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第72回 『俺が10年後も漫画で生きてくための5つの戦略っ!〜シカーダ2巻発売記念☆スピリッツ元編集長と語る漫画の未来スペシャル!!』(全7記事)

1980年代、エロ漫画は猟奇殺人の片棒をなぜ担がされたのか?

ニコニコ生放送の人気番組「山田玲司のヤングサンデー」。今回は7月14日放送の『俺が10年後も漫画で生きてくための5つの戦略っ!〜シカーダ2巻発売記念☆スピリッツ元編集長と語る漫画の未来スペシャル!!』の内容を書き起こしでお届けします。

コンテンツの時空を越えた

山田玲司氏(以下、山田):(マンガワンの)ランキングにさ、ブラックジャックに並んで、シカーダが並んでて、なんかくるものがあるよね。

乙君氏(以下、乙君):やっぱり、そうですね。

立川氏(以下、立川):今週はそうだね。

乙君:作家も多分やる気も出るし、あと手塚治虫の漫画のつくり方と今のデジタルと、コマ割りも話の持っていき方もぜんぜん違うので、それを今の若い子たちが読めるというのが、いわゆる文化の熟成というか。

こうやってつないでいくのも古本屋が潰れるとか本屋がどう、というのも確かに大変なことなんですけど。もう進むしかないから、こっち側でどうするかというのを。

山田:いや、この話、なんか似てるなって思ったら。

乙君:なにに似てるんですか?

山田:藤井(聡太)四段の話。

乙君:は?

(会場笑)

山田:棋士よ。14歳の天才棋士の藤井四段がいるじゃん。また変なこと言ってるなって思ってるかもしんねえけど。

いや、あの人がなんで強いかって話を、この間、NHKで特集してるのを見てたら、AIネイティブというか。彼が生まれたのが14年前だから、そうすると調べると、なんとiPodが誕生したころなの。iPodが誕生で、MP3プレーヤーが出てきちゃったというのは、要はアーカイブ時代突入というか。

要するにリアルタイムで見ていた人たちが、あの時代を知ってるというのではなく、追っかければいくらでもわかっちゃう。そうすると、彼が対局でAIと対局しているときに、対局してる相手は、過去20万局の歴史なんだよ。そうすると、なにが起こるかというと、最近の流行りはこういうことをやらないということです。

例えば雁木(囲い、注:今では指す人がほとんどいない)みたいなことをやらない。あれは昔はやったけど、「あれじゃ勝てない」っていって、「今やらなくなったよ」って思ってる棋士がいるんだけど、AIはお構いなしに、それを採用するという強さがある。

そうすると、時空を超えてしまうと。いよいよ、だから漫画が時空を超えて読者に到達していくという。

編集者という職業の重要性

だから、そうすると、生まれたときからスマホをいじって漫画を読んでる連中というのは、要するに藤井世代というか。だから、手塚治虫は、ちょっと前だったら存在しなかった雁木なんだけど。「治虫すげえ」「これのがおもしれえ」みたいな。

要は「おもしろいってなんだ?」ということを判断するのが、編集者の仕事になってきちゃった。だから、それを上げるかどうか。

石橋氏(以下、石橋):最大の読者ですからね。

山田:まさにね。だから、一番の読者が編集者ってよく言うじゃん。それのソムリエなわけよ。おもしろソムリエ。

それで、今週のワインを選ぶときに、1974年の手塚治虫ということになる。「見て、今年とれたばかりのシカーダです」みたいな感じで並んでいるのがマンガワン。

乙君:おもしろいものをつくるという仕事プラス、また別のそういう選んで、みんなに届けるという目利き的なものも。

山田:そう思うね。

乙君:確かに。

山田:どうしよう、限定行く前にエロ問題片づけなきゃいけないんだけど、こっちで盛り上がっちゃった。とりあえず、いいですか。表現規制の話だけちょっと。あと12分しかないんで、ちょっとやりたいなと思って。

80年代は「漫画は有害」という風潮

要は、この後、シカーダって漫画を禁止されてるというのがテーマ。焚書の歴史。「漫画は有害だ」って言われて弾圧を受けてきたという歴史があって、その現場に我々がいたわけですよね。立川さんも40年ぐらいいるわけですよね。もうそのぐらいですよね。

立川氏(以下、立川):えっ、40年?

山田:だって、俺(漫画家歴)30年だから、今31年目なんで。だから、もうそれぐらいになりますよね?

立川:40年はいってないよ。

山田:でも、35年ぐらい。

立川:ああ、危ない危ない。

(会場笑)

山田:でも、それぐらいですよね。

立川:まあ、30年はいってますけどね。

山田:入社したのは何年ですか。77年ぐらいですか。『スターウォーズ』の前ですか。

立川:いや、80年。

山田:80年超えてるんですか。

立川:うん、80何年かだよ。2年か、3年か。

山田:82年ぐらいですか。

立川:うん。

山田:俺が86年デビューなんです。だから、だいたい同じぐらいだ(笑)。

立川:そうなんだよ。

山田:だから、俺にとってはちょい兄貴みたいな感じなんだよ。

立川:だから、年齢的な開きより、あなたのほうが要するに社会に対するデビューが早いから。

山田:そうなんですよ。

立川:だから、実は漫画に入ってからは、多分そんなには違わないと思う。俺そんなふうに偉そうにしゃべってた?

