2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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堤大介氏(以下、堤):お待ちかねのエリックをここで紹介したいというか、話していただきたいんですけれども、エリックが今まで自分がやってきた作品を集めた小さなクリップを用意してくれたので、ぜひそれをまず見ていただきたいと思います。
(エリック・オー氏の作品を集めた動画が流れる)
これでひと目でわかると思うんですけど、エリックの若さでものすごい作品をやってきたんです。ピクサーで、一番最後の『ファインディング・ドリー』のタコのキャラクターで、彼はアニー賞というアメリカのアニメーション界のアカデミー賞みたいなのでノミネートもされているんですけれども。
本当にピクサーの将来を約束されていた彼が、なぜトンコハウスに来たのか。これちょっと聞いてみたいと思います。
(会場笑)
エリック・オー氏(以下、エリック):ダイス(堤氏)とロバート、この2人は本当にピクサーでも最高のアートディレクターでした。本当に彼らが辞めてトンコハウスを立ち上げたあとも、「このあとなにやるんだろう?」ということを本当にみんな興味を持って注目していました。
やっぱり彼らがやってきたことにすごくインスピレーションを受けていて、自分も同じようにインスピレーションを受けていました。
2人ともアジアのルーツがあるんですけれども、トンコハウスでやっていることっていうのは、アメリカの文化、それからアジアの文化、こういうハイブリッドの文化を背景に作品を作っている。それがすごく自分には興味深く思えて、こういうところだったら自分も力を出せるかなと思いました。
そういうことで、トンコハウスってとてもこの産業のなかでもユニークな存在になっていて、そういうところで自分も同じようなかたちで作品を作っていけるっていうことが、とても自分にとっては意味あることだなというふうに思っています。
堤:なるほど……うれしいですね。
(会場笑)
そこでエリックがトンコハウスに来るきっかけとなった、『丘の上のダム・キーパー』、英語のタイトルが『The Dam Keeper Poems』。これはどういう経緯で僕らがやることになったかっていうのをちょっと話してもらいましょう。
ロバート・コンドウ氏(以下、ロバート):最初のきっかけは、Huluの町田さんというプロデューサーの方がトンコハウスとプロジェクトをやることに興味があるとおっしゃっていただいて。
そこから、プロジェクトを立ち上げるにあたって、エリックのような人物を入れて、彼に監督してもらってなにかやってみたい、そういうふうに思うところから始まりました。
先ほどのクリップでもわかるように、エリックには本当に独特のビジョンというか世界があって。やっぱり『ダム・キーパー』に関わっていて、『ダム・キーパー』の世界観の中でエリックがどんな独自のストーリーを作ってくれるかということにとても興味があって、ぜひそこでやってみたい、やってほしいと思うようになりました。
堤:その『丘の上のダム・キーパー』なんですけど、「どんなストーリー、どんなお話をエリックは作るんだろう?」って、僕らは本当に最初からすごく興味あったんですけれども。
エリック:まず最初に、ダイスとロバートは自分に自由を与えてくれたというか、自分の好きなようにストーリーを考えてみていいよというふうに言ってくれて。そのなかで、まず最初に自分のなかで個人的なところを考えて掘っていって、「どういうストーリーが自分にとって意味のあることなんだろう?」ということを考えていきました。
やっぱりコンセプトとしては、このシリーズのコンセプトも父と息子の話なんですね。このpigがどのような経緯でダム・キーパーになったのかということを考えて、自分なりにストーリーを作っていったということです。
このシリーズは、短編と同じようにセリフがないんですね。作中で会話がないんです。pigにとっての幼少時代の記憶を描くのに、本当にファンタスティック、幻想的なかたちで覚えている記憶を組み立てていきたかった。
このお話のなかにはとてもエモーショナルなところもありますし、とてもおもしろい動きもありますし、また暗い部分もありますし。そういうものが混ざってできている作品になっています。
デザインも短編と比べるとすごくシンプルで、逆にアニメーションの動きを見せられるような作品にしています。
今回の作品は全部で10話あるんですけれども、1話が5分ごとになっています。ダイスがさっき紹介したように、自分は今までたくさんの短編を作っていますので、そういう経験を活かしたかたちになっているかと思います。
