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ドーナツに穴のあいた夜 ~『失われたドーナツの穴を求めて』(さいはて社) 刊行記念トークイベント~(全8記事)

くりぬいた生地はどこへいく? ドーナツ店の店主が語るイーストドーナツの作り方

さまざまな視点から“ドーナツの穴”にまつわる謎に迫る書籍『失われたドーナツの穴を求めて』の刊行記念トークイベントが、本屋titleにて開催。著者でありドーナツの穴制作委員会のメンバーでもある3人が、ドーナツの穴の奥深さを解き明かします。

松川氏への質問タイム

奥田太郎氏(以下、奥田):じゃあみなさん、(ドーナツを)食べてる最中ですけども。あと5分ぐらいでハグジーの松川さんに、ドーナツについて。なんかつくり方とか、いろいろ質問がある方がいたら、ちょっと答えていただけるかな?

松川寛紀氏(以下、松川):はい、答えます。

奥田:はい。ということですけども。まあみなさん、食べるのに忙しくて質問どころじゃないかもしれませんけど(笑)。「家でもつくれるんですか?」とかね。

芝垣亮介氏(以下、芝垣):あの……このハグジーさんは、どこにも載っていない秘伝の、秘密が載ったそのレシピが本書にはあります。

奥田:はい。収録されております。

参加者4:これ、1個おいくらなんですか?

松川:ものによって違うんですけど、1個200円ぐらいでお店で販売してます、はい。

芝垣:でも、土日だけですよね。

松川:土日だけです。あと、自転車で引き売りをしてて、吉祥寺のほうまで来たりとかもしてるんで。

奥田:どこにあらわれるかは決まってない?

松川:そのとき僕が行きたいところに……。

(会場笑)

自転車なので。三輪車みたいなのに乗って行ってるんですけど。

奥田:ハグジー情報とかは?

松川:今はないんですよね。本当に気まぐれで、会ったらラッキーみたいな。

芝垣:この前テレビにも出てましたよね? 引き売りのときに捕まって。

松川:そうですね。ちょこちょこ出していただいて。

芝垣:なんかあの……ドーナツに関してご質問が。

参加者5:なんか、ちょっと本をチラ見したんですけど、20分ぐらい(生地を)温めるんですか?

松川:はいはい、温めます。

参加者5:なんでですか?

松川:発酵だからです、パンと同じで発酵させたくて。生地をイーストの力でふーってふくらますために、成形といって形を丸くして、穴はつぶして、穴を開けたあとに温めて、もう1回ふくらませてあげる。で、ふわふわしてるって意味があります。

参加者5:ありがとうございます。

松川:はい。

穴を開けた後の部分はどうなる?

参加者6:すごくきれいな3センチ(の穴のドーナツ)なんですけど。

松川:はい、ありがとうございます。

参加者6:つくるときって、何センチ開けるんですか?

松川:開けるとき、3センチなんですよ。

参加者6:真ん中になにか入れて開けるんですか?

松川:じゃなく、パンみたいにちっちゃいのを丸めるじゃないですか。それをつぶすと、へにゃんってなるじゃないですか。そこに、自分たちでつくった特製の穴開け機みたいなのがあって、ガチャンって3センチ。3センチで穴を開けてって感じです。

奥田:特製なんですね。

松川:はい。 絶対3センチっていうので……3センチで穴が開けられるパンチングを使って穴を開けてます。

参加者6:開けたあとはそれはどうするんですか?

松川:穴を開けたあとは……そのときにもよるんですけど、2、3個合体させて、ちょっとしたブロックじゃないですけど、みたいなのにするときもあれば、普通に揚げて自分たちで食べたりしたり。温度チェックのために使ってるんで、商品としてはあんまり使わないですね。

参加者6:売ったりはしない?

松川:売ったりはしないですね、今は。

芝垣:たぶん、素朴な疑問としてもう1回いっぱい固めて、こうやったら……。

松川:できるんじゃないかっていうのもあるけど、パン生地なのでできないんですよ、それが。イーストなので。それができるのは、逆にさっき言った、ベーキングパウダーをこねたとき。クッキーみたいにこうつなげることもできるんですけど。実はそのクッキーのほうは、つくる時って液状なんですよ。なので、ぱしゅん、ぱしゅんって落とすときに、こうやるって感じなんですよね。

芝垣:今はドーナツ屋さんがいう大手のところは、油の海があって、そこに上から機械があって、ぷしゅっぷしゅっってやると、油の海の上にちょうど輪っか状に、ぴちゃん、ぴちゃんって、液状のものが落ちていって。

松川:そこで揚がるっていうのがドーナツの、それがベーキングパウダーのほうですね。

芝垣:一次発酵しちゃうと、もうくっつかないんですよね。

松川:そうなんです、つかないんですよ。くっついても、やっぱり味が損なわれたり、ふくらみがなかったりとかっていうのがあるので。

発酵のスピードは手の温かさによって違う

芝垣:そのほかなにか、ご質問はないですか?

参加者7:最初の太古のドーナツっていうのは、ベーキングパウダーだったんですか?

松川:最初のやつが、イーストって書いてあったんですよね。イーストを使って、ビスケット生地っていうふうな、ベーキングパウダーが求めるような固さにしてくださいっていうので、どちらの要素も含んでるので、「これはもしかして」っていう話なんです。

奥田:イーストを使って、ビスケットのような生地のかたさにするっていうのは、難しくはないんですか?

