードランナー』の)1作目はね、奥野さん。
乙君氏(以下、乙君):はい。
山田:原作は奥さんがうんざりしてる男の話だな。全部そういう、うざいからいらないって取っ払っちゃって、ちょっとハードボイルドに変えてしまったがこっちのブレードランナーで。
ブレードランナーの中の最大の革命があってね。ブレードランナーって革命についてSFのイメージが180度変わったっていうのがみんな言う。「誰だって知ってるわ、そんなこと」っていうのを未だに言ってるんだよ。
乙君:そうなんすか?
山田:そうなんだよ。だから今までは金ピカの社会だけどスラムみたいな、そこには近代的なカオスになってるビジュアルイメージになったのがブレードランナーなんで、それはとりあえず当たり前のことなんで。そこはいまさら言うことじゃないわけ。
だけど、本当に大きいのは監督のリドリー・スコットがやった最大の革命っていうのが原作にあったアンドロイドをレプリカントっていう名前に変えたってことっていうのが一番デカかった。
アンドロイドだと機械人形のイメージだから、あいつらのイメージなんだよ。あいつらだったら殺せるんだけど、レプリカントってなるとレプリカだからコピーロボットなんだよ。
乙君:あー。
山田:『ドラえもん』に出てきたコピーロボットを殺せるかって話じゃん。というよりはむしろ俺たち自身が全員コピーロボットじゃねーのっていう話なんだよ。そんなに特別なのかっていう。
こうなると、このコピーロボットって俺たちのことじゃねーかっていうのが疑問符として入るから、実はレイチェルに入れるんだよ。
山田:そして今回の作品は主人公が『ラ・ラ・ランド』のレイチェルなんですよ、奥野さん。
山田:ああいう冴えない男に感情移入したい時代が到来するわけよ。今はこいつじゃないじゃん。ハリソンフォードにはなれなかった俺たちなんだよ。
乙君:あーなるほどね。ヒーローじゃなくて、どこにでもいるような、うらぶれたやつと。
山田:そうそうそう。どこにでもいる平凡なやつ。ザッツ平凡なレプリカントとしてKが登場してくる。この段階で俺たちみたいなレプリカントっていうか、Kが俺たちになっちゃってるんだよ。だから俺たちのための話。
しかもKが大好きな相手っていうのが、生身の人間ではなくバーチャルアイドル。だから実際には存在しないセーブデータで、だから彼が彼女が大好きで彼女を失うことで心が傷つくっていう状況はまさにジャパンじゃないじゃないですか奥野さん。
乙君:はー。
山田:要するに「なんでアニメキャラに恋しちゃいけねんだよ」って話でしょこれ。わかります? あとはAR、VRいろいろ流行ってますけれども、本当にこの時代に突入しちゃってるタイミングでぶつけてくるヴィルヌーヴのセンスっていうのが。
今はわかってるっていうか、俺たちのことを書こうとしてるんだとっていうのが、ここからこっちに移行っていうのが見事にあってるんだよ。
これだけしっかりとできあがってるのに、なんででみんな酷評かっていうと、悪く人が多いから。あなたもそうだけど3時間は長すぎる、そして退屈、そして説明が少なすぎるって。
乙君:俺そんなこと別に言ってないですよ。普通におもしろかったですよ。ただなんか、玲司さんみたいにSFの蓄積ないから。その細かい……あるじゃん。多分あると思うんですよ。
山田:何が?
乙君:前作のオマージュたちが。
山田:それがそうなんだよ。
乙君:そういうの気づかないから、ただただそういう話なんだわーって。
山田:それを意識して「(アンドレイ・)タルコフスキー(「映像の詩人」と呼ばれた映画監督)入れてんだ」とか、いろいろと言い始めたらきりがない。
乙君:だから2の方が楽しめるから。
山田:でもそれはオタクたちがやっていればいいことで、オタクたち向けの大好きな人たち向けのサービスがそれが理由でそのサービスを批判するのは「ちょっとな」っていうのがあるんだよ。
あとは個人的に言わせていただければ、絵作りがすばらしいんで俺は美術館だと思って見ていただければいいんじゃないかなと。
乙君:動く美術館!