作品としては、1本ずつが短くて、すごくシンプルな背景で、すごく詩的というか、詩のようなかたちの作品になっているんじゃないかと思います。
一番大きな短編とこのシリーズの違いは、アーティスティックなビジュアルの部分の表現の仕方なんじゃないかなと思うんですけれども。
背景が、やっぱり短編のほうは1つひとつ書き込んでいて、光や色で見せているということがたくさんあったんですけど、この作品は、本当にシンプルな背景になっていて、ラインワークで見せられる動きを特徴としているかと思います。
堤:(スクリーンに流れる映像を指して)今、ちょっと見ていただいているのは、一番最初のテストですよね。ルックのテスト。こんなところから始まっています。
本当にエリックがすごく大事にしていたのが、この詩のような。英語のタイトル『The Dam Keeper Poems』というように、「詩のようなビジュアルにしたらどうなるのか?」というので、エリックのチームと、もちろん僕とロバートも協力しながら、短編のほうとはまた違ったルックをエリックが最後につけてくれた感じですね。
じゃあここで、さらにプロセスをもうちょっと分解して説明してもらいましょう。
エリック:作り方はけっこうトラディショナルな2Dのアニメーションの作り方になっているかと思うんですけれども。
最初ストーリーボードを描いて、そのあとラフアニメーションで、動きやエモーション、感情的な表現とかが出てるかということに注目していき、クリーンナップで絵をきれいにしていって、色を塗り、合わせていく。そういうプロセスで作っています。
(映像が流れる)
堤:ちょっと見ていきましょう。これがストーリーボードですね。もう本当にお話を伝えるためだけの絵コンテみたいなやつですね。この音楽もtemporaryです。なんとなく感じをつかむための音楽をエリックが見つけてきて。ものすごいシンプルに作ってありますよね。
それで、ラフアニメーション。これがラフアニメーションで、一番最初にアニメーターさんが入って、エリックのストーリーボードの上から、実際の動きをここで作っていきます。これが基本的にアメリカのチームが中心に作った工程ですね。
エリック:この作品は、どのようなパイプラインというか、どういうチームを作っていくかということを最初いろいろ話し合って、結果2つのチームを作ることになりました。
1つは、我々トンコハウスがいるバークレーにチームを1つ作り、もう1つは今、東京でアニメーターの人たち、ペインターの人たちが集まって作業していただいています。プリプロダクションと言われる、このラフアニメーションのステージまでをアメリカでやりました。
この今見ていただいている部分に関しては、ステファニーというアニメーターにアメリカでやってもらったものです。絵コンテに描いてある内容をなぞるように動きをつけていって、命を吹き込んでいくというような工程ですね。
ここがクリーンナップとカラーですね。色付けなんですけど、これは日本でやっています。とてもすばらしい仕事だなと思います。
このようなルックの作品になっているんですけれども、ここまで作るのにけっこうな時間と労力がかかっています。ここに参加してやっていただいているみんなアーティストの人たちに、とても感謝しています。
堤:今、このプロセスをお見せしたんですけれども、ほかにもエリックにちょっと無理を言って、「ほかのところもうちょっと見せてよ」というふうに言って、急遽このプレゼンテーション用意してる時に、何個かほかのクリップも見せてもらえるようにお願いしました。
(映像が流れる)
本当にエリック・オーの世界観がすごく入ってるショートです。
(会場拍手)
エリック:最初に、こういうことをやらせてくれて、どうもありがとうございます。
こういう楽しいアイデア、「これ、おかしいかな」と思ってアイデアを思いついたときに、「ちょっとやりすぎかな。大丈夫かな」って心配するようなことがあるんです。
でも、結果としては本当にいいミックスというかバランスで、『ダム・キーパー』の世界でありながら、こういう本当に自分が得意としているこういうおもしろい動きみたいなものをミックスすることができたんじゃないかと思います。
この作品はいろんな広いレンジのことを表現してるんですけれども。エモーショナルなシーンだったり、おかしいところがあるんですけど、ちょっとダークな部分を紹介したいと思います。
(映像が流れる)
堤:エリック独自の世界観をここに詰め込んでくれたんですけれども、ちょっとロバートにも質問したいなと思います。この作品は僕とロバートがもともと作った『ダム・キーパー』という世界をエリックがアダプトしたかたちになって。