(会場笑)

山田:いえいえ、とんでもないです(笑)。なに言ってんですか!

立川:10個ぐらい漫画キャリアが下みたいな感じ。なんか日ごろ接してるような感じが。いや、でも漫画だとはちょっと思ってましたけど。

エロ漫画が有害とみなされるように

山田:だから、そうすると、80年代から91年にあったじゃないですか、遊人事件が。だから、あのときクロニクルやるんだけど、89年に宮崎勤事件(注:東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件)。

乙君:ああ、幼女誘拐。

山田:その事件があって、犯人にされてしまった。エロアニメとエロ漫画がその一部になっていた。だから、エロアニメとエロ漫画が猟奇殺人を生んだんだという、ものすごく単純化されたイメージをバーンってぶつけられたのが80年代の終わりにあった。

さあ、やっつけろとなったときに、ヤングサンデーで遊人という人が漫画を始めまして、『ANGEL』という漫画。で、みんなが大好きなあだち充のような絵で、あだち充が絶対やらないことをやるという遊人さん。

遊人さんって、もともとあれなんです。大友さんそっくりの絵を描いてましたよね。大友克洋のそっくりの絵で、人情話を『モーニング』で描いていました。

乙君:えっ、マジ?

山田:そう、遊ぶ人の遊人さん。で、それが「なんでもやるぞ」っていうモードに途中で入るわけ、遊人さんって。そっからヤングサンデーがスタートして。あのころの柱だったのって、遊人さんと『お~い!竜馬』と『冬物語』ですよね。90年始まるぐらいにね。

立川:ちょっとごっちゃになったけど、まあ、そうだよね。その3つは看板漫画だった。

山田:そうですよね。少年ビッグからずっと『お~い!竜馬』が続いてて、『冬物語』がそのまま続いてて、それが2本柱だった。

それで、ヤングサンデーが隔週で始まって、91年に遊人さんが『ANGEL』というのがあって、これが有害図書で。このときはなかなか大騒ぎでしたよね、国会で盛り上がっていたりとか。

立川:そうですね。別に、だから『ANGEL』だけじゃなかったですけど、講談社の漫画もなにさんだっけな。

しみちゃん氏(以下、しみちゃん):『いけない!ルナ先生』ですか。

立川:うん。集英社もあったんじゃない。ヤンジャンとかあっち系で。

しみちゃん:そうですね。

立川:だから、青年誌、少年誌問わず、けっこうやられましたよね、あのときね。

山田:だから、70年代はハレンチ学園とか手塚先生のアポロの歌とかというのがあったりとか、76年に『がきデカ』みたいなのがあって、その時々でこれはいかんみたいなのがあったんだけど。

和歌山から有害図書排除の動き

89年の宮崎勤がけっこう一番引き金になっていて、和歌山の田辺市というところ、知ってますか。

乙君:はいはい。

山田:そこのある主婦が出版物の行き過ぎを規制するように、当局に強く言ったという話があって。どうもそれが始まりになったらしくて、それが和歌山の新聞に投稿されたらしいです。

乙君:さすが保守王国・和歌山。

山田:保守王国・和歌山から始まった流れが、主婦が青年向けコミックを子供から守ろうという動きがあって、当時の『北斗の拳』や『ドラゴンボール』までやり玉に上がってという流れがあって。

乙君:俺も親に北斗の拳見せられなかったですもん。

山田:暴力がひどいからって。

乙君:「あんなの見るな!」みたいな。

排除運動当時、漫画誌の風潮は

山田:あれ現場の編集者はどういうふうに思ってたんですか? 例えば、ヤンサンのときとかは。

立川:やっぱりわかりやすいエロで突出してた本については、けっこうみんな引っ込めたよね。編集者がそう思ってたかどうか知らないけど、編集部的に持たなくて。でも、『北斗の拳』とかやめるわけにいかないじゃない。」

(会場笑)

山田:あの当時の『北斗の拳』はやめるわけにいかない。

立川:「こっちのエッチ漫画は、もうしょうがない」「エッチな話の人はやめるか」みたいな。あまり名前出しちゃってあれですが、講談社の中西先生なんかも。

山田:あっ、中西やすひろさん。

立川:かな。たしか連載を入れかえみたいになってたかな。だったと思うけど、ヤンサンは知らないけど、けっこう戦ってたよね。

山田:戦ってましたね。

立川:それで、わりと辞表を握りしめてみたいな感じでやってたよね。

何君だっけな? 今でもジャーナリストやってますけど、なんかもけっこう論陣張ってたりもしてたし、なんかやってたんだよね。

ただ、これ正直な話、俺はそのときスピリッツいたんですけど、ヤンサンにももちろんいて、その後の移動先がスピリッツだったんですけど、『ANGEL』で辞表握りしめて戦うか? って、それはちょっとあったんだよね。

それは当時の編集部で編集長だったか、副編集長だったかの先輩にその話したことあったけど。

作家にとりあえず引導を渡して、「今はちょっとやり過ごしたほうがいいからさ」なんて言って、安易に切りかえたりしないで、なにが悪いんでしょうかみたいな感じで。

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