2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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池田善昭氏(以下、池田):私の専門は西洋哲学です。
西田哲学というのは、京都大学に入ると、当時はどうしても勉強しなければならないといった雰囲気があり、学生時代には西田を勉強せざるを得ないような状況でした。しかし私自身はそのときは「ちんぷんかんぷん」というか、西田はよくわからなくて、途中で放棄というか、勉強するのをやめてしまいました。そして、ずっと30年ぐらい、西洋哲学の勉強をしてまいりました。
その中で、専門としてはライプニッツという哲学者の哲学を研究したのですが、彼はモナドロジー(以下、モナド)、日本語では「単子」とも訳される概念を中心とする哲学を展開していました。
一方で、西田は自分の哲学について「西洋哲学の中で自分に1番近いのはライプニッツだ」と言っています。そういう点で、私は逆にライプニッツを勉強しながら西田に興味を持ったという、そういう経緯があります。
そうして西田を勉強し始めると、非常に面白いことに、西田には西洋哲学に全くない発想があることに気づきました。この、西洋と日本の考え方の違いというその違いに、私は大変深い興味を持つようになっていきました。
西田がなぜ「ライプニッツが1番自分に近い」と言ったかということについても勉強してみると、確かに西田とライプニッツの哲学は近いとも言えるんですが、決定的なところでは違っているように思われるのです。その違いについては、西田哲学の中ではあまり明瞭には説かれていないのですが。
モナドというものについて簡単に触れますと、みなさん一人ひとりが違っているように、世界には同じものが2つとない。個体というのはどの世界においても全部異なっています。全部違っているんだけれども、それぞれがその世界というものを鏡のように映していて、全体というものが意識できない形で映っている、という、そういうモナドのあり方が存在の基本であると(ライプニッツは)説いたわけです。
西田にとっても、「個」というものは非常に重要な問題でした。なぜ個人というのは一人ひとり違っていて、違っていながら、それぞれがお互いに同意したり理解しあったり、つながったり、連続したりするということができるのか。みんな違っていながらも、つながっている。これを「非連続の連続」と言いますけれども、そういう問題の立て方の中で西田はライプニッツのモナドに大変興味を持つわけです。
そういうわけで私は、逆に西洋哲学から西田に関心をもって、途中で西田にはまってしまう、ということになったのです。
実は西洋哲学というのは非常にわかりやすいんです。ある意味では、考え方を大きくわけると2つ、あるんです。「観念論」と「実在論」です。
みなさんご存知のようにソクラテスとプラトンが哲学の始まりで、ソクラテスは哲学の父と言われているくらい西洋哲学の始まりにおいて非常に重要な役割を果たしています。彼の弟子のプラトンは今なお西洋哲学の1番中心に位置しておりまして、今日でも、ソクラテス、プラトンの影響は西洋哲学の根底に脈々と連なっています。
普通は「イデア論」と言われていて、実在を観念的に理解するわけです。私たちの頭の中で理解するという、そうした営みの中から近代の科学も生まれてきたわけですし、あらゆるアイデアも全部私たちの観念の中から生まれてくるとも言えます。先ほど福岡先生が話された「ピュシス」というのは、ギリシャ語で「自然」のことです。ラテン語でnaturaと言い、英語のnatureという言葉のもとになっています。
そういうわけで、「自然」というあり方のことを元々ギリシャでは「ピュシス」といいました。ロゴスに対するピュシスの話を先ほど福岡先生がなさいましたけれども、ピュシスというものが、(ロゴスのもとでは)実は本来的なピュシスとしてあり得ないのです。それはなぜかというと、人間がそれを理解しなければならないからです。人間はピュシスをどうしても観念的に理解せざるを得ない。ピュシスそのものを私たちはどうやったら理解できるのかという、そういったテーマが実は西田の中にあったんですね。