松川:ちょっと難しかったですね。だって、実際それって人の感覚にもよるし。

奥田:まあ確かに。ビスケットのようなってアバウトですもんね。

松川:うん、すごくアバウトなので、「これでいいのかな?」って、それを芝垣先生と確認しあいながら。これでやってみましょうみたいなのを何回か試して、みたいな感じですけど。

芝垣:はい、そのほか。

参加者8:丁寧なつくり方が書いてあると思うんですけど。お菓子って、抹茶味にしようとかチョコ味にしようとか思うと、いろんな分量が変わってくるじゃないですか。ドーナツも、やっぱりそういう……塩梅の変化っていうのは。

松川:もちろんあります。あとは、本当にもう好みですよね。ラーメン屋もいろんなラーメン屋さんがいっぱいあって、ドーナツ屋さんもドーナツをやって。僕らが好きなドーナツはこういうドーナツなんですけど。好みによってもいろいろあったりして。それこそ本当に、気温と湿度と、あと手の温かさ。パン屋さんでよく言われるんですけど、手の温かさによって発酵のスピードってぜんぜん違うんですよ。僕はすごい温かいほうなんですよ。妻は冷え症なんですよ。

だから僕と妻で、つくるスピードが本当にぜんぜん違うんです。ふくらむスピードが。僕がやるとすぐふくらむんですよ。でも、妻だとふくらまなかったりとかして。そういうのもあるので、作り手によってもけっこう変わる。同じものをつくるっていうのは、すごく職人技というか。

奥田:さっきね、芝垣さんの話だと、松川さんは走ってるだけみたいなイメージでしたけど(笑)。実はちゃんと。

芝垣:そうそう。いつ見ても走ってるイメージしかなくって(笑)。

参加者8:ありがとうございます。

松川:いえいえ、ぜひつくってみてください。

松川氏とは違うやり方の穴の開け方もある

芝垣:ほか、ないですか?

参加者9:パンの講習会に行ってドーナツを習ったときに、ドーナツって少量のオイルで揚げると、さくっとっていうお話だったんですけど。どんな油で揚げてらっしゃるかっていうことと、あと真ん中の穴を開けるときにロスが出ちゃうんで、真ん中に穴をあけてくるくるってこう、穴を……。

松川:広げるってことですよね。

参加者9:はい、開けるっていう方法もあると思うんですけど。先ほど3センチのパンチングでやってらっしゃるってことで、その味の違いとか、そういうものがあったら教えていただきたいです。

松川:なるほど。うちは一応、サラダ油で揚げてます。ショートニングは扱いが難しくてやったことがないんですよね、1回も。っていうのが1つあります。あと、なんでしたっけ? ごめんなさい。

参加者9:穴をあける……。

松川:やったことない! やってみます!

(会場笑)

芝垣:でも単純に考えて、こうやって、もし真ん中から手を入れて(端に向かって生地を)寄せるならば、そこが密になりますよね。よりこう、ぎゅっと生地は濃くなっちゃうだろうし。あと、これ(輪っか)は難しいんですよね。って言うのは、さっきの1回くり抜いたやつがもう1回こうならないのと同じ原理で。1次発酵した生地は、生地と生地がなかなかくっつかないので、こうやって揚げると、揚げてるときってけっこう油が直接コンタクトしてるんでずれたりとか、わりと安定した形にならなかったり、継ぎ目によく油が通っちゃったりとか。ごめんなさい、ドーナツ屋じゃないんですけど。

(会場笑)

松川:いやでも、ドーナツでこうやって穴を、はじめて聞きました。ありがとうございます、あるんですね。

参加者9:あの、真ん中に穴を入れてっていう……。

芝垣:こうまわして、ちゃんと。

松川:まわしてですよね。でも、原理的には間違いじゃないですよ。

参加者9:抜いたほうが、しゃきっと歯ごたえがあっていいのかな? と思いながら、今食べさせていただいてます。

松川:なるほど、ありがとうございます。

使っている道具はハグジードーナツの企業秘密

奥田:ドーナツの話じゃないんですけど、先ほど紹介した第4穴の、物質文化論のね。実はその穴の開け方で、世界が違うっていう話がありますので。もしよろしかったらそれに絡めて、その第2穴をお読みいただければと思います。

芝垣:どうぞ、はい。

参加者10:パンチングの道具は、なにでできてるのかと。自分でつくられたものなのか……。

松川:その穴の大きさのあるものを見つけました。あるものって言うのはちょっと言えないんですけど。

(会場笑)

奥田:企業秘密(笑)。

松川:見つけてきたものなんですけど。あるものがちょうど3センチで、穴を開けられるものだったんですね。それをうちでは採用させていただきました。そうです、(秘密で)ごめんなさい(笑)。

奥田:鋭いですね。企業秘密に触れるところだった。なかなか、グッドクエスチョンです(笑)。

芝垣:それはもっともで、って言うのは、穴と味がやっぱり関連性があるって、今来ていただいた方がおっしゃってくださったと思うんですけど。ってことは、人によって好きな穴の大きさが違っていいわけなんですよ。だって、醤油辛いものが好きな人もいれば、甘い食べ物が好きな人も絶対いますよね。

これ実はうちの大学に、松川さんに東京から来ていただいて。この実験を大学でもやったんですけども、やっぱり「私は2センチがいい」とか、「私は3センチがいい」とか、人によって違うんですよ。

それって当たり前の話なんですよね。そやからこれ、あくまで松川さんの、例えばそういう塩具合や砂糖具合と一緒で、穴具合っていうことになってまして。だからそれをいかにつくるかっていうのは、プロのレシピでいう、この味にするっていうところの、まさに肝なので。

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