2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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――著書『サイコパス』の売れ行きが絶好調だそうですね。いまどれくらい売れてるんですか?
中野信子氏(以下、中野):20万部です。
――20万! 最近の文春新書のなかでも一番売れてるぐらいじゃないですか?
中野:そうですね。だいぶ文春さんも力入れてくださって。わりといい感じで売れているようです。
いい意味で予想を裏切ったのは、本を書いた前後にサイコパシーの高そうな人が想像をはるかに超える頻度で続々とニュースなどで取り上げられたということです。それでおそらく興味を持ってみなさん買ってくださったんだと思うんです。
この本を読んでご感想として多いのが、「自分の身の回りにもいる」というもの。例えば、上司や、同僚のあの人、先輩のあの人、という具合に。「どうして私の考えてることがわかったんですか?」と、けっこう興奮気味に感想を言ってくださるので、「みんな、こういうのを言語化できなくてもやもやしてたんだな」ということを改めて感じましたね。
――私自身は、実はサイコパスという言葉だけは知ってて、意味はぜんぜん知らなかったんですけど。
中野:そういうご感想も多かったですね。
――でも、本を書かれる前の時期から、サイコパスって言葉を普通に女子高生が口にしていたりとか。いつのまにこの言葉って出てきたんだろう? って思ったんですけど。
中野:確かに。そうですね、人口に膾炙(かいしゃ)してきたのはずいぶんあとになってからじゃないでしょうかね。私たちや、私たちの母くらいの世代では、やっぱり『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のイメージがすごくあると思うんですけど。
残虐で、普通の人はやらない……普通の人は殺人すらやらないけれども(笑)、ちょっと猟奇的な殺人を犯してしまうような、そういうタイプの人のことをサイコパスと呼ぶイメージがあったと思うんですね。
ただ、実際にはそうとは限らない。そういう人も確かにサイコパシーの高い人だけども、ただ猟奇的な殺人をするという行為が分類の基準というわけではないのです。その内面に立ち入ってみると、残酷なだけではなくて、人に対する共感性が極めて薄いという特徴がある。
その尺度を作って、度合いを測れるようにしましょうという流れで出てきたような概念と言っていいかと思います。ただ、DSM-5にはサイコパス、という分類では載っていないんですよね。
――DSM-5?
中野:アメリカ精神医学会の診断マニュアルのことです。
――たしかサイコパスって、0か100かじゃなくて、程度があるというふうに本で書かれてましたよね?
中野:スペクトラムです。その度合いが濃厚である人のことを、サイコパシーが高い、と表現します。
――改めて、じゃあどういう特徴がサイコパスにはあるのか教えていただけますか?
中野:最も顕著なのは、良心と共感性の欠如です。
――それがいちばん特徴的?
中野:はい。脳機能の特徴として見られます。普通は悲しい人を見たときに自分も悲しい気持ちになったり、笑っている人を見れば自分も楽しい気持ちになったりという反応が自然に起きます。そういうことをする機能がない。
――機能がない?
中野:うん。むしろ、以前に川原崎さんにご質問いただいたとおり、共感性というのはとても不思議な機能ですよね。持ってるほうが、実はよくよく考えてると不思議なぐらい。だけども、持ってる人のほうがなぜか人類ではマジョリティで、持っていない人のほうがマイノリティなんですよね。
――持っていない人のほうがマイノリティ。なるほど。
中野:ちょっと変な集団なんです。「生物としては共感性なんて本当はなくたって生きていけるはずなのに、なんであるの?」と思いますよね。
――思いますね。
中野:とくに子どもの頃すごく思いました。「みんなどうして人の気持ちなんてわかるんだろう?」と。でも、たくさんの人がその機能をなぜか生まれもっているように見える。「でも、自分にはないな」と非常に違和感を持っていました。
ようやく近年に至ってfMRIができたこともあって、脳の機能をより簡便に計測できるようになりましたけど、比べてみると確かに「共感性を司る領域」という部分の機能が低いんです。また、そこと快・不快の情動を司る場所の連絡がやっぱり弱いんですね。結合が少ない。
――もう物理的に、ということですね。
中野:物理的にです。配線が少ないと言えばいいでしょうか。構造とか機能の違いとして見えてしまう。じゃあその不思議な共感性というのは、いったいなんの目的で、どうやって実現されているのか、というのが気になりますよね。
――気になりますね。
中野:異常に共感性を大切にしているホモ・サピエンス。人間性、という言葉は文字通り、人類に特徴的にみられる変な性質ですよね(笑)。
――今日中野さんにいちばん聞きたいと思っていたのが、共感についてなんですけど。共感という言葉でみんなが想像するものと、実際に起こってる現象が違うのではないかと思っていて。
中野:違いますね。
――だって、感情が相手と同期するわけないし。相手がいまどう感じているのか、そのものを知ることは不可能じゃないですか?
