2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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東野正剛氏(以下、東野):この後『鉄男』に続くと思うんですが、こちらは美術だとか造形品だとか、かなりお金がかかったと思うんですが。自主映画を自分で作りたいと思っても、どうやるんですかね? まず何がスタートか……。
塚本晋也氏(以下、塚本):『鉄男』を作った時は、『電柱小僧の冒険』がこんな8ミリでも何十万かはかかったので、その何十万の借金があるだけで、0というかマイナス30万円か40万円があるだけで、まったく『鉄男』を作れる根拠はなかったんです。でも、作ると決めたものですから。
CFの演出の仕事1本やって……そんなにたいした演出家じゃないですから、まだ若かったんで。30万円もらったんです。昔はビデオがないですから、20万円でスクーピックという、戦場とか、そういう所でも使う簡易カメラを使って16ミリフィルムで撮るんですが。
露出を合わせたり細かいのがない簡単に撮れるカメラなんです。これを中古で20万円で買って、残った10万円で8ミリの『電柱小僧』を作ったライトと同じアイランプという写真用のランプを3つ買って。あとフィルムを何本か買って、これでとにかく作り始めたというだけですね。
このライトは3つあるのが当時の決まりだったんです。背景を照らす1個と、正面から当てるライトが好きじゃないので2個どうしてもこっちとこっち(左右)で、片側ずつライトが要るので。『電柱小僧の冒険』もそうですし『鉄男』もライト3つで撮っていたという感じですね。
フィルムとか現像にお金がかかりますが、あとはかけません。映画が完成してからは御礼をしましたが。『鉄男』の特殊メイクなどは全部、燃えないゴミの日などにテレビとか落ちてますんで、それを拾ってきて壊して、中の機械をほぐして、両面テープで田口さんの顔に、博多人形のような美しい肌にピッとくっつけて。
あと、当時ノーズパテという、そこだけはメイク用の粘土みたいなもので、機械と肌をなじますという、この一芸だけですね。『鉄男2』ではお腹の中から機械がウワーっとなったりするんですが、当時は特殊造形とかをつけることができませんから、全部コマ撮りという、1コマずつ撮るアニメーションの手法をとりました。それしかできませんし、それがやりたかったという。
うまくやらないとちょっと牧歌的なというかですね、可愛くなっちゃうんですね、コマ撮りって。だから非常に乱暴にやることで、いわゆるアニメーションのかわいい雰囲気じゃなくて、ビデオクリップにあるようなソリッド感というか、そういうのが出るように、これはわざとやってんだ、わざとこういうふうな映画をやってんだというような、雑な作りにしていったんですが。
後は、コマ撮りの生理感覚がいまだに好きなんですが、追跡するシーンとかも全部コマ撮りで、撮影は本当ゆっくりなんですが、ちょっとずつやっちゃパチッと撮って。でもあんまり丁寧にやると失敗するのはわかってるんで、ちょっとだけ雑気味にやるとガタガタガタガタガタっというような雰囲気になる。それも結局やりながらで。ですから、造形費とかには両面(テープ)代しかかかってないですね。
東野:いわゆる塚本さん流の自主制作の中で……。
塚本:あれが最初の劇場映画になりましたから、はじめてそういう商品としてのスタートで、絵は全部自分で撮って、仕上げをビデオ会社からお金を出してもらって作りました。
東野:わかりました。ではこの後、今日の本題というか、同じセルフプロデュース力の最新作『野火』のお話させていただければと思うんですが。『野火』の前に、まず監督のすべての作品にクレジットで「海獣シアター」が出てくるじゃないですか。海獣シアターというのは、監督の会社というか、どういう団体なんですか?
塚本:海獣シアターって、実は『電柱小僧の冒険』をやっていたときに、演劇をやっていて、海の獣の形をした小屋を作って、その中でお芝居をしたんですね。
次に『普通サイズの怪人』『電柱小僧の冒険』という8ミリ映画を作った時にも、海獣シアターという映画のタイトルを入れていたんですが『鉄男』を作った後に、要は劇場映画なわけですからちゃんと会社にしなきゃいかんということになって、なんか立派な名前を考えていたんですが、コスモス何とかって……大きくしようとすればするほどインチキ臭い雰囲気になることがわかったんですけど。
海獣シアターも、なんぼなんでもなーと思ったんですが、まぁその時の税理士さんが「いいんじゃない?」と言ってくれたので、海獣シアターにしてしまってからですね、領収書取るのが恥ずかしいですね、いつも。
(会場笑)
塚本:「なんて書いたらいいですか?」「海獣シアター」「は?」と必ず聞き返されるので。その時に、昔は恥ずかしかったんですが、今はすっかり慣れてしまいました。
東野:もちろん『野火』に至るまでは何十作もあるので、ちょっとここでは恐縮なんですが割愛させていただきまして、今回その『野火』がやはり監督の自主制作においては集大成になるのではないかというような。
塚本:ちょうどそうなんですよね。それまでには自主映画じゃないようなスタイルとか、自主映画だけどどうのこうのとか、もうちょっと複雑な経路をたどっているのですが、最後に結局元の大昔の自主映画に戻っちゃった感じが、まさに『KOTOKO』と『野火』あたりなので。すべてがもう何も手元になくなっちゃって、いちから始めた感じですね。
東野:はい。『野火』について今からお話いただくんですが、せっかくなので『野火』の予告編も一度ここでみなさんにお見せしたいと思います。では『野火』の予告編をご覧ください。
(『野火』予告編を上映)
東野:改めてすごい迫力の作品ですね。みなさん、この本の存在はもちろんご存知かと思いますが、『「野火」全記録』という本の一部の話になるんですが。
会場のみなさんの中にもクリエイターの方がいらっしゃるので、みなさん興味があると思うのですが、ひとつやりたい作品がある、こういうテーマがある、と。ただ、当然お金もない、いわゆる会社のバックアップもない。そこから1からここまで仕上げられて。しかも海外映画祭にもいっぱい出して、という。ここまでいくまでにどういう……その、過程があったのでしょうか。
塚本:えー(笑)。これは話せば長いし、どうしたらいいんでしょうか?
