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日本のマンガ文化の変遷とpixivの取組み(全3記事)

「熱狂できるマンガと出会える場所を」 pixivと講談社が仕掛ける、デジタルとアナログが共存するプラットフォーム

pixiv10周年を記念して開催された「pixiv MEETUP -10th Anniversary-」。CEO、CTO、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーがさまざまな視点からpixivの10年間を振り返りました。「日本のマンガ文化の変遷とpixivの取組み」と題されたセッションでは、Webマンガ文化に対するチャレンジを行う各社が、出版業界の今やこれからのマンガ文化について語り合いました。

pixivと講談社で、新アプリを開発

石井真太朗氏(以下、石井):これまでの変遷をたどると、あくまでヒット作、レーベルというところでは、KADOKAWAさん、『ジーンピクシブ』や『comic POOL』さんは大成功を収めてきていると思うんですが、そんななかで、なぜ講談社の中里さんが座っていただいているかというとですね(笑)。中里さんのほうから、発表をお願いします。

中里郁子氏(以下、中里):はい。先ほどの永田さんの話を受けて、「なんでここに、お前オリジナルのヒットもないのに座ってんだよ」と、みなさん思うと思いますが(笑)。

(会場笑)

中里:すごいアウェイな雰囲気のなかで座っている理由として、実はpixivさんと講談社で、新アプリ、新しいプラットフォームを作らせていただきます。

石井:はい。実はこれが、初の発表になります。

(会場拍手)

ありがとうございます。ぜひメディアのみなさん、記事にしていただいてですね。

中里:はい(笑)。

石井:アプリの内容もお話しましょうか。

中里:はい。どういうアプリかというとですね。すごくシンプルに言えば、マンガをよりたくさん読んでもらいたいところです。どういうふうにpixivさんとお付き合いしたいかというと、私自身が『pixivコミック』を石井さんが立ち上げるところからずっと見ていたんですが、pixivが生まれた2年目に、永田さんと片桐さんのところにうかがいました。

これは、「書き手の夢ができたな」って思ったんですね。当時、(一般の作者からの)イラストがすごくたくさんあがっていて、10万人ぐらいになっていらっしゃって。今は逆に、けっこう読み手のほうも編集者になりたがっていて。良いマンガを発見したがってるんじゃないかなっていうのを、めちゃめちゃ感じてます。私はずーっと編集者なんですけれど、正直言って、「編集者って何の役に立つんだろう?」っていうのがずっと自分の自問自答で。

実際おもしろいマンガは、マンガ家さん1人でも作れると思っています。でも、マンガ家さんが10巻、20巻と続けるときに、絶対に挫折やつらいことがある。私たちはそんなときのお手伝いをしたり、勇気づけたりすることで、20巻、30巻が生まれてくることが読者にとって、そして一番良い作品へのお返しなんじゃないかなと思っています。

一番古い雑誌の編集長が一番新しいところとコラボ

私は実は、日本で一番古い『なかよし』という雑誌の編集長でもあるんです。一番古いものが、60年続くっていうのは本当にすごいと思ってるんですよ。13代目の編集長なんですけれど。一番古い雑誌の編集長が、一番新しいところと何かおもしろいコラボをするのは、なんかおもしろいのかなって(笑)。

石井:本当にそうですね。

中里:まあ、そんな感じがありまして。60年以上続くものってすごいから、今の私のミッションは、この先また60年続けなきゃいけなくて。それでpixivさんに、「ちょっと一緒に、何かしませんか?」ってお願いにきました。

永田寛哲氏(以下、永田):はい(笑)。

石井:最初は、めちゃめちゃふわっとした話からスタートしましたよね。

永田:なんなら今でもちょっとふわっとしてるんですけど(笑)。

(会場笑)

石井:ちゃんと解説しましょうよ、これ(笑)。

中里:シンプルに言うと、今、実は小学生でも半分の人間がスマホを持っています。使用率は50パーセント以上になっています。これはマンガにとってはぜんぜんアウェイだとは思っていないですし、ビハインドだとも思ってないです。むしろ、いつでもどこでもおもしろいものを読める時代がやってきていて良いことだと思う。

だけど、その時代におもしろいマンガを届ける場所が足りてないんじゃないかと思っています。プラットフォームはいっぱいできてはいるんです。なぜなら、pixiv上にはマンガだけで何万作という投稿作が毎日あがっている状態だし、やっぱりまだまだ優れたマンガ家さんはいる。まだまだ続いていくべき作品っていうのはあるのかなと。

だったら、むしろ今読んでない人に向けてどうやって読ませていくか、という場所を作りたいなと考えてます。

電子書籍は「所有」している感覚が無い

あともう1個は、電子書籍上で、いわゆる特装版とかそういうものですね。リッチな体験ってまだ足りていないなと思います。

これは永田さんからもアイデアをいただいたんですが、ファンを満足させる行動が、まだちょっと足りてないのかなって。

永田:そうですね。僕は、自身でもすごくマンガが大好きで、単行本は家に1万冊ぐらいあるヘビーユーザーだと自負してるんですけど。やっぱりいまだに、どうしても紙を買ってしまうし、電子書籍で買って、おもしろかったら紙を買っちゃうんですよね。たぶんそういう人もいると思うんです。

なんか、この間(紙と電子書籍の間)っていうのが、ものすごく断絶してるというか、隔絶してるなというのが、今、自分が両方に携わる人間としてすごく感じているところです。