中野:すばらしい(笑)。
――だから「共感とみんなが思い込んでいるもの」が存在するだけで。私ちょっと調べたんですけど、シンパシーとエンパシーの違いみたいなことなんでしょうか?
中野:忖度と斟酌の違いみたいな感じですかね(笑)。
――なるほどそういうことになりますか(笑)。すると、世の中で「共感」と呼ばれているものの正体はなんなのでしょう?
中野:たとえば、相手に「この人は共感的だな」って思わせるのは比較的簡単ですね。適切なタイミングで「そういうことがあったんですね」というふうにしみじみ相槌を打てば十分実現できる(笑)。
だから、サイコパスはそういう戦術を取ります。あたかも共感性があるように振る舞うことができる。相手は「共感をしてほしい」という欲求が高すぎて、「いま共感してもらってるな」というふうに思いやすい。フォールス・ポジティブとして共感のサインを検出してしまいやすいんでしょうね。
――フォールス・ポジティブ?
中野:「偽陽性」あるいは「誤検出」ですね。そこには本当の共感はないんだけど、あると信じ込んでしまう。なぜか人間は共感が大好きで、それをいつも探してしまう。泣ける話、感動する話も大好きです。共感してもらった感じがするのと、自分も共感できたと強く感じられるから。これに快楽を感じる認知の構造を人間は持っています。
きっとそのほうが社会を構成するのに有利だったんでしょうね。「共感してくれたこの人のためになにかしよう」という認知が生じることが、集団を維持するためのモチベーションになり得た。集団を維持することが生存に非常に有利だった環境が続いてきたと仮定すれば、共感性は人類にとって長らく、大きな武器であったはずです。
中野:しかしながら、この現象を利用するのがサイコパス。つまり人の「共感してもらいたい」という欲求が高いことを利用して、「こういうサインを出せば共感と認知するだろう」ということをやる。
ミラーリングと呼ばれるような、相手と同じ行動を取る、同じ表情をするなどもテクニックの一つですよね。そういうサインを相手に送ると、相手は「この人は自分と同じ仲間である」という認知をします。処理流暢性を上げるという戦略ですね。
――処理流暢性というのは?