東野:そうですね、まず作りたいという思いが強かったというのが、このメイキングにもあるんですが。とくにいわゆる資金面ですね。その資金面と、あとはどういった仲間がいるのかとか。
塚本:そうですよね、でも資金はいつもないですからね。
東野:ないのにどうやって作るのかなーと。
塚本:うーん、作りたいという強い気持ちということなんでしょうが。どこからどのようにお話していったらいいかなんですが。
東野:例えば『野火』の場合は、まず自主制作といっても先程話されたように、よくショートフィルムの監督などもやるのですが、ショートフィルム版などをある程度まで自分のお金で作った後で、プロデューサーに見せて、じゃあおもしろいから長編作ろうというかたちで進むケースがありますよね?
塚本:自分のやりたい企画というのは、一般的じゃないヘンテコな物を頭の中で考えついて、それをどうしても、ぐちゃぐちゃな形じゃなくて、人に観てもらえるような形にしたいんです。エンターテイメントの方も大好きだから、合体させながらテーブルに載せるためのことを考えるのが、毎回の嬉しいドキドキです。
そのさじ加減をいつも考えているんですが、さじの微妙なところは、プロデューサーの方に理解していただくのが難しいです。初期の頃は、自分で考えたおもしろいわけのわからないことは、自分のお金で。でも「自主映画しかやりません」というのではなく、お話をいただいたらもう嬉しくて喜んでお話をうかがうというのが『ヒルコ/妖怪ハンター』だったり『双生児』という映画だったりするんです。
『悪夢探偵』を作る頃は、自分の企画なのに初めて最初から会社にお金を出してもらうようになったんですけどね。海獣シアターに入っているスタッフも何人かいたり、まあ40代の後半でもあったので、映画が途絶えないように一番いかにも会社らしくしていた時期ですが、残念ながら立ち行かなくなって『鉄男THE BULLET MAN』以降に1回解散することになります。
昔のいわゆる、今日話さなきゃいけないような、シンプルにやっていくというのに戻ったのが『KOTOKO』と『野火』なんです。ただ皮肉にも『野火』は“自分の自主映画じゃない映画”としてやりたかった最も大きな映画だったんですね。
あくまでもこれは、ちゃんとした原作があり、昔からやりたかったものなので、理解をしてくれるプロデューサーの方にお金をたくさん出していただいて、自分の映画でボランティアから入って、プロとして成長したスタッフをみんなフィリピンに連れて行って、大掛かりにして。主演の俳優さんもみなさんが知っている著名な人にお願いして、そうやって大きく作って多くの人に見てもらって。多くの人に見てもらうのがまた大事な企画ですから、ずっとそう思っていたんですが、それらのことが揃わないまま、これ以上先延ばしできない大事な時期にきてしまったので、もう無理やり作ってしまったんです。
長い間戦争なんかに近づいている気配はなかったので、「この映画はテーマとしては普遍的で良いね、でもお金がかかるから難しい」ってことだったんですが。今はもうこんな映画、テーマとしてもあり得ないという雰囲気だったので、自分としてはもうちょっとやばい。このままだと、ずっと長くやりたかった映画ができなくなる。でも、今作らないとできなくなっちゃうし、今作ることが必要だと思って無理やり作ったので、またちょっとほかの僕の実験精神の塊のような映画とは成り立ちが違うんですね。
でも、やっている方法は、自主映画のそのままで培ってきたもの。一番お金がなくて困った頃のノウハウを全部投入してやりました。
東野:でもそのノウハウのひとつとしては、やはり仲間……これに共感して参加してくれるいろんなスタッフであるとか、ボランティアの方が多いと聞いているんですが、やっぱり彼らの存在っていうのも非常に大切なんでしょうか 。
塚本:そうですね。自分の映画では、やはりボランティアさんが必ず毎回何らかのかたちで入るんですが、最初の頃はボランティアさんだけでやって。ある時期をボランティアさんで育ったスタッフが、そのままいる時もありますし。外部に出ていってプロの仕事をして、より力を蓄えて戻ってきて、さらなる力を貸してくれるということもあります。まったくボランティアさんをやらないで、いきなりプロの方が現場に入ってくるというのは、『ヒルコ/妖怪ハンター』以外はあんまりないんですね。あくまで現場の話ですが。
東野:メイキングのBlu-ray映像の方なんですが、ぜひみなさんに紹介したいところがありまして。後半のボランティアさんがジープを作っているあたりを若干ちょっと見ていただければと思うんですけれど。
(『野火』のメイキング映像を上映)
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