山田:美術館に行って1枚1枚絵を見るじゃん。
乙君:はい。
山田:あの大画面で動く絵を見るぐらいな絵力はあるなって、今作に関してとくに思うのね。しかも前回のリドリー・スコットの映画って、大戦後のヨーロッパ感があるんだよ。リーヴ監督はカナダなんだよ。
この違いはまた絵に出てておもしろいっていうか。最大のテーマっていうヒューマニズムっていう久しぶりに聞くやつが入ってる。
山田:戦争があって人間が非人間的なものになってしまった後に何が起こったかっていうと、後半(有料動画)です。じっくりやりたいんですけど、フランケンシュタインとピノキオっていうコンテンツ出てくるんだよね。
人間になりたいっていうピノキオっていうやつとフランケンシュタインていう死体をつなぎ合わせた人工物なんだよ。これが人間になりたいんだけど慣れないから反乱を起こすっていうテーマなんだよ。
この2つが戦争のせいで生まれてきてるって俺は思うし、恐らくそうなんだと思うんだよね。そっから80年代が来るまで、やたら人とはなんだっていうテーマで行くんだよ。ものすごい文学なんだっていうね。
これをもう1回このタイミングでやるっていうのは、なんか時代的にとても素晴らしいところを選んだなって思うっていうかさ。これってね、フランケンシュタインが創造主である人間に対する反乱なんだけどさ。
いわゆる神に逆らう猿の話でもあるわけ。俺たちが神のように思って作ったドールとかアンドロイドとか氾濫してくるみたいなことも、けっこう今の時代っていう感じがするっていうのと。
あと、もう1個、この作品が受けない部分で1つあるなって思うのが、このJOIっていうバーチャルアイドルに対する姿勢があまりにもシラフすぎる。
乙君:どういうことどういうこと。
山田:まともなんだよ。それってセーブデータじゃん。ヴィルヌーヴは 大人の突っ込みをしちゃうんだよ。「そんなことわかってるけど、夢を!」って、とくにこの国は思ってる時代。「そんなことわかってる」っていう思いっきり突き抜けてくるっていうのがヴィルヌーヴスタイル。
乙君:意外と覚醒コンテンツなんだ。
山田:かなりの覚醒コンテンツだね。
山田:あと押井守がものすごく影響を受けてるんだけど、押井守はJOIの中に魂があるって考える派になってるんだよね。
乙君:まあ日本人ですからね。
山田:『攻殻機動隊』がまさにそうだったから、あっち独自の進化してるんだけど、実はあっち深いね。こっちはここで止まってるからだから見てて辛いんだよ。
乙君:あー。
山田:終わっちゃうから。「あの死に方は辛いな」とかさ。もう1個。この映画、究極のミソジニーの映画ともいえる。
つまり「生身の女なんかいらねーよ」ってとこから始まってるんだよ。
このおっさんがそもそも奥さんが嫌でうんざりしてて、ドールであるレイチェルと逃げちゃうところから始まるから、レイチェルはここはもうそうなんだよ。
この男の妄想から始まったストーリーがこっちに繋がっていくんだけど、ここにいたって現実の女ってもはやいなくなっちゃってるんだよね。愛される対象ではないって。
ここで浮かび上がってる問題っていうのは俺、けっこうでかい問題だなって思うんだけど、これが出てくるんだよ。女って何かっていうのにはいっちゃう。女って何かっていうのをまともに考えたことってないじゃん。
でも、バーチャルになってしまって女がいなくなって、だから羊がいなくなって、いろんなもんがなくなった後にこの代わりのドールを持ってこられたときに失ったものに気がつくでしょ。本物の女はもはや本物の羊と一緒なんだよ。
乙君:電子書籍が出たことによって……。
山田:きたきたきたきた。
乙君:本とは何かという話ですよね。
山田:そうそうそうそう。
乙君:それはそうですよ。
山田:けっこうきついのが、そもそも俺たち人間は西洋諸国の……。だからキリスト教的な考えでいうと神の創造物でしょ? 人間って神が自分に似せて作ったドールなんだよ。
乙君:キリスト教社会では。
山田:そうそうそう。そういうふうに書かれてるじゃん。旧約聖書にさ。そして男の肋骨から生まれたのが女でしょ? いわゆる男の一部として生まれた世界観みたいな。
日本ではないよ。だって、これはキリスト教文化圏の話だし、これ紐解いていくといろんな人がやってるけどほとんどキリスト教の話だもんね。
「現れてくるこの女とは何か」ってのが出てくるとあまりにもこの道で行ってしまうことによると、孤独みたいなもの。エゴイスティックな男たちの悲しい未来みたいなものをあまりにも見せてしまってる。
これは『鉄腕アトム』でもそうだったんだけど、アトムって子どもを失ってしまった博士が自分の子どもの代わりとして出てくるし、あとはヒッチコックの『めまい』とか有名なやつ、「自分の昔の女を演じてくれ」っていうような。
相手を自分のための器。要するに「自分の肋骨になってくれ」っていうようなところとつながってくる話になってくるんで。ここだってマイナーになってくるんで、個々が残酷になってくるっていうのが大きいんだよね。
最終的に、この作品が思い出おじさんが、思い出だけにすがって生きているっていうステージがでてくるじゃん。
乙君:あー、はい。
山田:最終的には過去だけを見て生きてるっていう。ここも俺は映画的にうけると思えないぐらい辛辣。前作だとね、けっこうあいまいに終わるはずだったんだけどうけるためにアンドロイドと2人で逃亡するっていう強引に変えてるっていう流れがあって、ハリウッドにしたんだよね。
乙君:あーレプリカの時。
山田:そう。
乙君:そこはフランス系カナダ人だからってことですかね?
