2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
チームラボ猪子氏が語る、日本人とネットの相性が良い理由(全1記事)
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宇野(以下、宇):猪子さんはよく「日本的想像力とネットは親和性が高い」と言ってますよね。どうしてそう思うのでしょうか。
猪子(以下、猪):うーん、うまく説明できないかもしれないけど、具体的な話から超上位概念まで徒然に話すね。抽象的なことから言えば、欧米の人たちは、世界は客観的に捉えることができると信じていた。だからこそ自然科学も発達したし、産業革命後の大量生産・大量消費社会とすごい相性がよかった。マスメディアともきわめて相性がよかったと思う。
一方で日本人は、世界を客観的に捉えることができないと思ってきた人々だと思います。たとえば議論でも日本は白黒はっきりとつけられないし、「まぁまぁまぁ」「それでは田中さんの顔を立てて……」みたいなことが多い。また、物語でも西洋では客観的な正義があって客観的な悪を駆逐して秩序を守るようなものが多いけど、日本だともうちょっと立場によって正義が異なっていて、世界観全体にも正義がないところで物語がつくられている。
客観的なものが何もないところが情報社会やインターネットの構造と似ているのだと思います。マスメディアだけの世界ならば「世界の正義はこれだ」と単に伝えればよかったけど、インターネット登場以後ではそれぞれの立場が違うことが明るみに出るので「世界には客観的な何かがある」ということをもはや信じられなくなった。
たとえば、1990年代にアメリカが「世界の正義のために」と湾岸戦争を起こしたときはみんな何となく拍手をしたんだけど、2000年代にアメリカ同時多発テロをきっかけに同じく「テロとの戦い」を宣言した時には微妙な空気だったと思う。それってインターネットがある生活に慣れ過ぎていて、客観的な価値観が気持ち悪くなったんじゃないのかな。
一方で、日本はもともと客観的なものなんてないし、主観的なものの集合だけでピースでハーモニーな社会が成り立っていました。それってインターネット中心の情報社会とすげえ相性いいんじゃないかなと思います。
濱野(以下、濱):一般的には、欧米は一神教、日本は多神教の違いと言いますよね。欧米は一神教だから客観性は確保しやすい。でも日本は多神教というか一神教的な「神の目線」を持たないがゆえに、コミュニティが近い者同士の集団主義に陥りやすく、それゆえに主観的なものの集合になる。
猪:西洋の物質主義に対して、日本は情報主義的だと言い換えてもいい。たとえば「金」の扱い方を見ても、西洋だと「金」は貴重なものだから金塊のようなカタマリを重要視する物質主義だけど、日本だと薄くして金箔を貼る。マルコ・ポーロが「黄金の国ジパング」なんて言ってたけど、それは薄くして貼っているだけの詐欺でしょ。それって日本だと情報主義だから、キラキラした「金」という視覚情報をいかにみんなで共有しようか考えた結果なんじゃないのかな。
そんな感じで、どんどん情報価値を増殖させていく。狩野永徳とかがさ、信長かなんかにピックアップされて超人気になるじゃん。そうするとさ、西洋のアートみたいに作家が芸術的な価値を宝石や貴金属みたいに独占することで値段を吊り上げていくんじゃなくて、狩野派の集団みたいに同質のものが描けるように人数増やして集団制作に入っていくでしょ。
途中から「京都狩野」みたいなのも出てきてさ。葛飾北斎とか、江戸時代の浮世絵も同じ。これってAKBとかSKEが同じメソッドで増えていくのに似てるよね。物質は有限だから略奪しあわなきゃいけない。だからそっちじゃなくて、情報は無限だからどんどん複製できる情報的な価値でやっていこうと考えていたあたりが、今の情報社会と日本的なものがハンパなく相性いいと俺が思う理由だね。
宇:「ボーカロイド」も『ポケモン』もAKBも、いま日本である程度の力を持っているものは、だいたいそのパターンだと思いますね。外部に行くのではなく内側に潜って、「いま・ここ」の世界をどんどん掘り下げていく。
濱:でも、ネット系の論者は「なんだかんだ言って情報社会に向いているのはアメリカ人だ。たとえばGoogleのように、世界の情報のすべてを客観的に整理して体系化できると信じることができるからだ」と言いがちです。Facebookもそうですが、世界を客観的に捉えている方が世界的なウェブサービスをつくる求心力があり、実際にそのサービスが世界を席巻する。だから情報社会ではアメリカというか一神教的ヴィジョナリーが強いと。
猪:でも、実際のところソーシャルメディアはすごく主観的なメディアだよね。本来は日本人のほうが相性いいと思うし、日本からソーシャルメディアが生まれてもよかったかなと思うけどね。
濱:厳密にはソーシャルメディアとは言わないかもしれないですけど、「2ちゃんねる」やニコニコ動画の設計は有限を前提としていますね。僕が『アーキテクチャの生態系』で書いたのは、2ちゃんねるがコメント1000件いったらスレが落ちるとか、ニコニコ動画のタグが10個までしかないとか、そうした日本的ウェブアーキテクチャの話でした。
欧米ならば「え、スレッド消しちゃうの? もったいないからサーバに保存しましょう」とひたすらデータに蓄えるはずのところを、日本のサービスはポイっと捨ててしまう。ニコ動の「w」というコメントもそうだけど、消えたらまた打てばいいよね、とか、ほっといてもわらわらと無限に生えてくる感覚があるのかもしれないですね。
もっともそれは現実的には単に経済的な制約でそうなったに過ぎないんですけど、そこからほとんど別物のような世界観が生まれてきている。例えば、スマートフォンのゲームアプリ『おさわり探偵 なめこ栽培キット』のなめこみたいに、いちいちかき消しては、いつの間にか勝手にわらわらと生えてくるっていう発想がどこかにある。
宇:それはどこかで切断を入れたほうが、文脈を効率的に発生させるってことでしょう?