西洋哲学の中では自然というものをロゴスとして理解する。しかし、自然の中には本来の人間には理解できないような深いロゴスがある、と(西田は気づいたわけです)。人間のロゴスとピュシスの持っているロゴスというのは完全に違っている、と。今、環境の問題という形で自然の在り方が問われていますが、「私たちは本当に自然というものを理解できるのだろうか?」という問題は、長い間西洋哲学でも論じられてきました。
そもそもは、古代ギリシャで紀元前5世紀6世紀ぐらいの、ソクラテスやプラトンよりもっと遡った時代において、ピュシスというものが最初に唱えられました。
その中では、自然はなぜわかりにくいかというと、隠れてしまうからだ、と。人間が自然をわかろうと思って近づくと、自然は奥の方へ奥の方へと隠れてしまう。そういう自然のあり方を言い出すわけです。
そして、人間には本当の自然の姿というものが理解できないだろうということになると、ソクラテスは「我々の一人ひとりの力じゃだめだ。お互いに対話し知恵を出し合って、その話し合いの中で論じあいながら研究を続けていけばいい」と考えるようになります。いわゆるディアロゴスですね。
ロゴスじゃなくてディアロゴス。
ディアというのは2人という意味ですが、場合によっては、それ以上が集まって話し合うということですね。普通、ロゴスというのは、人間の、ある共通性の中で行うわけです。普遍性ですね。しかしディアロゴスということになりますと、一人ひとりが違っている。違っていながら、お互いに話し合うことの中で、これはのちに弁証法とも言いますけれども、その中でテーゼとアンチテーゼというものを出して、それをなんとか1つにまとめていこうという。そういう弁証法というものがソクラテスによって考え出されて(注:ソクラテスでは「問答法」)、それが西洋哲学の原型を作ります。
しかし、本当にテーゼとアンチテーゼは1つになるんでしょうか? 実はならなかったんです。その後、ヘーゲルの弁証法が、マルクスに受け継がれていっても、実際はみなさまご存じのとおりマルクス主義は今ではほとんど顧みられることがなくなりました。それはやはり、ヘーゲルの弁証法では完全な形で私たちに客観的な自然の姿を伝えていることにはならないということが、半ば明らかになったと言っていいのではないでしょうか。
こうした経緯を西田はよく勉強して知っていたんですね。なぜ我々は本当の「自然」というものに目覚めることができないのか。自然というものを理解することができないのか。それは、「存在」と「実在」というものの違いが判らないからです。存在と実在というのは、みな同じように考えているんですけれども、実はそうではありません。
これは長くなるので、簡単にしかお話できませんけれども、今までのオントロジー、「存在論」というものが西洋哲学の基本の中にあります。認識論に対して存在論がある。認識というのは、人間の主観性から「私はこう思う」とか「こう見た」とか、常に主観が入らないと認識は起こりません。
ところが真の存在というのは、そういう主観に関わらず常に客観的に存在していなければならないわけですけれども、その存在というもののあり方に、西洋哲学の中では実在するものなのか、それとも単に観念的に考え出されたものなのかということについて問いただしていくと、結局、実在するものと単に存在するものとの違いというものを、明確にすることができなかったんです。
結論を言いますと、西田はそこのところで、西洋哲学・存在論にも限界があって、実在を問うていない、と考えたのです。その実在を問うていない証拠に、結局、西洋2000年以上の歴史の中でどうしても解けない問題がいくつかあります。1つは「他者問題」です。1つは「個体化原理」です。
個体、一人ひとり違っているというものは、どう違っているのか、なぜ違っているのかという個体概念ですね。この個体概念とそういった他者問題というのは、ほとんど同じように難しい。「アポリア」と普通は言いますけれども、解けない問題です。
それからもう1つ、デカルトが提出しました「心と体」ですね。心と体は「心身関係論」と言って、ずっと哲学の中で論じられてきたんですが、今日においても、どうして脳の中で観念的なものが生じて、我々がお互いに理解し合うということの仕組みにおいて、心と体がどういうふうに関わっているのかを明らかにできていない。
心身二元論と言って、身体的な理解の仕方と精神的な理解の仕方がどうして1つになるのかという問題を、心身関係論とも言いますが、いままでの西洋哲学じゃ解けなかったんですね。そういう個体概念、個体とは何であるか、それから他者問題、そして心身関係論。これが未だに解けていないんです。
