2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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永田夏来氏(以下、永田):(スライドを指して)これは経済産業省がインターネットに上げてけっこう話題になった「昭和の人生すごろく」のイメージです。
男性100人、女性100人いたとします。未婚の人が今まで7人ぐらいだったのが、これから19人になります。非正規の人、仕事がない人がこれぐらいになります。新卒一括採用で就職できる人が73人、結婚できる人がこれぐらい。
さらに出産できる人、子どもを持てる人、年金・退職金を受ける人は、全体の中から見るとこれぐらいしかいません。男性の中でも、全体の中でもこれぐらいしかいませんというわけです。
どうですか? みんな、ここに入れると思っていると思うんだけど、すごく狭いんです。にも関わらず、「ここに入れなかったらダメだ」とみんな思っている。そんな発想を、もういい加減変えていきましょう。そういったことを言いたいわけなんです。
(講演時間が)あと10分ぐらいですか。私、いつも大学で話をしていて、こんなに大人が集中力を発揮してくれる話ができてうれしいんです(笑)。学生は、もうこれぐらい話したらLINEとかやり始める人もいるですけど、もうみんなすごく真剣に聞いてくれていると話しがいがあります(笑)。
こういう「昭和の人生すごろく」を本当にできる人はあまりいない。できない人がむしろ多いかもしれない状況であるにも関わらず、そのパターンにみんな乗るように促されていると思うんです。
よくある「呪い」の例として、「もっと努力すれば結婚できる。結婚できないのは君の努力が足りないからだ」「非モテはなにをやってもダメなんだ」「若いうちになんとかがんばらないとやばいよ」など。そういうことを言われるんでしょうが、私に言わせるとそれはまさに「呪い」なんです。
「逃げるは恥だが役に立つ」というテレビ番組があって、そこでこんなセリフが出てきます。「私たちの周りにはたくさんの呪いがある」「自分に呪いをかけないでください。そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまいなさい」と。これ、インターネットですごく流行りました。
私に言わせるとそれは、さっき言った「昭和の人生すごろく」こそが正解で、「そうでない人生はダメだ」という「呪い」から逃げろということなんじゃないかなって思います。でもそれは、自分では気付けないのかもしれない。
社会学をやっている人間は、結婚の変化とか家族の変化を歴史的にもいろんな国との比較においても見ているから、「それは確かに思い込みであって、必ずしもそうじゃないといけないっていうことはない」と知っているんです。しかし、みなさんはリアルに生活している。そうすると生活に対して客観的になる機会がたぶんないと思うんです。
ですが、テレビドラマでこういうことを言ってくれたことによって、ちょっと気付けるようになってきた。これがすごく大きな変化なんじゃないかなと私としては思っています。「逃げる」という提案は一部の人からは大賛成という感じで受け入れられたかなと思います。でも、まだ受け入れられない人もいる。
そこで、もう1つの「白魔法」です。「逃げちゃダメだ」と言っているのが「むしろダメなんじゃない?」と言いたい。「がんばらないと」「ここでなんとかしないと」など、結婚していてもそうだと思うんです。
「子どものためにもがんばらないと」「眠いけど睡眠時間を削ってお弁当を作らないと」と思っている。そうでないと生活できないというのはあるとは思うんですけれども、「そうじゃなきゃダメだ」と言っているんだったら、それは考えたほうがいいかなと言いたいというわけなんです。
というのも、「逃げたらダメだ」「逃げたらどうなるのか」ということに関して、これまであまりいいモデルがなかったと思うんです。「逃げたらたぶん人生終わりだ」と思ってるでしょう。これまでは「逃げる=隠れる」ということだったと思います。
(グラフを指して)これは親同居の壮年未婚者という、今考えられる中で一番まずいパターンだと言われているやつですね。35歳から44歳で親元に住んでいる人の割合はどれぐらい増加しているか、という数字です。
1980年代には2パーセントぐらいだったんですけど、これは年々伸びてきて2割ぐらいになっている。これはたぶん、このパターンから逃げたいというか、こうならないようにするためになんとか必死でがんばっているんだということかと思います。しかし、実はこの内訳、ほとんどが生活保護の受給と連動しています。
なので、この人たちは「がんばれなかったからダメになって逃げている」というよりも、本来なら社会福祉で救済されていいはずなんです。だけど、先ほどのスライドで見たように、国がそういう福祉にお金を使っていない。だから、家族に丸投げにしていて、家族がそこの受け皿になっている状況なんです。
そうやって考えると、「がんばって家族やらなきゃ」というのが本当にブラック企業で、サービス残業みたいな感じだと私は思うんです。そうやってがんばらないと企業自体は成り立たないし、生活できない。けれど、それにはけっこう限界があるっていうか、それ頼みの社会はあまりうまい社会じゃないと思うんです。
しかし、そこのところの現状を、社会学者はすでに知見として出している。しかし、意外にこの話が外に出ていないんだなと思います。それに比べるとこのパラサイトシングルが……パラサイトって呼ばれていますけれども、2割もいるが大問題だと言っています。「こいつらを改心させろ」みたいな話はすごく受けるんです。ですが、実際の正確なお話を知っておいていただきたいと思うわけです。
どういうことなのかというと、社会の変化だと思います。(スライドを指して)がんばる人とがんばらない人。家の外にいる人と家の中にいる人という軸。社会学的にもうちょっとマニアックな言い方があるんですけれども、わかりやすくここに挙げてみました。
そうすると、今までは競争する人は家の外に出ていたわけです。だから企業やなんかがあったり就職活動をがんばったり、最近だったら婚活でがんばったりしているでしょう?