濱:ある種、内輪だけの、ある「島」だけに通じる主観的なトークに閉じていってもいいってことですよね。AKBの話ばかりで恐縮ですが、AKBにはまったく客観性なんて無いわけです。「あっちゃんかわいい」と言っても、「は? そこは大島優子だろ」みたいに、AKBでは客観的に誰が本当にかわいいかなんてわからない。それぞれが超ウルトラ主観性のピンときた感じでしか話していないわけです。
だからAKBはソーシャルメディアと相性がいい。ガチオタとアンチが不毛な論争を延々とするから。それは近代の基準からしたら、全然公共性なんてないんですよ。でもそれを総選挙というゲーミフィケーションの枠組みで一気に誰が人気かをガツンと決めるから、ありえないほどのガチの熱量が生まれ、その圧力釜から公共性が生み出されてしまう。これはちょっと驚くべきことだと思うんですよね。
宇:猪子さんが「日本的想像力とネットは親和性が高い」と考える理由はよくわかりました。そこで気になるのは、以前に僕と対談したとき「キャラクター文化がキーワード」と仰っていたと思います。でも、チームラボの作品でキャラクターが重要な機能を果たしているとは僕には思えないのだけど。
猪:あの時に話していたのはキャラクターじゃなくて非実在文化ね。日本と西洋では空間認識というかパースペクティブがまったく違うという話です。たとえば、西洋だとモナ・リザの絵の中でモナ・リザになりきったら見えなくなるものが、日本の大和絵だと絵の登場人物になりきっても絵を見続けられる。
登場人物になりきっても、絵をある種客観的に見続けられるという日本的なパースペクティブは、ゲームのようなインタラクティブなものとの相性もよく、同人誌でもいろいろな登場人物になりきって見立てや別のストーリーをつくることができる。
宇:ここ10年くらい、オタク系文化におけるキャラクター、たとえば日本的アニメのキャラクターは映画的な空間を必要としないという議論、さらには小説や映画といった作品から独立して、たとえば玩具市場や二次創作市場などでこうしたキャラクターだけが消費されているという議論がずっとされているわけだけど、いまの猪子さんの話はこれとまったく同じこと。日本的な空間認識、多神教的な世界観、情報社会とキャラクターが代表する非実在のものを愛する文化はこうしてつながる、と。
猪:そう! こういう世界観って、集団制作や共同作業がすごくしやすい。僕が代表を務めるチームラボで、東京スカイツリーの1階に「隅田川デジタル絵巻」っていう全長40メートルの超巨大壁画をつくったんですよ。見てこれ、めちゃくちゃ細かいでしょ。ぜんぶ細かい手描きなんだけど、これがどれくらいの物量かというと、どんどんカメラを引いていったら、この高さが3メートルなのね。
これが40メートル続くわけ。すごい物量でしょ。しかも60インチのディスプレイが13枚並んでて、その中でアニメーションが動いている。人類の歴史上、最も情報量が多い絵っていうコンセプトです。
これも実は集団制作で、つくり手の個々人は全体を把握していません。西洋だと全体の図面を見ながらトップが細かく指示を出して設計しないと成立しないけど、日本人は全体のことをわかっていなくても個々人が主観的に見えるところにフォーカスを当ててつくっても、最終的に集積すると全体を捉えているものと論理的に同等になる。つまり、みんな自分の描いたものがどこに使われるのかわからないままボトムアップで描いても、日本的なパースペクティブならすごくうまくいく。(構成:久保田大海・中川大地)
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