山田:すごくそこはあって、だからといって完全にさみしい感じで終わってるわけじゃないですし、思い出の話っていうのは、これはネタバレになるから言わない方がいいか。
乙君:言わない方がいい。
山田:蜂の話だけをするとね、そのKであるレプリカントというのは、かつては握りつぶした蜂。手に大量の蜂がのられても、殺さないっていう。
要するに共感力を得ましたっていう、より人間に近づきましたっていうのと蜂が生まれている希望があるくらい世界が復活に向かっていますっていう2つの希望をかすかに入れてるんだけど、本当にハリウッドではないよね。
乙君:それはそうですよね。
山田:こういうやり方は。だけど俺は好み。これくらいの割合が好みかなと。それで結局ずっとたいやきくんの悲しみついて描いている作品ではあるんだよ。
だからレプリカント、ヒーローものって日本で言えば特別だと。ここ何年間の間でその特別な存在っていうことでシフトしてきた歴史があるんだけどけど、今回、そういう流れを徹底的にぶん殴ってるね。
スイーツな考え方をボコボコにしてる作品がブレードランナー新作っていうか。これを娯楽作品として楽しみに行くかっていうよりか、本当に入っちゃえば入っちゃうほど悲しくなって、立ち直れなくなるような映画、としては最高の出来。
乙君:(笑)。
山田:このジャンルがあったんだよ。
乙君:こう癒されてるというか。
山田:これってちょっとすごいことで、最初に言った思い出コンテンツだったら、うけるから「続編やっちゃっていいんじゃん」って。ポンと放り込まれたときにヴィルヌーヴが確信犯で「ハリウッド映画にしねーぞ」ってやったんだよ。これはなかなかすごい英断だと思うよ。
乙君:そんなん見たくないよ(笑)。
山田:これを見てほしいんだわ。
山田:奥野さん聞いてくださいよ。最後ですけど、まとめ。
乙君:じゃあ、まとめてください。『ブレードランナー2049』。
山田:「たいやきくんは山下達郎の歌を聴くか」って(今回のテーマで)してたじゃないですか。ネタバレだったでしょ。どういう意味かわかってました? 「たいやきくんは山下達郎の歌を聴くか」ですよ。みんなわかりましたよね。
乙君:は? 聴くんじゃないですか? 聴く人は聴くんじゃないですか?
しみちゃん:(笑)。
山田:山下達郎と言えば、雨は夜更け過ぎに。
乙君:あー、雪へと変わる。
山田:でもブレードランナー1作目、雨降りまくってましたけど。
乙君:はい。
山田:今作は雪へと変わってます。
乙君:はあ!
山田:そして「きっと君は来ない。1人きりのクリスマス・イブ」。ブレードランナー、ぜひご覧ください。
しみちゃん:(笑)。
山田:ありがとうございました(笑)。
乙君:これ今。
(一同拍手)
山田:まじか!
乙君:すごい!
山田:言ってほしかった。わかってほしかった。
乙君:そんなこと言う人誰もいないっすよ。
しみちゃん:誰もいない。
山田:1作目、雨ばっかなのよ。
乙君:それ……えー(笑)。
山田:「必ず今夜から会える気がする」んです。
乙君:でもさっき言ってたこといろんなこと全部吹っ飛んでそれしか残ってません。
山田:「Silent night,Holy night」よ。「僕はたいやきさ」って、見上げる雪の空に振ってくるわけよ。これはもう映画の名シーンだね。誰も見るために行ってほしいなってことですよ。ご苦労さん。
乙君:これは名人ですわ。
しみちゃん:ちょっとびっくりした。
乙君:びっくりした。
山田:じゃなかったら、町山(智浩)さんの話聞けばいいじゃん。俺が言う意味ないじゃん。
しみちゃん:そうですよね。
乙君:いやーさすが、人形町生まれ、八王子育ち。越谷在住。
山田:うるさいよ(笑)。ていうような感じでしたね。
なかなかきつかったですよこれは。でもきついけど希望もありますよっていう。けっこうなリアリティラインじゃなの。リアルなラインかなっと思いますね。
それで実は後半、奥野さん。昨日今日とフランケンシュタイン。そしてそれがどうなっていったかっていう流れをざっくりと、ざっくりではないけどじっくりと後半やりますねこれ。ポイントはマザータックです。
乙君:マザータック?
山田:マザータック以降っていう話ですよね。だから俺たちは人間であるってことを大事だと思わなくなってくっていう歴史があるんですよ。「だからこそ今はブレラン」っていう話なの。そこからの視点でブレードランナーを見てもらいたい。制作費用はどうでもいい。どうだっていいよ。
乙君:ということで、後半はさらに山下達郎を超えていくらしいので、ぜひぜひお楽しみにしていてください。
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