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ドーナツに穴のあいた夜 ~『失われたドーナツの穴を求めて』(さいはて社) 刊行記念トークイベント~(全8記事)

“穴”の定義を説明できますか? 哲学と金魚のイラストで言葉の深淵に挑む

さまざまな視点から“ドーナツの穴”にまつわる謎に迫る書籍『失われたドーナツの穴を求めて』の刊行記念トークイベントが、本屋titleにて開催。著者でありドーナツの穴制作委員会のメンバーでもある3人が、ドーナツの穴の奥深さを解き明かします。

iPad上で金魚鉢と水を使っての穴の説明

奥田太郎氏(以下、奥田):一見、これ(生地に囲まれた、空気が詰まっている部分を“穴”と呼ぶ説)は非常にもっともらしい考えに見えると思うんですけども。でもちょっと考えると、なにかおかしな点が出てきます。

ということで、ここにいくつか金魚鉢みたいなのを用意しました。絵を4つ用意しております。これ、金魚鉢みたいに水が張ってあると思ってください。

今の定義でいきますと、ここが境界に囲まれていて、水が詰まっている。要するに、境界に囲まれて、水という「媒質」というんですけど、そのものが入っている。ここが、この穴であると考えられます。

そうすると、2番目のこれを見てください。金魚鉢がちょっと変形してますけども、ぽこっと突起が出ています。突起が出てるけど、この突起が出てる部分も含めて、境界に囲まれて……。

芝垣亮介氏(以下、芝垣):この斜線部分が。今やってるのは、「穴って何なんだろう?」「なさそうなのに、なんかありそうで、どこなんだろう?」っていう。

奥田:境界線に囲まれて、そこの中になにかものが入ってて。ものっていうか空気とか、そういう媒質が入っていて、その入っているところを穴と呼ぶ、ということなんですけれども。

芝垣:昔、そういう人がいたわけですね。

奥田:そうですね、そういう考え方があるということです。

芝垣:それを今紹介して、できれば倒しにいこうっていう。

奥田:これは倒すための道具なんですけど。この、2番目のぽこって出てる、出っ張ってるやつですね。これ、どこが穴か。ちょっと誰か塗ってもらってください。

芝垣:え!?(笑)。えっと……じゃあ、どうぞ。

奥田:2番の穴の部分に、斜線を引いてください。

(参加者、穴だと思う部分に斜線を引く)

芝垣:はい、囲まれた空間という定義であれば、ここ。

奥田:そうですね。

芝垣:ここに水が埋められますし、おそらくここですよね。

奥田:実際、水が埋まってるわけですよ。今の話だと、この埋まってる水の部分がまさに穴だという定義ですね。だからここが出っ張ってても、この出っ張りをよけて、この部分が穴になります。ここまでOKでしょうか?

芝垣:いいですよね、別にどんな形をしててもいいですもんね。

奥田:じゃあ芝垣さん、3個目を見せてください。

金魚が壁にくっついてしまった時、穴はどこに?

芝垣:私、ちょっと気分が変わりまして。土を掘るのが上手で、壁を掘ったんですよ。出っ張りが金魚型になるように掘りました。だから、これと2番目とそんなに大きく変わらないと思う。単にこの出っ張ってるところが、金魚っぽくなるように掘ってみたんです。

奥田:ですから、これ(2番目)とこれ(3番目)はまあ、同じなので。穴は、今の型では水がこう入っている、ここですよね。この境界線に囲まれてお水が入っている。まさにお水のところが、穴だということになります。

芝垣:だからまだまだ、別に問題ないですよね。その囲まれたところで、なんかこう、ものが入る場所っていうのを穴って決めましょうって言ったら、まあ別に問題なさそう。

奥田:さあ。芝垣さん、次、悩みますよ、4番目。

芝垣:これ? 

奥田:ちょっと色が変わりましたけど。

芝垣:動物愛護団体の人がここにいないことを願うんですが。こういう穴を掘っておいて、そこに、これ赤色の金魚です。本物の金魚をもってきて、口にボンドをつけてぶちゅっと、壁にくっつけてしまったわけです。

奥田:芝垣さんぐらいしかしないかもしれないですけど、そういうことね。さあどうでしょう? これ、どこが……。

芝垣:穴はどこでしょう?