しかし、西洋哲学が2千数百年も経っていながらどうしても解けない問題を、実は西田が解いています。このことも、私はごく最近知ったんですけども、アポリアの中のアポリアと言われている3つの難問、すなわち他者問題、個体概念、心身関係論というものを西田がどうして解くことができたのか。それは、西田が存在と実在の違いについて深く考えたからです。
西洋哲学の中では確かに存在論があって、存在というものについては、ハイデガーに至るまでの歴史があるわけですが、長く論じられてきた「存在」というものがあります。しかし存在というのは人間のことだけではありません。
個というのは、世界にたった1つしかないんですね。個体のことを西田は「個物」と言います。異なっているもの。そういう異なっているものを明らかにしようと思うと、どうしても「他者と自分」という他者問題につき当たって、違っているものがどうして1つにわかりあえるのか、という矛盾が生じてしまう。そして矛盾というものが解けない。しかし、西田は「絶対矛盾」であれば「自己同一」であるということを発見したんです。
「絶対矛盾の自己同一」は福岡先生も仰っているように、単なる中途半端な矛盾じゃないんです。絶対矛盾。その絶対矛盾というものまで行きついたとき、「自己同一」という大変不思議な現れ方が出てきます。
柴村:すみません、池田先生。ちょっとさえぎらせていただきます。福岡先生との対話をしていただきたく……。
池田:そうか。
(会場笑)
柴村:池田先生は個体問題の話、個体概念と他者問題をこの本で十分に語りつくせなかったので、そのことをどうしてもおっしゃりたかったと思うのですが、打ち合わせでは別の展開になる予定でした。いまお話しされたことは今後の私たちの課題なのかもしれないんですけれども、一度話を戻していただいて、福岡先生とのお話し合いにしていただけるとありがたいです。
福岡伸一(以下、福岡):もうちょっといきつくところまでお話されてもいいんじゃないかと。
(会場拍手)
池田:一番言いたかったことは、この本(『生物と無生物のあいだ』)はご存知でしょう? 福岡先生のベストセラーです。私がこの本を読んでいちばん驚いたのは、この本の166ページにこう書いてあります。「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」。秩序を守らなければならないのに壊されなければならない。今お話ししたことは、矛盾しているでしょう? 秩序を守らなきゃならないのに、壊されなきゃならない。この文章を読んだ時に「これは西田だ」と思ったんです。絶対矛盾なんです。
こういう絶対矛盾が自己同一、同じことであるということを、西田はかなり早い時点から知っていたんですね。福岡先生のお話がありましたように、細胞膜で起きていることというのは、分解することと、合一することですね。分解するということは、分けてしまう、バラバラにするということで、合一というのは1つにする。これは全く相反する同時性のことですから、絶対的に矛盾しているんですけれども、実は、この矛盾によってこそ細胞は生きているんですね。
つまり、生命というのは、実に魔訶不思議なことに、絶対矛盾で、しかも自己同一という形をとるがゆえに、生きることができる。こういう点で、この本を読んだ時に、福岡先生は西田哲学を勉強しているに違いないと思ってメールを交換していたら、彼は何も知らなかった。何も知らないのに、どうしてこういうことが言えたんだろう? ということで、私は、福岡先生に大変深い興味をもったわけです。
これが私と福岡先生をつないだ最初の原点だったわけです。
「絶対矛盾的自己同一」という考え方は西洋哲学には全くありません。極めて端的に言えば、アポリアを抱えたまま西洋哲学がなぜうまくいかなかったのか。それは西洋哲学が「絶対矛盾の自己同一」を知らなかったからです。矛盾律の下で、矛盾するものはすべて避けてきた。しかし、矛盾するものこそが重要な問題を孕んでいるということを、西田は徹底的に我々に教えようとしたわけです。これが西洋哲学と西田哲学、我々日本人の哲学との違いなんです。はい、一番言いたいことは、それだけです。
(会場拍手)
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