これに対して、がんばらない人というのは家の中にいるしかなかった。専業主婦になったり、家の中に逃げたりするということだった。
けれども、最近になって新しい動きが1つ出てきています。家の中でがんばっている人もけっこういるのかなと。本を読んでいる人とか、自分磨きでセミナーなどを回っている……セミナー女子と言ってもいいですね。
みんなは、もしかしたらこの枠にいるのかもしれないと思うんです。けれど、ここに注目していただきたい(右下の枠にマークを付けながら)。今まで外に出るというのは、なにか意識を高く持って、外の世界で切磋琢磨するみたいなイメージだったと思うんです。
しかし、家の外にいながら競争しない選択肢が徐々にできつつあることを、ぜひ知っていただけるといいのかなと思います。
私に言わせれば、こちらにおられるエッセイストの紫原明子さんも、あるいはこの間一緒にトークイベントをしたphaさんもそうだと思うんです。家の外にいるんだけれども、それは一番の居心地の良さを求めて外とのネットワークを作っていく。
もうちょっと言うと、シェアハウスとか子供食堂とか、そういうイメージです。自分の家の中じゃなくて、家の外でだらっと過ごせるような場所をいかに確保するのかということ。それが新しい生き方、逃げ方として提案できることなのかなと思います。
教育の現場ではすでにそういうことが起きています。例えば、私たちの頃は学校に行かなかったら登校拒否と言われて、社会的なペナルティがけっこうきつかったと思うんです。しかし、今年から新しい法律ができて、学校に行くのは絶対ではなくなった。
その代わり、「学校へ行かない子がいるんだったら、教育の機会をフリースクールとかいろいろなバリエーションを準備しろ」と法律が変わったんです。そうやって、自分にとっての居心地の良さを重視して、外に居場所を作っていく。これは大阪のフリースクールの本ですけど、そういう新しい流れが出てきつつあるかなと思います。
みなさんはぜひ、「今、自分はどこらへんでがんばっているのかな。もしも逃げるとするんだったらどこに逃げようかな」と。結婚して専業主婦になるのが逃げなのかどうかわからないけれども。それももちろん1つの選択だと思うんですけれども、ご自分の今までの状況とか現在の状況を見直してもらえるといいのかなと思っています。
でも、この話は抽象的すぎてわからないのでは……とずっと悩んでいたんですが、今日すごくいい情報が出てきました。知っていますか? 元SMAPの香取(慎吾)くん、稲垣(吾郎)くん、草なぎ(なぎは弓へんに剪)(剛)、くんが新しくウェブサイトを立ち上げたんです。
(「新しい地図」のスライドを指して)これです。「新しい地図」というやつなんですけど。ご存知の通り、SMAPでは木村拓哉さんとかは私と同年代の団塊ジュニアなんで、同世代が生きている困難をある点で象徴していますよね。
この3人も、大企業であるジャニーズ事務所と折り合いがつかなくなって追われるような形で辞めちゃったという感じだと思うんですけれども。その人たちのムービーがすごくいいので、最後にこれ見て終わろうかなと思います。
(「新しい地図」の動画が流れる)
(動画が終わる)
はい。私はSMAPの大ファンというわけじゃないんですけど、「逃げよう」と言っているのに外に向かって歩いているのはなかなか素晴らしいと思うんです。そういう、自分で場所を常に選択することができるんだという前提を、ぜひこれからの時代を生きていく過程の1つの地図として使えるといいんじゃないかなと思っています。
という感じで、だいたい20分が過ぎたと思いますので、これくらいの話で終わらせていただきたいと思います。すごい集中力でびっくりいたしました。ありがとうございました。
(会場拍手)
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