奥田:ちょっと塗ってもらいましょう。もう思うところを、ばあっと塗ってください。

芝垣:大丈夫、消せますんで、これ。優秀な、iPadで。

(参加者が穴だと思うところを塗る)

芝垣:おお。

奥田:これはなぜそう塗りましたか?

芝垣:今こういうふうに、金魚の絵もぜんぶ塗っていただいたんですけど、どうですか。ここが穴でしょうか? どこでしょうか?

奥田:ここだと、同じだって考えの人は手を挙げていただいて。

参加者14:……あ、誰もいない。

(会場笑)

奥田:いやいや、いっぱいいます。むしろ多数派ですね。ここじゃないっていう。どうぞ。

芝垣:じゃあちょっとだけ……どうぞ、塗ってください。

サイト説を厳密に考えると、金魚のまわりの部分になる

参加者14:穴を埋めてる媒質が水っておっしゃってたので、金魚は水を含んでるけど、金魚そのものは水じゃないから、かけないみたいな。

奥田:そうですね、そうなんですよ。

芝垣:囲まれてて、その埋められる部分っていうと、金魚のまわりになるんです。

奥田:なりますね。サイト説を厳密に考えると、金魚のまわりの部分になる。

芝垣:これだとなにが問題かっていうと、別に問題じゃないのかもしれないけども。この金魚ちゃんの、その外周ですよね。これだと体の外周は、穴をつくっているその境界線の一部っていうことになっちゃいますよね。

奥田:金魚やからちょっと騙されてるんやね、これ。

芝垣:でもね、実際土だったらそうなってましたもんね、今。だから同じことなんじゃないのって。でもそしたら金魚は、穴の中にはいないんですかね。今、この穴をつくってる壁の一部なんですかね?

奥田:5番を見てくださいよ。うまく、金魚ちゃんは口がはずれました。

芝垣:そう。ボンドが外れました、泳いでます。

奥田:泳いでます。

芝垣:さあ、穴はどこでしょう?

奥田:また塗ってもらいますか(笑)。

芝垣:うん、じゃあこちらの方に。どうぞ好きなところを塗ってください。

奥田:正解とかないんで。

芝垣:そう、これ正解も間違いもないんで、好きなところを塗ってください穴の部分を塗ってください。

(参加者が穴だと思うところを塗る)

奥田:なるほど。ありがとうございます。これ……。

芝垣:こんなふうに。

奥田:こんなふうに塗ってくれました。これは自分で素直に、ここは穴やと思うところですか。それともサイト説の、僕が提示した考え方だとこういうふうになる?

じゃあ、本当の自分はどこが穴だと思ってるか、ちょっと書いてもらえます? 本当はこうしたかった。

芝垣:大丈夫? 誘導尋問じゃないよね(笑)。

(会場笑)

奥田:ありがとうございます、なにも悪いことは起こりません(笑)。はい、ありがとうございます。見てください。こうですよね?

普通金魚が穴の中で泳いでいると、私たちは思いますから。金魚は、穴の中にいるはずですよね。

金魚が入った瞬間、穴の形が変わる

芝垣:だってこのまわりの部分が、白い部分が穴をこう、ぼこっと掘っちゃうわけですよね。その中に金魚を入れるわけですよね。入れた瞬間に、金魚は穴の中にいないってなっちゃいますか? 