やっぱり電子書籍を買うというのが、言葉で言えば「電子の書籍」なんですけど、でも結局、どこかのサイトのなかで、それを永久ないしは期間限定で読める「権利」みたいなものであって。例えば、極端な話そのプラットフォームがなくなれば読めなくなってしまうし。存在していたとしても、「所有している」っていう感覚ではないんですよね。

そこがやっぱりファンとしては、「逆にもっと金使わせてくれ」みたいに思うところがあって。「所有したい」とか、単行本だけじゃなくて、「もっとグッズがほしい」とか。そういうところに発展していくべきだと思うんです。

そこの階段が今、なかなかうまく作れてないんじゃないかと思っています。なので、今ある既存の電子書籍という考え方と、現状の出口である、「出版物」「紙」「単行本」というものの間を埋めるものを模索していきたいし、いけるんじゃないかと考えていて、そこを一緒に取り組ませていただきたいというのが、今回のアプリの大きな目標でありますね。

デジタルとアナログは共存できる

中里:今の説明で、「どんなアプリなんだよ」というのが、ちょっと伝わらなかったかな(笑)。ふわっとしてるっていうのが、「まさにその通り」って言われてしまう感じですね。

すごくシンプルに言えば、今(マンガを)読んでない人が世界中にはたくさんいるんだけど、シンプルで、おもしろくて、キャラクターが人間的に魅力である漫画はたくさんある。『なかよし』では、『セーラームーン』や『カードキャプターさくら』が、大昔も今も、子どもたちをいまだに熱狂させ続けているんですけど。

そういう熱狂させられるマンガと出会える場所を作れば、私は出版社の人間なので、出版社の人間としてのドリームとしては、電子で大好きな作品ができて、それをいつでもどこでも読めたら、それをまたさらに所有したいという気持ちは、リアルな書店さんに返っていくんじゃないかなと。

この(スライドの)一番上の、「物」としてほしいっていう。やっぱり物としてほしい理由をたくさん作ってあげたいので、逆に、デジタルとアナログが対立するとか、デジタル(だけ)にいっちゃうとかじゃなくて。

デジタルとアナログの、幸せのマリアージュを作らせていただきたいなっていう。それは自分ではできないので、人のふんどしでやらせてくださいっていう。そういうアプリです。

永田:そういう意味だと……すいません、これ講談社さんの前で言う話でもないのかもしれないですけど、中里さんにはもう言っているんで、ご理解いただいてるんですけど。この仕組みを、別にpixivと講談社さんだけでとどめたいわけではないというか、むしろここで実験して何かが発明されれば、どんどんほかの出版社さんにも入ってきてほしいし、同じような取り組みを、第2、第3とやっていければそれでもいいと思うし。なんならここのプラットフォームに混ざってもらって。

石井:そうですね。そうしないとここの2人がシーンってなっちゃう(笑)。

(会場笑)

永田:だから、そこの思想に関しては最初から一貫して変わらないもので、pixivはどこかとこういうチャレンジをしていくことはもちろんあれど、あくまでオープンなプラットフォーマーであって。そこはクリエイターに対しても出版社に対しても、常にフラットな関係を顕示しなければならないと思う。

マンガ家は素敵な仕事

そういったなかで、あくまでこれまでのミートアップのいろんなトークでもご理解いただけてると思うんですけど。

やっぱりpixivは、いかにクリエイターさんが作品を、なんて言うんですかね……ネット上に「書き捨てられていく」という考え方ではなくて、それをどんどん広げていって、もちろん別に単純にお金に変えるという話じゃなくても、いろんな意味での価値をそこに発生させていく。もちろん、みなさんのような出版社さんと何か作品を作っていくというかたちになることもあれば、そうじゃなくても、自分たちで同人誌を作ったり、グッズを作ったりもできる。

そういったものを活性化させていき、価値をどんどん高めていってほしいということが、本当に一貫して考えてやっていることです。

なので、例えば(クリエイターのコンテンツプラットフォームである)BOOTHとかpixivFACTORY、pixivFANBOXとかそういうのは、クリエイターさんに対するアプローチとして、そういう思想のもと行われていることだし。

一方、出版社さんとはこういったことを考えさせていただいてる。そこは同じ思考というか、同じ思想にのっとって行われていることなんです。

中里:そうです。シンプルに言えば、マンガ家さんには、やっぱりいつまでも儲けてもらいたいですし。逆に言うと、こんなおもしろいマンガを読んでお金を払ってくれる人がいて、稼げる素敵な仕事はないので。「どんどん稼ぐ場所を作るのが、私たちの仕事かな」と思っているところです(笑)。

永田:そうですね(笑)。

石井:はい、ありがとうございます。という感じで、若干最後はPRっぽくなっちゃいましたけど(笑)。

(一同笑)

石井:これで終わりたいと思います。pixivは今後も、マンガ文化を支えるために、各出版社さんと頑張っていきたいと思っておりますので、今後もよろしくお願いします。ありがとうございました。

スペシャルゲストは、株式会社KADOKAWA、瀬川編集長。株式会社一迅社、鈴木編集長。そして株式会社講談社、『なかよし』『ARIA』『エッジ』編集長、中里さん。そして弊社永田でお送りいたしました。みなさん大きな拍手で、お願いします。

(会場拍手)

石井:そしてMCは私、石井でした。本日はありがとうございました。

(会場拍手)

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