中野:脳が処理しやすい、という性質のことです。単純な形とか、よく見る顔であるとか、よく見かける名前であるとか。もともと処理流暢性が低くても、繰り返しその情報に接することで、脳がラクにその情報を処理できるようになり、処理流暢性が高くなることがあります。
セキュリティのそれなりにしっかりした建物では、初めて訪問する人は守衛さんのいる受付で、名前や所属を記入してカードをもらったりとか、そんな煩雑な手続きをしますね。でも、何度も通っていると顔を憶えられて、名前を書かなくても通れるようになったりする。いわばこれが「処理流暢性が上がる」ということです。
処理流暢性が上がれば、その相手に好意を持つようになります。「この人は自分の仲間であって、共感してくれるはずだ」というふうに認知する。テレビやネットの動画、静止画はそういう効果が大きいですね。選挙で使われるのもよくわかります。
中野:共感というものは、言葉の上では相手と共通の認識を持つこと。ユングによるややオカルトめいた「集合的無意識」みたいなものを想像する人も多いようですね。ただ、これはあるかないか、現在の科学では調べることができない。あるかないかわからないものについては、本来なら、科学の立場からは沈黙しなくてはならない。
しかし、そういうものが「あってほしい」と人間は願う。私がここで「集合的無意識」を否定すると、激しく高ぶって反論のお手紙をお送りくださる方がきっと何人も出るでしょう。それほど人間は「共感」とか「みんなとつながっていること」を、無条件に「良いもの」であり「自然なこと」だと認知してしまう。だけど、たとえば私と川原崎さんが配線やBluetoothとかでつながってるわけでもないのに、同じことを考えてるわけがないんですよね。
でも、つながってなくても、仮に同じスマートフォンの端末であれば、メールの送受信ができて、ブラウザが使えて、電話ができて……というユニバーサルな共通な機能がありますよね。私たちも個性はあるものの同じ端末であると考えれば、同じ現象があったとき、それをほぼ同じように処理するだろうなという仮説は成り立ちますよね。
こうした考察を端折って、「同じことを感じてますね」と、ややフォールスポジティブを出しやすいユルい基準で、相手のことを自分と同じものだと確認する、というのが共感の正体でしょう。
――求めているから、そういうものに見えてしまうというか、そういうふうに解釈しようとする、と。要は、自分に寄せていくってことでしょうか?
中野:寄せていく、そうですね。すごく……そうだな、ちょっと適切な例かどうかはわかりませんが。
――不適切なやつ大歓迎ですよ(笑)。
中野:本当ですか(笑)。しばしば人がやりがちな誤謬なんですが、例えば、友達同士で、「自分がこんなに仲いいと思ってるんだから、相手も自分のことを親友だと思ってくれてるに違いない」。
――ああ、なんかわかりますね。
中野:だけども、その親友って思っている人はオトナ力を発揮してるだけであって、ぜんぜん友達じゃないかもしれないわけです。
――逆に、自分のことに興味を持ってくれてる人をこっちが好きになるというのもありませんか?
中野:ありますね。確かにそういう実験もあります。バーで容姿が普通の女性ときれいな女性がいて、容姿が普通の女性は、ちょっと視線を合わせてきたりとか、なんとなく嬉しそうな顔をしたりとか、自分を見て好意がありそうだという素振りを見せる。美人のほうは普通。というときに男性はどっちに声をかけるか? これは、OKサインを出してるほうに声をかける率が高い。
――それはヤリたいからじゃなくて?
中野:もちろんそういうことです。
――ああ、なるほど。だから、人間の特性であるってことですね。
中野:そうです。承認されたいという欲求が強いからですね。「社会的に受け入れられたい」「人間関係のなかで受け入れられたい」という欲求が強いので、共感があると確認できそうな方に誘引されるわけです。
中野:サイコパスと呼ばれる人々が極めて魅力的と思われる理由はそこにあります。本質的にはまったく共感はないんだけども、極めて共感的に振るまう。その行動を計算してやることができるんです。だから、過剰に魅力的に見える。「この人なら自分の言っていることをわかってくれる」とか。「私が言いたかったことを代弁してくれた」とか。
――共感がなにかわからないけれど、共感を偽装することはできるってことですか?
中野:そうです。
――なるほど。共感というものが本当は存在しないから、それっぽいものを作ることもそんなに難しくないということなんでしょうか?
中野:そういうことになります。そんなものはないと彼等はわかっている。だけどなぜか、普通の人は勝手に、それが「ある」と信じちゃうんですよ。彼らは、自分たちと違う生き物だと見てると思いますよ。普通の人を。
――確かに。
中野:もしかしたら、川原崎さんちょっと素質があるかもしれない(笑)。
――いやいや(笑)。私なんかは、中野さんもけっこうサイコパスっぽいのかなと思ってました。本を読んでいても……。
中野:そうかもしれないと思わせるように書いた方が、面白いでしょう?(笑)
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