僕とロバートは一応、総監督みたいなかたちで、ちょっと外れたところからコンサルタント的な感じで入ってたんですけけれども、それってどうだったのかなって。このエリック・オー・ワールドがものすごく入ってきたこのプロセスをロバートどう見てたのかって、すごく興味ありますね。
ロバート:本当に自分にとって最高の経験というのは、エリックが入って、自分たちは横からエリックが作っているのを見てるようなかたちになったんですけど。
自分たちが作ったキャラクターでありながら、それを引き渡した瞬間、みんなそれぞれ、みんなのキャラクターになっていくわけですけど、エリックはエリックの表現の仕方でこんなにおもしろいことを作ってくれた。これがすごくおもしろい体験でした。
一番大変だったことは、たまに自分とダイスが横でほかの仕事をしていてちょっと煮詰まったりしてるときに、その横でエリックとほかのみんなチームが嬉々となって本当にこのすばらしいものを作っていってる。これを僕が横で見てて、「ああ、いいものができてるけど、自分が参加してる感じがないな」みたいに思ったような時がありました。
堤:本当……ジェラシーですよね(笑)。
(会場笑)
もう本当に最近楽しそうに作ってたので、もちろん僕らも関わっていましたけど、誇りに思うと同時に、本当にうらやましかったんですよね。新しいカットがあがってくるたびに。
さっきエリックも言ってたんですけど、このプロジェクトはすごくおもしろくて。日米合作と言ってもおかしくない。日本にたくさんのアニメーターさんたちのチームがいて。これは本当にすごい大きな意味だったんです。ちょっとそこも聞いてみたいと思います。
ロバート:自分たちがピクサーで仕事をしていたときは、みんなが近いところにいたので、なにか問題があればすぐに話をすることができる環境で今まで自分たちは作品を作ってきたわけですけれども、こうやって国をまたいで遠くでやるということは、やっぱりそこに断絶じゃないですけど、いろいろ壁がありますよね。
やっぱり時差もあれば、言語の違い、文化の違いというのもあるなかで、それはなかなか難しいときもあります。
自分自身は日系4世なんですけれども、そういうふうに自分のルーツを知るというか、日本の人たちと働くということはそういう意味での興味もあるんですけれども。エリックにとっても、これが本当にほかの文化の人たちと離れたところでやることが成長になる、そういう成長の機会になっているということであれば本当にいいなと思っていました。
やっぱり日本人は、クラフトマンシップというか、細部へのこだわりがすごくたくさん強くあったりして。そういう意味で、自分たちは本当に世界でもベストな人たちとやりたいというふうに思っているわけですけれども、そういう人たちと日本で一緒にやっているということをすごくありがたく思っています。
エリック:本当にロバートの言ったことに深く賛成します。チャレンジがないといったら嘘になると思うんですけど、そういう障害がありながらも、これまでいろいろ乗り越えていけたと思っています。
それがどうしてそういうことになったかというのは、お互いに対してのリスペクトというか、そういうふうにお互いを認め合って乗り越えていこうということがあって、ここまでできてきたんじゃないかと思います。
同時に、個人的なことを言わせていただくと、本当に自分は日本のアニメなどを見て育ったということもありますので、そういうところの人たちと一緒に仕事ができることを光栄に思うし、やっぱり本当に世界でも最高のレベルの人たちとできているということを本当にありがたく思っています。
堤:ここで今日、用意してきた1つのエピソードを全部ちょっとお見せしたいと思います。今日話していた今回の『丘の上のダム・キーパー』の原画展を東京西荻窪のササユリカフェで7月の6日から7月いっぱいやりますので、もしみなさんお時間あればぜひ行ってみてください。
小さいかわいらしいカフェなんですけれども、そこでまたエリックのチームが作ったすばらしいアートを展示していますので、ぜひ来ていただければと思います。
じゃあ、ここでエピソード2を1回見てもらいましょう。
(『丘の上のダム・キーパー』エピソード2が流れる)
堤:エリック・オーの世界をふんだんに入れて作られたこの『丘の上のダム・キーパー』なんですけれども、10話あるうち、こういうちょっとかわいらしい、不思議なエピソードもあるんですけど、10個全部続けて見ると、すごく壮大なお話でして。
最終回とか、毎回みんなボロボロ泣いて見てるんですけど。本当にすごくいいものを作ってくれたので、ぜひみなさんにもこの夏、8月ぐらいなのかな、Huluで配信されるので、見ていただければと思います。
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