奥田:すごいですよね。

芝垣:だってこれ、(金魚の)まわりに斜線を引いたら、金魚はその穴を形成してる壁の一部だから、穴の中にはいないわけですよね。

奥田:これ、言い方を変えると、穴の形が金魚が入った瞬間変わるってことです。

芝垣:そう。ここの中を金魚がすいすい泳いだら……。

奥田:もう、随時変わってるんです。

芝垣:穴の形がずーっと変わってるっていう。

奥田:これは、普通僕らが穴でイメージするのと違いますよね。

芝垣:だから、やっぱりまずいんじゃないの? って。

奥田:そうなんですよ。だから最初に言ったように、サイト説っていう考え方。境界に囲まれていて、そこでそれを満たしてる媒質があって、その媒質の部分が穴であるっていう定義でいくと、ドーナツの例だけだといけそうに思えましたけども、ちょっと考えてみると、なんかちょっとうまくいかないのではないかって話になります。

芝垣:だから、穴は単にかこまれた部分ではないんだろうとなってくるわけですよね。

奥田:そう。そこでいろいろ議論があるので、詳しいことを知りたい方は加地さんの本を読んでいただきたいんですけれども。

結局穴とはなにか、めちゃくちゃはしょっていくと、ここになんの問題点があったかというと、やっぱり金魚は穴の中に入っとるわけですね。入るっていうことは、そもそも穴っていうのはどういうものなのか。なにもないですよね、穴って。ドーナツは、ドーナツ生地がない部分が穴ですよね。これも掘られたら、なにもないじゃないですか。

だからものが入れられるわけですよ。埋められるわけです。ここに充填することができます。だから穴っていうものの、とても大事な条件。「穴とはなにか」と聞かれたときに、「こうです」って答えるときに大事な条件としては、この中に入ってる空気とか水とか媒質ではなくて、そもそもなにもない場所。だからこそ、そこになにかを入れることが、埋めることができる。その「埋める」という機能を持っているっていうのが、穴という存在だと。

だからなにもないことが、埋めるっていう機能、そこに埋めることができるという機能をもっているという仕方で、ないということが存在しているということが、穴の正体だ、みたいな。ちょっと騙されたような気になるかもしれませんけど。いろいろステップを踏んでいくと、まあそうかなって、たぶん思っていただけると思うんですけれども。

なにもないということは、埋める能力をもっているということ

芝垣:そう、だから、埋めることができる。埋める能力をもっているというか。

奥田:そうです。なにもないっていうことはつまり、埋める能力をもっているということ。影が「光がない」っていうことで影であるように、ということですよね。加地さん、こんな感じで大丈夫でしょうか。

(会場笑)

というのが一応、今のところ加地さんも含め、私もすごい納得しましたので。穴というのはこういうもんだという哲学的な回答の、言葉としてはとてもやさしく言ってますけども。いけてる説なんじゃないかなと思ってるんですね。

芝垣:埋められる場所よね。

奥田:そうですね、はい。埋められるということが穴の条件なんだというのを言ってるんですけど。芝垣さんは、どうもなんか納得いかんと。

芝垣:そう、これは加地さんが哲学の本の中で言っておりまして、世界でもおそらく、穴はそうであろうってきっと信じられていることだとは思うんですが、ちょっと納得がいかない。

いきなりなんか、解説のあとに一足飛びになっちゃうかもしれないんですけども。どうしても納得いかないことがありまして。せっかくこう、哲学者、その世界の第一人者がいるので、勝負してみようかなと(笑)。これ、なんのあれもないんです、アドリブなので。私がひどい目にあうかもしれないし、加地さんがひどい目にあうかもしれないです。どうなるかわかりません。

埋められるところが穴っていいましたよね。実は、もうちょっとだけ定義に言葉があるんで、ひょっとしたらそこに引っかかっちゃうかもしれないんですけど。ちょっと挑戦してみようと思います。埋められるところが穴。私はやっぱりね、金魚をいじめるのが大好きなんですよ。趣味で、ライフワークなんで。

奥田:ライフワークなんですか(笑)。

芝垣:どうしよっかなあ。金魚、金魚……。でね、哲学っていうものの、最初のものの考え方はそもそも、やっぱりもう1回だけおさえときたいんですけども。結局哲学っていうのは、そこにあるもの、存在をどうとらえるかなんですよね。

奥田:どういうものか。

芝垣:だから結果、そこにあるものがどういうものなのか。そこになにかあれば、どういう過程でつくられてても、おそらくは……それがそうであるということだと思うんですけども。

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